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雨と妖怪のカフェ(1話)

「あらら、とうとう降ってきたね」 

雪美がいう。すると啓昌が

「まあいいじゃん。雨は好きだよ」

と言った。

「それにしても今日はやけに人少ないなぁ」

「いるのは妖怪と妖犬だけね」

妖犬とは、啓昌のペット(というか友達?)、源三郎のことである。

「人の形してなくて悪かったな」

源三郎が言う。

「そう?かわいくっていいじゃない」


第一話  雨と妖怪のカフェ


そんな話をしているうちに、もう一人客が入ってきた。人間の酒楼律だ。

「ちょっとお二人さん!大変ですよ!」

「俺のことも忘れるな」

源三郎が不機嫌そうに言った。実をいうと律は彼を忘れていた。

「どーしたの?」

雪美と啓昌が同時に聞いた。

「えっと、なんかこの雨ヤバイみたいなんですよ!」

「どこら辺が?」

「隣町に住んでる友人から聞いたんですけど、この雨にうたれた妖怪がみんな凶暴化してるらしいんです」

え?それって相当ヤバくね?源三郎はそう思った。

「妖怪全員が外に出ていたと仮定して、単純計算すると・・・・・・」

「約千百もの妖怪が凶暴化することになります」

律が答える。さらに続けて源三郎が言う。

「俺らもヤバいわけだ」 

すると突然、雪美がいった。

「道理でさっきからイライラするのね・・・・・」

「まさか!雪ちゃんまでもが!?」

「ふふっ。うっそ~」

男三人はため息をついた。

「こんな状況でそんな嘘つかないでください」

律が厳しくいった。

「ふふふ。ごめんごめん」

笑いながら謝った。反省しているのか分からないな、この人。

すると店のドアが開いて、妖怪、明連俊典が入ってきた。

「いや~、実にひどい雨だ。雪ちゃん、いつものお願い」

アレ?いつもと変わっていない。雨にうたれたはずなのに。なぜだ?

「シュン、お前雨にぬれたんじゃないの?」

啓昌が聞く。

「ああ、十分ぬれた」

「気分おかしくない?」

「気分か?最高だよ」

雪美、啓昌、源三郎の三人が冷たい視線を律に浴びせる。

「ちょ・・・・そんな目で見ないでくださいよ」

と律。すると俊典が

「どうした?」

不思議そうな顔をして聞いた。


~説明中~

  

