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天界騎士団の隊長さま

作者: 不和羊
掲載日:2026/04/17

 この世界は天界・人間界・魔界の3つに分かれている。

 天界の住人である天人と魔界の住人である魔人は昔から対立しており、その戦いは中間地点である人間界にて行われていた。

 戦いは苛烈を増すばかりで、人間界では常日頃から魔人の襲撃の危機にさらされている。


 この魔界の侵攻を人間界で阻止するのが、天界の騎士の仕事でもある。



 天界、及び人間界は騎士団によって守られている。

 複数に分かれた騎士団には、それぞれに隊長と副隊長が存在する。

 人間よりもはるかに長く生きる天人だからか、その役職はなかなか変わることはない。




「またこちらにいらっしゃいましたか」

「ん?ああ。お前か」


 樹下にてゆっくりと休んでいた私に声がかかる。

 少し呆れたような声で話しかけてきたこの男はメルヘス。

 私が隊長を務めている隊の副隊長である。


「どうした?何か用か?」

「何か用か?じゃありませんよ!!今日は隊員たちの訓練を見に行くとおっしゃっていたではないですか」

「あー……そうだったな」


 ゆっくりと立ち上がれば少しふらついたが、メルヘスがすぐに支えてくれた。


「おっと。すまない」

「……やはりお疲れなのではないですか?今日の予定は――」

「いや!大丈夫だ。せっかく新人たちと約束をしたからな」

「あなたは優しすぎるんですよ……」

「それはお前の事だろう?」


 この男は副隊長ではあるが、他の隊長に引けを取らないほどの強さと優秀な頭脳を持っている。

 私にはない優しさと人望も兼ね備えており、いつでも隊長になれるはずだが、副隊長でいる事を何故かやめない。



「あ〜っ!!隊長だ〜!!」

「隊長お疲れ様です」

「お待ちしてました!!早く稽古つけてください!!」


 訓練場に足を踏み入れれば、私の姿を見るなり駆け寄ってくる新入りの部下たち。

 真剣に取り組んでいたようで顔に汗を浮かべている。


「待たせたな」

「お前たち。ザキア隊長を困らせては駄目だろう」

「え〜!!僕たちに困ってるの!?隊長ごめんなさい……」

「申し訳ございません……」

「別に謝る必要はないんだが」


 私の部下は全員可愛らしい。

 守ってやらなくてはと気合いも入る。


「ほら、いつもと同じように訓練してみろ」

「「「はい!!」」」

「息ぴったりですね」

「さすが私の隊だ」


 自慢するかのように得意げに笑えば、メルヘスもつられて笑いだす。

 その顔が幸せそうに見えるから、安心出来るのだ。

 しばらく2人で話し込んでいれば、咳き込む音が聞こえる。



「ケホッ」

「大丈夫か?」

「はい……ケホッコホッ」

「無理はするな。ゆっくり休め」

「すみません……」


 落ち込んだ様子のため、優しく頭を撫でてやる。


「いつも助かっているよ。ありがとうな」

「!!」

「なぜ泣きそうな顔をするんだ……」

「いえ…お先に失礼します……」


 そう言ってゆっくりと自室に戻っていくのを見送った後、ここにいた隊員たちがこぞって集まってきた。


「副隊長大丈夫ですかね……」

「最近は体調良さそうだったんだけどなぁ」

「早く良くなってほしいです」


「あれは昔からだからな……メルヘスはよく頑張っているよ」

