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#9 地底への門 ― 封印された井戸の真実

#9 地底への門 ― 封印された井戸の真実


 沈黙の夜が続いて数日が過ぎた。

 良太の心は焦燥でざわつきながらも、井戸の前に立つ時間だけはやけに安らぐ。


 今日も放課後、誰もいない旧校舎裏の裏庭。

 冷たい空気を切り裂くように、井戸の縁に指を触れる。


 「……ニカ。聞こえてるか?」


 返事はない。

 けれど、胸がざわりと震える感覚だけが、微かな希望のように灯る。


 そのときだった。


 「千間くん? こんなところで何してるの?」


 振り返ると、白衣姿の教師――理科担当の宮坂先生が立っていた。

 見た目は温厚だが、生徒の噂に異様なほど詳しい“噂マニア”だ。


 「あ、いや、その……」


 言葉を濁す良太に、先生は井戸へ視線を向ける。


 「旧井戸の噂、また流行ってるんだってね。『声が聞こえる』とか」


 良太の心臓が跳ねた。


 「先生、知ってるんですか? ここ……ほんとに、なにかあるんですか?」


 宮坂先生は、ためらうように眉を寄せたが、

 ふと真剣な声音で言った。


 「……千間くん。話がある。ここでは言えないわ」


 それは、ただの噂話じゃない“何か”がある声音だった。


 


 夕方。

 理科準備室で向かい合う良太と宮坂先生。


 「この学校にはな、昔から奇妙な“記録”があるのよ」


 先生は古びたファイルを机に広げた。

 黄ばんだ紙に、手書きの記録が残っている。


 『井戸の底から声が聞こえる』

 『地上と異界を繋ぐ穴』

 『封印のため、新校舎建設時も位置をずらさず残す』


 「これ、いつのものですか?」


 「1950年代の資料よ。だが……正確にはもっと古いの。江戸期の文献にも似た記述があるわ」


 ページをめくる。

 そこには、ひときわ異様な一文が記されていた。


 『光る石を持つものと会話した』


 良太の呼吸が止まった。


 「光る石……ニカと同じ……?」


 宮坂先生はゆっくり頷く。


 「井戸の奥は……“どこか”と繫がってる。

  私はオカルト研究者じゃないが、学校の地下地図を調べるうちに、どうしても説明がつかない点が多くてね」


 良太の両拳に力が入る。


 「先生、井戸の底って……どこに繫がってるんですか」


 「正確には分からなの。だけど…」


 宮坂先生は、夜の窓の外を見ながら、ぽつりと言った。


 「あれは、“封印された門”危険なものを閉じ込めるための」


 危険。

 その言葉に、良太の胸がざわりと揺れた。


 「……危険って、何をですか?」


 「ここから先は仮説なんだけど、古い資料には“地底に住む民”の話が出てくるわ。

  『地上の病を恐れて地下へ逃れた民』だとか『光る石を操る者たち』だとか――」


 地底人。

 アガルタ。


 良太は胸の奥で、ひとつの確信に触れた。


 やっぱりニカは存在する。

 この井戸は、アガルタに繫がる唯一の道なんだ。


 


 一方その頃、アガルタ。

 ニカは決意を固めた表情で、光導路を走っていた。


 審問以降、議会の監視は強まっている。

 本来なら外出も制限されているはずだが――


 今日は、どうしてもやらなければならないことがある。


 「……おばあちゃん」


 向かった先は、静かな光の森に囲まれた古い石の家。

 そこに住むのはアガルタ最古の“地上交信者”、

 ニカの祖母――シラだ。


 扉を叩くと、老人とは思えない鋭い眼差しの女性が顔を出した。


 「ニカかい。来ると思っていたよ」


 「……昨日、感じたんです。

  良太――地上の人の声が、ほんの少しだけ……」


 シラはゆっくりと頷いた。


 「アンリフィスの揺らぎだね。あれは二人が繫がろうとしている証だ」


 ニカの胸が震えた。

 嬉しさと不安、どちらも押し寄せる。


 「おばあちゃん……私、良太を守りたい。

  でも、光議会は“地上との交信は危険だ”って……」


 「危険なのは議会さ。

  あれは“病の名残”を理由に、地上を恐れているだけ。

  本当の危険は――」


 シラの瞳が鋭く光る。


 「二つの世界が“繫がりすぎる”ことにある」


 ニカは息を呑んだ。


 「繫がり……すぎる?」


 「感応体質の強い者同士が深く結ばれれば、

  世界の“共鳴層”が溶け合い、境界が曖昧になる。

  そうなれば世界は混ざり、災いが起こると古い記録にある」


 「そんな……良太と私は、ただ――」


 「ただ“恋をしている”だけだろう。だが、それが最も強い力なんだよ」


 ニカは固く唇を噛んだ。


 良太との絆が、世界を揺らしてしまう――?


 シラは、そっとニカの手を握った。


 「だが怖れることはない。

  大切なのは、ただ“繫がりを断たない”ことだ。

  世界は揺れる。だが、切れてしまえば……もっと大きな悲しみが生まれる」


 ニカの目に涙が滲む。


 「繫がりを……断たない……」


 「おまえは会いたいんだろう? 地上の少年に」


 「……うん」


 震えながらも、強く頷いた。



 夜。

 良太は、宮坂先生から借りた古地図を手に井戸の前に立っていた。


 「……封印された門。

  昔から“向こう”と繫がってたって、資料には書いてある。

  なら――俺にも、できることがあるはずだ」


 井戸を覗き込む。

 暗闇の奥は何も見えない。

 でも、胸が確かに反応する。


 ニカが、向こうにいる。


 ポケットから、落ちかけたルミナ鉱石の欠片を取り出した。

 あの日――声が途切れる直前、微かな光とともに落ちてきた小さな欠片。


 「これが……鍵なんじゃないか?」


 良太はそっと井戸へ手を伸ばした。


 すると――


 ザザ……ッ。


 空気が震えた。

 胸の奥が熱くなり、視界が揺れる。


 「……っ!」


 まるで、呼ばれたような感覚。


 これは、偶然じゃない。


 ニカも、同じように動き出してる。


 拳を握りしめ、良太は強く言った。


 「待ってろ、ニカ。俺は……必ずもう一度、声を届ける。

  どんな“門”でも、突破してやる!」


 井戸の奥で、わずかな光が脈打つように揺れた。


 それは――

 封印された“門”が、ゆっくりと反応を始めた瞬間だった。

#10へ続く

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