8.悪役令嬢がいなくなった世界②
【崩れ行く公爵の矜持】
私はいつから間違えてしまったのだろうか。
娘が姿を眩ましてから数日が経ち1通の手紙が届いた。差出人は娘からであった。
日付を見ると娘がいなくなった日だと解る。
娘は用があるからと早くから馬車で出掛けていた。
御者に確認したところ郵便局や新聞社に寄ったようだ。
と言う事はこの手紙はアリシアが消える前に投稿したものだろう。
私はまだこの事態になっても娘から届いた手紙を読むことはしなかった。
だから私はまだ気付かなっかった。私と娘との間には親子の関係はなく娘が私の事をどう思っているのかを。
「あの馬鹿娘は何を考えているのだ。手紙だと?あのような醜聞を世間に知らしめおって!今度はどんな恥の告白なのだ!」
娘の手記が世間に知らされてから王家は慌ただしかった。私も呼び出され事の次第の全てを告げられた時は驚かされた。
娘の手記の通り件の男爵令嬢は純潔ではなかったのだ。
そして、王家はこれが公になると王家の信用が崩れてしまうと言う事で例の令嬢は他のご子息と深い仲になっており、そこで純潔を失ったと言う事とし、ハミルトン王子とそういった行為は認められなかったとするものであった。
私はその内容に承諾した。これを報じられれば娘の手記は間違いとされ娘は王家に謀反を働いた事になってしまう。だが私は娘よりも王家の信用が大事だと選択した。それが公爵家としての矜持だと。
「旦那様、先ずは手紙を読まれて見てはどうでしょうか?もしかしたらお嬢様の居場所が解るかもしれません」
この者は昔からこの家に執事としているものであった。この執事はアリシアとよく話をしていたのを見たことがある。我が馬鹿娘の事が心配なのであろう。
だか、確かに気になる。娘が消える前に何を思っていたのか?最後のあの態度の真実が手紙を見れば解るのではないだろうか。
「くっ、そうだな。親不孝な娘を持つものではないな」
私はブツブツと文句を言いながら手紙を読み始めた。読み続ける毎に手が震えだし最後には涙を流していた。私は力が抜けてしまい娘の手紙をハラリと落としてしまう。
「旦那様、お嬢様の手紙にはなんと書かれていたのですか?」
「・・・」
「旦那様?」
私は執事の問い掛けに答える事が出来ない。なんと説明すれば良いのだろうか。執事は問い掛けても答えない主人から落ちた手紙へと視線を向け手紙を拾い上げた。
「旦那様、失礼しますが読ませて頂きます」
「ああ」
私からの了承を得られると執事が娘の手紙を読み始めた。
『お父様へ
この手紙が届く頃には私はお父様に切り捨てられどこかの離島で強制労働を課せられているかもしれません。離島で私は道具のように扱われ壊れたら捨てられるのでしょう。
ですが、私は気付いたのです。離島での扱われようはお父様から扱われた事と全く変わらないと言うことを。
お父様は仰いましたよね。〖公爵家のために口答えするな〗〖公爵家のために勝手な行動をするな〗〖公爵家ためには自由などない〗
お父様から毎日のように言われておりました。忘れるわけございませんわ。言われながら叩かれた背中の傷が痛みと共に思い出してしまいますから。
ですから私はお父様の道具のように使えなくなったら捨てられる。そして離島に言っても道具のように扱われ使えなくなったら捨てられるのです。ね、お父様、今までの生活と何も変わらないでしょ。
新聞社から私の手記が公表され王家は私の虚偽だと発表するのでしょう。お父様も了承されているのでしょ。娘が偽証罪にされようとお父様は王家にイエスと言うことが公爵の仕事だと考えられておりますから。
私、一つだけ信じられない事があります。お父様と死んだお母様が恋愛結婚だったと言う事が。私には解りませんものお父様の良いところが。お母様に一度教えて頂きましたがお父様から〖君と築き上げた家族を大事にする〗と言われたそうですね。
お父様の家族とは誰の事でしょうか?大事とはどういう意味でしょうか?一つ言える事は私は家族ではなかったと言う事です。
だって私は貴方に大事にされた事も愛された事もありませんから。
ですから、此度の手記や手紙などで〖馬鹿娘〗とかお怒りにならないで下さい。私は貴方に娘として扱われた事はありませんから。貴方に道具として扱われただけです。
ですから道具の扱い方を間違えて怪我をした程度に思って下さい。
最後に私は1つ腑に落ちない事がございます。お父様は毎日私を叩き背中の傷が癒えないくらい後が残ってしまっておりますが将来の王妃がこんな傷を負っている事がお父様にとって正しいことなのでしようか?