「そういや隊長は副隊長とかなり長い付き合いだと伺いました」

「え〜!!ちなみに隊長はどれくらい生きてるんです??」

「お、おい!!失礼だぞ!!」

「……確か1500年くらいだったか」

「ながっ!!」

「さすが隊長クラスになるとレベルが違いますね」


 天人や魔人は人間に比べて長生きする。

 外見は若いままの状態から変わらない事が多いが、どの程度かは人によって差異がある。

 根本的に人間とは違うのだ。

 今ここにいる隊員たちは100年~300年程度が多いが、隊長や副隊長クラスになれば500年以上は生きているのが普通だ。

 騎士団の団長など5000年は生きているらしい。


「よし。今日はここまでだ!!」

「「「ありがとうございました!!」」」


 訓練が終わり、後は部屋へと戻るだけなのだが、メルヘスの状態が気になるため簡単に買い物をしてから部屋に伺うことにした。


 ドアをノックして返事を待たずに部屋に入る。

 案の定ベッドに寝ている彼からは荒い息遣いを感じた。


「全く……」

「はぁ、はぁ……」


 しょうがないなと氷袋を用意して頭に乗せてやる。

 人間界では冷却シートという素晴らしい物があると聞くが、次こそはどうにかして手に入れてやりたい。


「気持ちいいか?」

「うん……?あれ……?ザキア?」

「ん?どうしたんだ?」

「……」


 ゆっくりと頭を撫でていたら、手に擦り寄ってくる。

 可愛らしいことこの上ないのだが、あまり長居はできないため、ここらで切り上げておく。


「簡単に食べられる物をここに用意しておいたから、落ち着いたら食べてくれ」

「……?どこか……行くのですか?」

「ああ。少し出かけてくる」

「いか……ないで……」

「……ごめんな」


 今日も仕事に行かなければならない。

 私の隊は他の隊よりも与えられる仕事量は比較的少ない。

 副隊長の体が弱い事と、隊員の数が少ないのが理由である。

 だが、仕事は終わらせても次から次に増えていく。

 仕事を効率的に終わらせるために、簡単に終わらせる事が出来る仕事を隊員たちに振り分け、難しそうな仕事は私が担当する事にした。

 これでしっかりと回っているのだから、問題はないだろう。


「さて、いくか」


 自室で準備を終わらせて担当エリアへと向かう。

 今日の仕事もはやく終わらせて帰ろう。





「ああ〜!!久しぶり〜!!」

「またお前か」


 人間界にたどり着くと、最近魔人が出現するという町へと向かう。

 そこで何百年来の敵と会うことになるとは。

 運がいいのか悪いのか。


「はぁ……」

「なに?俺じゃ不満?」

「フーマ。なぜこの町にいる?」

「え!!照れるなぁ〜!!俺に興味津々じゃん」


 この魔人は油断ならない。

 強い。隊長クラスを何人も殺してきた男だ。

 だが長年戦い続けてきたからだろうか。

 私にはなぜか馴れ馴れしく話しかけてくる。


「どうしようかなぁ〜!!言ったら絶対に邪魔されるしなぁ〜」

「……」

「でもなぁ〜、ザキアちゃんのお願いだからなぁ」

「……」

「うーん……まあいいか!!この町に勇者が生まれるらしいんだよ。それを確認に来ただけ〜」

「なに!?」

「あわよくば殺しちゃおうと思っていたけど、天界の騎士が来たからには難しいだろうし諦めた!!」


(勇者が誕生するという事は、魔王もすでにいる?)


