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第2話:お父様さえ生きていれば……。

 すべては十年前。

 晴が七つの時。


 お父様が亡くなったことで、晴達母子の生活はいっぺんに変わってしまった。


 晴の母は、瑞守家の正妻ではなかった。


 正妻である響子さんに長年子どもができず、このままでは大切な瑞守家の血が絶えてしまう……そう心配したお父様が、側妻(そばめ)として選んだのが晴の母だった。


 ところが皮肉なことに、晴が生まれたその翌年に、響子奥様にも子ができた。

 それが佐知子お嬢様。


 晴達は用無しになったと言うわけだ。


 それでも、お父様が生きている間は、村内の別邸で不自由のない暮らしをさせてもらっていた。


 お父様は晴達母子のことを瑞守家の一員として、大切に扱ってくれていた。


 だから、晴は知らなかった。


 本妻の響子奥様がとても嫉妬深い方で、先に子を産んだ晴の母のことを深く恨んでいたということを。


 お父様が亡くなって、響子奥様が瑞守家の(あるじ)になると、響子奥様はわざわざ晴達母子を本邸へと呼び寄せた。


 まるで、すぐ目の前で自分達が裕福な生活をしているところを見せ付けるかのように。


 響子奥様は、長年の恨みを晴らすように、晴達母子に辛く当たった。


 与えられる食事はわずかばかり。

 本邸に雇われている下女たちと一緒に、来る日も来る日も家事の手伝いをさせられた。


 命じられた仕事をこなさなければ食事もろくにもらえないので、晴は母のために精一杯頑張った。


 元々身体が弱かった母は、劣悪な環境と、粗末な食事のせいで日に日に弱っていく。


 どうしてこんな目に遭わなければならないのだろう。


 同じ瑞守の当主の子として生まれたのに。

 本妻の子か側妻の子かというだけで、どうしてこんなにも差を付けられなければならないのだろう。


 お父様さえ、お父様さえ生きていれば……。


「はる」


 寒さに震えながら泣いていた晴の肩に、母が手を掛けた。


「はる。よく聞きなさい。あなたももう十七になる。この家を出ても、村の外で充分に働いていける(とし)だわ」


 晴は突然の言葉にぎょっとして母の顔を見た。


「母を置いて、この村を出なさい」


 母の顔は決意に満ちていた。


「そんなこと、できるわけないじゃない!この家を出るなら、お母さんも連れていく!私が働くから、一緒に暮らしましょう……!」


 母は首を横に振った。


「こんな役立たずを連れていったら、足手まといになるだけよ。あなただけなら、どこでだってやっていけるわ。素敵な旦那様だって、見つかるかもしれない」


 嫌な予感がした。

 母はこのまま死ぬつもりなんじゃないだろうか。

 母の()せた手は、そのぐらい頼りなかった。


 そんなのは絶対に嫌だ。

 母が一緒でないのなら、自分だけ幸せになったって、何の意味もない。


 その時だった。

 ゴーーーという低い(うな)り声のような地響きが聞こえたと思ったら、突然、足元が揺れ始めた。


「な、なに……!?地震……!?」


 突き上げるような縦揺れの後、揺さぶられるように足元が激しく揺れる。


「お母さん、怖い……っ!」


 晴と母は抱き合って辺りを見回した。

 今まで見たこともないような暗い雲が空全体を覆い、辺りが一気に薄暗くなる。


 揺れはしばらくして収まったが、辺りは薄暗いままだった。


「いったい、何なの……?」


 母屋の方も騒然としているようだった。


「ひとまず、蔵を見に行きましょう」

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