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#43 共鳴…始まりの合図

#43 共鳴…始まりの合図

 

 彼女は、確信してしまった。

     

 名前は、まだ伏せられている。  だが、それは隠すためではない。  本人が、まだ自分を定義できていないからだ。

     

 地上・関東圏郊外。小さなアパートの一室。

 少女は、机に向かって座っていた。宿題のノートは開いたまま、文字は、もう何十分も書き足されていない。

     

 ――静かすぎる。

     

 耳鳴りではない。音が消えているわけでもない。

 ただ―― 世界の“輪郭”だけが、やけに近い。

     

 窓の外。夕焼けに染まる電線。  遠くの交差点の信号音。

 それらが、「ここにある」と主張しすぎている。

     

 少女は、ゆっくりと手を伸ばした。

     

 ――触れられる気がした。

     

 もちろん、何もない。  だが、その瞬間――

     

 胸の奥が、熱を持った。

     

 (……これ……)

 歩道橋で感じたものと、同じだ。

     

 理由のない温かさ。 理由のない切なさ。

 誰かを想っている“途中”の感情。

     

 (……私のじゃない……)

     

 だが、それは否定できなかった。

 確かに、 今の自分の中に存在している。

     

 ――共鳴。

     

 その言葉が、頭に浮かんだ。

     

 誰に教わったわけでもない。だが、不思議としっくり来た。

     

 少女は、深呼吸をする。

 逃げるべきか。  無視するべきか。

     

 ――無理だ。

     

 もう、知ってしまった。

     

 夜。

 夢の中で、彼女は“場所”を見る。

     

 白い。だが、眩しくない。

 境界のようでいて、どこにも属していない空間。

     

 そこに―― 二つの人影が立っている。

     

 少年と、少女。

 手を取り合っている。

     

 (……あ……)

     

 目が、合った。

     

 その瞬間。

     

 良太は、はっきりと感じた。

     

 「……見られてる」

     

 ニカも、同時に理解した。

 (……“届いた”……)

     

 だが、これは―― 侵入ではない。

 干渉でもない。

     

 “重なってしまった”だけだ。

     

 夢の中。

 少女は、声を出そうとして―― できなかった。

     

 言葉は、まだ許可されていない。

     

 だが、感情だけが、溢れるように伝わる。

     

 ――怖い。――でも、知りたい。 ――これは、何?

     

 ニカは、そっと目を伏せた。

     

 「……まだ、早いよ」

     

 良太は、拳を握る。

 (……でも……)

     

 「……もう、“一人目”じゃない」

     

 夢は、そこで途切れた。

     

 少女は、飛び起きる。

 心臓が、早鐘を打っている。

     

 「……夢……?」

     

 だが、違う。

     

 手のひらが、温かい。

     

 まるで、誰かの手を、握っていた後みたいに。

     

 その頃――

     

 地上・関東広域観測センター。

 《位相雑音:増幅》 《感情反射:局所集中》

 アラートが、静かに灯る。

     

 「……特定できました」

 解析官が言う。

     

 「……“受信側”です」

     

 「年齢?」

 「……十代」

     

 「単独?」

 「……はい。今のところは」

     

 沈黙。

     

 「……保護対象か?」

 誰かが、問いかける。

     

 スーツの男は、即答しなかった。

     

 「……まだだ」

     

 「だが――」

     

 彼は、静かに続ける。

     

 「“二例目”が現れた瞬間、 世界は、偶然を言い訳にできなくなる」

     

 境界層。

 ニカは、良太を見つめる。

     

 「……ねえ、良太」

     

 「……うん」

     

 「……次は……」

     

 言葉が、少しだけ震える。

     

 「……守るだけじゃ、足りないかも」

     

 良太は、ゆっくり頷いた。

     

 「……向き合う、ってことか」

     

 ニカは、静かに笑った。

     

 「うん……観測される覚悟」

     

 遠くで、 新しい“共鳴点”が、小さく、しかし確かに灯る。

     

 それは、始まりの合図だった。

 ――恋は、

  二人だけのものではなくなった。

                       #44へ続く

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