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朝降る雪は喜びの火、夜降る雪は悲しみの火(3話)

ヒダチ大陸に本格的な冬が訪れた。

雪はヒヨ鳥地方全体を真っ白に染めあげてゆく。

去年よりも少し早く雪が降りはじめた。

だが、雪の本当の怖さをまだ知らずに、日々生活している人達もいた。


第三話  朝降る雪は喜びの火、夜降る雪は悲しみの火


「おお!!雪!」

家の窓から外を眺めた啓昌が言った。

「昨日の夜からずっと降ってたよ」

源三郎が言う。

「雪って事は・・・・・カフェでタダ食いができる!」

「いや、半額だろ」

大木の家ではこんな会話をしていた。


「・・・・・・雪か」

彼岸花に囲まれている家では、彼岸がお茶をのみながら雪を見ていた。

「・・・・・・・・・・・・ここも同じ様にならないといいんだけどな・・・・・・」

彼はそうつぶやいた。

「アレがもっと南下してきたら、確実にここもか・・・・・・」

心配はつのるばかりだった。が、そこまでその心配を心配していなかった。


「あ~寒い・・・・雪か・・・・・実に寒い」

ここは泉々荘。此岸の家だ。

「温泉にでもつかってこよう」 

泉々荘の裏には温泉が沸いている。すこし熱めのやつだ。

此岸は家の裏へと向かった。


ここは気象台。

「思った通り、やっぱり雪ね」

実咲が言った。

「なんだかな・・・・・・不安ね」

彼女はそうつぶやき、ちょっとしてから煙草に火をつけた。


━━その後━━━


午後である。雪の日は午前九時から午後三時までしか営業しないのだ。半額だから。

「今日はお客さんがたくさん来ると思ったのに、あなた達だけなの?」

雪美が言った。

「まあ、ここはあんまり有名じゃ無いから仕方ないよ。それに、街の端にあるでしょ?しかも表通りじゃないし」

啓昌が言う。

「ほんと、あんたは経営者に向かないわね。これじゃお客さん入ってこないじゃない」

そう言ったのは茶織。

「そんな事別にいいじゃない。たくさん人が来るからって、いいお店とは限らないし。それに裏道にある秘密のカフェなんて、なんだか素敵じゃない?」

雪美が言った。

「ってことは、別に利益の為に店やってる訳じゃ無いって事か」

と、源三郎が言った。

「ん~・・・まあ、そうなるね」

そう、雪美は答えた。


店の奥の方では映次と舞が新しい魔法について語り合っていた。

「やっぱり魔砲に頼るのは無理があるって。少しは細かいのも学べよ」

映次がそう言った。それに対して舞が

「そんなちょこまかしたのを練習したって面白く無いじゃない。威力だって低いし。やっぱ魔砲が一番よ」

と言っていた。

「それだから強くなれねーんだよ」

「そんな事ないわ。少なくともアンタより強いわよ」

「何だと!?そんじゃあ勝負だ!二時間後に高台な!」

「うけてたつわよ!」

そんなやり取りが続いていた。


「・・・・・・・・・それにしても彼岸が来ないなんて珍しいなぁ」

啓昌が言った。

「あ、ほんとね。いつも来るのに・・・・・。で、あなた達は何か注文するの?そろそろ三時よ」

雪美が言った。

「う~ん・・・・・今日はいいや。お茶飲んだし」

と啓昌。

「じゃあ、私はココアをいただこうかしら。甘いのをね」

茶織が言った。

「まだ営業中?」

ドアをあけて店に入ってきた俊典が言った。

「ええ。一応は。ぎりぎりってとこね」

「あ~じゃあアレ。コーヒーを半糖で」

俊典はそう言って啓昌の隣に座った。

「よお。久しぶり」

と俊典。

「ああ。きのこのときは世話になったね」

と啓昌。

「はい、コーヒーよ」

「ん?ああ。ありがとう」



「そういえば、何でこのメンバーはこの店知ってるんだっけ?」

源三郎が言った。

「えっと・・・・・確か僕が最初に来たのは三百年前くらいかな」

啓昌が言った。

「ええとね、このお店を始めたのが三百九十四年前、つまり、西暦千六百十四年ね。最初のお客さんはアカともう

一人、知らない人だったわ」

雪美がそう言った。ちなみにカフェは二十年に一度補強工事をしている。

「へぇ~・・・アイツが最初か。よく覚えてるね」

源三郎が言った。すると茶織が

「そのときは名前が雪見茶屋だったのよね」

と言った。

「ふ~ん・・・・雪見茶屋だったのか。何で名前変えたの?」

俊典が聞く。雪美は

「う~ん・・・・えっと・・・・・・ああ、思い出した。外の文明開花って知ってる?」

と言った。

「ん?ああ。一応は」

「そのときあたりに東京に行ってみたらね、見たことの無いものがいっぱいあって、その中に・・・何だっけな・・・なんとかカフェってのがあって、それで、ああ、雪見カフェって名前もいいかも、と思って変えたのよ」

