#14 君の声、君の想い
#14 君の声、君の想い
――地上
旧観測坑の入口は、学校の裏山のさらに奥にあった。 使われなくなったフェンスの隙間、草に覆われたコンクリートの蓋。
「……こんなとこ、誰も気にしないよな」
良太は宮坂先生から借りた古地図を見比べる。 確かに印はここにある。
蓋の中央には、錆びた金属板。 そして――見覚えのある、淡い光の染み。
「ルミナ……?」
ポケットから取り出した鉱石の欠片が、かすかに震えた。
良太は息を整え、蓋に手をかける。
重い。 だが、持ち上げた瞬間――
ザン……ッ
耳鳴り。 視界が一瞬だけ白くなる。
(……来てる)
井戸のときと同じ。 いや、もっと近い。
蓋の下は、垂直に落ちる暗い縦穴だった。 古い梯子が壁に打ち付けられている。
「……戻れなくなるかもな」
そう呟いて、良太は降り始めた。
---
――地底
光喪区域に、警戒光が走った。
「見つかった……!」
セリアが振り返る。
遠くで、白い装甲の光議会兵が動いている。 監視網を完全に避けることは、やはりできなかった。
「ニカ、急いで!」
ニカは頷き、光碑の奥へと走る。
その先にあったのは―― 崩れかけた円形の広間。
中央には、深く穿たれた縦の裂け目。 まるで、大地に開いた“傷”。
祖母の手帳の図と一致していた。
「……ここが」
“声の向こう側”ではない。 “世界の境界”そのもの。
ニカは裂け目に近づき、胸の奥に意識を集中させる。
声を探すんじゃない。 想いを、投げる。
「良太……」
抑制具が、強く赤く光った。
「っ……!」
痛み。 だが、ニカは引かなかった。
「来て……! 私、ここにいる……!」
---
――地上
観測坑の中は、想像以上に深かった。
湿った空気。 古い金属の匂い。
良太は梯子を降りながら、胸の鼓動が異様に速いのを感じていた。
(下だ……もっと下)
ポケットのルミナ鉱石が、はっきりと光り始める。
その光に導かれるように、足を進めた。
やがて、足元に床が現れる。
そこは、円形の空洞だった。 中央に――縦に伸びる、黒い“裂け目”。
良太は息を呑んだ。
「……同じだ」
井戸の奥で、ニカが語っていた光景。 地底の“割れ目”。
胸が、焼けるように熱くなる。
「ニカ……!」
声を出した瞬間。
――空間が、震えた。
---
――地底
裂け目の奥から、微かな“音”が返ってきた。
言葉じゃない。 でも、確かに――呼ばれた。
「……今!」
ニカは抑制具を、力任せに引きちぎった。
バチッ!!
光が弾け、腕輪が床に転がる。
「ニカ!!」
セリアの叫び。
だが、もう止まれない。
ニカは裂け目に両手を伸ばし、叫んだ。
「良太!! ここに……私は、ここにいる!!」
---
――地上
良太の視界が、歪んだ。
裂け目の奥で、白い光が渦を巻く。 聞こえた。
はっきりと。
「――良太!!」
「ニカ!!」
叫び返した瞬間、足元の床が光に包まれた。
身体が、引き寄せられる。
「っ……!」
落ちる感覚じゃない。 “引き抜かれる”。
世界が裏返る。
---
――地底/地上・境界
光が、爆発した。
アガルタ全域のルミナ鉱が、一斉に明滅する。 地上では、旧観測坑周辺の地面が、低く唸った。
光議会の塔で、警報が鳴り響く。
「境界干渉レベル、臨界突破!!」
「座標を特定しろ!」
だが、もう遅い。
裂け目の中央で―― 二つの影が、光の中で向き合った。
伸ばされた手。 重なりかけて、まだ触れない指先。
それでも――
「……やっと」
「……会えた」
声は、もう途切れなかった。
だが、次の瞬間。 境界が、軋みを上げる。
世界が、この出会いを――許すかどうかは、まだ分からない。
#15へ続く




