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#52 答えの行き先

 #52 答えの行き先


 第三座標は、逃げ場ではなかった。


 走れば走るほど、地面は形を変えた。


 そこは“世界の裏”ではなく、“世界の間”だった。


 境界の残響。

 観測の抜け殻。

 決定の手前。


 それらが剥き出しのまま、空間を構成していた。


 少女は、息を切らしながら問いかけた。


「……ここ……最初から……あったの……?」


 ニカは、横目で周囲を見回す。


「……違う」


「……もともとは“選ばれなかった場所”だった」


 少女の眉が揺れる。


「……選ばれなかった……?」


 ニカは頷いた。


「……地上にも、アガルタにも割り当てられなかった領域」


「……だから、未定義のまま放置されてた」


 良太は、足元を眺めた。


 砂にも、金属にも、光にも似ていない。


 触れた瞬間、

 何かの可能性が数秒だけ形を持ち、すぐに溶けた。


「……何でもありってことか?」


 ニカは首を振った。


「……“何でもあった”場所」


「……でも今は、削られてる」


 少女は、気づいた。


「……追ってる光が……削ってる……?」


 良太が短く息を飲む。


 ニカは肯定した。


「……世界は、未定義を許さないから」


 第三座標の空が震えた。ノイズ混じりの声が重なる。


 《未定義領域→決定工程へ移行》


 《観測対象:“名を持たない者”優先》


 少女の体が一瞬だけ止まる。


 良太は、迷いなく少女の腕を引いた。


「……止まるな」


 少女は震える声で問う。


「……“名を持たない”って……私……?」


 ニカがはっきり言う。


「……名前は奪われた」


 少女の目に、怒りとも悲しみとも違う感情が揺れた。


「……じゃあ……私……」


 次の言葉は震えていた。


「……生きてなかった……?」


 良太は立ち止まった。


 少女も、ニカも驚いた。


 良太は少女に向き直る。


「……逆だろ」


 少女は瞬きをする。


「……逆……?」


 良太は、一拍置いて言った。


「……消されなきゃいけないほど“生きてた”んだよ」


 少女は、息を吸いそこねた。


 ニカは、ほんの短い時間だけ微笑した。


 だが光は容赦しなかった。


 《決定工程:開始》


 第三座標の空が裂けるように開き、光が“線”ではなく“文”として降りてきた。


 《未登録個体を命名工程へ移行》

 ◇

 少女は両耳を押さえた。


「……名前を……つけられる……!」


 ニカは叫ぶ。

 ◇

「……逃げて!!」


 三人は再び駆け出す。


 観測の光は追う。

 定義の光は刻む。

 第三座標は削れる。


 少女は涙を滲ませながら声を張った。


「……名前って……そんなに……!」


 良太は吐き捨てる。


「……名前は……世界の側にとっては“終わり”だ」


 少女は震える。


「……私にとっては……?」


 ニカが、息を切らしながら答えた。


「……始まりだよ」


 

 第三座標の底から、

 低い響きが返ってきた。


 《選択を検知》


 《決定工程:一時停止》


 光が止まる。


 良太は息を呑む。


 ニカは震える声で言う。


「……今……私たちが……選んだ……?」


 少女はうつむいたまま呟く。


「……名前……いらないわけじゃない……」


「……でも……決められるのは……嫌……」


 音が消えた。


 第三座標が、

 少女の言葉を内部に落とした。


 《選択:受理》


 《決定:未確定保持》


 《名前工程:保留》


 光が一段階引いた。


 三人は、ただ立ち尽くした。


 世界はまだ終わっていない。だが決定は、後回しにされた。その猶予は――ほんの少し。


 遠くで声がした。


 観測者は、静かに告げた。


「……第三座標は……問いを保存した……」


「……ならば次は……答えの行き先だ……」


 #53へ続く

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