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今様見聞録  作者: 左鶏守
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第十一話 疾く現るる鮨のこと

翁、「今宵の夕餉、如何にせむ」男に尋ぬれば、男「これに行かむ」と答へ店を指す。翁、これに従ひて店に入らば、待つ人のいと多し。男、「しばし待たむ」と長き腰掛に座す。翁、これに従ひて座し、稚児らのうつくしきを眺め目細してしばし待たば、店の者、こちらを呼びたり。男、これに従ひて「いざ行かむ」と奥に歩きたり。しばし歩きて、腰掛に座すも机には板の一つあるのみなり。「如何に頼まむ」と尋ぬれば、男「まず、食ひたきものに触れたまへ」と、板の中の旨さうな鮨を指して言ひたり。翁、これに従ひて触るれば、男さらに「次に、幾つ食ひたきか選びたまへ」と、数を指して言ひたる。翁、「まずは一つ頼まむ」と言ひて触るる。男さらに「次に、これを触るれば、店の者に伝はれり」なむ言ひて触るる。しばしして、翁らの頼みし物、疾く現れり。男の言ふに順じて皿を取りて、鮨を汁につけ食はば、米忽ち口の中に解け魚と交ざり、殊の外旨し。しばしして机に空の皿溜まるれば、翁、「これ、如何にせむ」と尋ねつつ、皿の来たる所に戻さむとするを見るに、男これを留め、「さに非ず!空の皿、これに入れたまへ」なむ言ひて机の傍らの口の如き穴を指したり。翁、これに従ひて皿を入るれば、板に書かれし数の一つ二つなむ増えたり。翁、これを見るに「むべ、穴に入るる皿の数の現るるか」とひとりごつ。また、五つ皿を入るるに、板光りて忽ち傍らより玉の如き物現れり。翁、これを見るに「これにあらば、当たるや」と肩を落としたり。

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