私は思うのです。お父様は最初から私を王妃にするつもりはなく切り捨てるつもりであったと。
お父様なのでしょ。オーウッド男爵を裏から操りリーファ令嬢をハミルトン殿下に近付けたのは。
お父様にとって望まれた結果となりどんなに嬉しい顔をしているか見ることは出来ませんが私は先にお母様の所に行くことになるかと思いますので、お父様にされた事を事細かくお母様にお伝えしたいと思います。
公爵様の壊れた道具より』
「ああ、やはりそうでしたか・・・」
ローデンブルク公爵は執事の「やはり」と言う言葉が気になった。
「やはりとはどういう事だ?」
「私はアリシア様との最後の日にアリシア様に『お綺麗です』と申しましたがアリシア嬢は『壊れる道具を綺麗にしても仕方がないのに』と仰りました。
あの時は何を仰られているのか解りませんでしたが、もしかしたらお嬢様はあの日の夜には旦那様から除籍される事を知っていたのではないでしょうか?」
そんな馬鹿な。
だが、確かにアリシアの朝食時の言動、出掛ける時の最後の言葉の全てがそのように考えると辻褄が合う。
「旦那様、私は思い出してしまうのです。
ある日アリシア様が旦那様に婚約を白紙にして欲しいと言われた時の事を。旦那様は公爵家の恥だとお認めになりませんでしたが、それはお嬢様を切り捨てる事より大事だったのでしょうか?」
私はこの公爵家を守らなくては・・・
『家族を大事にする』・・・
確かに私は妻と約束した。
家族?アリシアは?
いや、アリシアは家族だからこそ一番の幸せは第一王子との結婚なのだ。
だが、現状の第一王子を見ると本当にそれが幸せなのだろうか?
幸せとは・・・
後日、私の所に届いた手紙の内容が新聞の一面に載せられていた。
【愚かな王子】
くそ!
アリシアは余計な手記を残してくれた。
アリシアの手記によりリーファは数多の男を虜にする悪女として断罪される事になってしまった。
だが、驚く事にリーファは本当に複数の男性と関係を持っていたのだ。なんて事だ、これでは私はとんだピエロではないか!
父上はリーファと私の関係はなく、私の周辺にいた者と関係を持ってリーファの駒として悪事を働かせた悪女だと公表した。
これにより、アリシアの告白は嘘であるとした。
したのだが、その後に第二の告白文が掲載された。
第二の告白文はアリシアの父親である公爵への文であった。そこに、王家がどう対応するのか、自身の父親がどう対応するのか書かれていた。
こうなると、王家が発表した事の信憑性が疑われる。
第二の告白文が世間に知られてから私の環境は更に悪化した。使用人達との会話は業務だけとなり、父上・母上に会うことがない。
そんな私の元に1通の手紙が届く。
アリシアからだ。
このタイミングで届いたアリシアからの手紙に恐怖を感じなかなか封を切る勇気がわかない。
(!?)
手紙を触ると何か違和感を感じる。
手紙の中に何かが入っている?
これはもしや・・・
私は思う所があり手紙の封を開けた。
私の予想通りであった。
手紙から転げ落ちて来たのは、私がアリシアと婚約を結んだあと直ぐに彼女に送った指輪であった。
『アリシア、君は僕の後ろに着いてくるだけでいい。僕が守ってあげるから安心して』
ハミルトンはアリシアに指輪を渡した時の事を思い出す。そう言えばアリシアは学園に入った当初はこの指輪を着けていた。何時から着けなくなったのであろうか?
そして、アリシアからこの指輪を返して来たと言う事はアリシアは卒業パーティー前には既に私との婚約を諦めていたことになる。
何故?私が捨てられなくてはいけないのだ?
悪いのはアリシアであったはずでは?
