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#32 最古の恋の観測者

#32 最古の恋の観測者

                    同時期…二人の周りが白い靄に包まれ視界が、ゆっくりと像を結び直す。

 良太とニカは、自分が“立っている”のか何処にいるのか、分からなかった。

 足元の感覚は曖昧で、重力も方向を失っている。

 だが――

 視線だけは、はっきりとあった。

 前方。

 いや、距離という概念の外側。

 そこに、人の形をした何かが立っていた。

 年齢も性別も定まらない。

 だが輪郭は人間で、声もまた、人のものだった。

 「――初めてだな。

  “完全接触後”に、対象がこちらを認識したのは」

 ニカが、はっと息を呑む。

 「……あなた……誰……?」

 存在は、少し首を傾けた。

 「呼び名はいくつもある。

  地上では“観測者”。

  アガルタでは――」

 一瞬、言葉が選ばれる。

 「光喪こうそうの残響と記録されている」

 ニカの胸が、強く脈打った。

 祖母の手帳。

 消された頁。

 “恋によって光を失った者”。

 「……嘘……」

 観測者は、静かに否定した。

 「嘘ではない。

  ただ、未完だ」

 そして、良太を見る。

 その視線は、冷たいはずなのに――

 どこか、優しさと痛みを含んでいた。

 「千間良太。

  お前の祖父、千間良一は――

  私の…良一の“心の片割れ”だった」

 世界が、音を失った。

 「な……に……?」

 「正確には、

  我々は“個”ではなかった」

 観測者の輪郭が、わずかに揺れる。

 そこに、二つの記憶が重なって見えた。

 井戸の底。

 声だけの夜。

 光の向こうで笑う少女。

 「地上と地底。

  最初に完全共鳴しかけた二人は、

  世界そのものに分解された」

 ニカの喉が震える。

 「……おばあちゃんは……?」

 「生きた。

  だが“恋”を奪われ、

  記憶を削られ、

  世界を信じる力を失った」

 そして――

 「良一は、記憶を削られる直前に、この空間に心の片割れだけ残し、地上に引き戻された…だか、心の片割れだけ分解されきれず“観測機構”として存在した。」

 良太は、理解してしまった。

 だからこの存在は、

 感情を持たず、

 だが完全にも捨てきれず、

 ただ“見る”ことしかできなかったのだ。

 「……ずっと、俺たちを……?」

 「観測していた。

  干渉せず、導かず、

  ただ結果だけを記録するために」

 ニカが、震える声で問いかける。

 「じゃあ……

  私たちが会ったのも……

  恋をしたのも……」

 観測者は、初めて沈黙した。

 そして、ゆっくりと言う。

 「予測はしていた。

  だが――」

 その声が、わずかに揺れた。

 「再び“選ばれる”とは思っていなかった」

 光が、周囲で不安定に明滅する。

 「お前たちは、

  世界が最も恐れ、

  同時に最も求めていた事象だ」

 ――恋による、世界越境。

 「止めるべきだった。

  だが私は、止められなかった…」

 良太は、一歩前に出た。

 「……それで?

  俺たちは、どうなる?」

 観測者は、まっすぐに二人を見る。

 「選択は、既に観測不能領域に入った」

 つまり――

 世界の法則が、二人を測れなくなった。

 「もう、誰にも止められない。

  光議会にも、

  地上の監視網にも、

  そして――私にも」

 ニカは、良太の手を強く握った。

 恐怖はある。

 だが、それ以上に――確信があった。

 「……なら」

 良太が言う。

 「俺たちは、

  世界の“続き”になる」

 観測者は、目を閉じた。

 それは祈りの仕草に、よく似ていた。

 「……では…記録を更新しよう」

 光が、再び動き出す。

 これは破滅か、進化か。

 まだ誰にも分からない。

 ただ一つ。

 観測者は、もう“外側”にはいない。

 恋を観測していた存在は、

 ついに――

 恋に“巻き込まれた”。

#33へ続く

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