表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/55

#53 同期する三世界

 #53 同期する三世界


 第三座標の揺れは、誰よりも早く“世界”が気づいた。


 ――地上。

 旧校舎裏、臨時解析車両。

 モニターに、未定義の数値が走る。

 《位相同期:観測中》

 《対象:第三座標》

 《属性:未確定保持》

 《命名工程:凍結状態》

 スーツの男は、椅子を押しのける勢いで身を乗り出した。

「……命名が止まっている?」

 別の研究員が震える声で答える。

「……“本人の選択”で工程が保留された可能性が……」

 車内に空気が詰まった。

「……そんな工程、存在しないはずだ」

 そう言いながら、男の声には微かに敬意が混ざっていた。


 ――アガルタ。

 光議会・中央制御層。

 アンリフィスは脈動を乱し、光文字が滝のように流れる。

 《命名不成立》

 《決定権に外部入力》

 《工程再定義要求発生》

 議員たちが次々に立ち上がる。

「……未登録個体が拒否した……?」

「拒否ではない。“選択”だ」

 レオンが言った。

 声は静かだったが、数人が息を呑む。

「……工程は壊されていない。

 だが、決定の権利が……内側に戻された」

 議会はざわついた。

「内側とは……誰の内側だ?」

 レオンは即答せず、アンリフィスの光を見つめる。

「……世界ではない」

 アンリフィスが一瞬だけ静止した。


 ――第三座標。

 少女は息を整えようとして、諦めたように座り込む。

 足場はまだ決まらない。

 座れば柔らかく、歩けば硬く、握れば溶ける。

 “未定義”はこういう感触だった。

 良太は横目で少女を見た。

「……大丈夫か」

 少女は答える代わりに、小さく頷いた。

 ニカは周囲の光層を観察していた。

「……地上とアガルタ、同期してる」

 良太が眉を寄せる。

「追ってきてるってことか?」

「違う。“見る”方向が変わった」

 少女は不安を隠しきれずに言う。

「……私が……見られてる?」

 ニカは首を振った。

「……世界は“確かめてる”だけ」

 少女の目が揺れる。

「……確かめるって……何を」

 ニカはほんの一拍考えて、はっきりと言った。

「……選んだ理由」

 少女は口を閉ざした。

 言葉は出ない。


 ――地上。

 研究員がモニターを指差した。

「……命名工程がストップした理由、推測出ました!」

 主任が読み上げる。

 《理由:意志の不整合》

 場が一瞬静まり返る。

「……意志……?」

「……本人の意志と外部の決定が一致しない時、

 工程は成立しない……」

 主任は息を吐いた。

「……そんな設計、誰が……」

 誰も答えなかった。

 だが次の瞬間、別の解析が走った。

 《補足:不整合は“未否定”》

 主任の目が細くなる。

「……否定していない?」


 ――アガルタ。

 議会の光文字に、同じ分析が浮かぶ。

 《選択:肯定/否定の間》

 議員が声を荒げる。

「……曖昧では工程は成立しない!」

 レオンは反論した。

「……曖昧は拒否ではない。

 それは“決める権利の保留”だ」

 光議会は沈黙した。

 保留。

 聞き慣れない言葉。

 世界にはいらない概念。

 だが第三座標には――必要だった。


 ――第三座標。

 ニカは少女を見た。

「……決めなくていいんだよ。今は」

 少女は震えた声で返す。

「……決めたい……でも……どう決めたらいいか……分からない……」

 良太は短く息を吸った。

「……だったら保留しとけ。

 決められないのに決める方が……無理あるだろ」

 少女は良太を見た。

 長い間、名前の代わりに空白だった眼差しで。

 その瞬間――空間が震えた。

 《保留:受理》

 《工程:延期ではなく保持》

 ニカの表情が変わった。

「……延期じゃない……!」

 良太が問う。

「どう違うんだ」

 ニカはゆっくり答えた。

「……延期は“時間が決める”。

 保持は“本人が決める”」

 少女は息を呑んだ。


 第三座標は、世界の問いに答えた。


 《決定権:内部へ返還》


 ――そして次の瞬間。


 地上、アガルタ、第三座標が

 一斉に同じログを吐いた。


 《世界の決定錯誤を検知》

 #54へ続く     

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