第8話:ただ、触れてもらうだけで大丈夫です。
「やりましたね、ご主人ーーーー!」
さくちゃんは大喜びの様子で二人の周りを飛び回る。
「安心するのは早いよ。取りあえずは姿をくらましたみたいだけど、本当に倒したわけじゃないからね……」
白夜様は不安そうな顔のままだった。
「はる、ありがとう。……着物が、汚れてしまったね」
晴は首を横に振った。
「いいえ。龍神様にお仕えするのが、私の勤めですから……」
「取りあえず、かくりよに帰りましょう!かくりよならば、ご主人もゆっくりお休みできます」
「そうだね……。僕もくたくただ……」
「白夜様……!」
「ご主人……!」
再び晴とさくちゃんの声が重なる。
白夜様は、力を使い果たしたように、その場に倒れてしまった。
「困りましたね……晴様、もし良かったら、少しだけワタシにも、力を与えてはくれませんか?」
「え、え……っ?力をって……どうしたらいいの?その、く、口づけとかって、そう言うこと……?」
晴はどぎまぎした。
さくちゃんにも白夜様にしたみたいにすればいいんだろうか。
蛇だけど……。
「と、とんでもない……!そんな勿体無いことをしたら、白夜様に怒られてしまいます」
さくちゃんはバタバタと慌てたように小さな羽を振り回した。
「ただ、触れてもらうだけで大丈夫です。もし良かったら、ぎゅっと、この辺りを、握ってもらったら……」
さくちゃんはバタバタしながら自分の鎌首の辺りを示す。
この辺りと言われてもどの辺りか全く分からなかったけど、晴はえい……っ!とさくちゃんの鎌首と羽が生えた胴の間辺りを右手でぎゅっと、握った。
蛇に触るのは初めてだった。
ひんやりとした感触がなんとなく気持ち悪い……と思っていたら、目の前に、真っ白な肌、黒髪おかっぱの女の子が立っていた。
お、女の子……?
白地に赤い模様の入った着物を着た、女の子なんだけど、少しツリ目で、瞳孔が縦長なのが、完全に蛇の雰囲気だった。
「もしかして、あなた、さくちゃん?」
「えっへん……!さくちゃんなのです……!」
さくちゃんはどや顔で胸を張った。
まさか、女の子だったとは……!
なんとなく、男の子を想像してたんだけど……。
こうして目の前に女の子の姿で立たれると、先ほどの一部始終をこの子に見られていたのかと、急に恥ずかしくなった。
「ご主人の力が戻れば、ワタシも自由に変化できるようになるのですが……」
そこで言葉を切ると、さくちゃんは縦長の瞳で晴を見上げ、深く頭を下げた。
「晴様……改めてお願い申し上げます。ご主人には晴様のお力が必要なんです。どうか、この先も、ご主人のお傍に居てはもらえませんか……?」
もちろん、晴はうなづいた。
「もちろんです。この先も、白夜様が力を取り戻せるように、私にできることがあれば、なんでもするわ」
「ああ、さすがは瑞守の姫巫女様……感謝にたえません……!そうと決まったら、かくりよに行きますよーーーー!久しぶりの我が家だなあ、ワタシも嬉しゅうございます」
さくちゃんは嬉しそうに言うと、倒れている白夜様をひょいと横抱きにした。
「さ、さくちゃんすごい!力持ち……!」
「そうなのです、さくちゃん、こう見えて力持ちなのです……!なんたって、神使ですもの……!」
こうして晴は、龍神様の神使さくちゃんに誘われ、浮き世を離れてかくりよ……つまり、神様の住まう神域へと、向かったのだった。
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生け贄の少女と、少女に手を出そうとしない龍神様のお話、楽しんでいただけているでしょうか?
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本作品は毎日更新中で、3万文字前後で完結する予定です。
龍神様と晴の食べる食べないの攻防と、二人の心の交流を、この先も見守っていただければ幸いです。