「あ~ハイハイ。それで、なんで雨に濡れたのに大丈夫なのかって話か」

さすがは妖怪の鏡。話が分かる。

「それでおかしいなと思ってたんです」

「律、お前は妖怪の特性を知ってるか?」

「特性?」

妖怪の二人と一匹を見てみると、え、そんなことも知らないの、という顔をしていた。

「ちょっとぉ!ひどいじゃないですか。僕だけ仲間はずれですか!?」

「ンフフ。そんなんじゃ無いわよ」

「十分仲間はずれじゃないですか」

「違うわよ。これは埋めようの無い人間と妖怪の差ね」

「まあまあ落ち着いて」

そろそろとめないとまずいかな。そう言うわけで、啓昌が止めに入った。

「話を戻そう」

また俊典が話し始めた。

「妖怪には特性ってのがあるんだ。それは個人によって違う。例えば、雪ちゃんは・・・・・・・・・・・・・・・・・なんだっけ?」

「私は年に一度、数日間眠ったままになるらしいのよ」

雪美はすんなり答えた。

「そうそう。そんな感じのヤツを特性と言う。今日は十五夜だから、俺は今妖怪じゃ無いんだ。コレ俺の特性」

「へ~。そうだったんですか・・・・」

意外そうな声で律がいった。

「お前はどんなのだっけ?」

「僕!?」

突然の質問に驚いて一瞬啓昌は固まった。少し考え込んでから

「僕は半分死んでるから、色々面倒なんだよ。死んだのに半霊半妖っておかしいよね」

といってみた。

「うん」

ここにいる全員に肯定された。少しでもいいから否定してほしかったのにな。

「・・・・ストレートだな。ま、いいや。僕の特性はね、光がある程度ないと術が使えないってことかな」

「術が?それってヤバくないですか?」

相当ヤバいだろ。分かりきった事聞くな。



店の中から表通りを見てみると、人間と幽霊しかいない。

「やっぱ妖怪はみんなこの雨のこと気づいているんですかね」

律が言った。

「いいや、全員は気づいてないと思うぜ。その証拠にそこの妖怪三人は気づいてなかったじゃないか」

と源三郎。

「悪かったね。気づいてなくて。でもお前も気付いてなかったじゃねーか」

啓昌が言った。

相変わらず外に妖怪の姿は見えない。だが、不穏な空気が漂っているような気がした。

「そういや、ここに来る途中、妖山の方から変な気配がしたな」

俊典が言った。妖山とは、妖怪をひきつける力を持つ山のことである。

「まさか、そこに雨にうたれて変になった妖怪が集まっているんじゃないの?」

雪美がいった。

「まあ、そう言うこともありえなくは無い」

「確かに」

「そうだね」

「そうですね」

残りの三人と一匹が続けて言った。

「じゃあ、雨がやんだら行って見ましょう」

え?コレやむのか?そう俊典は思った。


 


「雨がやむまで待つ必要はどうやらなさそうだよ」

窓辺から山を見ていた啓昌が言った。

「それって・・・・・・まさか!?」

律がはっとして言う。

「そ。いくまでも無くあっちから来てくれた」

「え~。じゃあ、もし戦うんだったらお店の外でやってね」

雪美さん、少しは心配しましょうよ。

「いやいや、なにも戦うと決まったわけじゃないし」

すると、外で何かが壊れるような音がした。

「何だ?一体」

俊典が外を見ると、山から降りてきた妖魔たちが遠くで建物を破壊していた。

「こいつはひでぇ」

そう言ったとたん、店の裏口が開いた。

「え!?雪ちゃん、裏口閉めてなかったの!?」

「あ」

裏口からすばやく四つの影が現れた。皆はあばれ妖怪が入ってきたのかと思った。

「ここの人たちは無事か!?」

そう言ったのは、入ってきた人間、霧島健司だった。

「お、やっと人間がきた」

律が少しうれしそうな声でいった。

「人間じゃなくて悪かったわね」

そう言ったのは西陣茶織だった。

後ろには不津塚エリサがいる。

「えー!何で閻魔大王まで!?」

「何か不満でも?」

「いや、無いですけど・・・」

そうか。律は閻魔に会うの初めてなのか。

「よっ」

と啓昌。

「よっ」

とエリサ。

「ちょっと啓さん、良いんですか?閻魔相手にあんな口聞いちゃって」

「な~に言ってんだよ。いいにきまっとるだろーが」

啓昌が言う。そのあとエリサが

「それにしても啓は昔とぜんぜん変わってないね」

「妖怪とは時が経っても姿の変わらない悲しい存在なのさ」

「半分幽霊のくせに」

「あ、半分幽霊のせいもあるな」

啓昌とエリサの会話が続く。不思議に思った律が雪美に

「あの二人一体どんな関係何ですか?」

と聞いた。返事は予想外だった。

「知らないの?あの二人は従兄弟どうしなのよ」

「ええーーーーっ!」

  

そんな会話もつかの間、あばれ妖怪の大波が街に押し寄せた。

「そう言えば、妖怪以外の人たちは大丈夫なんですかね?」

と律。するとエリサが

「まあ、大体の人は避難させといたから大丈夫だとおもうよ」

「へぇ~。エリにしては手際がいいじゃないの」

啓昌が言う。少し黙っててくんないかな。この妖怪幽霊め。律はそう思った。

「おい、律。妖怪幽霊めとはなんだ」

「げっ、分かってたんですか?」

「うん。エリが近くにいる時なら分かるのだ」

律はつくづく思った。妖怪っていいな、と。

  


「さて、皆さんのお出ましだ」

俊典が言った。

ついに店の前あたりまで波がきているようだ。

「え~・・・・・・ゴホン。式神召喚、命!」

店の床に瞬時に召喚陣が現れ、式神が飛び出してきた。

「呼んだのかィ?」

式神 命が言った。

「そんなの見りゃ分かるだろ!」

律がつっこむ。そんな時

「あのサー、さっきから私のこと忘れてない?」

あ、紹介がまだだった。彼女は新田舞。魔法使いである。

「いや、忘れて・・・・」

「あ、忘れてたわ」

律のフォローを砕くように俊典が言った。

「良いのよ。あなたは。もともと覚えててもらいたく無いから」

しまった。舞と俊典、この二人は仲がとてつもなく悪い。

「おっ。ゴキブリだ」

そういって啓昌はゴキブリらしき虫を捕まえて、お札に閉じ込めた。

この人はこんなときに一体何をしてるんだか。まあ、ほかの人もだけどね。

「ね~律ぅ~。なんか用なの~?」

「あ、ごめんごめん。あのね、外の様子を僕に伝えて欲しいんだ。出来るかい?」

「任せてよ」

そう言って命は飛び出していった。

「お、式神か。いいな~。僕もやってみよ」

そう言ってお札から・・・・まさか!?ゴキブリを!?