要するに軽いノリだったらしい。


━━━━━━━━━


「ごめ~んく~ださ~い!」

緋色邸の玄関をあけて、エリサが大声で叫んだ。

「そんな大声出さなくたって聞こえてるよ」

そう、どこでも大体土日は休みがもらえるのだ(急な仕事が無いときは)。

なので、エリサも休みなのである。

「で、何しに来たの?」

「家が寒いから、お茶をごちそうされに来たよ」

「・・・・ずうずうしいな。ま、構わんけどな。ちょうどお湯が沸いたところじゃ。適当にあがって。あ、扉閉めてね」

「やった。ありがとう~♪」

彼岸はコンロにかかっていたやかんを火鉢に移すと、お茶をいれ始めた。

「ほうじ茶でいい?」

彼岸がそう聞いた。

「うん。ほんとにありがとう」

エリサが答えた。


「ああ・・・・美味しい・・・・」

エリサがつぶやいた。

「そうでしょ?なんたって三途の川の水を使ってるからね」

彼岸が言った。

「え!そんなものでお茶をいれたの!?」

「うん。アレね、結構うまいんだよ」

「ふ~ん・・・・」

「まあ、生ある者が飲んだら命取りになるだろうけど」

「え?じゃあ、あたしは?」

「ん?ああ、一度沸騰させれば大丈夫らしい。三好が言ってた」

「ふ~ん・・・・・・・・・・」

「みかん食う?」

「食う」


━━━━━━━━━


「それにしても雪止まないね」

雪美が言った。

「この調子じゃ、今年も積もるだろうね」

と啓昌。

「積もったら困るわ。店に客がきにくくなっちゃう」

茶織が現金なことを言った。

「ま、もう手遅れ。相当積もるだろうな」

源三郎がそっけなく言った。流石に冗談で『もともと客はそんなに来ないから大丈夫だよ』とは言わなかった。

まあ、実際のところ西茶は相当繁盛している。 

「じゃあさ、どのくらい積もるのか気象台に行ってみようよ」

啓昌の発案により、三時過ぎてからみんなで気象台に行った。



「うお、珍しい。こんなにお客さんが来るなんて」

実咲は意外そうに言った。

「うん。この雪はどのくらい積もるのか知りたくて」

雪美が言った。

「あと、煙草はそろそろ止めなさいよ」

「まあ、いいじゃん。ほとんど一人だとさびしいのよ」

「答えになってないわ」

「・・・・・・そ~だな。ま、とにかくあがって」

五人は気象台にあがりこんだ。

「ほお、すごい機材だな」

俊典は大型望遠鏡を見て、そう言った。ここは天文台でもあるのだ。

「うん。まあね。外の設計図をもとに作ってみた」

実咲が言った。すると啓昌が

「すげぇ!」

と言った。そのあと茶織が

「そんなの嘘に決まってるでしょ」

と言った。

「な~んだ。分かってたのか。何で分かったの?」

「フン。簡単よ。こことここの部品は異空苑じゃ作れないもの」

「おお、よくご存知で。ちなみにね、もっと面白いものあるけど見る?」

「どれどれ」

実咲と茶織の会話が続く。

「じゃじゃ~ん」

実咲は作りかけの機械を見せてくれた。

「これ、ロボットじゃないの?」

茶織が聞く。

「何で知ってるの?分からないと思ったのに・・・」

「年の功ってヤツよ」

「でも、これまだ動かないんだけど」

「・・・・・・・・・・・・・・フッ。動かなくて当然。この回路のくっつけ方が間違ってるわ。赤を緑じゃなくて、黄色を緑よ。それにね、ここのコネクタをこの出っ張ってるところにね・・・・・・それから・・・・・・・」

専門的な話になってきた。だから源三郎が

「その話はおいといて、こっちの話をきいてくれるか?」

と言って、話の軌道をもとに戻した。

「ん?ああ。ごめんね。で、話とは?」

実咲が真面目になって聞いた。

「この雪、一体どのくらい積もると思う?」

「えーと、この雪はアタシが見た限りでは、四十センチ以上五十センチ未満ってとこだね」

「五十センチか・・・・・・・深いなぁ」

雪美がそう言った。

「ま、五十センチもあればいい筋トレになるな」

「あ、でも、四日向こうまでだから、その後はもっと積もるかもしれない」



四日後・・・・

「ホントに五十センチぴったり積もったな」

外で雪の深さを測っていた源三郎がそう言った。

「まあ、お天気妖怪だから当てられないとおかしいんだがな」

「今日もカフェに行ってみる?」

啓昌が聞いた。

「行ってみるって、行きたいんじゃないのか?」

「おお、正解」

「じゃあ、俺の雪敷(ゆきじき、と読む。雪の上を歩くための道具)出して」

源三郎が言った。仮にも犬なので、足が雪に沈んで歩けなくなる事があるからだ。


二人がまたカフェに着くと、店内には後鬼とエリサ、健司、俊典がいた。

「あれ?ゴキがいるなんて珍しいね」

入ったら早々啓昌が言った。

「ゴキじゃない。こうきだ。まったく人の名前も覚えらんないようじゃ、クルミもろくに見つけられないだろうね」

後鬼が言った。彼は、ゴキブリの神様だ。虫の神様では無い。それにしてもクルミの事を知っているとはなかなかだ。

「おお、エリサ。久しぶりだな」

源三郎が言った。

「うん。最近仕事が忙しくってね、帰る暇がなかったんよ」

エリサがそう返した。四日前に帰ってたけど。

そのあと少ししてから啓昌が

「今日も気象台行く?」

と言った。すると雪美が

「行っても情報は得られないわよ」

と言った。

「え?何で?」

「二日前から風邪をひいて寝込んでるんだってさ。それでね、今は茶織が看病してる」

「へ~・・・風邪か。もうそんな季節なんだね」

「いや、風邪は一応一年中あるから」



それから一週間後。雪が止むことは無く、紅葉の月から落葉の月まで降りつづけている。

「しってるか?ここから北にずっと行った先にあるヤベアの都は雪に埋もれて無くなっちまったんだとさ」

そんな噂を啓昌はカフェで聞いた。

「まさか、さすがに雪でヤベアが滅びる事は無いだろ」

カウンター席にいる啓昌は源三郎に言った。源三郎は

「ああ。だが、埋もれないという保証はどこにも無いからな」

と言った。すると、いつの間にか隣にいた彼岸が

「残念ながらヤベアは無くなったよ。あの積雪量は異常だった」

と言ってきた。

「何でそんな事知ってるんだ?」

源三郎が聞いた。

「それはな、わしがこの間までヤベアに滞在してたからさ」

「え?・・・・・一体何の用で?」

「五ヶ月前・・・・今が落葉の月だから、草木生い茂る月か。そのくらいの時期にな、ヤベアの首長から閻魔邸に仕事の依頼があってな、それで、暇してる死神三人が向かったんだ。そのうちの一人がわしだった。ヤベアに着いたらな、草木生い茂る月だと言うのにもかかわらず雪が降ってた」

