#17 光議会、異常を感知する
#17 光議会、異常を感知する
アガルタ中枢区画――光議会観測室。
無数の光板が円形に並ぶその空間で、 ひとつの波形だけが、静かに“ずれて”いた。
「……再確認を」
長官ガルトの声は低く、抑えられている。
観測官が、震える指で操作を続ける。
「数値は正確です。 共鳴値、臨界を超過……しかし、崩壊は起きていません」
「崩壊しない……?」
別の議員が、困惑を隠さず口にした。
「あり得ない。 境界干渉が起きれば、必ず拒絶反応が出るはずだ」
光板に映るのは、井戸付近―― だが、表示されているのは“穴”ではなかった。
一定範囲だけが、安定して発光している。
「……空間が……できている」
観測官が、かすれた声で言う。
「重なり合った層が、固定化されています。 我々の記録には――存在しない現象です」
沈黙が落ちる。
ガルドは、ゆっくりと立ち上がった。
「制御されている、ということか?」
「……はい。 しかも、自律的に」
「誰が?」
観測官は、視線を落とした。
「……感応体、ニカ・エルフェリア。 そして――地上人、センマ・リョウタ」
名前が出た瞬間、空気が凍る。
「やはり……」
「光喪の恋の再来だ」
誰かが、呟いた。
ガルドの手が、わずかに震えた。
「過去の記録では、同様の共鳴はすべて――」
観測官
「崩壊、もしくは……記憶消去で終わっています」
「だが今回は……壊れていない」
光板の中央で、淡い円が脈打つ。
破壊の兆候は、ない。 むしろ、周囲の光は整っている。
「……危険なのは、崩壊ではない」
ガルドは、静かに言った。
「安定してしまうことだ」
議員たちの表情が、強張る。
「この“部屋”が拡張すれば……」
「地上とアガルタの境界が、意味を失う」
「掟が、理論が、秩序が――」
「感情で書き換えられる」
その言葉に、誰も反論できなかった。
ガルドは、決断を下す。
「監察官レオンを動かせ」
「……拘束、ですか?」
「いいや」
一瞬、ためらい。 そして――
「観測だ」
その判断に、観測室がざわつく。
「観測……?」
「破壊も、記憶消去も行わない。 ただ――見届ける」
ガルドは、光板を見つめ続ける。
「この“恋”が、
世界を壊すのか……
それとも――」
言葉を、飲み込む。
「我々の誤りを、証明するのか」
一方その頃。
地上――旧校舎裏の井戸。
良太は、井戸の縁に手を置き、 微かな熱を感じていた。
そこには、何も見えない。 だが――
確かに、“部屋”は残っている。
「……見られてるな」
そう呟いて、良太は笑った。
怖くは、なかった。
これは、隠れるべき奇跡じゃない。
世界ごと、試されているだけだ。
#18へ続く




