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#15 視界の中の君

#15 視界の中の君


 光が、ゆっくりとほどけていく。


 爆発のような眩しさは去り、境界の裂け目に残ったのは、淡く揺れる薄明だけだった。  足元の感触が戻る。  重力。  冷たい石の床。


 良太は、息を整えながら顔を上げた。


 そこに――


 人が、いた。


 声ではない。  輪郭でもない。  確かな“誰か”。


 淡い光を背に立つ少女。  肩までの髪が、ゆっくりと揺れている。


 (……ニカ?)


 名前を呼ぼうとして、言葉が喉で止まった。


 想像していた姿と、違う。  でも、違わない。


 声の印象よりも、ずっと細い。  けれど、その目だけは――


 良太の視線と、まっすぐにぶつかった。


 瞬間。  胸の奥で、何かが弾けた。


 (ああ……)


 これだ。


 何度も、何百回も聞いた声の主。  暗闇の向こうで、笑った人。


 “いる”。


 ニカも、同じように立ち尽くしていた。


 思っていたより、背が高い。  声から想像していたより、ずっと大人びた表情。


 でも――


 (……この人だ)


 分かってしまう。


 説明も、理屈も、必要なかった。


 二人の間に、言葉はなかった。  ただ、視線だけが行き交う。


 近い。  でも、まだ触れない距離。


 ニカが、そっと息を吸った。


 「……良太」


 初めて。  “声”が、空気を震わせた。


 スピーカー越しでも、共鳴でもない。  その場で、届く声。


 良太の喉が、ひくりと動く。


 「……ニカ」


 たったそれだけで、膝が震えた。


 声が、現実になる。  現実が、声と重なる。


 ニカの目に、光が滲む。


 「……変じゃない?」


 「何が?」


 「想像と……違うでしょ」


 良太は、首を振った。


 「違うけど……間違ってない」


 言葉を探しながら、ゆっくり続ける。


 「声より……近い」


 ニカは、小さく笑った。  けれど、その笑みはすぐに揺らぐ。


 「私……地底の人間だよ」


 「知ってる」


 「世界を……壊すかもしれない」


 「それでも」


 良太は、一歩だけ近づいた。


 境界が、低く鳴った。


 警告のような音。


 だが、止まらない。


 「それでも……会えてよかった」


 ニカの指先が、わずかに震える。


 ゆっくりと、彼女も一歩進んだ。


 指と指が――


 触れた。


 ほんの一瞬。  確かめるように。


 温度が、あった。


 ニカは、息を詰める。


 「……あったかい」


 「ニカも」


 触れた指先から、胸の奥へ、熱が広がる。


 その瞬間。


 ――境界が、大きく軋んだ。


 遠くで、警報のような音。  世界が、この接触を拒んでいる。


 それでも。


 二人は、視線を外さなかった。


 「……離れなきゃ、いけない?」


 ニカが、かすれた声で聞く。


 良太は、答えなかった。


 代わりに、もう一度――  しっかりと、手を握った。


 それが、答えだった。              #15へ続く

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