第十三話~第十四話 疾く動きたるあやしき星のこと
第十三話 動く星のこと
翁、天を仰ぎ見て「いづこも同じ星なれば」なむあはれと思ふに、ふとあやしき星の一つあり。よう見るにその星動きたる。あやしがりて男に「あの星は何ぞ」と尋ぬれば、男、手の内の板と星を比べ驚き、「よう見つけたり!あれなむ星にあらざれど、常に人の住む箱なり!これを見たまへ」なむ言ひて板を向けたり。翁、板を眺むれば、人の二人、三人と浮かびたるを見て「これはまこと人なるか」と尋ぬるに、男曰く、「まこと人なり。あの箱にいし者皆浮かびたり」。翁、「届かぬ星に行かむと欲すれば、人ならざるものに変はるやも知れぬ」と恐れたり。
第十四話 そのからくりのこと
翁また、かの箱眺むるに「かの箱、如何に常に浮かびたるや」と尋ぬる。男、「まず、この星丸きものなり。」と言ひて、足元の石拾ひ、傍らに投げて見せ、「物、放たば忽ち地に落つるものなり」と言ひて、また足元の石拾ひ、先より遠くへ投げ、「疾く放たば地に落つる弧、緩やかになれり。さらに疾く放たば、やがてこの星の丸きと合ひたり。なれば、物、落ちむとすれど、地に落つることなく、常に空に留まれり。かの星も同じうして、浮かぶに非ず、常に落ち続くるものなり。」なむ言ひたり。翁、とこしへに落ち続くる様、思ひて恐るると共に、「かの者らもまた、この世の理に従ふ者なり」と、息を延ぶ。




