第15話:私の勤めは、白夜様に食べられることなんだから……!
白夜様のお屋敷に着いて、さくちゃんが母専用の部屋を準備してくれた。
「なんて立派なお屋敷なんでしょう。龍神様、本当に、なんとお礼を言えばいいか……」
恐縮する母に、白夜様は言った。
「晴が僕にしてくれたことに比べれば、こんなこと、大したことではないよ。晴のおかげで、僕は千年苦しんだ呪詛の傷から解放されたんだ。晴がいなければ、僕は今もまだ苦しみ続けていただろう」
まずは母に、ご飯を食べさせてあげなきゃ。
晴はさくちゃんとともに台所に立ち、母のために柔らかい粥を炊いた。
みんなで、美味しいご飯を食べて、家族みたいに暮らすんだ。
晴は、これからの日々が、楽しみでならなかった。
***
「さあご主人!晴様!本日からは、同じお部屋でお休みいただきますよ……!」
その夜のこと。
何を張り切っているのかと思ったら、さくちゃんは白夜様のお部屋に、真っ白な布団を二つ、並べて敷いていた。
晴は思わず顔を赤らめる。
本当に、祝言を挙げた夫婦みたい……。
でもでも!望むところよ。
私の勤めは、白夜様に食べられることなんだから……!
「えっと……その……白夜様……?」
気づけば白夜様はぴったりとくっ付けられていた布団をいそいそと離していた。
「おやすみ、はる」
白夜様は晴とは目を合わせようともせず、背を向けて布団に入ってしまう。
そんな……。
さくちゃんは「ご主人もあれで『男』だ」と言っていたけど、やっぱり白夜様は、そういうことに興味がないのかな……。
それとも、自分に魅力が足りないのだろうか。
ろくなものを食べていなかったら、肌には艶もないし、痩せっぽっちだしね……。
しかたなく、晴は布団に入り、少し離れたところから白夜様の背中を見つめていた。
こうしてみると、やっぱり人間の男の人と、変わらないように思える。
瑞守家での白夜様は、本当に恐ろしかったけど……。
晴やさくちゃんが止めに入らなければ、本当に響子奥様と佐知子お嬢様を殺していたかもしれない。
可愛らしくて、穏やかそうに見えるけど、やっぱり神様なんだなあ。
千年前は、贄の姫巫女が、白夜様を拒んで怒りを買ったと言われている。
白夜様が贄姫に怒るなんて、想像できないけど……。
いったい、何があったと言うのだろう。
……白夜様のお気持ちを知りたい。
白夜様のことを、もっと知りたい。
晴は手を伸ばし、白夜様の背中にそっと触れた。
白夜様はびくりと身体を震わせる。
「だめだよ晴……お願い、僕に触れないで」
懇願するような白夜様の声。
晴の手から逃がれるように身体を離し、こちらを向いた白夜様の顔は、暗がりの中で少し赤く見えた。
「かわいい……白夜様」
「失礼だな……かわいいなんて」
怒ったように頬を膨らます白夜様も、可愛らしかった。
「だって本当に、かわいいんですもん。白夜様。お顔が赤いです」
昼間の恐ろしい姿とは別人みたい。
晴は思わず、その赤くなった頬に手を触れた。
触れるとほんのり温かく、すべらかだった。
その瞬間……。
白夜様の手が、晴の手を掴んで引き寄せた。
白夜様の身体を包んでいた布団が反動ではね除けられ、白い浴衣姿が露わになる。
予想外に力強いその性急な仕草に、体ごと引き寄せられて、晴の心臓は飛び上がった。
晴は思わず、ぎゅっと目を瞑っていた。