・・・・・・・・取りだして言った。

「おい、ゴキブリ。今からお前の名前は一号だ。では一号、外の様子を伝えてくれ。そうすれば一族で僕の木のウロ

に住ませてやる。」

すると間髪いれずにゴキブリも店から飛び出していった。ただ逃げってった様にしか見えなかった。

「ん?」

源三郎が何かに気づいた。

「あれワンちゃん、どうしたの?」

雪美が聞く。するとどこからともなくエリサが

「彼岸がこの周辺にいるのを感じ取ったんでしょ」

「さすがエリ。大当たりだ」

と源三郎。するとまた雪美が

「彼岸って誰?」

この問いに対しエリサが

「彼岸ってヤツは、俗に言う死神様よ」

と答えた。

「おお。で、何で閻魔に死神が?」

「分かんないけど、きっとアイツも異変に気づいたんだろうな」

「アイツって・・・・仲良いんですか?」

まさかとは思いつつも律が聞いた。

「仲?ん~・・・・まあ、酒ぐらいは一緒に呑みに行くことはあるね」

意外だ。死神ってどんなやつなんだろう。

そんなときでも、妖怪の群れは着々と店の方に移動しつつあった。

   


暫くして、啓昌の放った一号ゴキブリが帰ってきた。

「・・・・・・ほお。いったんは止まったか。で、ほかの皆は?・・・・・・・・え?・・・・・・ああ、うん。ありがと」

独り言のようにそういってからまた一号をおおふだにしまった。

「只今戻りましたぁ~」

命も帰ってきた。

「報告してくれ」

「了解。まず、妖怪達はいったん停止したよ。雨が弱まってきた。大体の人はいろんな店に避難してる。ほかの人たちは時霊神宮にいるよ」

「よし、ご苦労」

律がそう言うと命は煙とともに消えていった。

「僕が一号から聞いた情報と同じだ」

啓昌が言った。それに対し律が

「こっちの報告を聞いた後なら何だって言えますよ」

確かに正論だ。皆が(啓昌を除く)そう思った。

「でも、そっちでは重要なあの情報を集めなかったな」

「重要な情報?」

全員(またもや啓昌を除く)が声をそろえて言った。

「うん。一号が言うには、ここもそろそろ危ない。店に結界を張るべきだ、裏口の鍵を閉めるべきだ、だってさ」

皆の視線がさっき入ってきた三人に注がれた。

「裏口の鍵閉めてないの!?」

「あ、忘れてた」

舞が言った。もう勘弁してくれ。

「裏口の鍵なら閉めといた」

壁際に見知らぬ和服の男が立っていた。

「ん?アンタ誰だ?」

俊典が聞いた。

「おっと失礼。わしは彼岸っつーモンだ」

「え?彼岸って、あの死神の一人・・・?」

「もち」

どうやら死神の登場らしい。ドアを使わないところがアイツらしいな、と源三郎は感心した。

「で、閻魔のお譲さんがここで一体何を?」   

「妖怪退治について話し合っているんだよ」

エリサが言った。

「へえ・・・面白そうだな。わしも混ぜてくんろ」

「いいよ」

「やったね」

ずいぶん短い会話だ。閻魔とか死神とかコレで大丈夫なのかな?