 魔界の1番上の存在である魔王は、人間界にとって非常に危険な人物である。

 人間界には魔王が生まれたら対抗する手段として勇者が生まれる。

 そして勇者が魔王を倒すまでがセットだ。

 だが勇者がいない間は人間界はがら空きになり、魔人のやりたい放題になる。

 それを阻止するのが天界の騎士の仕事でもあるのだ。


「それよりもせっかく会えたんだ。戦おうよ」

「……分かった」


 承諾した途端に素早い攻撃を仕掛けてきた。

 互いに武器がぶつかり合うと火花が飛び散る。

 その場から離れると、間合いを一瞬で詰めた。

 相手の隙を狙うも、寸前で避けられる。


「うっわ!!危ねぇ〜」

「避けるな」


 実は私はかなり強い部類だ。

 伊達に1500年生きていないのだ。


 相手の攻撃を躱して、体勢を崩させる。

 重い一撃を放てばフーマは吹っ飛んだ。

 しかし相手もさすがと言うべきか。

 その間に斬撃を飛ばしていたのだろう。

 鋭い斬撃が頬をかすめる。


「うっ!!痛て〜!!体ボロボロ……今日は駄目だな、退散するか……。またね!!ザキアちゃん!!」

「待てっ!!」


 一瞬でその場から消えるため、毎回とどめを刺せずにいた。

 また仕留め損ねた。

 悔しさは消えず、彼がいた場所をジッと見つめた。





 勇者の件を上に報告し、その足でメルヘスの部屋へと歩いていく。


「戻ったぞ」

「おかえりなさい……えっ!?その傷っ!?髪も!?」


 ノックをして入れば、ベッドの上で起き上がっているメルヘスと目が合う。

 その視線は私の顔に注がれ、慌てた様子でベッドから立ち上がろうとしてきた。


「ほら、動くな。それよりいい物を買ってきたぞ」

「いや、傷の手当てが先です!!」


 なにがなんでも譲ろうとしない姿にため息をつきながら、メルヘスの部屋にある救急セットを取ってくる。


「持ってきた」

「全く……僕がいないとダメなんですから」


 嬉しそうな顔をしながら慣れた手つきで手当てをしてくる。

 無言の時間ではあるが、悪くない時間だ。


「はい、終わりました」

「ん。ありがとう。ところでこれを見てくれ!!」

「はいはい。なんでしょう?」

「人間界で買ってきた」


 あの後に人間界でお目当ての冷却シートを買っていた私は自慢げに差し出す。


「……は?どうやって買ったんですか?」

「まあ正確には物々交換という事をしてきた」

「……どこで、何を差し出したんですか?」

「人間界の冒険者が使うアイテム屋だ。そこで冷却シートが欲しいが金はないと正直に言った」

「はい」

「店主が私の髪と交換ならいいと言ったから後ろ髪を切って交換しただけだ。悪いことはしていないから心配しないで大丈夫だぞ」

「いやいや、どうしてですか!!ああ……だからこんなに髪が短くなって……」

「別に髪くらい」

「僕が嫌なんです!!」


 はぁとため息をついているメルヘスは何かがお気に召さないようだ。


「ほら……髪を整えますから」

「すまないが頼んだ」


 いつもと同じようにメルヘスに髪を整えてもらう。

 確かに考えれば、メルヘスが綺麗に整えた髪をあんな風に切ってしまっては申し訳ないと感じた。


「髪だってあなたの大切な一部なんです。そう易々と人に渡さないでください」

「分かった。メルヘスごめんな」

「分かってくれたらいいんです」





 いつものように時は過ぎていき、メルヘスの体調も良くなれば2人で仕事をこなすことも増えた。

 相変わらず忙しくはあるが、充実した日々を過ごしている。

 そんな中、私の予想していない事が起こる。


「あ!メルヘスさーん♡」

「っ!!」

「?」


 2人で騎士団へと向かう途中にどこからかメルヘスの名を呼ぶ可愛らしい声が聞こえてきた。

 誰だろうと思い振り向いたが、知らない顔のお嬢さんだ。

 チラッとメルヘスの方を見れば、険しそうな顔をしている。


「あ、お隣は隊長のザキアさんですよね!!」

「そうだが」

(わたくし)はメロディと申します。その……メルヘスさんとは婚約する予定でして……」

「それは断ったはずだ!!」

「父はそう思っていないようでしたが……」


(婚約……?メルヘスが……?)


 いきなりの情報に頭が追いつかない。

 驚いたのもあるが、確かに感じた胸の痛みに覚えがあったのだ。


「それにしても、やっぱりお二人って正反対ですよね」

「……正反対?」

「ほら、家柄もそうですし、えっとぉ〜……ザキア隊長ってあまり良くない噂が流れていますしぃ〜」

「お前いい加減にしろよ!!」

「いや……家柄は関係ないが、噂の方はその通りだ」


 私でも知っている噂。

 横暴だとか、自己中心的とかそんな噂。

 優しいメルヘスとは正反対なのだ。


「ですよねぇ〜!!……って、ええ!?」

「チッ」


 いきなり手を繋がれて、その場から走り去る。

 後ろであの女が何か言っていたが、聞こえなかった。


「はぁ……言いたい事はたくさんありますけど、これだけは言っておきます」

「?」

「あなたの良さは僕や隊員たちが知っています。あの噂には理由があるのですが、僕たちを信じていてはもらえませんか?」

「もちろん。当たり前だ」

「ありがとうございます。あ!!それと……先ほどの女性は僕とは一切関係ありませんので!!その……他の隊の隊長の娘らしいんですが、家柄的になかなか断りづらいだけです」

