第13話:村にこんな綺麗な男子はいなかったはずだけど、晴ったら、いったいどこから連れてきたのかしら。
晴は、隣に銀髪の美しい男性を連れていた。
年の頃は晴と大して変わらないぐらいに見える。
目の色は不思議な青緑色で、色白の、どこか幼く儚げな雰囲気を持つ人だった。
村にこんな綺麗な男子はいなかったはずだけど、晴ったら、いったいどこから連れてきたのかしら。
しかも、晴は花嫁装束から、上等そうな桜色の着物に着替えている。
こんな上等な着物、晴には全く似合わない。
「よくもおめおめと顔を出せたものだねえ、晴。龍神様の生け贄になって食われたんじゃなかったのかい?まさか逃げ帰ってきた訳じゃないだろうね。母親がどうなるか、分からないわけじゃないでしょうに」
母が苦々しげに言う。
ところが、晴は怯みもせず、真っ直ぐにこちらを向いて言うのだった。
「響子奥様。そのことで、お願いがあって参りました。人質はもう、必要ありません。母を返してください」
「はあ……?あなたいったい、何を言っているの。私はあなたが素直に龍神様の生け贄になるのなら、これから先も母親の面倒を見てやると言ったのよ。そんなことを言ってる暇があったらさっさと……」
「この方が、その龍神様なのです。奥様」
晴は母の言葉を遮って言った。
この方が龍神様……?
「で、でも、龍神様って言ったら、真っ黒な龍だったわ。姿が全然違うじゃない!」
こんな綺麗な人が龍神様だなんて。
龍神様って言ったらもっと厳めしくて恐ろしくて……晴なんてとっくに手篭めにされて頭から食われているところだろうと思っていたのに……!
「そうですよ、晴。もしその方が本当に龍神様だと言うなら、証拠を見せてごらんなさい」
「証拠……?」
晴の隣にたたずむ人が静かに口を開いた。
無表情のままだったが、氷のように冷たい声だった。
「迦具伊加土も随分侮られたものだね……。君たちそれで本当に瑞守家の人間なの?」
「そうですよ……っ、黙って聞いてれば、さっきから失礼なことばっかり……!」
そこで初めて、青年の傍らに羽の生えた白い蛇が浮かんでいることに気づいた。
しかも気味の悪いことにその蛇は、人間の言葉を喋っているではないか。
「面倒だね……晴、この人たち、雷で撃ってもいい?」
青年の冷ややかな声が、事も無げに言う。
穏やかな青緑色だった瞳が、怒りを現すように、金色の光を帯びていた。
龍神様、もしかして怒っていらっしゃる?
これってかなり、まずい状況なのでは……?
「だ、ダメですご主人……!罪もない人たちに神力なんか使ったら、徳が下がってしまいます……っ!」
「何を言ってるの、朔。罪なら山ほどあるでしょう?大切な瑞守の姫巫女とその母君を虐げ、あまつさえこのような卑怯な方法で無理矢理生け贄にさせるとは……」
ピリピリとした空気が辺りを満たし、今にも雷が落ちそうだった。
「ひっ……ひぃ……っ!!」
佐知子はあまりの恐ろしさに思わず母の腕にしがみついていた。
瑞守の人間として多少の霊力を持つ佐知子にも、目の前の存在が恐ろしい神力を持っていることはひしひしと感じられた。
「待ってください、白夜様……!」
ひりつくような空気を遮って、晴の声が響いた。
「白夜様、この者達も、村を守るお役目を持った瑞守家の人間です。この者達が死んでしまったら、瑞守家が途絶えてしまう……」
「殺すとまでは言っていないよ。自分たちがどれほど罪深いか分からせるために、痛め付けるだけだ」
「ダメです!今のご主人がそんな器用な力加減、できるとは思えません……っ!」
白蛇が告げた物騒な事実に、ますます肝が冷える。
「お願いです白夜様……、私はいいんです。母さえ無事に解放してもらえるのなら」
晴の言葉に、少しずつ怒りが鎮まるように、金色に光っていた龍神様の瞳が元に戻る。
「晴は優しいね。僕なら絶対に赦さないけど。……晴の母君はどこにいるの?僕の気が変わらないうちにさっさとした方がいいと思うよ」
「お母様……!」
佐知子は必死に母の腕を揺さぶった。
このままでは本当に、母ともども殺されてしまう。
「わ、分かりました、分かりましたから……!晴、土蔵の鍵よ。凪子さんは土蔵にいるわ」




