雪と氷の都(5話)
冬である。ここは、異空苑、丹町街の丹町通りの裏道にあるひっそりとしたカフェ。今日も常連客が集まっていた。
「そう言えばさ、彼岸がクロウベアに行くっつってからもう半月経つよね」
啓昌がそう言った。
「ええ。きっと色々発掘したりしてるんでしょう」
雪美はそう返した。
「そうだ。明日から行ける奴を集めてクロウベアに行ってみないか?」
源三郎がそう発案した。
「あ、それいいね」
一番最初にのったのはもちろん啓昌だった。
第五話 雪と氷の都
「う~寒っ!」
そう言いながらコートに手袋、マフラーに耳当てといういかにも暖かそうな格好をした実咲が店に入ってきた。
「あら、いらっしゃい。風邪のほうは平気なの?」
雪美がそう聞いた。
「あ~。おかげさまで。さっそくで悪いけどあったかいココアをちょうだい」
「はいはい」
そんなやり取りを見ていた源三郎が
「あのさ、何であんな寒がりな彼岸がわざわざあんな寒いところまで行ったのかな?」
と言った。啓昌は
「まあ、アレだよ。アイツは仁義をわきまえてるからさ、信頼された仲での約束はやぶれないんだよ」
と答えた。
「あ、実咲!あの機械人形はできたの?」
店の少し奥の方から茶織の声が聞こえた。どうやら紀慧も一緒にいるらしい。
「ま~だ。両足と胴体ができてないもの」
実咲はそう言って茶織達のいるテーブルへ向かった。
「それにしてもさ、ここってホント一定の客しか来ないよね」
啓昌が言った。
「ほとんど毎日来るのはあなた達とアカだけなんだけどね」
と雪美。
「あ~・・・・・ホントさみ~な・・・・」
「こんにちは」
「こーんにーちはー!」
俊典と映次と舞が入ってきた。その後、律と健司も入ってきて、大体がそろった。
「そう言えば何か決めてたっけ?何時集まるとか?」
啓昌が小さな声で聞いた。源三郎は
「ああ。今日ってのは聞いてたが、内容と時間は聞いてなかったな」
と答えた。
「は~い、じゃ、この中でクロウベアに行きたい人手ぇ挙げて~」
啓昌が言った。
手を挙げたのは、雪美と律だけだった。
「あれ?源三郎。お前は行きたくないのか?」
と聞くと、源三郎は
「この体の構造上手をうまく挙げられない」
と答えた。よく見ると、自分の右前足と戦っていた。
「あら。皆行きたくないの?」
雪美が言った。すると俊典が
「悪ぃ。オレはパスするぜ。イタカ村にいる友人から手紙があってな、ちょっと出かけることになったんだ」
と言った。実咲は
「私も行ってみたいんだけど、おじいちゃんが帰ってくるまで長時間気象台を空ける訳にはいかないのよ」
と言った。まあ、人それぞれいろんな用事で行けないらしい。
と言うことで、暇人四人で行くことになった。らしい。
「じゃあ、当分お店閉めなくちゃね」
雪美がそう言った。
「まあ、こんなモンかな。そっちはどうだ?」
今回はきちんと正門から入ったらしい彼岸がそう言った。ドイルは
「おう。思った通りのモンが出てきたぜ」
少しうれしそうに言った。発掘したのは大型の機械だった。
「これで、クロウベアとヤベアの何らかの関わりが決定づけられたな」
そうドイルが続けた。
「何でその機械がこことヤベアの関係をあらわすんだ?」
彼岸がそう聞くと、ドイルは
「これは、ヤベアの歴史資料館にあった機械とまったく同じ物なんだ。使い方は分かんないけど、ほら。ここにクロウベアのしるしがあるだろ?資料館のもコレと同じしるしがついているんだよ」
「でもさ、クロウベアが滅んだから、残った民でヤベアをひらいたんじゃないの?」