「でも、ここより北のほうにあるんだからそれは当たり前なんじゃないのか?」

と源三郎。彼岸は

「ああ。わしもそう思った・・・・・・・最初はな。だが、違った。今までその時期に雪が降ったのは百八十年前に一度だけなんだそうだ。あの事件覚えてるか?」

と返した。

「ああ。あのヤバかったやつか」

「そう。それでな、ヤベアでは異常気象だと言うことは分かっていたんだが、止める手立てが無かった」

「え?そうなの?あの時みたいにさ、また、ホラ・・・・あの・・・何だっけ?」

啓昌が思い出せなかった所を源三郎が

阿国雲裂剣あのくにのくもさきのつるぎ、だろ」

とフォローをいれた。

「そうそう。その剣でさ、また雲を割っちゃえばよかったんじゃないの?」

すると彼岸は

「わしらもそれを考えた。だが、阿国神社にその剣が無かったんだ」

と言った。

「えっ?」

源三郎と啓昌が同時に言った。

「剣が・・・・・・」

「無かった・・・・?」

するとさっきまで暇そうにしていた雪美が会話に参加してきた。

どうやら今の話を聞いていたようだ。

「剣が無くなったって・・・・何で?」

「分からん。ただ、先月までの調査の結果、この事件とヤベアの近くにある古代遺跡が少しかかわっていることが分かったんだ」

「それって・・・・・どんなこと?」

「『その遺跡も滅びた原因が実は大雪だった』だろ?」

話の途中で天役の吉ヶ谷稜馬がそう言った。

「うお・・・・・・・・ああ。そうだ。なんで知ってるんだ?」

彼岸はそう聞いた。稜馬は

「決まってんだろ。依頼がこっちにも来てたんで調べた、ただそれだけの事さ」

と答えた。

だが、彼岸が剣の事を聞くと、彼は、そんな剣を聞いたのははじめてだ、と言った。

謎が深まってゆく中、着々と雪は強くなっていった。



「・・・・・・なんか最近晴れなくて気分が滅入るなぁ・・・・」

エリサがつぶやいていた。

彼女の補佐、鹿女は

「こうして雪を見ていると、百八十年前の事を思いだしますね・・・・・」

と言った。すると化け烏の黒烏が

「その大雪で、たくさんの鳥達が死んだんだ。生き残っていたヤツは、大体がどっかの家で暮らしていたらしい」

と言った。

「ほんと、これって何なのかしら?」

一箇所割れたままで、ガムテープでふさいであるだけの窓ガラスから隙間風が部屋に舞い込んでいた。



夜十時ごろになっても、雪は弱まらなかった。

「このままじゃお店が埋もれちゃうわね」

雪美がそう言った。

「冗談はおいといて、で、何なの?その[阿国雲裂剣]ってのは」

稜馬がそう聞いた。それに彼岸は

「昔にも一度こんなことがあってな、その時雪雲を薙ぎ払うのに使った伝説の剣さ。お前のもわしのも価値的には足元にも及ばない。なんせ大昔の人間が打った剣だからな」

と答えた。

「ふ~ん・・・・そんな剣ならお目にかかってみたいもんだ。ま、俺には吉野丸があるから十分だがな」

「ほお。ま、刀と剣は違うから当たり前だな」

一段とましてさっきよりも雪が強くなってきた。

「・・・・・・まずいな。とっとと帰ったほうがよさそうだ。じゃ、これで失礼するぜ」

そう言うと稜馬は急いで戻っていった。

「僕らも帰ったほうがよさそうだ」

啓昌と源三郎も慌てて帰っていった。

店内の客もどんどん帰ってゆき、彼岸のみとなった。

「じゃ、わしも帰るわ。あとコレ。なんかあったらその花びらをちぎって、それに呼びかけてくれ。返事すると思うから」

彼岸は彼岸花を雪美に渡すと、毎度お馴染みの方法で帰っていった。

「・・・・・・・花に話しかけるって・・・・・・・。まあ、いっか」

雪美はその花をかんざし代わりに髪にさした。

午後八時二十分ごろだった。


そして午後十時ごろ・・・・・・・・

「こちら岩根の里!降雪多し!繰り返す、降雪多し!」

「こちらヰグラです!気温がいつもの時期より六度も低くなっています!」

「桑ノ・・り・・・・・降せ・・・・し・・・・・・・街に・・れ・・・・・・・」

冥界役所最高本部、閻魔邸には数多くの報告がなされていた。

「桑ノ森、通信が途絶えました!」

「オロギ地方、危機的状況にあるようです!」

地下の情報部ではあちこちが混乱状態なのが手に取るように分かった。

「・・・・こりゃひどい・・・」

[速達!烏便]で届いたヤベアの最期の写真をみて、此岸がそう言った。

「じ~さん、これ一体どうする気だ?」

すると大閻魔は

「・・・・冥役総動員じゃな。これは非常に危険じゃ。今ごろは爾天の若造にも連絡が行っている頃だろうな・・・・・・・・」



「あちこちから救助要請が来ています!」

天役の一人が言った。

「う~ん・・・・じゃあ、手のあいてる天使と天死を救助に向かわせて。で、上層には被災者の収容施設の検討、決定を。冥役ともきっちり連携して!」

天界役所本部天界館では、爾天が指示をとばしていた。

「一体これでどのくらいのひとが亡くなるんだろう・・・・・」

天神補佐、斎藤夜鈴がつぶやいた。

「まあ、できる限りのことはする。それだけだよ」

爾天は落ち着いてそう言った。もしかしたら、夜鈴にではなく、自分に言い聞かせていたのかも知れない。

「あ、そういえばさ、冥役に彼岸っていう暇な人いるでしょ?うちの稜馬と原因調査させてってじっちゃんに伝えといて」


三時間後・・・・・・


ここは、彼岸の家。

「吹雪になって参りましたので、今回もここにしばしば泊めていただきたいのですが・・・・・・」

一匹の鷹がそう言った。その鷹には百八十年前にもあったことがある。彼岸は

「いいけど、チャンスとばかりに自分より小さな鳥を食うんじゃないぞ。食料は前回と同じ所にあるからな」

と言った。

「で、では、ここに泊めていただけるのですね!?」

「わしは断ったつもりはないからね」

「それでは、よろしくお願いします!」

『よろしくおねがいしまーす!!』

鷹、鳶、鷲、烏、鶏、雀、鶯、蝙蝠などなど様々なのが彼岸の家に泊まることになった。

「いいか!?決して汚すんじゃねぇぞ!」

『了解です。ボス!』

その後、彼岸に調査依頼の話が霊紙に届いた。

「・・・・・・・ハァ。仕事か・・・。じゃ、ここ留守にするから、留守番頼むよ」

『了解です!ボス!!』