「家柄ねぇ。そんなに大事なものか?」

「そうですね……役職と同じように下の者は上の者に逆らえないくらいには影響力がありますから」


 正直なところ、出自なんて関係なさそうではあるが、下の者からしたらとても大事なのだろう。

 メルヘスともその関係で出会ったようなものだから。


「ふーん。で、どれくらい違うの?」

「上が1で下が5とすると、あなたが1で僕が4。あの女性は2くらいでしょうか」

「なんだ。あんなに偉そうだったのに私のほうが上なのか」

「……あなたより上なんて天界の主やその血族あたりでしょう」


 悲しそうな顔で笑う彼に胸が苦しくなる。


 さて、私は提案するべきなのか。

 この胸が痛んだ理由を解決するために、この気持ちをさらけ出せばいいのか。

 だが、私が気持ちを伝えたとして、相手が嫌でも断れないのでは?

 私の中で答えは出ない。


「……」

「隊長……あなたは僕があの女性と結婚したらどう思われますか?」

「え?」

「嬉しいですか?悲しいですか?……どうでもいいですか?」

「!?」


 涙をこらえているメルヘスは震えた声で何かを伝えたがっている。

 たまらずに私は声に出していた。


「悔しいと感じるだろうな」

「……っ!!」

「あんな3流に私の大事なメルヘスを奪われてはショックで寝込むか、乗り込むか。それか隊長を辞めて放浪の旅にでも出るかもしれん」

「大事な……」

「そうだ。だからこそ私からは気持ちを伝えられないと思っていたが……なぁ、メルヘス。君さえよければだけど……私に君の人生を預けてはくれないか?」

「い、いいんですか……こんな私で……」

「私はメルヘスがいないと上手く生きていけないことを知っているだろう?」

「……ふふっ」


 私よりも背が高い彼が、ぎゅっと抱きしめてくる。

 泣いているのを隠したいのだろうがバレバレだ。

 背中をトントンと叩いてやれば、さらに力を強めてくる。

 昔から甘えん坊なところは変わらない。


「……落ち着いたか?」

「はい……」

「嬉しそうだな」

「それはもう。長年の想いが通じたので幸せいっぱいです」

「こんな笑顔が見られるのならもっと早く伝えるべきだったな」


 満面の笑みを浮かべるメルヘスを見ていれば、こちらも自然と嬉しくなる。

 隊員たちにもこの気持ちを共有したいが、許してくれるだろうか。


「隊員たちには伝えていいか?」

「はい!!もちろん!!今すぐに伝えましょう!!」

「勢いが凄い」

「そして、天界中に広めるように指示しなければ」

「私用に隊員を使うんじゃない」


 ニコニコと話しているが、らしくもなく浮ついているのが見てとれる。

 隊員にとっては上司の命令には逆らえないだろうし私が気をつけておかなければと思っていれば、ふと先ほどの女性を思いだした。


「なぁ。これでお前を狙う者は大人しくなるか?」

「あなたが相手となれば絶対に手は出されないと保証出来ます」

「そうか」

「ええ。僕はザキアの物なので……ザキアと呼んでいいですか?」

「別に構わないが、弱っている時はいつもそう呼んでいるじゃないか」

「えっ……」


 目を見開き、顔を真っ赤にして今更恥ずかしがっている。

 昔から本当に可愛らしい。

 優しく頭を撫でておいた。


「ザキア!!」

「?」

「愛しています。初めて会ったあの日からずっと。あなたと共に過ごす日々は全て輝いていて誰にも渡したくありませんでした……僕は嫉妬深いんです。だから僕だけを愛してください」

「約束しよう」



 その後は隊員たちに報告をして祝福されて……。

 いつの間にか天界中に噂が広まっているようだった。

 他が色々と言ってきたりはしたが、そんな事はどうでもいい。

 メルヘスを守れるのなら、何だってするつもりだ。



「ザキア……結婚してください」

「私でいいのなら、喜んで」


 私が感じているこの感情は幸せなのか。

 今までもこんな感情は君からたくさんもらっている。

 これから新たに知ることも増えていくのだろう。

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