「まあ、そういう説が今は一般的だ。でも、それが事実とは限らないぜ。オレは、クロウベアが滅びる前にヤベアがひらかれたんだと思う。そうすりゃ、今までの出土品の説明がつくからね」
「ほ~・・・・すんげぇな。それにしても、よくこんな物見つけられたな」
「お前が来る少し前にな、ホラ。そこのてっぺん辺りが土壁からみえてたから、もしやとは思ってたんだ」
「ふ~ん・・・・・・・・。それにしても、一体どのくらいの間ここの調査をしてるんだ?」
「そうだな・・・・・ざっと百三十年くらいかな」
「百三十年か・・・・・長いな・・・・・・・・・・・。何か大発見はあったか?」
「大発見か・・・・・・あ!そうだ。ある物を見せたかったからお前をここによんだんだっけな」
「そういうのは早く言おうぜ。わしがここに来てもう半月経つじゃないか」
「すまんな。この大型の機械・・・え~っと、何だっけ?・・・あ、そうだ。ネサ式発電機!この発電機が埋まってるかもしれないと思ったらそっちに気がいっちまってな。この写真を撮ったら連れてくから、ちょっと待ってね」
そう言うと、ドイルは鞄からカメラを取り出した。
「お、それは外の道具か」
彼岸がカメラを見て言った。
「そうさ。この間ね、外の『あおもり』の古代遺跡に行ってきたんだ。行った時に外の店で見かけたから買ってきた」
ドイルはそう言うと(犬人間って、どうやってバレないように観光するんだろ?帽子とか?)、シャッターをきりつづけた。 どうやら使い捨てではないようだ。そう思った彼岸が
「それは、フィルムを換えるだけの奴か?」
と聞いてみると、彼は
「うん。安いのもあったんだけど、性能がイマイチらしいからね。それにフィルムだけならここでも手に入るしね」
と言った。彼岸は、丹町街の霊々峰でも普通にカメラ本体が手に入ることは内緒にしておいた。デジカメもある。
「で、その見せたいものって?」
「あ、そうそう。こっち来て。大発見だぜ」
ドイルはうれしそうに彼岸を案内した。
二人は壊れた建物の中を通り、崩れたモニュメントを上を歩き、古びた扉の前まで来た。
「このボロい扉が・・・・・・・見せたいものか?」
彼岸が聞く。ドイルは
「まさか。見せたいものはこの中にあるんだ」
そう言って扉を押し開けた。
二人の目の前には、粉雪が降る氷の都があった。
家の壁から城の旗、宮殿に咲く花でさえもすべて氷だった。木には雪の葉がついていた。
「コレは・・・・・・・!」
彼岸は驚いた。
「凄いだろ?この間ここいら一帯を調査してたら見つけたんだ」
ドイルは自慢げにそう言った。
「ここに住民はいるのか?」
彼岸がそう聞くと、ドイルは
「分からん。だが、今までオレが調査した限りでは誰も見当たらなかった。それが謎なんだよ。しかも、氷と雪だけだと言うのに寒くないだろ?」
そういわれて、寒くないのに気付いた。
「一体どうなってんだ?」
二人は都をある程度探索し、扉から出るとすぐに閉めた。
「ん?何でいちいち閉めるんだ?」
なんとなく彼岸が聞く。
「ん?ああ、扉にね、『用ノ無キ時ハ扉ヲ閉メヨ』って書いてあったんだ。ま、開けたら閉めるは常識だけどな」
ドイルはそう答えた。
「そうだな」
笑いながら彼岸がそう行った。
「あ、見て!桑ノ森が見えてきたわ!」
雪美がはしゃいだ。彼女は長生きのくせに別の都市に行ったことがあまり無かったらしい。
「桑ノ森か。今午後二時半過ぎだから・・・・阿国神社には何時ごろつくと思う?」
啓昌が聞くと、源三郎が
「そうだな・・・・・この調子で問題なく進めば七時前にはつくだろうな」
と答えた。
