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明日も一緒に帰れますように

掲載日:2025/11/14

 ーーうわぁーザザ降り。


 ひとしきり勉強してさあ帰ろうと思ったらえらい雨だ。

 今日そんな予報出てたっけか? ノーアンブレラなんだが。


「おーまた雨か」

「あ、玉山」


 なんだかわざとらしい口ぶりの玉山の手にはしっかりと傘。


「もしや傘なし?」

「ご名答」

「ふーん」


 どうしようかと考える私の横で玉山はその場を動かない。


「入ってく?」

「へ?」

「へって。帰らねえの?」

「帰りますです」

「傘なしで?」

「いやそこをどうしようかと」

「じゃあ入ってけよ?」

「……へ?」

「お前わざと言ってる?」


 最初は本気だったが二度目でようやく察した。

 え、こいつそんなナイスガイだったの?


「いいの?」

「困ってるやつ見捨てて一人で帰るほどクズじゃねえよ」

「いや結構そういうクズいると思うけどね」


 お言葉に甘えて玉山の傘に入らせてもらう。


「でかいね。これ二人用?」

「そんな傘ねえだろ。いやあるのか?」

「さあ。でも一人で差すにはちょいはずいぐらいにはでかいね」

「やっぱお前濡れて帰れよ」

「もしかしてその恥ずかしさを覆い隠す為に私を引き込んだってわけ?」

「なんで尚も攻め込んでくんだよ」


 言いながら玉山は私を追い出さず歩幅も変えない。マジでいい奴。


「でもなんか意外」

「何が?」

「玉山っていい奴だね」

「ギリギリ失礼じゃね?」

「いやそうじゃなくて、なんか他人の事どうでもいいタイプそうって勝手に思ってたから」

「ちゃんと失礼じゃね?」

「でこんな事言われてるのに全然怒らないし」

「ぎりリカバー出来てねぇからな」


 口では悪態つきながら私はわりとこれでも玉山にちょっと、いやだいぶキュンときていた。

 教室の玉山は別に友達がいないわけじゃないけど割と静かで目立たないし、でも見た目そんな悪くもないから玉山の事気になってるって女子がいる事は小耳に挟むぐらいのレベルだし、そんな感じの玉山がさらっと傘に入れて一緒に帰ってくれてる現実がちゃんと普通に割と嬉しい。


「勉強してたん?」

「そ」

「真面目だな」

「玉山は?」

「勉強してた」

「真面目じゃん」

「ってか図書室いたんだけど」

「え、マジ? 全然気付かなかった。存在感出してよ」

「出す意味ねぇだろ勉強中なんだから」

「存在感出てるわーって思うじゃん」

「思うからなんなんだよ」

「勉強いい感じ?」

「ぼちぼち」

「どこ目指してんだっけ?」

「お前と同じ明峰」

「え、マジ? ってか私玉山に言ったっけ?」

「言ったよ」

「そだっけ? どんな感じ?」

「ぼちぼち。水木は?」

「まずまず」

「ぼちぼちとまずまずだったらどっちが上なんだろうな」

「さあ」

「受かったら大学でもよろしくな」

「う、うん」

「なんだよイヤなのかよ」

「イヤなわけないじゃん」

「そっか良かった。水木の事好きだから安心した」

「ひょえーーーー」


 何て言ったこいつ今?

 意表をつかれてる間に横で玉山爆笑。


「ははははは。マジ何度見てもおもしれえ」

「わ、笑うな!」


 絶対マジ今フルレッドフェイス。今ならゴジラ並の熱光線吐き出せるぐらい激熱。

 なになんなの? 私の知ってる玉山じゃないんだけど? でも知らない玉山過ぎてギャップえぐくてちょっともう無理かも。


「いやてか待って」


 そうだよ待ってよおかしいよ。

 おかしい。絶対におかしい。この玉山はおかしい。

 こんなの玉山じゃない。いや玉山の事ちゃんと知らないしそんなちゃんと喋ったこともないし、いやだからこそめちゃくちゃに色々とおかしい。


「やっぱ言ってないよ」

「何が?」

「明峰。玉山に言ってないよ」

「言ったって」

「言ってないって。言ってたかもだけど玉山には言ってないよ」

「言ったよ。俺に向かって言ったよ」

「っていうか、何度見てもってどういう事よ?」

「だから何度見ても面白いんだって。ひょえーって何だよ」


 ほらおかしい。たまたま聞いたならまだ分かるけど、玉山にダイレクトで明峰目指してるなんて絶対に言ってない。ひょえーだなんて輪をかけにかけて言ってない。玉山にどころか生きてきて今まで一度もちゃんとひょえーだなんて言ったことない。