鳥達のありがたい声援に見送られながら、彼岸は愛刀とともに閻魔邸へと向かった。



「ったく、こんな夜遅くに何の依頼ですか?できればとっとと帰って寝たいんですけど」

彼岸が言った。すると大閻魔が

「あのな、今回の仕事は、この異変の調査だ。今から吉ヶ谷と一緒に探って来い」

そう言うと、部屋に稜馬が入ってきた。

「と言うわけで、早速行ってもらうとしよう。ほれ、この鞄を持っていけ。食料と地図と方位針とその他色々が入っておる。目的地は、クロウベア遺跡じゃ」

指令のあとすぐに二人は遺跡に向かった。

「結局寝れないのか・・・・・・・ま、いっか。久々の心踊る冒険だしな」

彼岸が言った。



「あのさ、一体どんくらいで着くと思う?」

魔法陣に乗って移動していると稜馬が聞いてきた。

「ホントだったら一瞬で行けるんだけど、このまま行くと、あさっての午後かな」

彼岸はそう答えた。大雪が降っているので、陣を使わないと飛べないのだ。

「あさっての午後っつったら、きっともう丹町街は埋まってるだろうな」

「そこでだ、魔法陣の上に魔法陣を描くというタブーをしてみようと思う」

「危険だけど・・・・・・・・・・やらないよりかはましか」

二人は魔法陣を書き始めた。コレの原理は、大砲にジェットの推進力をもたせようと言うようなものであった。

「じゃ、いくぞ。陣に足埋めて座っとけ」

「分かった」

稜馬はそう言うと、魔法陣に足を固定した。

パチン  と、彼岸が指をならすと、さっき書いた魔法陣が明るく輝き始め、突然スピードがあがった。

さっきよりもものすごく早い。十倍くらいだろうか。

「は・・・・・・・・・速っ!!」

彼岸は自分で驚いていた。

「おい!こんなに速くして大丈夫なのか!?」

稜馬が聞いた。

「うん。・・・・・・・・・多分。一人のときは陣なしでこのくらいの速さで飛んでるから・・・・・」

彼岸はすごい速さを少し楽しんでいる様だった。

「ん?桑ノ森が見えてきた!まだ明かりはついてるから大丈夫だ。鞄の中の通信筒をうまく落とせ!」

「分かった!」

稜馬はそう言うとすぐ筒を放ち、サブミッションである桑ノ森と閻魔邸の通信を無事成功させた。

「よし!このままひとっとびだ!午前四時ごろにはきっとヤベア辺りを飛んでるだろう」

この時、時間は午前一時半だった。



深夜だと言うのにもかかわらず、丹町街の人はほとんどが起きていた。

そして、いつものメンバーはお馴染みのカフェに集まっていた。

「さっき此岸から連絡があってね、ここにくるってさ。何人かでヤベアに行きたいんだってさ」

雪美が言った。

「桑ノ森が埋まったらここもすぐ埋まるだろうなぁ・・・・」

啓昌が何気なく言った。そのあと俊典が

「そういえばさ、今からヤベアに行ったら到着までに1週間はかかるぜ?此岸のヤツは一体何を考えてるんだろうな」

と言った。源三郎も同じ疑問があったようだった。

店に誰か入ってきた。律だった。

「ありましたよ!今となってはレアな異空苑史!これ読めば何があったのか分かります!」

と、入ってきてすぐにそう言った。手には古く分厚い本を持っていた。

「こんな夜中なのに、どうやって図書館からこんな本引っ張り出して来たんだ?」

健司が聞く。

「・・・・・・・・それは聞いてはいけないこと」

律は笑いながらそう答えた。

それから色々みんなで話しているうちに、やっと此岸がやって来た。

「おお、みんなそろってるね。じゃあ、早速行こう」

いきなりそう言った。俊典は

「でもよ、今から行って間に合うのか?ここも埋もれちまうぜ」

と返した。

「はっはっは~。この俺がそんな事を考えていないとでも思ったか?」

「何か策があるようだな」

「もちろんさ。今彼岸と稜馬がヤベアの隣の遺跡の調査に向かってる。で、俺が請けた任務は、ヤベアの状態を見てくること、積雪量の調査、そして・・・・原因の究明だ」

一同は任務内容に聞き入っていた。此岸が話し終わるとすぐに啓昌が

「で、そこまでの移動方法は結局どうなるの?」 

と聞いた。

「あれ?言ってなかったっけ?」

此岸がそう言った。

「言ってないよ。任務内容を勝手にしゃべり始めただけ」

「そうだったか。悪かったな。で、移動方法と言うのが、ズバリ魔道を通って行くことだ」

「魔道を!?それって相当危険じゃないか!」

源三郎がそう言った。

「ああ。だが仕方ない。本当だったら彼岸みたいに妖道や霊道を通りたいんだが、あけ方を知らないからな。一番簡単な魔道をいく事にした。で、同行してもらうのは・・・・・健司、啓昌、律、映次、舞の五人でよろ」

そう言ったとたん、五人は驚いたような顔をした。だが此岸はすぐに

「じきに出発する。三十分で用意を済ませておいてくれ」

すると俊典が

「ってことは、俺はおいてけぼりか?」

と言った。此岸はそれを

「ああ。お前は火を操れる。だから、もしものときにここの皆や街の皆を護ってくれ」

と返した。

「ほお。分かった。まあ任せとけ」

このとき店にいたのは、茶織、律、俊典、啓昌、此岸、映次、舞、健司、雪美、此岸、源三郎、紀慧。

時間は午前零時四十四分だった。



[え~・・・・こちら調査グループ。聞こえてますかー・・・・・・・]

閻魔邸に稜馬達からそう連絡が入ったのは、午前一時半過ぎだった。

「どうした?緊急事態か?」

大閻魔自ら返事をした。

[いいや。副任務の通信筒の投下に成功したってことを伝えに。桑ノ森との通信を再開してください・・・・・・・・・・・]

「なにかあったか?」

[特に無し。いたって順調。軽く日の出前には目的地に到着する予定。以上、通信終わり・・・・・・・]

そう言って稜馬は通信を切った。その後すぐ、冥役の一人が

「軽く日の出前に到着って・・・・・・・どのくらいのスピードで移動してるんだろう?」

とつぶやいたのを、大閻魔は聞いていて同じ疑問を持った。


「え?啓昌に行かせたんですか?」

エリサがそう聞いた。大閻魔は

「うむ。その通りじゃ。彼は一応死取なんでな。任務に参加してもらった。今は此岸とともに行動しておるじゃろう。まあ、同行者を選ぶのはヤツの自由なんじゃが、絶対に啓昌を選ぶと思った。わしの勘はあたったのじゃ」