「で、どうすんの?外にいるあいつら鎮めるの?それとも始末するの?」

彼岸が話をきりだした。

「始末する必要はないでしょ。雨のせいなんだから」

とエリサ。

「作戦立ててる暇なんて無いぞ」

源三郎が言った。その意味をここにいる大体の奴らは気付いた。妖怪が店の前にいた。

それに、おおふだで結界を張ってあったドアがいつのまにか今にも壊れそうな状態になっていたのだ。

「あら大変。戦わなくちゃ」

雪美が台所から包丁を持ってきた。

「僕も式神召喚しないと」

律はそう言って新たな式神、秋を呼び出した。

「戦いになるかもしれないから準備しといて」

「分かった」

秋はそう答えた。

「あれ?茶織さんの手下はどうしたの?」

舞が聞いた。

「ん?手下じゃ無いわよ。それにあいつらは今日は休暇なのよ」

茶織が笑いながら答えた。

「でもさ、雨にあたっちゃいけないんでしょ?妖怪はどうやって戦えばいいのさ?」

啓昌が聞いた。それに対し、答えたのは彼岸だった。

「簡単だ。傘を使うか魔法陣を作りゃあよいのさ」

「おお、なるほど」

それで納得するのか。百歩譲っても傘は無いだろ。傘は。

「じゃあ、わしはコレで失礼しようかな」

「おいぃ!待て!私達を見捨てる気か!?助けてくれたっていいじゃない」

エリサが引きとめる。

「え~・・だってわしが戦ったら殺しちゃうもの」

「ホラ、アレよアレ。え~と・・・鞘!鞘で戦えばいいじゃない」

「・・・・・・・・・・・・・・仕方ないなぁ。じゃあ、マイ傘でも使うか」

死神って、途中で話し方変わるんだ。律はそう思った。

「じゃ、戦ってきま~す」

啓昌がドアに向かう。それとほぼ同時にドアが吹きとんだ。

ビシャン!そう言うような音を立ててドアが止まり、床に倒れた。律が辺りを見てみると啓昌が居なかった。

まさかもう外に・・・・と思ったが、倒れたドアの下から手が出ていた。

「いけっ!秋!」

秋は妖怪の群れに飛び込んでいった。

「雪ちゃん、フライパン貸して!」

俊典が叫んだ。

「オッケー!」

雪美がブン投げたフライパンを見事キャッチし、俊典は飛び出していった。

「俺もいかなきゃ!」

そういって召喚魔法陣から槍を取りだすと健司もまた外へ飛び出していった。

「あれ?茶織はいかないの?」

雪美が聞いた。

「私はそう言うのは専門外なの」

と茶織は冷静に返した。

「え~・・・専門外?」

そうつっこんだ舞を茶織は冷ややかな眼で見つめた。

「え・・・あっ・・あの・・・・い、いってきまーす!」

慌てて舞も出ていった。

「今の・・舞・・?だっけ。多分すぐにやられるよ」

そう言ったのは彼岸だった。

「俺もそう思う」

源三郎が続けて言った。

「え?何でなの?」

エリサが不思議そうに聞く。

「決まってるだろ。足元見てみ」

エリサは足元に目を落とした。すぐに何かに気付いた。

「・・・・コレは?」

「後方魔除けだ」

「でも、魔除けがあってもたいして意味無いんじゃないの?」

とエリサが魔除けを拾い上げて言った。彼岸が

「後方魔除けっつーのは、レベル5以上のでかい魔法を使うときにどうしても必要なんじゃ。そもそも、後方魔除けの効力は、術者から魔力が出てるときに、死角となる後ろの妖魔を封じ込めるんだが、それが無いと、後ろに居る妖魔達が抑えられずに背後から襲われる。しかもレベル5以上っつったら、大体魔砲だ」

