第9話:千年の眠りから醒めた時、目の前に居たのは、白無垢を着た愛らしい少女だった。
千年の眠りから醒めた時、目の前に居たのは、白無垢を着た愛らしい少女だった。
利発そうな健やかな瞳が、伊与によく似ている……そう思った。
同時に、胸がちくりと痛む。
千年前と同じだ。
この少女もきっと、無理矢理村から連れてこられたのだろう。
伊与と同じように、村には想いの通じ合った恋人がいるに違いない。
哀れなことだ……。
瑞守家に生まれてしまったがために、龍神の供物となるために捧げられるなんて。
ところが、泣き喚いたり、逃げ出そうとしたりするかと思ったら、少女は白夜の背中の傷を見て顔をしかめ、丁寧に手当てをしてくれた。
その少女がたしかに瑞守の乙女であることは、すぐに分かった。
肌に触れられるだけで、心が洗われるように清々しい気持ちになる。
迷わず自らの衣を裂き、巻いてくれた時には、少女の霊力によって、激しく膿んでいたはずの傷が癒され、痛みが引いていった。
傷が癒えれば、充分だと思った。
自分の龍神としての本能は、喉の乾きを癒したくて堪らないように、瑞守の乙女を欲していたけど、無垢な少女を犠牲にしてまで、力が欲しいとは思わなかった。
自分が、持てる力の範囲で黒龍を倒せば良いだけのこと。
そう思ったのに……。
逃げ出すことだっていくらでもできたはずなのに、晴と名乗ったその少女は、手傷を負った白夜を抱き締めて庇ってくれた。
自分の衣が血に汚れるのも厭わずに……。
正直なところ、晴には隠れていて欲しかった。
「隠れていて」と言ったのは、黒龍から隠れろといった意味もあったけど、同じぐらい、自分から離れていて欲しいと言う意味もこめられていた。
龍神である自分にとって、瑞守の人間は『ご馳走』だ。
力を欲している時に不用意に触れられたりしたら、自制が利かなくなってしまう。
そう思った時……
「隠れていることなんてできません。白夜様。私、覚悟はできているんです。私の力が必要なら、どうぞ使ってください。お願いですから……」
そう口にした晴の言葉に、嘘偽りはないようだった。
穢れのない黒い瞳。
この少女は、伊与とは違うのだと言うことに気が付いた。




