#48 隔離という名の保護
#48 隔離という名の保護
世界は、混乱を嫌う。
だからまず――
守るふりをして、切り離す。
光議会・主制御層。宣告は、短かった。
《隔離空間起動》
《対象:未命名個体》
《優先度:最高》
「“保護”として扱え」
誰かが言う。
「敵対存在から遠ざけろ。感情位相を遮断し、自我形成を遅延させる」
それは、
あまりに整った言葉だった。
誰も、“本人の意思”には触れない。
《隔離空間、展開》
現実世界。
少女の足元から、光の円が静かに広がる。
音はない。痛みもない。
ただ――
距離だけが、生まれる。
「……なに……?」
少女が、戸惑う。
ニカが、即座に察した。
「……離される……!」
床が、透ける。
世界が、ガラス越しになる。
「……待って……!」
少女が、手を伸ばす。
だが、指先は触れない。
「……大丈夫」
ニカは、必死に声を届かせる。
「……隔離は……完全じゃない……!」
良太も、叫ぶ。
「……名前を……急ぐな……!」
少女は、涙を浮かべながら頷いた。
「……分かってる……」
「……分かってる……けど……」
光が、さらに濃くなる。
「……怖い……」
その言葉に、ニカの胸が締めつけられた。
「……怖くていい……!」
「……それは……あなたが……ちゃんと“在る”証拠だから……!」
次の瞬間。
隔離空間が、完全に閉じる。
少女の姿が、白い光の向こうへ消えた。
静寂。
良太は、拳を強く握った。
「……守るって……こんなやり方かよ……」
ニカは、歯を食いしばる。
「……でも……完全に切れてない……」
「……まだ……感じる……」
胸の奥。かすかな“揺れ”。
それは、隔離の中でも消えなかった。
――同時刻。
隔離空間・内部。
そこは、何も起きない場所だった。
壁は柔らかい光。床も、天井もない。
時間の流れも、曖昧。
少女は、膝を抱えて座っていた。
「……ここ……夢……?」
返事はない。
だが――完全な孤独ではなかった。
(……いる……)
誰かが、遠くで“見ている”。
そして。
白い空間の端が、わずかに歪んだ。
「……やはり……隔離されたか……」
低く、懐かしい声。
少女は、顔を上げる。
そこにいたのは――観測者の残滓。
完全ではない。だが、確かに“誰か”。
「……あなた……」
「私は……もう、外側にはいない存在だ」
観測者は、ゆっくりと近づく。
「……だが……隔離の内側には……まだ入れる」
少女は、震える声で聞いた。
「……私……どうなるの……?」
観測者は、少しだけ目を伏せた。
「……世界は…君を“未完成”のまま保管しようとしている」
「……決めさせないために」
少女の指が、ぎゅっと握られる。
「……それ……やさしいの……?」
観測者は、答えなかった。
代わりに、ゆっくりと言う。
「……だが……完全には……成功しない」
「……なぜ……?」
「……君は……すでに……拒否を覚えた」
その言葉に、
少女の胸が小さく震えた。
「……拒否……」
「……それは……世界の外から来る力ではない」
「……君の……内側だ」
観測者は、静かに続ける。
「……ニカと良太は……境界を越えた」
「……だが……君は……名前を越える存在になる」
少女は、目を見開いた。
「……名前を……越える……?」
観測者は、かすかに微笑む。
「……名付けられる前に……自分を知る者は……観測できない」
その瞬間。
隔離空間の壁に、細い“ひび”が走った。
光議会・主制御層。
警告音。
〈隔離安定度:低下〉
〈原因:未定義自己反応〉
「……何だ……これは……」
誰かが、呟く。
「……彼女には……何も教えていないはずだ……」
だが――
世界は知らなかった。
拒否は、教えられるものではない。
それは、
誰かに“守られた”瞬間に、自然に生まれる。
ニカと良太は、遠く離れた場所で、同時に胸を押さえた。
「……今……揺れた……」
「……ああ……」
二人は、確信する。
――まだ、繋がっている。
だが同時に。
光議会は、次の手段を選び始めていた。
《隔離失敗時対応》
《“帰還強制”発動準備》
それは、優しさを完全に排除する処理。
観測者は、隔離空間で、小さく呟いた。
「……急げ……」
「……世界が……本気になる前に……」
#49へ続く