と彼岸。それにまたもや続けて源三郎が

「魔砲は普通の魔法よりも3倍~5倍ほど詠唱時間が長くなる。早読み出来ても十分な隙になるぜ」

と言った。

外から戦闘している音が聞こえる。魔砲の発射音も聞こえた。

「あら、後方魔除けなしで魔砲撃つとはアイツやるじゃん。それじゃ、こいつを届けにいくがてらわしも戦ってきますか」

そういって彼岸は後方魔除けと傘を持って店から出ていった。

店の中に残っているのは、雪美、エリサ、源三郎、茶織、啓昌、律の五人と一匹になった。

「じゃあ、皆が戦っているうちに私は雨の調査をしてくるわ」

エリサが言った。

「お、じゃあ俺もいくわ」

源三郎が言った。

「でもあなた妖犬じゃないの?」

と茶織。すると源三郎が

「大丈夫。俺はもともと石だったから」

「ってことはアンタはもしかして一種の神様だったの?」

「う~ん・・・まあ、そうなるかもな」

エリサと源三郎が裏口から出ていった。




「まったく、きりがない。倒しても倒してもどんどん出てくるんだから!」

舞が言った。

「まあ、雨を止めるか奴らの命を奪うかしないと止まらんだろうな」

彼岸がそう答えた。

すると俊典もそこに来て

「やっぱ妖怪相手にフライパンじゃ分が悪いぜ」

と愚痴をもらした。

店に近づく妖怪達を迎撃していると、中から新たに式神三体をつれて律がやってきた。

「おい、店の中の守備は大丈夫なのか?」

と俊典。律が

「茶織さんと雪美さんが守りについているので大丈夫です。エリサさんと源三郎は雨の正体を突き止めに行きました」

と言った。そうこうしているうちに健司も戻ってきた。

「一体どうなってんだこりゃぁ」

健司はあきれている。まあ、無理も無い。

辺りを見まわすと皆戦っていたが、彼岸だけは戦っていなかった。

「彼岸さんは戦わないんですか?」

と律が聞いてみた。すると

「いや、あのね、戦ってもいいんだがどれを倒してよいか分からんのだ。それにな、雨のあたらない軒下と言うのは範囲が限られるしな。ま、雨はわしには関係ないけど」

と死神は答えた。

こまった人だ。よくコレで死神やってけるな。

「そんなこと言ってないで戦ってくださいよ」

と律。

「まあまあ、よく見てみろ。妖怪達は襲ってこんだろう?きっと隙が出来たところに一気に飛び込む気なんだ。で、わしが思うにその隙が出来るのが武闘派の二人と魔法使いのお譲さんの間、つまり今わしとお前が立ってるとこだと思う」

と彼岸は答えた。

その時、一瞬、ほんの一瞬こちらからの迎撃が途絶えた。それを待っていたかのように、彼岸の予想した所へピンポイントで妖怪達はいっせいに向かってきた。

「ホレ見ろ!わしの言った通りだ!」

彼岸はそういって妖怪を迎撃し始めた。よく見ると武器は傘だった。

式神三姉妹がほかの場所をくい止めているが、いつまで持つか分からない。

舞は押し寄せてきた妖怪の波に飲み込まれ、姿が見えなくなった。

律は武器を探した。その時

「おい律。武器を探してんのじゃろ。こいつを使え」

そういって律に向かって傘を投げた。

「でも、これじゃ彼岸さんの武器が・・・・・」

律は我が目を疑った。大量のどんぐりが妖怪達に雨あられのように降り注いでいた。

「ほれ、さっさとしなさい。店に妖怪が入っちまう」

彼岸が言った。

「あ・・は、はい!」

律はそう返事して、傘を構えて守りについた。

目の錯覚なのか、どんぐりがさらに増えている様な気がした。





「へ~。ワンちゃんってこんな事も出来るんだね」

エリサがうれしそうに言った。

源三郎が背にエリサを乗せ、空中を駆けていた。

「いい加減そのワンちゃんって呼び方やめろ。何千回言ったら分かるんだ」

源三郎が不満そうに言った。

「や~だよ。源三郎よりワンちゃんの方が言いやすいしかわいいじゃん」

「フン。・・・・・お、見えてきた。スピード上げるぞ。つかまれっ!」

そう言うと源三郎は一気に加速した。エリサはしっかり源三郎につかまりながら前を見据えていた。

「ん?」

源三郎がまた何かに気付いた。

「コレは・・・・!?」

「まずい、落雷の言霊だ!高度を下げて!」

とっさにエリサが言った。

「そんなの分かってるぜ!」

源三郎は急降下し、森の中に降り立った。

「どこか隠れる場所を探そう」

エリサが言った。すると源三郎が

「あのさ、仮にも閻魔大王ならこんぐらいどうとでも出来るんじゃないの?」

と言った。

「まあ、出来ないわけでは無いんだけど、向こうに閻魔が来たとバレたらいるか分からないけど黒幕に逃げられちゃうでしょ」

とエリサが答える。

「まあいいや。取りあえずあの洞窟に行こう」

「うん」

二人(二匹?)は洞窟へ入っていった。





「彼岸さん、あの、どんぐり増えてません?」

と律が聞いた。彼岸が

「そりゃどんぐりだもの。どんどん増えるさ」

と答えた。

「あ、彼岸!俺の技のパクりなんてせこいぞ!」

やっと気がついたのか啓昌も店からどんぐりとともに出てきた。

「うるせぇ。もともとコレはわしがイドウに教えた技だろーが!パクってんのはおめぇだ!」

彼岸が言った。

「それよりさっさと参戦してください!誰のせいでこうなったと思ってんですか!」

律が言った。

「え?誰のせいって・・・・この雨じゃないの?」

啓昌が答える。

「まあ、そうですけど・・・・・」

律は返答に困った。

すると健司が

「分が悪い。いったんそっちへ向かう!」

といった。

「おう」

彼岸がさらっと答えた。結構楽しそうだ。一体この気楽さはどこからくるんだろう、律はそう思った。

    