と答えた。

「まあ、お前はさっさと本部に移れ」

「え、あ、ああ、了解です」

 


午前一時十四分、さっきの六人がカフェの前に集まった。

「よし。欠員はいないな。ちゃんと食料と防寒具持って来たか?あと必要な武器もな」

ぱっと見渡したところ、健司は長いケースを持ってきている。その他のやつらは特に武器らしき物は見当たらない。

強いて言うなら律が腰にナイフをさげている事だろうか。

「今から魔道の説明をするからな~。よく聞けよ。まずな、この魔道を通っていけば、三時間チョイでヤベアに着く筈。移動はもちろん徒歩だ。では、気張っていこう!」

此岸がそう言って、道を開こうとしたとき、映次が

「魔道の危険は教えなくていいの?」

と言った。

「ん?別に大丈夫だと思うけどな・・・・・・・。じゃ、映次が代わりに説明して」

「・・・・ったく、しょうがないなぁ。まず、魔道ではうるさくしすぎないこと。次に、何が転がっていても驚いたりしないこと。その次に、単独行動をとらないこと。最後に・・・・・・追われたら即逃げること。特に最後に一つが生死を決めるからな」

映次の説明が終わったところで、此岸が道を開いた。

「いってらっしゃい。気をつけてね」

見送りに来ていた雪美がそう言った。

「じゃあ、いってきます」

そう言って六人が道に入ると、魔道への入り口は閉じていった。

「・・・・・・雪が・・・・・・・・・・・・・・・・強くなってきたわね」

雪美はそう言うと、店に入っていった。


それからしばらくして、実咲が一人で店に入ってきた。

「う~・・・・・・さびぃ・・・・・」

ホントに寒そうだった。すごい厚着ではあったが。

「アンタ、まだ風邪直ってないのにここまで来たの?」

茶織が聞いた。

「うん」

「なんでよ」

「寂しかったから」

「ふ~ん」

雪美は、取りあえず人数分のココアを用意した。

「そうだ。暇潰しにさっき律が持って来た異空苑史読んでみようぜ」

俊典の提案に、全員が賛成した。

「え~っと・・・・・何調べる?」

すると茶織が

「索引で大雪と調べて」

と言った。

「分かった。大雪大雪・・・・・・・あった!大雪!今から、え~っと百八十年前にもこんなことが起きてるな。まあ、これは有名な話だな」

「他には?」

「え~っと・・・・・・・・そうだ!ヤベアの近くの滅びた都市の名前って分かる?」

俊典が思いだして言った。

「う~ん・・・・それは分かんないな・・・」

と茶織。すると

「クロウベアよ」

と雪美が言った。

「クロウベアね・・・・・・・く・・・・く・・・・・あ!あった。今から約二千二百五十年ほど前に栄えた都市。千百年ほど続いたが、原因不明の大雪で一週間と経たずに都市が埋没し、滅亡した。今では遺跡として残っている。近くにあるヤベアという都市は、クロウベアから避難してきた人達で作ったと言われている、だとさ」

