第十九話~第二十話 南の島のひと時のこと
第十九話 朱の城のこと
やがて留まりて、頭の上の灯の消ゆるに、皆、各々に立ちて荷など降ろしたり。翁らもそれに従ひて、また廊下を歩むに、葵に似たる紅の花の甘き香に迎へ取られたり。頃は、神無月も終はる頃にて、「都にあらば衣重ぬるに、かの地にあらば夏の如しなり」なむ聞き伝ふも、雨の一つありて、皐月の風の如き清々しきを覚えたり。重き荷を宿に送りて、「まず、いずこに行かむ」と問はば、男、「城を見む」と言ひ、細き橋に跨るものに乗りたり。翁もそれに従ふに、学び舎に向かはむとする子らの乗るを見て、「むべ、ここに暮らす者らの足にもなるや」と、ひとりごつ。しばしして、城の前に立ちて男、「これなむこの島にて一大きなる城なり」と言ひたり。翁、城と聞きて同じ国のものを思ひ描くも、今見ゆる八幡宮が如き朱色の唐の如き城を見て、「ここはまこと、同じ国なるか」と問はば、男、「さやうなり。然れど、いにしへにありては異なる国にて、世の下りて、国同じうなりて、また違へる由緒あり。なれば、いにしへにありては唐に似た、世の下りて後のものにも、その名残あり。」と、答へたり。翁、「いずこの地にも深き由緒のあるものか」と、ひとりごつ。
第二十話 家、同じうなる店のこと
その後、翁、商ひの集ふる場など巡りて、この島の物など買ふに、唐とも異なる国のものの見ゆるを見て、それを尋ぬれば、「これ南無、またひと度国違へたる由緒の名残なり。然れどそれ程昔に非ずして、我が親の、またその親の頃の事なり。今は国同じうして、人の行き来の易けれど、国違へし頃は、手形の非ずは、入ることあたはぬ地にありけり。」と、答へり。
しばしして、日の傾く頃、「今宵の夕餉はいかにせむ。」と、尋ぬれば、男、「これを予め約したり。」と、店を指して答へたり。その店、机と腰掛けの並ぶ店なれど、前に舞台の一つありて、誰ぞ唄はむとするを待つ様なり。「誰ぞあれにて唄ふや」と、尋ぬれば、男、「さやうなり。これなむ謡を聞きつつこの島の物など食ふ所なり。」と、いくつかの物頼みつつ答へたり。しばしして、桃の如き果汁や、甘き豆腐の如きもの。苦瓜を和へて炒めたる物など食ひつつ言ひ合へば、舞台に二人、三人と胡弓の如きを持ち、唐衣の如きを纏ひ、鉢に紫の布巻きたる者ら現れたり。その者ら、客を指して、「いずこより来たるか」と、聞き回り、客らもまた様々な地を答へたり。隣の腰掛けに座す者らなど、「この国の北の果てより来たり。」と答へ、様々な客より「おお」なむ声の聞こえたり。その後、楽器の軽やかな音に合はせ唄ふ声を聞きつつ様々なもの食ひ、謡のあはいの語りを聞き笑ひ、静かなる謡を聞かば、あはれと思ひたり。しばしして、その者ら、客に「立たむ」と促し、それに従ひて客の一人、二人と立ちて「いざ、踊らむ!」と軽やかに踊りたり。また、覚えなき者らであれど「いざ、踊らむ」と誘はば、皆、忽ち立ちて手を振りつつ踊りたるは、いとをかし。また、人の暮らしの様々なれど、今ここにありては、家を同じうするが如きに、いと感じたり。
こちらも続き物なので、一つにまとめました。そして、前回の続きです。