「なんか外は騒がしいのに中は何もないなんて寂しいわね」

雪美が言う。すると茶織が

「戦わなくてすむんだから私はうれしいけどね」

と答えた。

「ふ~ん・・・。あ、それじゃあがんばってる人たちの為になんか作ってあげましょう」

「ん~・・・まあ、暇だしいっか」

雪美と茶織は料理を作り始めた。

「ちょっとお塩取ってきて」

「そのぐらい自分で取りなさいよ」

「まあまあ、そう堅いこと言わずに、ね?」

「・・・・・・・・しょうがないわね。取ればいいんでしょ。どこにあるの?」

「今店の外にあるの」

「なんで外にあるのよ!」

「重かったからよ」

危険にもかかわらず茶織は塩を店の外に取りに行く羽目になった。



洞窟の外では雷がひどくなっていった。

「このままじゃここから出らんねぇな」

「そうだね」

エリサもそう思っていた。

「これじゃ原因を突き止められないなぁ・・・・。ねえ、どうしよ」

閻魔大王の癖に結構弱気だ。

「もう閻魔の力使っちゃえば?」

と源三郎。するとエリサが

「え~。いやだよ。アレ大変だもの」

「でもそんなこと言ってちゃここから出られないぜ」

「そうだね・・・・・よし!じゃあ、奥に行って見よう」

「おいおい。そんなんでいいのかよ」

「いいじゃない。もしかしたら雨の元凶分かるかもよ」

「そんなにうまく行く筈無いって」

二人の会話が続いた。

まあ、とにかく奥に進んでみることにしたらしい。         




「もう・・・一掃しちゃおう!」

彼岸が言った。

「ちょ、相手殺しちゃったらどうすんですか!」

と律が言う。

「別にいいじゃねーか。どうせ魂はいったん冥界の閻魔のとこ行くんだから」

そう答えると、みんなを店の中に下がらせた。

「よ~し、見てろよ!わしの必殺奥義!」

「ちょ・・・必殺って・・・・」

律が止めに入ろうとしたが遅かった。

彼岸が何か言うと、突如闇が現れ、妖怪たちは闇から現れた無数の妖魔達によって倒されていった。

「すげー・・・。これが死神の力なのか・・・・」

律の隣で俊典がつぶやいた。

またたくまに、妖怪は全滅(死んでないけど)した。

「う~ん・・・こんなに力抑えたの初めてだから、もしかしたら死んでるのもいるかもな。ま、いいや。じゃ、あとは任せたよ」

そう言って彼岸は妖魔とともに闇へと消え去った。

そうして律たちは一応、一応は助かった。




「あ、なんか光が見える。出口かもよ」

エリサが言った。

「もしかしたら元凶かもな」

源三郎が言った。

二人は歩いた。そして、洞窟から出たと思うとそこは湖だった。

「どうやらホントにここが元凶の様だな」

と源三郎。それに対しエリサが

「なんで元凶って分かるの?何にも無いじゃん」

と言った。

「ほんとにそう思ってるのか?」

源三郎が確かめる様に聞く。

「フン、そんな訳無いじゃない。ここ一帯に張られた魔法陣を閻魔大王が見落とすとでも思ったの?」

エリサが答えた。

この湖の水は妖怪を暴走させる効果があるので、立ち入り禁止区域に指定されている筈だった。

「ということは、誰かがここに侵入して魔法をかけて水を熱して蒸発させ、雲にしてた訳か」

と源三郎。さらにエリサが

「そして近づく者を追い払うための呪いもかけておいたってとこね」

と言った。

「犯人は誰なんだろうな」

「うん・・・まあ、それはおいといてこの魔法陣消さなきゃ」

エリサはそう言うと何かまじないのようなものを唱え始めた。

興味深々に源三郎はそれを見ていた。正直、源三郎は妖術しか見たことが無かったのだ。

「まあ、こんなもんかな。あとはまた役人呼んで結界張りなおさなくちゃ」

魔法陣をとっぱらった後、エリサが言った。ふと見上げるとと空には雲ひとつ無かった。

「あとは、犯人探しだね」

「オウ」

冥界からの役人たちにあとは任せて、エリサと源三郎は店へ引き返した。




「あらまあ」

と雪美。それに続けて

「一体この妖怪たちどうすんのよ」

と茶織。

「まあ、ほっときゃじきに自分から帰っていくだろ。雨は止んだんだしな」

俊典がさっきの攻防で壊れたドアを修理しながら言った。

「さて、問題はこれが事件なのか事故なのかだ」

と健司が言った。

「はい?」

妖怪一同が声をそろえて言う。健司は

「だから、この件が人為的なものなのか自然災害的なものなのかって言ってんの!」

と言った。そのとき律は、妖怪って訳分からないな、と改めて実感した。

「そう言えばあの死神・・・・え~っと・・・・・そうだそうだ。彼岸だ。あの人はどこ行ったの?」

舞が聞いた。そうか。彼女は波に飲み込まれたあと気絶していたので帰る瞬間を見ていなかったのか。        「彼岸なら帰ったよ」

「え?帰った?」

舞は不思議そうに言った。

「うん」

律はまた答えた。


その後、まあ十分くらいしてからエリサと源三郎が帰ってきた。

「どうだった?」

雪美が聞いた。エリサが

「うん、これは人為的なものだったよ。あの魔法陣の形からすると上級魔法使いだよ。きっと」

と言った。

「だそうよ。魔法使いさん、誰か心当たりのある人はいる?」

茶織が言った。それに対し、舞が

「上級か分からないけど、ここら辺にいる魔法使いと言ったら、私とアイツしかいないです」

と言った。

「アイツ?アイツって誰だ?」

俊典が啓昌に聞いた。啓昌は

「え?いや、アイツって言ったら、そりゃあアイツなんでしょ?」

と答えた。

「え、でもアイツって・・・・やっぱアイツなのかな?」

「いや、アイツなんだからアイツしかいないでしょ」

「やっぱアイツか~」

俊典と啓昌の意味不明な会話が続いた。

「まあ、取りあえずそのアイツっていうやつのとこ行ってみましょう。舞、案内して」

とエリサ。舞が

「もちろんです。ボス」

と、ぴしっと答えた。その向こうで

「アイツってどんくらいアイツなんだろうな」

「そうだな。アイツっていう位だから相当なアイツなんだろうな」

「じゃあアイツって相当すげぇアイツじゃん」

「ああ、相当すげぇアイツだ」

意味不明な会話がまだ続いていた。

まあ結局エリサ、舞、俊典、源三郎、健司がその魔法使いのところに向かい、

茶織、雪美、啓昌、律が店に残った。

  