俊典は文章の所を読み上げた。

「ふ~ん・・・・大雪かぁ・・・・・危ないなぁ」

雪美がつぶやいた。

「早く・・・・・避難した方が・・いい・・・。あと二日で・・・・・・・・ここも・・・埋まっちゃう」

実咲が小さくそう予言した。言い終えた直後に床に倒れた。

「まあ・・・・すんごい熱。ま、こんなに無理して来れば当たり前か。雪美。布団かしてくれる?」

茶織が冷静に言った。布団を二階に敷いて、一階の戸締りをきちっとすると、皆で二階にあがった。

「まあ、あたし達が近くにいれば安心だろうし」

「そういやぁさあ、ここの雪おろしした?」

俊典が聞いた。

「ううん。してないよ」

雪美が答える。

「ふ~ん・・・・・危ないなぁ。ちょっとだけ払ってくるわ」

そう言って二階の窓から雪の上に降り立つと、屋根にのぼり手作業で雪をおろし始めた。

「・・・・あんなことしてないで、炎を操ってとかしちゃえばいいのに」

茶織が言った。

「きっと何か考えがあるのよ」

雪美はそう言うと、雪おろしを見ていた。

雪をおろし終わって俊典が入ってきた。

「なんで炎で解かさなかったの?」

不思議そうに茶織が聞いた。すると俊典は

「解けた雪が凍ると雪より厄介な物になっちまうから、こう言うときはおとなしくただ払うだけの方がいいんだよ」

と言った。やはり考えがあったようだ。

すると、実咲の看病をしていた紀慧がおもいだしたように言った。

「あれ?そう言えば源さんは?」



「ずいぶん飛んだな」

稜馬がそう言った。

「ああ。ここら辺まで来れば後は一直線だ。ほら、下にある寂れた建物が阿国神社だよ。流石にここは護られてるから雪で埋もれてはいないな」

彼岸はそう言った。一直線と言うのはさすがに無いが、どちらかというとヤベアの方に近いのは確かだった。

「阿国神社が見えてきたってことは、こっから一時間程度でヤベアにつくな」

またそう言うと、自宅から持って来た方の鞄からみかんを取りだした。

「食うか?」

「食う」

彼岸はみかんを稜馬に渡すと、もうひとつ取りだして食べ始めた。

「あのさ、大閻魔からもらった鞄には食料とか入ってんじゃないの?」

稜馬が不思議そうに聞いた。

「え?何で?」

「いや、だってさ、自分の家から食い物持ってきてるからさ・・・・・・」

「じゃあ、お前は何にも持ってこなかったのか?」

「いや、そう言うわけじゃない」

「だろ?そう言うことだ。それにな、毎回ジジイが用意する食い物はなんかまずいんだよ」

「ふ~ん・・・・冥役は大変なんだな」

そんな会話が続いた。遠くの方には、ついさっき滅びたばかりの大都市、ヤベアがあった。見間違うことなど無い、

とてつもなく高い塔が都市のシンボルとしてそびえたっていたのだ。

「ああ・・・・・・・塔のてっぺんの火が消えちゃってるや。滅びたってのはやはり本当だったか」

稜馬がそう言った。異空苑の都市にはどこか一番高いところに印の火と言うのがある。それが消えたとき、それが国の終わりを意味するときなのだ。

「これから何があるか分からんから、今のうちに寝とけ」

と、彼岸が言った。

「ああ、そうだな」

そう返すと、稜馬はねっころがると、鞄から通信鏡を取りだした。



「一体あとどんくらいで着くのよ~・・・・」

舞が不機嫌そうに言った。ここは魔道の中だ。

「そうだな・・・・・あと、ざっと二時間程かな」

此岸が答えた。

「あ、松明が消えそうだ。映次、新しいの取ってくれ」

健司が言った。すると映次は

「そんなものより、魔法のほうが絶対に便利だ」

といって、自分の持っていた杖の先端に光をともした。

「おお。こりゃ明るいや」

ちょっとうれしそうに律が言った。

「アレ?なんかいつもよりもかなり暗いな・・・・ほんとはもっと明るいのに」

映次が不思議そうに言った。それを聞いて

「問題。ここは一体ど~こだ?」

と此岸。

「・・・・・・あ、そうだった。魔道にいるから当たり前なんだ」

映次は理解した。魔道にいると、その間魔法以外は発動せず、魔法の効力も三分の一に減ってしまうのだ。

「あのさ・・・・・さっきから聞こえてくる変な音は何?」

啓昌が突然言った。

「ん?変な音なんてするか?」

と健司。

「・・・・・・別に何の音もしないじゃないですか。驚かせないでくださ・・・・・・・・・」

律の言葉が止まった。そのとたん、魔道中に何かのうなり声が轟いた。

「おい、律。一体どうした?」

律が後ろを向いたまま固まっているのを不思議に思った映次が言った。

「・・・・・なにかいますね・・・・・後ろに」

律がそう言った。映次が少しだけ光を強めると、獣のような物の足が見えた。

「あっ!今何かの足が見えた!」

舞がそう言った。そのとたん啓昌が

「ん?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ったく、ついてきたいのならはじめっからそう言えばいいのによ」

と、その獣に向かって言った。すると、闇の中から

「そうか?ある程度のサプライズを楽しめてよかったじゃないか」

と言って、源三郎が出てきた。

「一体どっから入ってきた?」

此岸が聞いた。

「んなもん、閉じる寸前に飛び込んだに決まってるだろ」

「いいや、俺は閉まるまできちっと見てたが、お前は飛び込んでこなかったぞ。本当の事を言った方がいいぜ」

「ふ~ん・・・・・分かったよ。自分で魔道を開いてここまで来たと言えば満足か?」

「・・・・やっぱりな。ああ。満足だ」

すると啓昌が

「それよりよぉ、お前雪敷持って来たのか?」

と聞いた。それに源三郎は

「もちろんさ」

と答えた。



二人はヤベアの上空を飛んでいた。ここまで来ればクロウベアはすぐそこだった。

「あ~あ・・・・・・・・・ついに来ちゃったなぁ・・・・・・・・・」

彼岸がいやそうに言った。

「あ~あって・・・・・なんか嫌な思い出でもあるのか?」

稜馬が聞いた。

「ああ、たっくさんな。すごいぞ、あの光景は。何っつったって遺跡の隠し部屋の中にむっかしの死体がごろごろ。腐りかけもあるし、おまけに暗いし寒いしでたまったもんじゃなかった」

「そんなにヤバい所なのか・・・・・・他には?」

「他か?そうだな・・・・町並みはある程度きれいだな。昔の生活が伝わってくるっていうか。あ、あとね、これは重要。昔の呪いとか解けてないからね、なんかあったら呪われるから気を付けろよ」

そう、クロウベアは昔、呪文の発達で栄えた都市だった。建物にもまじないがかけてあり、普通より丈夫になったりだとか、汚れにくくなったりだとか。逆に言えば、そこら辺にまじないがかけてあるため、長い月日の中で変な呪いに変わっている事もある。彼岸は昔、それで大変な目にあった。

「さて、そろそろ武器とか荷物の準備しとけよ。降りたらすぐに近くの建物に隠れないと駄目だからな」

彼岸はそう言った。何故か、ここら辺では雪が弱かった。

時刻は、午前三時五十二分だった。



場所は変わってここは閻魔邸。

「ったく、本部に移れって・・・・その本部は一体どこにあるのよ・・・・」

エリサは、本部を探して屋敷内をうろついていた。

「こんなときに百鬼も黒烏もいないんだから・・・・・・」

相当困っていた。そんなとき、目の前を後鬼が通った。

「あ!後鬼後鬼!あのさ、本部って一体どこにあるか知ってる?」

すると後鬼は

「え?本部?本部って何の本部?」

と返してきた。

「だから、異常災害対策指令本部!知ってる?」

「え?知らないの?」

「知らないから探してるの!」

「・・・・・・・あきれたヤツだな。ほれ、ここが管理室だろ?で、その近くに曲がり角があって、道が右と左に分かれてる。そこをまっすぐ行くんだ。無いと思っていたら隠れ部屋には入れない。じゃ、そ~ゆ~ことで」

