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7.魔物討伐負傷事件

【悪役令嬢は下準備を欠かさない】


訓練を兼ねた魔物の討伐の日が訪れた。

アリシアはとうとうこの日が来てしまったかと、憂鬱に感じてしまう。

だが、何もせずこの日を迎えた訳ではない。

シンシアと共に出掛け魔法のポーチも購入した。

樹の葉と共に薬品も買い揃えてある。


「アリシア嬢、今日は随分と気合い入っておりますね。でも護衛もおりレイドス隊長も側にいて下さるそうですのでご安心して下さい。それに魔物と言っても強い魔物は王都近くには現れませんので大丈夫ですよ」


アリシアの前に白馬に乗ったロードス殿下が現れた。

まさか本当に『白馬に乗った王子』がいるなんて驚いてしまう。本当に何をやらせても絵になるロードス殿下であった。


因みに私は絵本に出てくる白馬に乗った王子は王冠と共に描かれていた記憶が強い。

こんな森の奥まで自分が偉いと知らしめたいのかと疑問に思い、更にこんな安定感のないものを被りながら馬に乗るなんて馬鹿なのかしらと思うなど前世の私は白馬の王子に対して憧れは全くなかった。


「ロードス殿下、冗談は辞めて下さい。魔物討伐など怖いに決まっておりますわ」


(それに「王都近くに強い魔物は現れない」ってフラグっぽいセリフも止めて下さい)


「すまない、すまない。それでは皆が集まる場所まで案内致しましょう」


ロードス殿下が手を差し伸べるとそのまま馬上へと自然な流れで促され気付いて見ればロードス殿下と共に乗馬をしていた。


(な、何て自然な流れなんでしょう。これは小説のアリシアが悪女化してしまうのも仕方がないわ。全てロードス殿下が悪いのよ!シンシアに見られていませんように)


アリシアは白馬の王子的な行動をあまりにも簡単にこなすロードス殿下にシンシアが将来苦労させられそうで可哀想に思えてきた。


ロードス殿下と一緒に皆が集まる場所に着く。

私は馬から降りるやいなや騎士一人一人に自己紹介をしながら握手をしていった。

大事なのは自己紹介ではなく握手である。

握手をしながら身体能力向上を付与をする。

等価交換の対価はシンシアと共に出掛けた時に買った神樹の葉であった。


書庫でも読んだ通り神樹の葉の生命力は普通の葉よりも強い。普通ならばこれだけの強化付与には1つの樹ほどの生命力が必要。等価交換は本当に等しいかどうかではない。アリシアが等しいと思うかどうかである。

そのため、神樹の葉数枚と普通の樹木の生命力が等しいとアリシアが思っている以上はそれが真実であった。


全ての騎士達との握手を終えると神樹の葉は3枚ほど枯れていた。実験したところ神樹の葉は3日ほどで枯れる事が解った。同様に身体能力向上の付与も3日ほどで尽きると言う事になる。(アリシアが等価交換とはそう言うものだと思っているから。