ハミルトンはアリシアの事を思い出を思いだそうするもアリシアとの思い出でが幾つもあるがその全ては学園前の思い出ばかりで学園に入ってからのアリシアとの思い出がないことに気付いた。
私は学園に入ってからアリシアと何かしただろうか。
そんなハミルトンはアリシアの手紙が気になって仕方がなくアリシアの手紙を読み始めた。
『ハミルトン様。
ハミルトン様は覚えておりますでしょうか?私達が婚約を結ぶこととなった10年前にハミルトン様が私に下さった指輪の事を。この指輪は私にとって一番の宝でしたが、もういりませんのでお返しします。
ハミルトン様はあの時〖君は僕の後についてくると良いよ僕が守るから〗と仰って頂き私は凄く嬉しかったのです。それ以来私はハミルトン様の一歩後ろを歩くようにしましたが、あるパーティーで〖私の後ろに隠れて楽ばかりしてないでたまには前に出たらどうなんだ!〗と言われた時は私が涙を流していたのを貴方は知りませんでしたでしょ?振り返ったりしてはくれませんでしたから。
それでも、私はハミルトン様に言われた通り、前に出て積極的に公務を行いましたが、ハミルトン様は〖さも自慢気に僕より目立って婚約者をたてることも出来ないのか〗と言われてしまいました。
実は私はその時に諦めてしまいました。お父様にも婚約を白紙にして欲しいと言いましたが聞き入れて貰えずお怒りになったお父様は私の背中を一晩中叩かれました事は忘れられません。
でも気付かれませんでしたか?私はあれ以来貴方様から頂いた指輪を外していたことを。多分気付いてないですよね。学園に入ってからハミルトン様は私に興味ありませんでしたから。
ですので私にはハミルトン様から破棄して頂くのを待つしかありませんでした。
貴方は生徒会での仕事上で一緒にいるだけだと言っておりましたが私は知っております。ハミルトン様とリーファ令嬢が一線を越えてしまっていることを。
学園の催し物の準備の際に2人きりで生徒会室に残られた時は楽しかったですか?
オーウッド家でのパーティーの後の夜は楽しかったですか?
保養地で二人で過ごした夜は楽しかったですか?
ですが、王城にある書庫であのような事をするのはお止めになった方が宜しいかと思います。
前回の文で王家の方達は私の偽証だとするのでしょう?
ハミルトン様はいつまでも偽証されるのですか?
最後に、ハミルトン様から婚約を破棄して頂きありがとうございます
アリシア・ローデンブルグより』
(・・・)
アリシアは確かに一歩引いて私を立ててくれていた。そしてそのように行動していたアリシアにずっと好意を持っていた。
持っていたはずであった。
だが、リーファから「アリシア様はハミルトン様の後ろに隠れて公務をサボってばかりで狡いですわ」などアリシアの行動に苦言を言うリーファの言葉に徐々に共感するようになり、あの日私はアリシアに文句を言ってしまった。
何故、あんな事を言ってしまったのだろうか。
アリシアは私の言葉を忠実に守っていただけなのに。
それ以降アリシアが私の横に並ぶようになったのは覚えている。
だが横に並んだアリシアの優秀さが徐々に現れて私がアリシアより劣っている事を自覚させられた。
その認識は徐々に周辺の者達も感じる事なった。
そして私は嫉妬してしまった。
そうか、私はあの時既にアリシアから見限られていたのだな。
父上より良く言われていたな守れない約束は王家として決してしてはいけないと。
〖僕が守る〗・・・
守れない約束するなど王家として失格だな私は。
私は手紙を読み終えた後、廊下で弟アズベルトと出会った。アリシアは弟アズベルトにも手紙を残していたようであり手紙について弟から問われた。何故アリシアは弟にも手紙を残したのだろうか?
「兄上、アリシア様から手紙には兄上にも手紙を書かれたとありましたがどのように書かれていたのですか?」
「弟よ。私に届いた手紙は内容も私のだ。人に届いた手紙の内容を人に聞くものではない」
私の返答に弟がクスクスと笑いだした。私は笑われる事を言った覚えがないが何か弟に侮辱されたようであった。
「すみません兄上、アリシア様から届いた手紙に書かれていた通りの返答を兄上がしてきたので思わず笑ってしまいました。アリシア様は本当に兄上の事を見ていたのですね」
アリシアが私の事を・・・
アリシアが私の一歩引いて歩いていた時、私が解らない事などがあった時は私の耳元に「○○の事かしらハミルトン様」と、私のサポートをしてくれていた事を思い出した。アリシア決して公務をサボっていたのではない。私が苦手だと思うことをしっかりと学び私が困らないようにしていてくれてたのだ。
「兄上はそんなアリシア様を切り捨てになられたのですね」
「何を!」
「切り捨てたではありませんか!学園で手を繋ごうとするアリシア様の手を払い男爵令嬢と腕を組んでいた事お忘れですか?アリシア様が公務について話し掛けていた時『五月蝿い私は忙しいのだ』と追い払い男爵令嬢と二人で長く話し込んでいたではないですか?」
「学園で手を払ったのは世間の目を気にしてで、リーファと話をしていたのは生徒会としての話をしていてだな」
「男爵令嬢といる方が世間体が悪いように思えますが?生徒会の話より王家としての公務の方が大事ですよね。あの後兄上は『何故私に話をしなかった!私に恥をかかせるつもりか』ってアリシア様を怒鳴っておりましたがあまりにも理不尽ではないですか?」
「・・・」
私は何も言えなかった。弟が述べていることは全て真実であったからだ。思い返すと私は学園に入ってからのアリシアへの仕打ちは酷いものであった。
「兄上は卒業パーティーで男爵令嬢を苛めた罪にアリシア様を裁こうとしましたよね?」
「ああ」
「なら、アリシア様を苛めていた者達は何故野放しなのですか?」
待て。
私は知らない。
アリシアが苛められていた?
