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我が庭、戌伏山(2話)

苑の木々はすっかり紅葉し、季節は秋となった。

「あ~・・・・秋深まりし、戌伏山ってか」

そう言ったのは半霊半妖の後候啓昌だ。

「秋深まりし?・・・・・・分かった!お前戌伏山にどんぐり拾いに行きたいんだろ」

妖犬の源三郎が言った。

ちなみに戌伏山とは、その名の通り、犬(戌)が伏せているような形だから戌伏山と呼ばれている。

尚、この山は紅葉がとても美しい。すごく美しい。あと、いろんな木が生えているので木の実がたくさん拾える。

冬は雪山となり、それもまた美しいのだ。

「さすがは妖犬。ご名答」



第二話  我が庭、戌伏山



二人は大きな木の中にこしらえてある家から出た。

「あ~・・・・・やっぱ、秋は最高だなぁ」

と啓昌。

「そうか?俺は冬のほうがいいと思うけどな」

そう源三郎は答えた。        

そうして、彼らの家からそう遠くない戌伏山に向かって歩いていった。

「で、今日は何を拾うんだ?」

源三郎が啓昌に聞いた。啓昌は袋から紙を取りだし、それを見ながら

「え~っとね、まず毎回恒例のどんぐりでしょ?それから、雪ちゃんに頼まれてたクルミ百個に、あとは・・・・栗でも」

と答えた。さらに

「取りあえずさっさと行かないとまたアイツにどんぐり取られるからね」

とつけたした。ここでのアイツとは彼岸の事だ。

「いや、アイツはどんぐりを拾わないと思うぜ」

源三郎が言った。

「え?どうしてだよ」

不思議そうに啓昌が聞く。

「アイツはな、柿を取らなくちゃならないからさ」

源三郎が答えた。

「何でそんなこと知ってんの?」

「はっはっは。あの木のうろに住んでるゴキブリから聞いた」

この地域のゴキブリは普通とは違って役にたつものがいるのだ。

「まあ、間違ってはいないが合ってもいないな」

そういいながらどこからともなく死神、彼岸がやって来た。

「うわ~・・・・またきたよコイツ」

啓昌が言った。

「ひでぇな。結構傷つくんだぞ」

彼岸がすこしいじけた。

「いやいや、冗談だよ。アカは必要だよ」

啓昌が言った。すると彼岸は少し明るくなって

「本当か?」

と聞いた。

「うん。この間の海に行ったときとかね」

「そんだけかよ」

「うん」

彼岸はまたいじけ始めた。そういえば彼はネガティブだ。


「そう言えばさっき、間違ってないが合っても無いってどう言う意味なんだ?」

源三郎が聞いた。彼岸は

「ん?ああ、そのまんまだよ。正解でも不正解でも無い」

と答えた。

「意味わかんない。もっと具体的に説明して」

啓昌が言った。

「だから、柿だけ取りに来た訳でもないしどんぐりを拾わない訳でもないって事だ」

「ってことは結局僕達のどんぐり拾いの邪魔をしたいわけか」

「まあな」

幼稚な会話が続いた。

「あ、そういや昨日の秋刀魚はどうした?」

彼岸が話題を変えた。

「秋刀魚?ああ、昨日二尾ずつ食べたよ。そっちは?」

啓昌が答える。すると彼岸が

「・・・・え~っとね・・・知りあいと秋刀魚パーティーやったらいつのまにか無くなってた」

と言った。

「え?二十尾が!?・・・・・知り合いってたとえば誰?」

「いや~・・・・神様を集めてね、パーティーやったんだよ。エリサも入れて」

「ほお」

「そんで、一人一尾ずつ焼いて食った時は残り十二尾だったんだよ。で、皆で持ち寄った酒飲んでたらさ~エリサが酔っ払って秋刀魚を生で食ったり、輝霊が炭になるまで焼いたりさ~・・・・いろいろあって、最終的に一尾も残ってなかったんだよ」

「お前はなんか覚えてないのか?」

今度は源三郎が聞く。

「いや、さっき話したとこまでは覚えてるんだけど、ホラ、酒が回ってきてさ。記憶がそっから無くて、朝起きたらみ~んな寝てんの。此岸とエリサなんて酒瓶を枕にして寝てたんだぞ」