「あれ?そういやお前式神は?」

啓昌が聞く。律が

「そりゃ、戦いが終わったんだからあいつらの世界に返しましたよ」

と答えた。

「ふ~ん・・・・あ、そうだ。雪ちゃん、ココアちょうだい」

啓昌が言った。

「あ、いいですね。僕もいただきます」

「あら、じゃあ私もいただきましょうかね」

結局全員飲むらしい。ちなみに啓昌がココアの話を持ち出したのは、雪美自身がココアを飲んでいたからだ。

「はい、どうぞ」

雪美は三人にココアを配った。

「ああ、久しぶりに飲むなぁ・・・・」

と啓昌。

「あら、前より美味しくなくなったわね、コレ。なんか前のより少し苦い」

茶織も感想を述べた。

「まあまあ、苦いのは仕方ないじゃない。そういう種類のココアなんだから。で、お代は誰が払ってくれるのかしら?」

雪美が言った。

「ああいと美しきお嬢さま、ごちそうさまです」

啓昌が即答した。

「ごちそうさまです」

律も便乗した。

「ねえ、雪美。一人分はいくらなの?」

茶織が言った。

「う~ん・・・そうね・・・・」

雪美は考えている様だ。

「う~ん・・って、値段決めてないんですか?」

律が聞く。

「当たり前じゃない。まだココアはメニューに載せて無いんだから。よし、じゃあ一人二百円でいいわ」

雪美が答えた。

「二百円か・・・高いな」

啓昌がつぶやく。それに対し律が

「二百円が高いって・・・・どんだけ金欠なのにここ来てるんですか」

とつっこんだ。ちなみにここの物価は適当である。物々交換も合法的取引として認められている。

「二百円ね。はい」

茶織が代金二百円を雪美に渡した。この時点で「美しきお嬢さまごちそうさまでした作戦」は失敗が決定した。

「二百円っていうと、どのタイプの木の実がいくつくらい?」

啓昌が聞いた。雪美が

「え~っとね、今クルミをきらしてるから・・・そうね、クルミ五十個でいいよ」

と答えた。

「五十個でいいの?」

「ええ。いいわよ」

「ふ~ん・・・じゃあ、胡桃五十個ね」

啓昌はそう言ってお札(おさつ、じゃない。お札だ)を渡した。

その後律も二百円を支払った。

余談だが、啓昌とかそういうタイプのやつらは多種多様な木の実を無尽蔵に持っている。

それにしても、クルミ五十個と二百円っつったら、どう考えてもクルミ五十個のほうが高い気がする



「ここです」

舞はそう言って人里離れた一軒の変な家にみんなを案内した。

「コレが」

「アイツの家か」

俊典と健司がタイミングよく言った。

「じゃあ、その魔法使いとやらに会ってみましょう」

エリサが言った。舞はうなずくと

「出てこぉぉぉい!この眼鏡野郎!」

と叫んだ。すると中から

「うるせぇ!この大砲女め!」

と声が帰って来て、少ししてから魔法使い、降河映次が現れた。

すぐにエリサは紙に書いた魔法陣(完成はさせていない。させると起動するから)を見せて

「あなた、この魔法陣に見覚えある?」

と聞いた。映次は

「あ、もしかして閻魔大王じゃないですか?」

と言った。エリサは

「そうよ。それよりコレに見覚えはあるの?」

としつこく聞いた。それに対し映次は

「見覚えも何も、コレはボクが作った魔法陣ですよ」

と答えた。源三郎は

「じゃあ、あの湖に魔法陣を描いたのもお前か?」

と聞いた。映次は

「湖?何のことです?」

と答えた。

「とぼけるんじゃないぞ。お前の作った魔法陣が暁闇湖にあったんだから、妖怪暴走事件の犯人はお前だろ」

「いや、あのですね。確かにその魔法陣を作ったのはボクですよ?でも、湖に描いてはいませんよ」