誰に?
何時の事だ?
「こんな事も知らないなんて情けない。本当に兄上はアリシア様の事を見ていなかったのですね。アリシア様が朝から濡れていた時はある者に押され噴水に落とされたからです。アリシア様が怪我をされていた時はある者がアリシア様を突き飛ばしたり石などを投げつけたからです。ある者は暴漢にアリシア様を襲わせようとしておりました。そんな事も気付かなかったのですか?」
「わ、私は生徒会長をやっていたが全ての者達の事を把握していた訳ではない」
「被害者は兄上の婚約者ですよ?」
「そ、それは・・・」
「因みに加害者は兄上と共に生徒会員であった者達です」
「なっ!」
私は知らなかった。
あの者達がアリシアにそんな事をしていたなんて。
でもどうして?
アリシアは将来王妃となる者だぞ。
「どうしてかも解りませんか?兄上がアリシア様に対して冷たい態度をとっていたからそれもよしと思ったのですよ」
私が?
私のせいなのか?
「それとアリシア様を害した生徒会の者達は自白しましたよ。リーファ令嬢に頼まれてたと。対価はリーファ令嬢の体だったそうです」
リーファがアリシアを・・・
逆ではないのか?
「それと、アリシア様がリーファ令嬢を害した件ですがそちらも生徒会の人達が絡んでいたようです。兄上が選んだメンバーは酷い者達ばかりですね。驚きましたよ生徒会のお金の横領、催しで有利になるよう賄賂の要求、バックに第一王子が控えているからと逆らえる事など出来なかったでしょうね。」
「私は・・・」
「兄上、知ってますか?兄上が卒業されて生徒会は廃止する事になりましたよ。あなた方が好き勝手にやって来た結果、生徒会が悪しき者の代名詞となったようです。どんな気分ですか伝統ある生徒会を潰した気分は?」
私はここまで愚かであったのか?
私は・・・
【歪んだ騎士道を持つ男】
ストロング伯爵家に1通の手紙が届く。この手紙と伯爵を前にして伯爵家三男であるユーザックは正座をしている。部屋には2人の兄も立っていた。
アリシア公爵令嬢の手紙にはユーザックが本来護衛対象であるアリシアの護衛を放棄しアリシアの婚約者の浮気相手であるリーファ男爵令嬢の護衛と称して常に側にいた事が書かれていた。
内容は手紙と言うより抗議文に近かった。
「これに着いて何か言う事はあるのか?」
今、ユーザックに問いかけている者は父親子であるが、騎士団長でもある。そんな伯爵は騎士として道を外した己の息子に怒りを抑えつつ息子に問い掛けていた。
「そ、それは、リーファ令嬢が学業業務を行っているだけなのにアリシア令嬢から苛められているのを可哀想に思いリーファ令嬢を守る事にしました」
「苛めとは?」
「婚約者に近付く事に対し苦言を言ったり、言う事を聞かないからと平手打ちしたり、机の物を凪払ったりしておりました」
「婚約者が浮気していれば当たり前だろう」
「ですが生徒会の業務として・・・」
「生徒会の業務とは体の関係を持つ事を言うのか?」
「そ、それは・・・知らなくて・・・」
「そうか知らないのか?あの令嬢はハミルトン王子だけじゃなく副会長など生徒会メンバー全員と体の関係を持っていたことを」
「まさか!?」
「これも知らなかったと言い訳するか?
だが、もはやお前が知る知らないの問題ではない。お前の行動は騎士がとる行動ではない!」
「そんな、私は騎士道にのっとって」
「お前の口から騎士道と言う言葉が出て来るとは思わなかったぞ。お前の言う騎士道とは自国の行いが己の考えと反するから敵国に寝返ることを言うのか?とんだ騎士道だな」
「それは・・・」
「それにアリシア嬢が生徒会の者に嫌がらせを受けていた時にお前は見ない降りをしていたらしいな。何故だ?