「誰ん家でパーティーやったのさ」

と啓昌。それに対して彼岸が

「もちろん閻魔邸よ。起きた後ジジイにこっぴどく叱られた。多分アイツが窓割ったせいだろうがな」

と答えた。ジジイとは、大閻魔のことである。閻魔大王より位が上だ。

そんな話をしているうちに、戌伏山へと到着した。



「そういやお前、クルミ百個拾わなきゃいかんらしいな」

彼岸が思い出したように言った。

「ほお、なぜにその事を知ってんの?」

啓昌が不思議そうに返した。

「いや、あのね、さっき道に紙が落ちてて、それ拾ったらそう書いてあった」

「え?まさか・・・・・・・・・・・!!無い!あのメモが無い!!」

「いや、だからわしが拾ったって言ったばかりだろ」

彼岸はそう言って啓昌に紙を手渡した。

「百個となると、一日かかる大仕事じゃな。よし、わしも手伝っちゃろ」

「マジでか?ありがとう!」

啓昌は喜んだ。

「じゃあ、クルミはわしが五十個拾うから、残りはお前たちが拾えよ」

そう言って彼岸は山の頂上へと飛んでいった。

「うっわ~・・・・。アイツいきなり頂上から探すのか」

啓昌が言った。すると源三郎が

「まあまあ、とにかくさっさと拾おうぜ。でないと栗が拾えなくなっちまう」

と言って、啓昌を促して、クルミを拾いはじめた。



「・・・・・なかなか見つからないな・・・」

啓昌がつぶやいた。

「そうか?お前の探し方が下手なんじゃ無いのか?」

源三郎が意外そうに言った。今拾ってあるクルミの数は合計二十六個。そのうち啓昌が拾ったのが三個、残りはすべて源三郎が拾っている。

「今ごろアイツはいくつくらい拾ってんのかな・・・・」

啓昌がまたつぶやいた。

しばらくして、後ろで落ち葉を踏む音が聞こえ、啓昌が振り返ると、彼岸がいた。

「そっちは拾い終わったか?」

啓昌が聞く前に彼岸が聞いてきた。

「いんや、全然。そっちは?」

「こっちはもう拾い終わった」

そう言って彼岸はおふだを啓昌に渡すと、また頂上の方へと飛んでいった。

「ほんとに拾ったのかな」

そう言って啓昌がお札からクルミを取り出した。ぴったり五十個あった。

「それにしてもアイツ一体どこでこんな量拾ったんだ?」

啓昌は不思議だった。

「そういや、この山にはたくさんの種類の木の実が無尽蔵になっている場所があるって噂を聞いたことがあるな」

源三郎はそう言った。

「ふ~ん・・・・そこって、僕でも見つけられっかな?」

「さあ。努力次第だろ」


それからしばらくした後、啓昌たちはついに五十個のクルミを拾い終えた。

「やっと終わった・・・・・・・・」

啓昌がつぶやいた。そうしたら源三郎が

「お前は探すのとんでもなく下手だな」

と言った。

「これじゃ、栗拾う時間無いなぁ・・・・」

「栗か?栗ならクルミを探してるときにあったから三十個ほど拾っといたぞ」

「マジでか!?さすが源三郎!今日の晩飯は栗ご飯だ~」

と言うわけで、今夜の夕食は栗ご飯になった。

そんなことを話していたら、また彼岸が降りてきた。

「ああ・・・・・・この山にはなんて恐ろしい所があるんだ・・・・」

彼岸が真っ青になって言った。啓昌と源三郎は

「一体何が恐ろしかった?」

と、少し心配そうに聞いた。

「き・・・き・・・・・・」

「あ?きがどうした」

「きのこが大量に生えている場所があったんだ!」

彼岸がそう言った。

「それだけならまだいい。だが、昔そこで死んだ人らしきモノや死ぬ前か死んだ後か分からんが獣にもきのこが生えてたんだぞ!あそこは生物を食うきのこが生えている場所なんだ!」