「それにしてもついこの間までここいら一帯が雪で厚く覆われてたなんて思えませんね」
律がそう言った。確かにここらへんも約八~九メートルは積もった筈なのだが、雪はもう何処にも見当たらなかった。
「そうだな。ま、取りあえずこのまま進もうじゃないか」
源三郎が仕切った。
それから二時間後、一行は小高い丘の上にさしかかった。
「ほら、みんな。きれいな夕焼けね・・・・・・」
雪美が真っ赤になった空と、春日海に沈んでゆく太陽を見ながらそう言った。
「と言うことは・・・・・・・お!ほら!反対側!月が凄くきれいですよ!」
律がそう言った。月は明るく輝き、地平線からちょうど太陽が沈んでいる分出てきていた。
「ほお、そうか。月と太陽は互いに反対側にいるわけだ」
啓昌が一人で納得していた。ちなみに異空苑の月は昼全く見えない。
一行はそこで夕日が沈みきるのを見送ってから、また阿国神社へと進み始めた。
「う~ん・・・・・まずいな」
源三郎が言った。
「どうしたんですか?」
律が聞く。源三郎は
「松明がもう残り少ない。あと三本だけだ」
と答えた。すると雪美が
「何で松明なの?ランプとかでもいいじゃない」
そう言って鞄からランプを取りだした。
「おお、流石雪ちゃん。よく用意してあるねぇ」
「ま、これくらい用意するのは当たり前でしょ」
すると律が
「え、じゃあ、懐中電灯とかでもいいんですか?持ってきてるんですけど・・・・・」
と言った。源三郎は
「もちろんだ。だが、懐中電灯は何かあったときのために残しておこう」
と言った。しばらく進んでいると、山の真中辺りに光がともっているのがみえた。
「お、もうチョイで阿国神社だ」
啓昌がそう言った。(明かりが松明なんて用意悪すぎ(笑))
二人はクロウベアの正門の外にあるテントまで戻った。もう日がくれていた。
「あり~・・・・・」
ドイルが小声で言った。それに気付いた彼岸が
「どうした?一体」
と聞いた。
「薪がもう無い。取りに行くにしても、日がくれているから面倒くさいな」
「・・・・じゃあ、燃え尽きたらもののけ炎で暖をとろう」
二人はココアをのみながら少しずつ弱まってゆく焚火の火を見つめていた。
少ししてドイルが
「そう言えばさ、オレらはいつごろ知りあったんだっけ?」
と言った。彼岸は
「え~と、いつだったかなぁ。確かわしが空を飛んでたら突風にあおられてどこかの林に墜落した時だな」
と答えた。
「そうそう。クロウベアに行く途中だったオレの目の前に落ちてきたんだよな」
「ってことは、百三十年以内か」
「ま、そうだな。その話はまあいいや。で、今日見た景色で何か変だと思ったところはないか?」
「変なところ?ありすぎだよ。第一に、氷で建物が作ってあると言うこと。第二に、岩壁の中を削って作られた筈なのに雪が降っていること。第三に、だ~れもいない事。後は、寒くないことかな」
「じゃ、明日はそれについて調べに行こう」
ドイルがそう言ってからしばらくして、焚火が燃え尽きた。彼岸が妖怪陣を地面に書くと、そこから程よい大きさ、明るさ、暖かさの緑の炎が出てきた。ふと空を見上げると、美しい星空が広がっていた。
「きれいな星だなぁ・・・・・」
彼岸が言った。
「ああ。そうだな・・・・・」
ドイルはそう返した。
その頃一行は、やっとの思いで阿国神社に到着した。
「へ~、結構広いのね。時霊神宮とは比べ物にならないわ。それとぼろいわね」
雪美は境内を見渡して、そう言った。時霊神宮はせいぜいここの四分の一程度だろう。
「で、コレからどうする?こんな人気の無い所で一夜を過ごすの?」
啓昌が言った。すると雪美が