後鬼は分かりやすく紙に書きながらそう言って立ち去った。エリサは

「・・・・ホントにあるのかしら。嘘っぽいけど」

とつぶやいた。が、ためしに管理室まで行って、その曲がり角を曲がらずに直進すると、いつのまにか変な部屋にいた。そこでは神だとか大閻魔だとかいう冥役がたくさんいた。

「おい、遅いぞ。さっさと席につけ」

大閻魔がエリサにそう言った。

「あ・・・ハ、ハイ」

彼女はそう答えると、今度は自分の席を探し始めた。自由席なのに。



「そういえばな、この魔道に住みついてる連中が、お前らのこと狙ってたぞ」

源三郎がふと思いだしてそう言った。

「とくに一番弱そうな舞をな」

と、つけたしもした。

「え?舞を?・・・アッハッハッハッハ!そりゃあ災難なヤツだ」

映次が笑ってそう言った。

「何がそんなに面白いんだ?」

啓昌がそう聞いた。

「いや、あのね、こんなヤバい女を一番弱いと見てるって所にね。可哀想な悪魔に同情したのさ」

映次が答えた。

「ふ~ん・・・同情してたかは分からないけど、まあそいつは災難だな。あの舞だもんな~・・・」

と啓昌。それに対し舞が

「ちょっと!それ一体どういう意味よ!?」

と言った。

「いやいや。何でもない」

「いいや。何でもある!」

ああ・・・・変な会話だなぁ、源三郎はそう思った。

「ん?何か来るぞ」

源三郎が何かを察知した。

「この音は・・・・・・何かが爆走してくる音だな」

此岸が言った。音が大きくなるにつれ、振動も大きくなっていった。

「・・・・・何アレ?・・・・・・・列車?」

舞がそう言った。闇に小さく二つの赤い光が見えた。

「あ、アレは・・・・・・くそっ!!こんな時に一本道か!みんな走れぇ!!」

此岸が叫ぶと、皆が一斉に走り出した。

「おい!一体何だよアレ!」

健司が走りながら質問した。それに答えたのは源三郎だった。

「アレは、多分大昔に討伐されてここに送られてきた悪魔だ。西の方の地で、約五千年前に書かれた

『ザルード物語』って知ってるか?」

「いいや」

「そうか。まあいい。その中にな、二百四十本の足を持ち形は筒状、高さ三メートル程、長さ八十メートルの悪魔、シルガってのが出てくる。でな、空想の物だと皆が思っていたんだが、約三千年前、西の王国のベア・トルニカスⅧ世がそのシルガを討ち取ったって話があるんだ。まさかとは思ったが、すべて一致するってことは、きっとそいつに違いない!」

「ん?ちょっと待て。何で前からしか見てないのに分かるんだ?」

「決まってるだろ。俺がそいつの横を通ってきたからだよ」

「えーっ!何か言われなかったのか!?」

「え?・・・・いや。別に」

話がそれていた。

「ちょっと・・・・二人とも・・・・・そんな事より・・さ・・・・・・・アレどうにかしてよ!」

舞が途切れ途切れに言った。結構疲れている様だった。こんな時に体力が無いというのは致命的だ。

「う~ん・・・まずいな。こんなときにな。絶対絶命だぜ」

そう言った此岸は走らず、浮遊移動していた。

「あ!お前だけずるいぞ!」

啓昌が言った。

「お前らもできるよ」

「え?」

と啓昌。

「おお。ホントだ」

源三郎が浮遊移動を始めた。続いて律、映次、健司の順で浮き上がった。

「くっそー!」

啓昌は浮かなかった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

舞は疲れていて挑戦する気力も無いようだった。

「おっ!来た来た来たーーぁ!!」

うれしそうに啓昌が叫んだ。やっと浮けたのだ。

だが、いくら経っても舞は浮かず、今にも倒れそうだったので、映次が彼女を抱えたままとんだ。

「荷物くらい持ってやるよ」

と言うことで、映次の荷物を健司が持つことになった。

時間は午前三時五十二分。このまま追われ続ければ予定よりも相当早く着きそうだ、此岸はそんな事を思った。



「ん・・・・・・」

眠っていた実咲が目を覚ました。

「お、起きたみたいだな」

俊典はそう言うと、雪美達を呼びに行った。

「ここ・・・・・・どこ?」

実咲が意識朦朧としながらそう言った。

「ここはカフェよ。雪見カフェ」

紀慧がそう言った。

雪は降りやむそぶりをまったく見せず、カフェの二階のベランダのすぐ下まで雪が積もっていた。

住民は自分達が通る所だけ雪かきしているので、谷の様になっていた。

「あ、そうだ。雪美、雪が解けたとき水が入ってこないようにお札でも貼ろうよ」

下で茶織がそう言っているのが聞こえた。

そして、また実咲は深い眠りに落ちた。



「丹町街の住民を妖怪パレスに避難させるとするか」

大閻魔がそう言った。

「でも、パレスの状態にもよりますよ。それに、全住民が入りきる訳がありません」

エリサが反論した。そのとき通信担当が

「桑ノ森!通信回復しました!」

と叫び、すぐさま桑ノ森からの通信が室内に放送された。

『こちら桑ノ森!住民の四十パーセントが犠牲になり、建物の八十九パーセントが埋没。被害甚大です!』

するとエリサが

「そう言えば、幽霊って死ぬんですかね?」

と聞いた。エリサは知らなかった。この世界では、人間だろうと妖怪だろうと幽霊だろうと皆何かあれば死ぬのだ。寿命が違うだけである。

「・・・・・あと数時間後には、ここも桑ノ森と同じ様な事になり、数日後にはヤベアの廃墟と化すのか・・・・・・・」

大閻魔はエリサの質問を無視し、そう言った。

「それにしても、今回の事件はずいぶん力のあるヤツの仕業ですね」

太陽を司る神、峯蓮がそう言った。

「あ~あ。異空苑の太陽を司る神が鳳だったらよかったのに」

冗談混じりにエリサが言った。



二人はクロウベアに降り立った。大昔の魔法のせいか、足元がはっきり見える程明るかった。

「ほぁ・・・・・・・・相当栄えてたんだな」

稜馬が感心しながら言った。すると彼岸が

「おい、さっさとこっちにこい」

と、建物の中から手招きをした。稜馬もその建物の中に入った。昔はきっと民家だったのだろう。

「あのさ、何で建物に隠れなきゃいけないんだ?」

稜馬がふと思いだし、そう言った。彼岸は

「まあ、この窓から見てりゃぁそのうち分かるさ」

と言った。二人が窓から外を見ていると、五分としないうちに何かがやって来た。よく見ると、ボロボロになった大昔の鎧と武器を身に付けた三体の骸骨だった。

「何であんなモンが動いてんだよ!」

稜馬は驚いた。無論小さな声で。それに彼岸は

「だから、昔の呪いがまだきいてるって言ったろ?それだよ。正門から入らないと、アレにおわれるようになってる」

と言った。三体の動く屍が通りすぎたのを確認すると、二人は外に出た。

「なあ、ここら辺はさっぱり雪が降ってないんだな」

稜馬がそう言ったが、彼岸は返事をしなかった。

「え~っと・・・・多分いる筈なんだけどな・・・・・・・・・・」

彼岸はそうつぶやいていた。危険だと言うのに表をちょろちょろ探しまわっていると言うことは、重要な人物なのだろう。

察しの良い稜馬はそう理解した。

「おい!隠れろ!」

彼岸の声が聞こえた。稜馬はとっさに建物の中に隠れた。

十六体の骸骨が集団でうろつきまわっているのが見えた。どうやら気付かれたらしい。

こんなヤバいやつらがいるのにもかかわらず、外にある彫刻を眺めている人がいた。骸骨達は、その男には見向きもしなかった。また集団が通りすぎると、稜馬はその男に声をかけてみた。

