#18 監察官レオン ― 観測者という名の罪
#18 監察官レオン ― 観測者という名の罪
光議会中央塔・最上層。
レオンは、ガルドの前にひとり立っていた。
円形の天蓋から落ちる光は柔らかいはずなのに、
今夜は刃物のように鋭く感じられる。
「監察官レオン」
ガルド声が、静かに響いた。
「命令だ。
ニカ・エルフェリアと地上人センマ・リョウタ――
両者の共鳴現象を観測せよ」
レオンは即答しなかった。
観測。
拘束でも、抹消でもない。
だがそれは――見逃すこととも違う。
「……どこまで、ですか」
「干渉は禁止だ。
彼らが何を選び、どこへ至るか。
その“結果”のみを報告せよ」 「結果が……世界の不安定化を招いた場合は?」
ガルドは、ほんの一瞬だけ目を伏せた。
「そのときは――改めて判断する」
その言葉が意味するものを、レオンは理解していた。
――壊れた瞬間に、全てを切る。
「……了解しました」
そう答えながら、胸の奥が重く沈む。
これは命令だ。
だが同時に、責任の放棄でもある。
中央塔を出たあと、
レオンはひとり、光導路の端に立ち止まった。
都市の光が、いつもより不規則に揺れている。
(共鳴が……続いている)
ニカの顔が、脳裏に浮かぶ。
怯えながらも、真っ直ぐに言葉をぶつけてきた少女。
掟よりも、想いを選ぼうとした目。
――あのとき。
「どうして……俺じゃない……」
思わず零した言葉を、レオンは今も後悔していた。
彼女を想っていた。
それは、否定できない。
だがそれ以上に――
彼女が失われることを、恐れていた。
監察端末を起動する。
光板に映し出されたのは、
“共存空間”と名付けられた未分類領域。
地上とアガルタの層が、
互いを傷つけずに、重なっている。
「……美しいな」
思わず、呟いていた。
理論では説明できない。
だが、確かに“安定”している。
(これを……壊せと?)
シラの記録が、頭をよぎる。
――光喪の恋。
世界を壊すとされた感情。
だが今、目の前にあるのは――
秩序を乱す破壊ではなく、
秩序そのものを書き換えようとする兆しだった。
レオンは、報告用ログを開く。
本来なら、危険度を最大に設定すべき数値。
だが、指が止まった。
「……未確定。
経過観測を要す」
そう入力し、送信する。
それは、命令違反ではない。
だが――時間を稼ぐ行為だった。
端末を閉じ、レオンは夜空を見上げる。
星のないアガルタの空。
それでも、どこか遠くで――
人の心が、光を生んでいる。
「……ニカ」
守りたい。
だが、縛りたくはない。
監察官としても、
一人の人間としても――
彼は今、境界に立っていた。
観測者という名の、
最も卑怯な位置に…。 #19へ続く