すると啓昌が

「さっぱり意味わかんない。とにかく僕らをそこに案内しなさい」

「後悔するなよ」

啓昌達はそのきのこの群れへと向かっていった。



「うっわ・・・・・。こりゃひどい・・・・」

まず最初にそう言ったのは啓昌だった。

「だろ?特にホラ、あそこの木の根元とか、よく見てみろ」

彼岸が言った。啓昌の顔が真っ青で動けない様だったので、源三郎がその根元に近づいてみた。

「・・・・これは多分人だな。この骨の具合からすると、五、六年くらい前にとり殺されたか遭難して息絶えたかってとこだな。見てみろ。人のような形したきのこがあるぜ。魂が乗り移ったのかもな」

源三郎が冷静に言った。すると彼岸が

「まあ、躯はおいといて、そろそろ日が暮れる。ここの山はただでさえ危ない所だから、とにかく・・・・啓昌、お前の家まですぐに戻るぞ」

と言った。啓昌と源三郎は彼岸の書いた即席魔法陣に入った。

日のあたり方のせいなのか気のせいなのか分からなかったが、きのこ達がさっきより大きく、少し動いて見えた。

「!」

危険を察知した彼岸が、詠唱の途中で強制作動させ、三人は啓昌の家に一瞬で着いた。すると、彼岸は過度の負荷がかかったせいなのか、突然意識がとんだ。



「・・・・・・だな」

「確かに・・・・・・の・・・・・だったね」

そんな会話が途切れ途切れに聞こえ、彼岸は目を覚ました。

「おお、やっと気がついたか」

そう言ったのは啓昌だった。

「ここは・・・・?」

彼岸は一応聞いてみた。源三郎は

「もちろん俺らの家さ」

と答えた。

「わしは一体どのくらいの間ねてたんだ?」

「う~ん・・・・・まあ、ざっと二時間くらいかな」

「・・・・二時間か・・・・・そうだ。あのきのこはどうなった?」

「そんなに気になるなら窓の外を見てみ」

啓昌が言った。彼岸は窓から外を見てみた。

「・・・・・・これは・・・・!!」

辺り一面には、あの山で見かけたきのこ達が生えていた。

「そろそろここも危ないなって話をしてたところだ」

源三郎が言った。源三郎の首の後ろ辺りに何かがついているのを、彼岸は見落とさなかった。

「おい、源三郎。なんだそれ」

「ん?なんだって・・・・何が?」

彼岸は源三郎にくっついていたものを取り、ながめて見た。

「これはさっきのきのこだな。きっとうろうろしてるときについたんだろう」

「マジでか!?」

すると

「じゃあ、外にいるお客さん達はこのきのこを発信機がわりにここをつきとめたって訳か」

と言った。それを彼岸が

「そうだろうな。多分、いまさらこれをはずしたって意味が無い。奴らがほしいのはきっと栄養、つまり食料となる生物だな。早くここから離れよう」

と返した。今度はきちんと詠唱し、カフェへととんだ。



「あら、三人そろって珍しい。それと、いつもドアから入ってって言ってるでしょ」

雪美は三人が突然現れたことにはたいして驚かなかった。

「それに、もう閉店時間なの。お店のシャッターもおろしたし」

そう言われたがまあ気にせず源三郎が、さっき戌伏山で起こったこと、家できのこに襲われそうになったことなど、順をおって説明した。

「ふ~ん・・・・それで、ここにきた訳ね」

と雪美。彼岸は

「うん。で、ここに電話あるかい?」

と聞いた。

「電話くらいあるわ」

「ちょっと貸して」

「まあいいけど・・・」

そう言うと彼岸は電話をかけ始めた。雪美、啓昌、源三郎の三人はその内容を聞き取り、電話の相手が誰だったのか理解した。

「ああ、ありがとう」

そういって彼岸は電話を返した。

「で、エリサは来るって?」

源三郎が聞いてきた。彼岸は

「いいや。今忙しいんだってさ。代わりに一番暇な奴が来るって」

と答えた。

「一番暇な奴って・・・・誰?」

みんなが聞いてきた。

「暇してる奴っつったら、此岸しかいないじゃないの」

「え?また神様が来んの?」

「まあそんなところ。ちなみにエリサだって神の一種だろ」

と彼岸が言った。

「じゃあ、そいつが来るまで対きのこ作戦を考えるか」

源三郎が言った。

「でも、その前に」

啓昌が言った。

「その前に?」

と源三郎。

「約束のクルミ百個」

そう言って啓昌はクルミのおふだを雪美に渡した。



「こ~んに~ちわ~・・・・・・あ、間違えた。こんばんわか」

ドアをすり抜けて白い服の男が入ってきた。

「おう、やっと来たか」

彼岸が言った。

「ああ。寝てるところをジジイにたたき起こされてな。せっかく熟睡中だったのに」

男は言った。

「あ、そうだ。え~とね、コイツが此岸だ」

彼岸はそう言った。

ここで説明。此岸とは、ここの森羅万象をつかさどる神である。

「あ、何か飲みますか?」

雪美が聞いた。

「あ、じゃあ、熱いコーヒーでもいただきます。お代は彼岸のツケにしといてください」

と此岸。

「は?おい、お前神様だろ?給料高いんだろ?何でわしのツケにするんだよ」

「うるせぇな。こっちは寝てるとこたたき起こされて、さらに面倒な仕事タダ働きなんだぞ。大体お前の依頼なんだから、コーヒーの一杯や二杯いいだろ。それに俺とお前、たいして給料かわんねーだろ」

