17.5話
「ご主人、起きてください」
晴様が浮世に戻られて数日。
ご主人は神様のお勤めとして、かくりよのお社で毎日、浮き世を清浄に保つための祈祷をされています。
千年も眠っていたわけですから、ご主人の管轄である瑞守の村周辺は神様の加護を永らく失って荒れ放題だったわけです。
「ご主人。今日は朔が、晴様を真似て朝餉をご用意しましたから、ね、ささ……精の付くもの食べないと元気が出ませんよ……!」
晴様が行ってしまわれてから、ご主人は元気がないのです。
元々溌剌とした方ではありませんでしたが、以前は淡々と毎日を過ごされていた印象だったのに、今はなんだか、とても物憂そう。
夜もあまり眠れていない様子です。
それなので、ご主人を少しでも元気づけるために、朔は力を振り絞って人間の姿に変化して、朝餉を作ってみました。
晴様のお力がなければ、朔も変化するのはまだひと苦労で、長い時間人の姿を保つのはちょっと無理です。
本日ご用意したのは、大根と大根菜のお味噌汁と目刺を焼いたもの、香の物と白ごはんです。
白夜様が美味しいと言われていたお味噌汁です。
「いかがですか、ご主人……?」
「晴の方が美味しい……」
ご主人は哀しそうな顔です。
朔はこれでも頑張ったのですが……。
「晴の作った朝餉が食べたい……」
うう……そりゃあ、晴様には叶いませんとも。
晴様のお料理の腕は、目を見張るものがありました。
それにきっと、あれは、晴様とお膳を囲み、晴様とお喋りをしながら食べるから美味しいんです。
晴様は、あかぎれだらけの苦労された手をしていて、お身体には打たれた跡もたくさんあって、浮き世ではさぞ辛い日々を過ごされていたことが見受けられるのに、卑屈なところは少しもなく、明るく、周りの者を清々しい気持ちにさせてくださる方でした。
逆境にも負けない、芯の強さを持つ方です。
ご主人も、晴様があのような方だったから、心を開かれたのに違いありません。
「ご主人。いい加減素直になってください。本当は晴様がいなくて寂しいのでしょう?」
ご主人は静かに首を横に振ります。
白銀の髪がさらりと揺れました。
「心配なんだ」
「え……っ?」
「浮世に異変があればすぐに分かるし、すぐに駆け付けられるようにはなってるけど……何かあったらと心配で……」
もしやご主人がいつも物憂げなのも、夜しっかり眠れていないご様子なのも、晴様が心配だから……?
「ご主人……そんなに心配なら、晴様を傍に置かれておけばいいのに」
「それは無理だよ。晴には人間と結ばれて幸せになってもらいたいんだから」
まったく……。
素直じゃないし、この頑固なところはいったいどうしたらいいのでしょう。
朔はなんとかお二人が結ばれてほしいのですが、障壁はなかなかに高そうです。