「玉山」

「ん?」

「これ何度目?」

「あー十回目ぐらい」

「そんなさらっと答えちゃう?」

「嘘つく意味ねえもん」

「まぁ確かにねー」


 でそこから玉山のループについて詳細を教えてもらう。

 なんでか分からないけど勉強し終えて帰ろうと思ったら雨降っててそこに私がいて私と一緒に帰って途中でじゃあねって別れて家に着いたと思ったらまた勉強終わりの図書室に戻ってきたという感じらしい。


「困ったね」

「困ったよ。でも何回も水木と一緒に帰れてそれは最高に楽しいよ」

「ひょえーって言わすな」

「言わなきゃいいだろ」


 またも玉山爆笑。


「ちなみに私何回ひょえーって言ったの?」

「五回目ぐらいから告りはじめたから五回以上は聞いてる」

「その告白はループ脱出の糸口の為に言ってるとかではなく?」

「ちげぇよ本気。抜けられないなら言えなかった気持ち言ってやろうと思って」

「やけくそではなく?」

「やけくそではない」

「で、私は玉山の告白に対してどう答えたわけ?」

「それはお前の気持ちが知ってるんじゃないのか?」


 確かにぃ。


「オッケーか」

「ありがたい事に。でもリセットされてるから一日も付き合えてない」

「えぐ切ないじゃん張り裂けるわ」

「張り裂けても元通りだけどな」


 かわいそうな玉山。カップル確定なのにデートもできず閉じ込められてる玉山。


 ーーでも待って。これって私も結構辛くない?

 

 私はループに囚われず明日を迎える。

 でも明日そこにいる玉山は私に告ってくれた玉山じゃない。

 今ここに居て私と話している玉山は明日にはいない。


 嫌だ。この玉山と一緒に未来に行きたい。

 この玉山と一緒にこれからも一緒に普通に学校から帰ったりしたい。


「ループ、抜けなくちゃ」

「どうやったら抜けれるかね?」

「あのさ」

「ん?」

「十回とも私と一緒に帰ってるの?」

「うん」


 ーーそれじゃね?


 私は足を止める。雨が身体に当たる。冷たい。玉山の優しさが私を覆ってくれてたと肌で感じるけどすぐに玉山はまた私を傘の中に入れてくれる。


「ダメだよ」

「何が?」

「私と帰るから抜けられないんだよ」

「そうなのか?」

「分かんないけど。試す価値はあると思う」

「でも俺玉山と帰りてぇよ」

「ひょっ……」

「キャンセル出来るのかよそれ」


 あひゃひゃと笑う玉山の笑顔マジかわいいから女子共。


「嘘だよ」

「へ?」

「ループなんてするわけないじゃん」

「は、へ、は、え、へ、へぇ?」

「ちょ、マジやめ」


 息も出来なくなるぐらい笑う玉山にさすがにムカついたのでローキック。


「いいの持ってんじゃん」

「嬉しくないわ」


 馬鹿みたい。マジでバカ。何こいつ嫌い。


「全部嘘ってわけ。最悪」


 傘を飛び出そうとする私を分かっていたかのように玉山にがっと肩を掴まれる。


「お前を好きだってのはほんとだよ」


 さすがにここでひょえーはマヌケすぎるからぐっと飲み込む。


「好きな女雨に濡らしてほって帰るなんてダサいじゃん」


 こいつずるいなずっと。


「悔しいけど、私も好きだわ」


 ありがとうと玉山が笑った。なんかほんとずるい。


「でも今は勉強頑張らないとな」

「そだね」

「合格したらさ、そん時ちゃんとデートしような」

「ん、うんん」


 嬉し過ぎてこんな時どんな顔したらいいか分からないの。

 そしてそのまま玉山は私の家まで送ってくれる。


「じゃあ、また明日な」

「うん」


 ほんの一瞬、ふっと玉山の横顔が寂し気に映った。


“嘘だよ”


 ほんとに? 

 ループしてないよね? 

 ちゃんと明日も今日の玉山と会えるよね?


“おーまた雨か”


 またって何だ?

 わざとらしく私に聞かせるように言ったあの言葉は何だ?

 最初からループを演出しようと思ってわざと言ったからわざとらしく聞こえた?

 それともーー。


「玉山!」


 去っていく玉山に思わず呼びかける。


「明日も私と一緒に帰ろうね!」


 今日の私と今日の玉山で、同じ明日を絶対に迎えたいから。

 玉山は声を出さず、イタズラな笑顔を浮かべながら手を上げて応える。


 ループなんてあるわけない。全部玉山の演出。

 そうであって欲しい。そうであってくれ。


 私は玉山の背中が見えなくなるまで見送った。

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