「いいや、こっちの方が雪見カフェのココア七十九杯分安い」

「ん?ああ、悪ぃ。結構な差だな」

こんなのが神どうしの対話なのか、源三郎は少しがっかりした。

「はい、お待たせ」

雪美は人数分(もちろん自分のも)のコーヒーを持って来た。

「あれ?何で人数分?」

此岸が聞いた。

「だって、ここにいる人達の会議なんだから、人数分用意しなくちゃ悪いでしょ?もちろん、お代はアカのツケでね」

「ええーっ!何で、全員分も!?」

彼岸は叫んだ。

「ああ、わしの尊い労働が・・・・・・・」

「でも、お前ここ一ヶ月間きちんとした仕事無かったよな」

此岸が言った。

「いや、閻魔邸の掃除があった」

「それだけじゃん」

全員でつっこんだ。


説明中(約三分半)・・・・・・・・・


「ふぅん・・・・きのこが人をねぇ・・・・・・」

此岸が分かったのか分かってないのか分からないような返事をした。

「分かってるのか?」

彼岸が聞いた。

「いんや」

「だろうな。ちょっと一緒にきてみぃ」

そう言って彼岸は魔法陣を床にささっと簡単に書いた。

「何?きのこでも出てくるの?」

と此岸。

「その逆。きのこを見に行くの」

と彼岸。

「あ、私も行ってみたい」

雪美が言った。

と言うわけで(どう言うわけなんだか)雪美、彼岸、此岸が見に行くことになった。

「はい、じゃあいくよ~」

彼岸が魔法陣を発動させ、一瞬で店からいなくなった。

「・・・・・行ったね」

「ああ」

「きのこ今ごろどこかなぁ」

「さあな。もしかしたらすぐそこにまで来てるかもな」

源三郎が笑いながら言った。

「まあ、ありえなくは無いけれど~・・・・」

ドアから外を見た啓昌の言葉が止まった。

「どうした?」

源三郎が聞く。

「ちょっとまさかの事態だ」

「マジでか!?」



「ふう、到着だ」

彼岸が言った。啓昌の家の上空に魔法陣で浮いていた。

「わあ、すごい・・・」

雪美は浮遊していることに感動していた。

「ああ、こりゃ思ったより事態は深刻だな」

此岸がつぶやくように言った。

「もう少し援軍を呼ばないとな」

「いや、お前森羅万象を司ってんだろ。あんくらいちょちょいのちょいだろ」

「分かってね~な~。お前ってやつは。あのな、まあ確かに森羅万象を操るのには違いない。だがな、俺は自然物を操れるだけであって、不自然物は操れねーんだよ」

「は?きのこは自然物だろ。ほんとは力使うの面倒だからそう言ってんじゃないのか?」

「え?あ、いや、そんなことは・・・・・あはは」

「ねぇ、あの列は何なの?」

会話を割って、雪美が言った。

「ん?あれか?アレはきのこだな。うん。今すぐ戻らないとまずいね」

彼岸がたいして驚きもせず言った。

「でも、コイツはまずい・・・・さっさと手をうたないと・・」

「街がきのこで埋まるんだろ」

此岸は分かっていた。



「あ~・・・・・こら相当アカン」

店の屋根からおりてきた源三郎が言った。

「なんせ街まであと二百メートル程しかないもんな」

啓昌が続けた。すると源三郎は、知ってたのか、という顔をした。

「とにかく俊典呼ぼう」

「おう」

啓昌は店の電話を使って俊典の家に電話をかけた。

『・・・・・・・こんな夜分に何の用だ?お前の木の実の話だったらごめんだからな』

電話にでた俊典はいきなりそう言った。

「えええ?僕がかけてるって何で分かったの?」

『決まってんだろ。こんな夜遅くに常識もわきまえず電話をかけて来るのは一人しかいないからな』

「どういう根拠でそんなこと言ってんだよ。まあいいや。とにかく今からカフェに来て」

『何でカフェに?大体営業時間は過ぎてるんじゃないのか?』

「まあ、そうなんだけど、ちょっとした事でね、力を借りたいんだ」

