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今様見聞録  作者: 左鶏守
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第十五話~第十六話 商ひの集ふ所を巡ること 

第十五話 朝、娘の服選ぶこと


ある朝、翁、商ひの集ふ所一人歩むに、覚えある娘、一人佇むを見る。娘もまた翁を見るに、忽ちらふたき笑み浮かべ、「あ、翁にあれば久しうございます」なむ言ひたり。翁、答へて「誰かと待ち合はせたるや」と問はば、娘、「さやうに思ひつるが、友より「行くこと難し」なむ伝のありつるに、けふは一人になれり。」と頬を掻きつつ言ひたり。娘、「如何にせむ」と束の間思ひ巡らし、また、笑みを浮かべ、「共に行かむ」と、翁の手を取りて駆けたり。しばしして娘、服など売りたる店の前に止まりて、「ここにせむ」と入りたり。翁、娘の楽しさうに服選びたるを目細しく眺むるに、娘、青き服と黄色き服を持ちて、「どちらが合はむ」と尋ねたり。翁、娘の目や色形など見つめ、「君のそのぬばたまの如きまなこなれば、そちらの青き服こそ合はむとぞ思ふ」と答へり。娘、「我もかく思へり」とうれしぶに、翁、「されど一色のみなれば、重く映らむとぞ思ふに、何か一つ、生成り色の被り物などあらば、より映えたり」と言ひたり。店の者、これを見るに「かの翁、見事なる目を持ちけり」なむ驚きたり。


第十六話 昼より先、遊びの集ふ所を巡ること


その後昼餉を取りつつ、様々なこと言ひ合ふに賑やかなる音の聞こえ、音のする方眺め「あれは何ぞ」と尋ぬれば、娘曰く「様々な遊びの集ふ所なり」と。娘、また束の間思ひ巡らし、「あれに行かむ」と誘ひたり。しばしして遊び集ふ所に着かば、様々な音の混じりて、いと騒々しかれど、忽ち耳慣れて娘の声聞こゆる様になりたり。娘、「まずはこれをせむ」と数多の雛、入りし箱の前に立ち、手元の穴に銭を一つ入れたり。娘、手の内のもの操らば、箱の内の手の如きもの雛を掴まむと降りたり。箱の内の手、雛を軽く掴み持ち上ぐるに、忽ちすり抜け空を運びて穴の上に広げたり。娘、「なかなか難し。我、予てより取れず。」と頬を掻きつつ言ひたり。翁その様眺むるに、「我もせむ」と娘に代はりて立ち、銭を一つ入れたり。翁もまた手の内のもの操れど、箱の内の手、雛離して空を運びたり。されど、その様眺め「心得たり」とひとりごつ。また一つ銭を入れ、此度は雛に付きし紐の輪狙ひて操りたり。然れば、箱の内の手、紐の輪掛けて持ち上ぐるに、落つることなく雛を運びて穴に落としたり。娘、これを見るに「見事なり」なむ言ひけり。翁、雛を取りて娘に渡さば、娘、忽ちうれしびて雛を強く抱きしめたり。翁、そのいとうつくしきに目細す。その後、ばちを持ちて、箱の内の光に合はせ太鼓を叩き、箱の内の者に向かひて弩の如きものを撃ち、様々なもので遊びたり。娘、「次はあれに行かむ」と煌びやかなる箱を指したり。翁、娘に従ひて艶やかな御簾くぐらば、人の三人、四人入らば混むほどの狭き間あり。箱より聞こゆる声に従ひて暗き側向かふに、箱よりの声忽ち数を減らしたり。「三!」なむ声の掛かるに娘、翁の腕手繰り寄せたり。数減らし果つるに、玉響眩き光放ちたり。その後、娘、けふの日付など様々なこと書きて箱より出づる。翁もそれに従ひ出づれば、娘ら写りし紙、二つ箱より出でたり。

しばしして娘、雛を抱え礼を言ひて、翁に向かひ手を振りたり。翁もまた手を振りて、娘の夕焼けの先に消え失すまで見送り、娘に貰ひし紙を見るに「かの娘、けふは常に笑ひたり」と思ひ、「むべ、かの娘にはやはりらふたき笑みこそ合ひたり」と、うれしぶ。

この二話は、どちらも投稿条件を満たしているためまとめる必要はないのですが、一日の内で起きた出来事なのでまとめました。

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