「ふっふ~ん。ここまで来れば迎えに来てくれるわよ」
そう言って髪から彼岸花を抜き取った。
「あ、また使うんですか?」
律がそう聞いた。
「もちろんよ」
雪美はそう答えると花びらを一枚ちぎって、話しかけた。
「あ~・・・・眠い」
彼岸がそうぼやいていると、ドイルが彼岸の鞄を見て
「おい、何か光ってるぞ」
と言った。
「あれ?何の用だろう?」
彼岸は鞄から発光している普通より十倍ほど大きなどんぐりを半分にして耳にあてた。
『お~い・・・・・聞こえてる?・・・・・』
雪美の声がした。よく聞くと啓昌や源三郎、律のしゃべり声も聞こえる。
「何?一大事でもあった?」
『あのね、今阿国神社にいるの。迎えに来てくれない?』
「えーっ!阿国神社にいるの!?一体何しに?」
『決まってるじゃない。遺跡の観光よ。というわけで、お迎えよろしくね』
彼岸は神社まで四人を迎えに行かなければならなくなった。
「・・・・・え~っとさ、何か友人が・・・・」
「丸聞こえだったぜ。さっさと迎えに行ってやれよ」
ドイルはそう言った。
「お前ってクールなヤツだな」
「やっと分かったか」
「じゃ、ちょっと行って来る。大体十分程度で戻ると思うから」
彼岸はそう言うと、妖怪道を開くと、その中に入っていった。
数分後、彼岸は神社の階段の下に出た。神社には特殊な力があるので領地の中には入れないからだ。
階段を面倒くさそうにのぼっていき、境内が見え始めたと思ったら、その前にご一行様がいた。
「あ、来てくれたのね!ありがとう!」
雪美がそう行った。
「あ~・・・面倒くさいなぁ」
彼岸はそうつぶやいた。啓昌は
「ま、いいじゃないか。とにかく行こうよ。待ってるんでしょ?友達が」
と言った。彼岸は
「そうだね」
と言って、皆を神社の領地から出すと、即席魔法陣で皆を運んだ。
飛んでいると雪美が
「ねえ、クロウベアって一体どういう所なの?」
と聞いてきた。それに彼岸は
「ん~・・・・よくはまだ分からないけど、ちょっと凄い古代遺跡ってとこかな」
と答えた。五六分ほど飛ぶと、クロウベアの正門のところに構えてあるテントの焚火が見えた。
「おう、お帰り。早かったな」
ドイルがそう言って五人を出迎えた。
「そうだ、紹介しなくては。まず、こちらが我が友人、ドイルだ」
彼岸がそう言った。すると律が
「ドイル?ドイルってあの、『異空苑・古代文明と遺跡』を書いた、考古学者の間では超有名な・・・・・?」
と聞いた。ドイルは
「おお!あれを読んでくれたのか。どうもありがとう」
と答えた。
「こ・・・光栄です!まさかこんな所で超有名人に会えるなんて・・・・。それにしても、著書の中での、ピラルイⅣ世とニコルフⅢ世が同一人物だとか、最古の都市は西の大陸ではなく、ユミユメ洋の島国にあったとか、斬新な仮説にはいつも驚かされています。今回クロウベアを選んだ理由は何ですか!?」
「ああ、アレか。アレは結構自信あったんだな。まあ、調査費が総本部からおりれば調査できるんだけど、そんなにくれないんだよね。だから、今回は近場のここを選んだんだよ。次の著書のメインにしようと思ってね」
「近場って・・・・・まさか、ヤベアに住んでたんですか?」
「まさか。一時期住んでたけど、今は庭里に住んでる」
庭里は、歴史香る古びた里である。人口は丹町街の約三分の一。そこまで少なくないように思えるが、丹町街自体人口が四千人ほどしかいないので、それの三分の一は相当少ないのだ。
「ん?あなた、前にどこかで会ったことある?」
雪美がそういった。ドイルは