『は?あのな、そう言うのは』

そこで電話が切れた。と、いうより切った。

「いいのか?途中で電話切っちまってさ」

源三郎があきれたように聞く。

「まあ、大丈夫だろ。アイツなら来てくれるさ」

そんな事を話していたら、三人が帰ってきた。



「いや、これは思ったより相当やばい状態にあるな。うん」

此岸が言った。

「知ってるよ。店に近づいてるんだろ?」

啓昌が返した。

「まあそうだ。でも、被害は店だけでは収まらんかもしれん」

それは、きのこが街を埋め尽くす可能性がある、と言っているのと変わりは無かった。

「まあまあ、応急処置としてきのこ焼き払おうじゃないか」

啓昌が言った。

「え~?どうやって?言っとくけどコンロは貸さないわよ」

雪美が言った。すぐ後に俊典が店に入ってきた。

「一体何の用で呼びだしを食らわなくちゃならないんだ?俺は」

俊典がそう言った。

「こんなときの為に俊典がいるんじゃないか」

と啓昌。

「へ?」

「要するに、俊典の火力があればきのこを焼き払えるさ」

まあ、応急処置としてという意見だったが、やってみることにした。


数時間後・・・・・・・


一応、きのこの第一波は除去できた。

「ふう・・・・・・・・疲れた・・・・・・・・」

俊典が言った。もう明け方近かった。

「そうか?わしは久々にコイツを振れてうれしいけどな」

彼岸はそういいながら刀を鞘に収めた。すると、刀は光に包まれて消えた。

すると此岸が

「どうやら俺達はムダ働きしてたみたいだぜ」

と言った。きのこのあったほうを見てみると、残っているきのこは朝日を浴びたとたんに消滅し、バラバラになったきのこも朝日にあたったとたんに消え去った。

「ってことは、アレは日の入りから行動する訳だ」

俊典がそう言った。そのあと、三人は店に戻った。

「あ、で、結局どうなったの?」

雪美が聞いた。

「いや、それがね、頑張ったのに朝日を浴びたら無くなっちゃったんだよ」

彼岸が答えた。

「でさ~・・・・あのきのこの正体は何だったのかな?調べて対策立てないとまたゆうべみたいな事になるかもしれないからな」

俊典が言った。

「そうだな。じゃあ、葉呼のとこにでも行ってみるか。でも、その前に飯だな。と言うわけで、まず飯をよろしく」

此岸が言った。(葉呼とは、草木の神様である。でもきのこって草木に入るのかな?入らないんじゃね?)

「お代は誰が?」

と雪美。

「いや~。もちろん彼岸のツケで」

「なんだとぉ!?」



「あぁ?きのこ?襲ってきた?意味不明」

葉呼はぶっきらぼうに言った。

「だから、きのこを戌伏山で見て、そのきのこが夜になったら・・・・」

「俺が説明するよ」

彼岸に代わって源三郎が説明することになった。まあ、彼岸は説明がとてつもなく下手なので、

これは得策だった。

「要するに~~~~で、~~~~~~~という訳ですぜ」

「人を襲うきのこが?・・・・・・・ああ、なんか前にそんなのあったね・・ちょっと待ってて」

そう言って葉呼は家の中に戻っていった。何かを探している様だ。

数分後、葉呼が一冊の厚い図鑑を持って来た。

「え~っとね、食人きのこ目、でかいニワノヒツギ科のきのこね。色は?」

「上が緑っぽくて、下の方は白かった」

此岸が言った。

「上が白で・・・下が緑ね・・・」

「いやいや、その逆。上が緑で下が白」

此岸が訂正した。

「緑に白・・・・あ、あった。えっと、名前はオオヒノタケ。七百四十年前に異空苑植物学者の大日野博士が発見したことからこう名前がついた。夕方から夜中にかけて活動する。日光に弱く、浴びただけで消えてしまうため、発見はとても難しい。テリトリーに入ったものを朝まで追う習性がある、だそうよ」

