#13 交差する決意 ― 地上と地底
#13 交差する決意 ― 地上と地底
――地上
井戸の前から、しばらく動けなかった。
声は消えた。 光も、揺れも、もう何もない。
それでも良太は、井戸の縁に手を置いたまま、目を閉じた。 耳じゃない。 胸の奥で、まだ何かが続いている気がした。
「……探すって言っただろ」
誰に向けた言葉でもない。 けれど、確かに“届いている”感覚があった。
翌日。 良太は宮坂先生の理科準備室を訪ねていた。
「先生……あの井戸、封印されてるって言いましたよね」
宮坂は一瞬、表情を引き締めた。
「ええ。正確には“完全には閉じられていない”。
だからこそ、危険なの」
「……開ける方法、ありますか」
沈黙。
だが、先生は否定しなかった。
「千間くん。
あなたが何を見て、何を信じているのか……
全部は聞かないわ」
机の引き出しから、古い金属製のケースを取り出す。
「でもね。
この学校の地下には、“旧観測坑”があるの。
井戸と同じ年代の、封鎖された縦穴よ」
良太の息が詰まる。
「……そこが?」
「井戸が“声の門”なら、
観測坑は“身体の門”だった可能性がある」
良太は、拳を握った。
――行ける。 まだ、道はある。
---
――地底
ニカは、暗い光導路を走っていた。
共鳴が断たれてから、時間の感覚が曖昧だ。 逃げ続けているはずなのに、胸の奥は妙に静かだった。
「……ここなら」
セリアが足を止める。
そこは、アガルタ最下層―― かつて“光喪区域”と呼ばれ、都市から切り離された場所。
光は弱く、壁のルミナ鉱もひび割れている。 だが、その分、議会の監視網は薄い。
「ここは……」
「ニカのおばあちゃんの記録にあった場所だよね」
セリアが言う。
「“地上と地底が、最も近づいた地点”」
ニカは頷いた。
祖母シラの手帳。 その最後のページに、消えかけた図があった。
>《声が失われた後、
それでも“会おうとした者たち”のための場所》
ニカは、胸に手を当てる。
声はない。 でも――呼ばれている。
「良太……」
名前を口にしただけで、胸が熱くなった。
「……絶対、会う」
---
――地上
放課後。 良太は竹内を呼び止めていた。
「なあ、竹内」
「ん?」
「……俺さ。
ちょっと、しばらく学校サボるかもしれない」
竹内は一瞬きょとんとし、それから真顔になった。
「マジで言ってんのか?」
「マジだ」
理由は言えない。 でも、目だけで伝えた。
竹内は深くため息をついた。
「……分かった。
でも、戻ってこいよ。
変なとこで死ぬな」
「死なねぇよ」
「約束だぞ」
その言葉に、良太は一瞬だけ笑った。
――約束。 もう一つ、守るべき約束がある。
---
――地底
ニカは、光喪区域の奥で立ち止まった。
古い光碑。 半ば崩れ、文字も読めない。
だが、その下に―― 微かな“揺れ”があった。
「……来てる」
セリアが息を呑む。
「地上から?」
「うん。
声じゃない……でも、確かに」
ニカは光碑に手を当てる。
その瞬間、光が、ほんの一瞬だけ強く脈打った。
――同じ時刻。
地上。 旧観測坑の入口で、良太もまた、胸を押さえていた。
理由は分からない。 だが確信していた。
二つの世界が、同時に“動いた”。 #14へ続く