お前の護衛対象はずぶ濡れになっていたのだぞ、お前の護衛対象は怪我をしたのだぞ、お前は守らないといけない者が攻撃されているのに見て見ない降りをするのか?とんだ騎士道精神だな」
私は反論出来なかった。父が言っている事は真実であり今にして考えれば騎士道として明らかに可笑しいと言う事はユーザックにも解ったからだ。
私は何処で間違えてしまったのであろう。
最初、公爵令嬢で将来王妃となられる方の護衛騎士として命じられた時は嬉しく誇りに思い私は公爵令嬢を守り抜くと自身に誓ったはずであった。
それが、リーファのドレスが汚れた件やリーファが階段から落ちた件など側にいたから見ていた。
見ていたはずであった。公爵令嬢に非がないことは明がであったはずなのに私は見て見ぬ降りをしてしまった。
「お前といい王子といいとんだ令嬢につかまったものだな。件の令嬢は恐らくであるが死刑となるだろうな。また、お前の仲間であった生徒会の者達も同様か」
「リーファ嬢が!?そんな・・・」
「何がそんなだ。複数の人間と体の関係を持ちながら王家の血を引くものを誑かしたのだ当然であろう?それに生徒会の者達は公爵令嬢を傷つけたのだこちらも当然の事だ」
「父上、弟も反省しております。今回の件、どうにかなりませんでしょうか?」
父上と私のやり取りを見て兄が助け船を出してくれた。だが、私は助け船を出して貰えるような価値があるのだろうか?それに恐らく父上の中には既に答えが出ているように思えた。
「どうにもならんな」
「どうしてですか?例の令嬢は姿を眩ましこの件を知るものはおりません。確かに弟が仕出かした事は騎士道でも何でもなく弁解する事も出来ないでしょう。ですが令嬢が姿を眩ましたと言う事は訴えられる事もないのでは?ならば弟に挽回のチャンスを与えてもよいではないですか?」
「先日、ローデンブルク公爵宛の手紙が公表されたのを知っているな」
「はい。あの手紙には驚かされました。将来王妃となられる令嬢への対応とは思えませんでした」
「ああ。コイツとは違いあの手紙を見れば世間は令嬢の味方となるだろう。そして今日、ハミルトン王子宛に送られた手紙が新聞の一面に載せられていた。しかも令嬢が記載したハミルトン王子と男爵令嬢の逢い引きの時期や場所等を調査し証拠まで集めて記事にしてある。見事なものだな。お前らが令嬢を断罪するために集めたものは証拠とは呼ばん。このようなものを呼ぶのだ。もう王家も責任から逃れる事は出来ないだろう」
父上はそう言うと私と兄の間に今日の新聞を投げ置いた。そこにはハミルトン王子宛の手紙の内容が記載されていた。
「そして恐らくであるが、明日の新聞に我が家宛の手紙の内容も公表されるであろう。そして、恐らくであるが私が下す判断なども予測されていることだろう。お前は恐ろしい者を敵に回したな。そして、残念だ。アリシア嬢が王妃となればこの国の繁栄は約束されていた事だろう。その未来を台無しにしたのは他でもない我々だ。そうなれば、こやつだけでの問題ではなくなる。伯爵としての爵位返上やお前達の立場も危うくあるぞ。何せこやつの騎士道は汚れているからな」
父上の言葉に流石の兄上も返す言葉がない。私はこの日を持って伯爵家を除籍された。そして伯爵領内にはアリシア令嬢から届いた手紙の内容と〖伯爵家三男ユーザックは騎士道あるまじき行いにより除籍処分とする〗言う内容の号外が配られる事となった。
また、ストロング伯爵は責任を取り爵位を長男に譲位し、騎士団長から退く事も発表した。
その翌日、アリシアがストロング伯爵家に送った手紙と、ストロング伯爵に譲位と退団される事への謝罪が新聞社によって公表された。
~おまけ~
「・・・」
「どうしましたか局長?」
「ああ、例の令嬢の手紙を令嬢が指示するタイミングで掲載したのだが、こうも令嬢が画く通りに事が進むんでいるから恐ろしく感じていた」
まさか、これ等の手紙が令嬢が姿を消す前に出されたとは世間は信じないだろう。
「恐ろしいですね」
「ああ。それだけに残念だ。王となるべき逸材をこの国は失ったのだから」