「あの~・・・・すみませんが・・・・・」

すると、男が振りかえった。そのとき、稜馬は、なぜこの男が骸骨達に無視されたのかを理解し、声をかけたことを後悔した。男も骸骨だったのだ。その骸骨は超高音な大声を出した。稜馬はそれを聞いてくらっとした。その間に、十六体の骸骨達に取り囲まれてしまっていた。

「うっわ~・・・・・面倒くさい事になったな・・・・」

稜馬はそう言った。その時

「お~い、稜馬~ぁ!こっちだぁ~!」

彼岸が大声で叫んでいるのが聞こえた。骸骨達は、八体を残して声のした方角に向かっていった。

「お、ラッキー。結構仕事がしやすくなったな」

稜馬はそう言うと、吉野丸の居合の一撃で三体の骸骨を粉砕した。

残りの五体は適当にまいておいた。

「ったく、だからあぶねーって言ってあったろうが」

彼岸が民家の屋根から覗きこむようにして見ていた。

「あれ?さっきの声は一体どうやったんだ?」

と稜馬。彼岸は

「いや、いい感じの草が生えてたから、そいつに術をかけてやった」

と答えた。

「それよりこっちに来いよ。会わせたいヤツがいるんだ」

彼岸はそう言うと、稜馬をつれてクロウベアの中心に位置する、巨大壁画へと連れていった。

「ほら。あそこに変な犬人間がいるだろ?アイツだよ」

と言うと、彼岸は犬人間の所にかけて行った。

「よう!久しぶりだな!」

と彼岸。犬人間は

「おお!また来たか。五ヶ月ぶりだな」

と返した。稜馬も近づき、犬人間に挨拶をした。犬人間は

「おお、天役かぁ。天役とは初めて会うなぁ。オレの名はドイルだ。以後よろしく」

と挨拶返しをした。

「そうだ。何でこんな危険なところにいるのに無事なんですか?」

稜馬が聞くと、ドイルは

「ああ、そうきたか。オレはね、クロウベア自体に認められてるから、いつ来ても骸骨に襲われることは無いんだよ」

と答えた。詳しく話を聞くと、ドイルがここの調査をし始めたのが百三十年前、草原の月だったそうだ。その時ここはもう遺跡だったが、門からきちんと入り、名を名乗ったところ、具体的には説明できないが突如景色が変わったと言う。

「でさぁ、ここで何か変わったこと無かった?たとえばさ、雪が降りはじめたとかさ・・・・・・」

彼岸がそう聞いた。

「雪は降ったな。他に変わったこと・・・変わったことねぇ・・・・・・・・あ、そういえば、一月ほど前に、変な剣を持った精霊っぽい人達が入ってきてたなぁ。ここの元礼拝堂に向かっていった気がする」

と、ドイルは答えた。

「ありがとう!おい、稜馬!行くぞ!礼拝堂だ!」

そう言うと彼岸は礼拝堂へ向かって走っていった。稜馬も急いで後を追った。

「ま、頑張れよ」

ドイルはそうつぶやくと、また壁画の調査に戻った。


二人は礼拝堂に入った。何かがいる気配はしない。見渡したところ、剣らしきものは無かった。

「・・・・・本当にここなのか?」

稜馬はそう聞いた。それに彼岸は

「ああ。きっとな。そうだ!礼拝堂には隠し階段がつきものだ」

と言って、辺りを物色し始めた。仕方が無いので、稜馬もそこらを探してみることにした。しばらくして

「おい、ちょっと来てみろよ」

と稜馬が言った。明らかに床のタイルの模様がずれていた。

「ここだな」

彼岸はそう言うと、後先考えずにそこら辺に転がっていた石像で床をたたいた。石像は砕けたが、床はびくともしなかった。

「どうするよ?コレ」

稜馬はそう聞いた。彼岸は鞄から何かを取りだして、床の上に置いた。よく見てみると、小爆竹(ここ世界での爆竹は、建物の破壊や洞窟の埋め立てにも使われるほどの威力)だった。

「お・・・・お前!ちょっ!」

稜馬が慌てた。すると彼岸が

「下がってれば死にはせん」

と言った。彼岸は火種となる火竹(小さな竹の筒。妖術がかけてあり、発動すると燃え出す)を隣に置き、下がって、そして唱えた。小爆竹は爆音とともに床を粉砕した。そして、怪しげな階段が現れた。

「よし・・・・じゃあ、行くか」

稜馬が階段へ入ろうとしたとたん、何かを感知した彼岸が

「待て。その前にやることがある」

と言って、すばやく空間を裂く妖術陣を描き始めた。



「あ~・・・・・こりゃヤバい」

此岸がそう言った。

「だってな~・・・・こんなに人いると戦えないしな~・・・誰かを護りながらってのも難しいしな~・・・・」

ぼやいていた。すると源三郎が

「・・・・・まあ、コレも運だな」

と言った。後ろで

「あと五十メートルほどです!」

と、律が叫んでいる。

「う~ん・・・・・・・・・・こりゃぁマジで絶体絶命だな」

啓昌がそう言ったとたん、前方の魔道が途切れ、どこか分からない場所へとつながっていた。

「あ!ちょ!ヤバいって!」

此岸はそう叫んだが、時すでに遅し。止まった此岸に全員が突っ込んできて、一団は魔道から飛び出した。

すると、瞬時にさっきまでいた魔道が閉じ、普通の景色になった。

「ここは・・・・・!」

啓昌が見まわした。どうやら礼拝堂らしき建物のようだ。古くて、廃墟同然だった。さらに見まわすと、そこには彼岸と稜馬の姿があった。それに気付いた此岸は

「彼岸!?・・・・・・・・ってことは、魔道を裂いて出口をつくったのはお前だったのか」

と言った。彼岸は

「ま、そんなところ」

と言った。

「とにかく行こうぜ」

稜馬は明かりの準備をしていた。

「え~っと、じゃあ・・・・映次と啓昌来て。それ以外はここで待機。変な骸骨に気を付けてね」

彼岸はそういうと、残りの三人とともに階段を下っていった。


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