「さあ、分からないね。皆長生きしてると昔の事なんか忘れちまうのさ」
そう言って、ポケットからマッチを取りだすと、煮煙草(健康に害の無い煙草。葉っぱを煮て無害にしてから作る)
に火をつけた。その動作を見ていた雪美は思いだしたように
「あ!そう言えば昔、うちの店に来たことあるでしょ!?」
と言った。
「うちの店って・・・・・丹町街の?」
ドイルがそう聞いた。
「そうよ。雪見茶屋って所。今は雪美カフェだけど」
「雪見茶屋・・・・・・どっかで聞いたことあるんだけどなぁ・・・・・・。え~っと・・・何処だっけ?確か・・・・あ、そうだ!あのとき饅頭に砂糖と塩間違えていれて渡した人か」
「やっぱり。あのときはホントにごめんなさい」
「いやいや、いいよ。昔のことなんだしね」
昔話にはなが咲いているようだった。
翌朝・・・・・・
「さ~てみんな!今日は面白い物を見せてあげよう」
ドイルはそう言った。彼岸には、彼が一体何を見せるのか分かった。
適当な朝食がすむと、早速正門から入っていった。昨日来た四人はきちんと名を名乗った。
六人は、壊れた建物の中を通り、崩れたモニュメントの上を歩いて、古びた扉の前に来た。
ドイルがドアを押し開け、皆中に入っていった。
「すげぇ・・・・」
源三郎がそう言った。氷でできた建物を初めて見たのだろう。
「カマクラとは比べ物にならないな」
啓昌が言った。比べる方がおかしい、律はそう思った。
「凄いだろ。この氷と雪の都。ついこの間見つけたんだ」
ドイルがそう言うと、啓昌が
「氷と雪の都・・・・・・どっかで聞いたことあるなぁ・・・・・」
と言った。そして、
「そうだ!稜馬が言ってたんだ。確か今年で創立百八十周年だとか・・・・・」
とつけたした。
「それって、『帰郷物語』に出てくる都市だろ?オレもね、ここがそうなんじゃないかと思ってるんだ」
「じゃあ、もしそうだとしたら、ここってわりと新しいのね。たった百八十年でしょ?」
雪美がそう言った。ドイルも
「そうするとそうなんだよ。だから困ってるのさ。クロウベアが滅びたのが千百五十年前だ。なのに、誰が何の目的で滅びた後の都市にこんなものを作ったのかが分からない。多分、ここを見たことのあるヤツが帰郷物語を書いたんだと思う」
という意見を言った。
「ま、とりあえず何か探してみようよ」
啓昌がそう言ったので、六人はバラバラになって街を散歩し始めた。
散ってから十五分ほど経った。遠くの方で
「お~い・・・・すごいモンがあるぞ~・・・・」
と、彼岸が大声で叫ぶ声が聞こえた。五人はその声のしたほうに集まった。
「なんだろ、この模様は?」
雪美が首をかしげながら言った。するとドイルが
「コレはね・・・・・約千五百年前、この大陸の東部で栄えた時計台国で使われていた文字さ。長針と短針、振り子の形をした字で事を表していたんだ」
と、探査ノートに書き写しながら言った。啓昌が
「読んでみてよ」
と言うと、ドイルは書き写してから、
「え~って・・・これはね、『氷は雪で輝き そして雪は知る 雪の・・・・・』と書いてあるな。後はかすれてて読めない」
と言った。
「さっぱり訳が分からんな」
と、彼岸が言った。
「まあ、要するに雪ってのがポイントなんだろうな」
源三郎が言った。ドイルも
「多分そうじゃないのかな」
と、源三郎に同意しているようだった。
「まだ他に何かあるかもしれないな」
彼岸がそう言って、みんなはまた散った。
氷の壷や氷の椅子、氷の窓など、様々な物があったが、ここの事を示すようなことは無かった。
一時間ほどして、六人は扉の前に集まった。ドイルが