葉呼が説明した。



数日たっても、きのこは現れたりしなかった。どうやら、葉呼の言っていた通りだったらしい。

「さあて、今日は八時にカフェ集合だってね」

啓昌が言った。

「おお、よく覚えてたな」

源三郎が言う。

「それにしても、あのきのこはほんとに怖かったな」

「ああ」

カフェにつくと、彼岸、此岸、雪美、俊典、葉呼がいた。

「あ、来た来た」

雪美が言った。

「で、大事な話って何?」

啓昌が聞いた。

すると葉呼が

「あのあと、そのきのこについて色々調べてみたんだけど、結構大変なことをそのとき発見しちゃった」

と言った。     

「大変なこと?」

此岸が言った。

「あのさ、そのきのこを発見した大日野博士って話したじゃん、六年前から行方不明なんだってさ。戌伏山で」

「戌伏山?ああ、そう言えば群れの中に人みたいな形したでかいきのこがあって、その下に人の死体があったな」

彼岸が言った。

「まあ、死んだ博士はおいといて、何でもうきのこ来ないんだろ?」

と啓昌。死んだ博士って勝手に決めつけるのひどいね。

「さあ。分からないけど、あの類のきのこは学習能力があるから、街に行くのは難しいと分かったんじゃないの?」

葉呼が言った。

そのあと、話題は最近流行りのウェー(任○堂の)だとか、インフルエンザだとかになった。

「さぁて、そろそろ帰るとするわ。サボテンに水をあげなくちゃ。あ、あとオオヒノタケについて、何か分かったらまた教えにくるわ。きっともう無いだろうけど」

そう言って、葉呼は店を出ていった。

「さて、俺は帰って憩いの熟睡タイムに入るとするか」

此岸も帰っていった。朝なのに。

「みんな帰ったし、あなた達もさっさと出てって。今日は店も休みだからお散歩しようと思ってたのよ」

三人は店から追いだされた(?)。すぐ後から雪美が出てきて鍵を閉めると、街の大通り(彼女の散歩コース)に向かった。

「さて、わしも帰って洗濯でもするかな」

彼岸が言った。

「じゃ、僕らも帰ろうか」

「おう」



結局、きのこ事件は色々とうやむやになったまま終わった。

でも、まあいいや。




「ああ・・・・あの若者達はなかなか鋭いな」

老人がつぶやいていた。

「やはりご存命でありましたか。博士」

此岸が言った。

「ほお、君か。こりゃまたなぜこんなところに?」

「博士の安否を確認するためです」

「そうか・・・・悪かったな。まさかきのこが勝手に移動するとは思いもしなかった」

「こっちも驚きましたよ。で、まだコイツの研究をなさるんですか?」

此岸はそう言って等身大のきのこを指ではじいた。すると、頭に噛みつかれた。

「グハッ!!・・・・・・・・あれ?は・・・・博士。きのこって、歯ありましたっけ?」

「いいや。口もないよ」

「じゃあコレは?」

「ああ。なんか勝手にできちゃった」

「そうですか。あ、そうだ。コレどうぞ」

そう言って、此岸は芋焼酎を差し出した。

「お、すまないねぇ」

博士は言った。

「いえいえ。で、まだここで研究を続けるおつもりですか?」

「ああ。死ぬまでな」

「そうですか。・・・・・・ここのきのこ達はみんな動物の様ですね」

「そうだろ。この間はな、やっときのこと会話ができるようになったんだ。しゃべったのは、お前サンの頭にかじりついとるヤツじゃな。ほれ、そろそろはなさんか」

博士がそう言うと、きのこはすぐに此岸の頭をかじるのを止めた。

「痛って~・・・・。まあいいや。じゃ、またいずれお会いしましょう。大日野博士」

此岸はそう言って、夕焼け空へと飛び立った。



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