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第八話 いと暑き場にて本売ること
翁、「あれなむ如何に伝ふるものや」なむ思ひて筆を取りつつ、をとめらのめづらしき様描きたり。しばしして描き果つれば翁、これを持ちて男の元訪ねたり。翁、紙の束渡さば男これを忽ち幾千と写したり。翁、共に本を綴ずるに男曰く、「これなむ懐温むる商ひに非ず。有るべうもなき値にてこれを売るはわろし」。翁、これに従ひてこれにまめなる値つく。時の移ろひて葉月の頃、街のいと暑かりしかど弥に暑き場に翁座して机に本を並ぶ。しばししてまめなる者の声に従ひて客ら場に入り込む。行き交ふ人のいと多けれど、混まず井井たる様はまた見事なり。しばしして翁の並ぶる本の山忽ち消え、皆、飽き足らふ様にてこれを買ひたり。ある客、白き紙持ちて「これに描かなむ」なむ言ひて渡す。翁、これを受け取りて忽ちめづらしきもの描きて渡す。客、これを見るにらふたき笑み浮かべたり。しばしして、翁、本の売り果て帰るに客の飽き足らふ様を思ひてうれしぶ。