「ここはさ、氷の建物がたくさんあるんだから、図書館だってあったっておかしくないよな」
と言った。今度は図書館を探すことになった。
三時間後
「あ!あったぞ!」
彼岸がそう叫ぶと、声を聞きつけた五人が何処からともなく現れた。
「すごいや・・・・・全部氷だ。氷の本に氷の棚とくらぁ」
ドイルが言った。すると雪美が
「でもさ、全部氷なら、本も開けないんじゃないのかなぁ・・・・」
とつぶやいた。
「どうやらそうでもないみたいだぜ」
源三郎が啓昌を見ながらそう言った。啓昌は本を片っ端からあさっていた。
「・・・・・・・こんな事しても、ここの字読めないから意味無いや」
やっと気付いた啓昌が本を棚に戻し、戻ってきた。どうやらここの文字を読めるのはドイルだけのようだ。
「そうだ、今何時?」
彼岸が聞くと、雪美が
「えっとね、五時十分前」
と答えた。それを聞いていたドイルは
「さて、じゃあ今日はコレで戻るとするか」
と言った。一行は引き返し、扉のところまで来てから異変に気付いた。
「なんかさ、何かは分かんないけどなんかの気配しない?」
啓昌が辺りを見まわしながら言った。源三郎も
「俺もさっきから変な気配を感じてたんだがな・・・・・」
と言った。すると
「もしかしたら、この扉は生きる者と死せる者の住む世界を分けてたんじゃないのかな?」
そうドイルが言った。
「もしかしたらそうかもな。古代の人々は大体死者に会いたがるからな」
彼岸はそう言った。すると雪美が
「じゃあさ、私達は死者の国に来てるの?それってまずいんじゃないのかな?」
と、不安そうに言った。
それから少しして、ドイルの腕時計が六時十分を過ぎたとき、氷の都にうっすらと人影が出てきた。そんなに多くは無い。ついさっきまでここは明るかったのだが、人影が見え始めてからほんの少し暗くなった。
「思った通りだ・・・・・・ここは、黄泉の国だったんだな・・・・」
ドイルがつぶやいた。すると彼岸が
「思ってなかったろ」
とつっこんだ。するとドイルは笑顔で
「ばれたか」
と言った。源三郎は
「まあ、とにかく外に出ようぜ」
と言って、扉に近寄ったが、すぐに戻ってきた。
「どうした?扉が凍りついてたのか?」
啓昌が聞くと、源三郎は
「犬の形だから開けられない。開けてくれ」
と言った。まあ、そんな感じで六人は外に出ると、扉を丁寧に閉めた。
「世の中って、不思議なことがあるんだな」
ドイルは感心していた。
一行はテントにもどり、また雑談を始めた。
「あのさ、わしね、扉のむこう側に行って初めて分かったことがあるんよ」
彼岸がそう言うと、皆は注目した。
「それはね、死んだ者の行く世界が一つじゃないってことさ」
するとドイルが
「ほお。オレはね、扉一つで異世界に行けることに驚いたよ」
と言った。
なんやかんやで、一行は夜明けをまって、また調査に乗り出すのであった。
完
ちなみに、一月にわたる調査の結果、時計台国とクロウベアの関係がはっきりせず、色々うやむやになってきて何が何だか分からなくなってきたので、調査はいったん休止となった。
だが、あの都は帰郷物語にでてくる雪原京では無いことだけは判明した。
場所は代わって雪見カフェ・・・・・・
「まあ、こう言うのは幽霊を連れてくるのが一番だよな」
ドイルが横目で隣の席の人を見ながらそう言った。
「そうだな。黄泉の国だもんな」
彼岸もその席の人を見ながら言った。両側から横目で見られた茶織は
「何で私を見るのよ」
といった。
「幽霊?僕半霊だけど?」
啓昌が言った。
「でも、半分妖怪だよな」
源三郎がそう返した。