「は?」

「詳しく言うとですね、魔法陣を使って焼き芋しようとしたら勝手に陣がすっとんでったんですよ」

源三郎と映次のやり取りが続いた。事件は解決したっぽかった。どうやら事故だったようだ。

「まったく人騒がせな奴だ」

と俊典。

「お前のせいでこっちがどんだけ苦労したか知ってるのか?」

と言ったのは健司。

「でもまあ、解決したことだし、君もね、これからはそう言うことの無いように気をつけてね」

「はい!」 

さすがはアイドル閻魔大王。みんな言うことを聞くな。

源三郎は心の中でそうつぶやいた。

閻魔一行は、雪見カフェに引き返した。

       


「へ~。映次くんが犯人だったとはね~」

雪美が言った。

「意外?」

健司が聞いた。

「別に」

「そう」

会話が続いた。

その会話の間、普通より大きな烏が鳴きながら戌伏山の方へと飛んで行くのを啓昌は見ていた。 

「じゃ、そろそろ日が暮れるんで、暗くならないうちに僕は帰ります。じゃあ、さようなら~」

そう言って律は店を出ていった。辺りは夕日で朱色に染まっていた。

「あ、律!ちょっと待って!」

そう言って舞も出ていった。

「さ~て、私もこれから明日の準備あるし、帰るとするわ」

そう言って茶織も店を後にした。

「あ、そうだ、雪ちゃん、コーヒー一杯ちょうだい」

俊典はそう言った。

「さて、じゃあ俺も帰りますわ」

健司も帰っていった。

店に残っているのは、エリサ、啓昌、源三郎、俊典、雪美の五人となった。

「そうだ、エリサは冥界に帰るの?」

雪美が聞いた。

「いいや。三日間休みを取ってきたの」

「ふ~ん。それでどこに泊まるの?」

「そう。それが問題なのよ。と言うわけで雪ちゃん、今日と明日ここに泊めてください」

エリサが言った。なぜなら、エリサの家はボロ屋敷だからだ。

「もちろんいいわよ。でも、少し店の手伝いをしてもらうけどね」

雪美がそう答えた。   


一応、事件は解決した(という事になった)。




一連の事件を戌伏山の一番高い木のてっぺんから見ている者がいた。

「今回は渡龍湖がらみとはいえ、俺が動くまでも無かったな」

男は言った。

「動くまでもって・・・おめーは何かしたのか?」

そう聞いたのは彼岸だった。

「おお、いつの間にそんなとこに。相変わらずお前は死神っぽいな」

「どこがだよ」

「まあいいじゃないか。こうやって夕日を眺め・・・・グバッ!」

話の途中で男に飛んでいた烏が激突した。

「ふはははははは!いくら神様でも烏にぶつかられる程不注意じゃ、仕事できねーぜ」

そう言ったのはぶつかった張本人、烏だった。

「お前なぁ、いつになったら俺をドつくの止めるんだよ」

と、神らしき男は言った。      

「お前たちもよくやるな」

あきれたように彼岸が言った。

この様子だと、当分丹町街に異常事態は起きないだろう。




一方そのころ雪見カフェでは・・・・・・・


「ねえ、エリサ」

源三郎が言った。

「なあに?」

「どうして飛んでる時に落雷の言霊が聞こえたのかな」

「誰かが唱えたからでしょ」

「じゃあ一体、誰が唱えたんだろう?あったのは魔法陣だけなのに・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・まあ、いいじゃん」

「よくねーよ」

  




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