第4話:『食べられる』って、そう言う意味なの……!?
その日のうちに、晴は生け贄として村の山奥にある龍神様の祠へ捧げられることとなった。
前々からこの日のために用意してあったみたいに、真っ白な打ち掛けと頭からすっぽりと覆う被衣を着せられる。
美しい白無垢だった。
憧れていた花嫁衣裳で生け贄に捧げられるなんて悲しい……。
まるで花嫁行列のように、晴は村人たちに連れられて、山へ向かった。
山へ向かう間も、空は真っ黒な雲に覆われ、こちらを見張っているように黒々とした龍がとぐろを巻いていた。
あの龍が、晴を食べに来るのだろうか。
母のために覚悟をしてきたつもりだったが、やっぱり恐ろしくて堪らなかった。
「着いたぞ。ここから先は一人で行くんだ」
祠の前で、村の長が言う。
泉の水がさらさらと流れる、静かな場所だった。
この場所ならよく知っている。
まだお父様が生きていて、自由に家の外を歩き回れた頃、よく遊びに来た場所だ。
禍々しさは感じられない。
それどころか、何か神聖な者の息吹を感じるような、清々しい場所。
「これでお別れね、はる。愚図なあんたにはいつも苛々させられてたから、精々するわ」
佐知子お嬢様が高笑いする。
「晴、分かっているだろうね?逃げ出したりなんかしたらどうなるか」
響子奥様は念押しのように言った。
「分かっています」
晴は覚悟を決めるためにも、はっきりとそう口にした。
「分かっているとは思うが、生け贄になると言うことは、龍神様に『身を任せる』と言うことだぞ。龍神様は霊力のある瑞守の生娘がお好みだそうだからな」
み、身を任せる……?
生娘がお好み……?
ここへ来て、長から予想外の言葉を聞いて、晴の心は戸惑った。
生け贄になるって、食べられるってことじゃないの?
「千年前は、生け贄の少女がそれを拒んだせいで、神の怒りを買い、村が滅ぼされたと伝えられている。くれぐれも、龍神様を怒らせることのないよう、瑞守の巫女として、しっかりとお勤めを果たすのだぞ」
『食べられる』って、そう言う意味なの……!?
覚悟を決めたところだったのに、晴の頭は大混乱だった。
えっと、それは、つまり……あらぬことを想像して、晴はますます恐ろしくなった。
でも、龍神様って、あんな大きな龍の姿なのに、人間の娘とどうこうなんて、できないわよね……。
やっぱり、生け贄と言うからには、龍神様の食物として食されるということなのでは……?
晴は悶々としながら、祠へ足を踏み入れた。
地中深くへ潜っていくような、真っ暗な洞穴だった。
しばらく進めば、すっぽりと暗闇に包まれ、不思議な静寂が訪れる。
混乱していた頭がだんだんと鎮まっていくようだった。
不思議な場所……。
やっぱり……この場所には何か、心穏やかになるような気配が溢れている。
神様のいらっしゃる場所だからかしら。
この場所は、人間の生きる世界とは、異なる場所なんだわ。
そして……緩やかな下り坂を降りていった先に、仄かな明かりが見えてきた。
開けた場所の四隅に、燭台が一つずつ置いてあり、ゆらゆらと蝋燭の光が当たりを照らしていた。
そして、その真ん中に。
……人?
その人は、静かに眠っているようだった。
どうしてこんなところに人が……。
仰向けに横たわるその人の身の丈は、晴より少し大きいぐらい。
浅葱色の着物を着て、髪の色は見たこともないような見事な白銀色だった。
綺麗な髪……。
晴はその人のそばに膝を突き、思わずそのさらさらとした見事な銀髪を一筋手に取った。
「んん……」
その人が微かな呻き声を上げ、身動ぎをしたので、晴は思わず手を引っ込めた。
翡翠のような明るい青緑色の、大きな瞳と目が合う。
眠っている時は女性かと思うような綺麗な顔だと思ったけど、目を開けると、たしかに男の人だった。




