第11話:一つだけ気掛かりなのは、母が無事でいるかどうかだけだった。
晴はその時、しまった……と思った。
晴が母を人質にされている話を口にした途端、和やかな雰囲気だった白夜様の表情が一変し、堅く強張ったからだ。
母の無事を確かめたかったために口にしたことだったのだが、母を人質にされていることは、不用意に口にすべきではなかったかもしれない。
「あ、あの……だから、母が無事でいるかだけ、確かめに行きたいんです。それで、もし……もし、良かったら、母をこの屋敷に連れてくることはできないかなって……」
図々しいお願いかな、と不安になった。
それでも、これだけはどうしてもお願いしたかったのだ。
晴も覚悟を決めたことなので、白夜様の傍で、贄としてのお勤めを果たすのは構わない。
それにより白夜様が力を取り戻して、あの忌々しい黒龍を倒せるのならば。
ただ、一つだけ気掛かりなのは、母が無事でいるかどうかだけだった。
響子奥様と佐知子お嬢様の性格を考えると、本当に約束通り、この先も母が幸せに暮らしていけるのかどうか、不安が残っていた。
晴がもう死んだものと思って、母にまた酷いことをするかもしれない。
「母君を、ここに……連れてくる……?」
白夜様は、不思議そうな顔をしている。
「ええ。図々しいお願いかもしれませんが、母とここで、暮らすことはできないでしょうか……。そうすれば、私も安心して、その、お、『お勤め』に励めるかなって……」
口にするのは憚られたけど、さくちゃんには強くお願いされていた。
白夜様は奥手すぎて手を出してこないかもしれないけれど、傍に居て辛抱強く機会をうかがって欲しいと。
「……分かった。それはとても許せない。今すぐ浮き世へ向かおう」
白夜様は居ても立ってもいられないという様子で、すぐにでも出掛けていきそうな勢いだった。
晴は分かっていなかった。
この時、白夜様の心の内が、どのようなものだったのかを……。