【魔物討伐負傷事件(小説の中)】


魔物討伐は順調に進む。

出発前にロードス殿下が言われるように強い魔物がいないのか、騎士達は難なく魔物を倒し続ける。


アリシアには二人の騎士が護衛に就いていた。

アリシアは前の世界では碌でもない護衛騎士により、護衛騎士が信用出来ない。

だからか、護衛騎士が雰囲気を和ませようと話題を振るもアリシアは無視し続ける。


事件は休憩中に起きた。

皆が休憩で休む中、突然に魔物の集団の襲撃を受ける。今まで魔物とレベルが違い討伐に苦戦しているなか、集団のボスと思われる魔物がアリシア目掛けて襲って来た。


護衛騎士の一人が身を挺しアリシアを庇い、アリシアは魔物の攻撃を受けずに済むが、アリシアを守った護衛騎士は魔物に吹き飛ばされ、腹部が大きく裂けている。


もう一人の騎士も魔物と応戦しているが、魔物のレベルが今までと違うらしくなかなか倒せないでいる。

それどころか苦戦していて騎士の方が今にも倒れそうであった。

周りの騎士も襲撃に会い苦戦中でアリシア達の方に来れそうもない。仕方がないと思ったアリシアは魔物と応戦中の騎士に触れ力を付与する。


対価は周辺の生命エネルギーであった。

付与された騎士は難なく魔物を倒す事が出来たが、付与の力が強すぎ、反動で筋肉の筋が何ヵ所を切断され倒れ込む。

そして、魔物に弾かれた騎士は対価を支払った事により、既に息をしていなかった。


騎士団第三部隊は負傷した騎士と共に王宮へと戻る。

討伐された魔物は『ティアマット』と言うA級クラスの魔物であった事が判明する。

王都近くの森にここまで恐ろしい魔物が現れた事はない。

死者も出た事により、この訓練を兼ねた魔物討伐は『魔物討伐負傷事件』として語られるようになった。


この魔物討伐負傷事件の代償は一人の騎士の死と、一人の騎士の再起不能による引退となった。

尚、共にアリシアの護衛をした者達であった。



【油断出来ない男】


アリシアの能力で第三部隊全員に力を付与している。

しかも、小説の中とは違い体に負担が掛からない程度の付与である。

それでも魔物に奇襲されても能力向上した状態なら苦戦する事はないはず。


1つ気になるのがレイドス魔法部隊長の同行である。

小説ではレイドス隊長は今回の魔物退治に参加していたとは書かれていなかった。

単に書かれていなかっただけだろうか?

だけど、レイドスが参加していたら、小説の中でもあのような襲撃を受けていただろうか?


それに今回はアリシアの護衛を兼ねての同行となっているので、小説で語らない訳がない。

しかもレイドス団長が私達の側にいるなら魔物の奇襲もないのではと思ってしまう。


「緊張しているのか?」


「きゃっ!!」


バチンッ!!


突然、背後からの声を掛けられ思わず平手打ちをしてしまった。やってしまったわ。

声を掛けて来たのは・・・

レイドス魔法部隊長であった。

第三部隊の人達は驚きで目が点となっている。


「驚かせてすまん。まさか叩かれるとは思わなかったがな」


「申し訳ございません。背後から突然に声を掛けられ魔物が出たと勘違いをしてしまいました」


「ほー貴女にとって魔物とは声を掛けるものだと?」


「レイドス様は不思議な事を仰られますのね。

魔物を見たことがないのですもの驚かされれば魔物と勘違いしても仕方がありませんわ。

それにご令嬢の後方からいきなり声を掛けて来るものなど令嬢にとっては魔物と同じですわ」


「ははは、それはマナーがなっておりませんでした。アリシア嬢が緊張しているのか先程からロードス殿下が話掛けているのを無視して考え込まれていたのでロードス殿下が忍びなく、思わず助け船をと声を掛けてしまいました」


どうやら私はロードス殿下の問い掛けを無視していた事をレイドスに教えられた。私は考え込むと周りの声が聞こえなくなるらしい。


(また、やってしまったわ。国王の時といい何で私は・・・)


私は自己嫌悪に陥りながらもロードス殿下に謝る事にした。


「すみません。まだ能力が解らない中でどうやって皆さんの役になれるだろうかと思うも余計な事をして皆さんの邪魔をしても行けないと思う気持ちで悩んでおりました。

何度もお声を掛けられた事を気付きませんで申し訳御座いません」


「いや気にしないで来れ。無理言ってアリシア嬢に来てもらったのは私達の方だ。

アリシア嬢も自身を追い込まないで欲しい。能力についてはまだまだ先で構わないのだ。

今回の訓練はアリシア嬢に是非にこの世界について知って貰いたいと思っていたからで私達は全力で貴女の安全を守るとしよう。だから、気を楽にして着いてきて欲しい」


『全力で貴女の安全を守る』って何て勇ましいセリフなのだろうか。普通の女性は惚れてしまうセリフでしょうね。

だけど、アリシアの心には靡かない。

だって、この後に小説ではアリシアの安全は守られない事を知っていたからだ。知っている私からしたら『いや安全は守れませんよね』と突っ込みをいれたくなるセリフであった。


「ありがとうございます。まだ、何も解らなく足手まといかと思いますが、私もこの世界の事を色々と知りたいと思いますので宜しくお願いします」


よし、完璧な受け答えね。これには誰も不審に思わないでしょう。


「本当に何も解らないのかな?」


「えっ!」


また、突然後ろからレイドス団長に話し掛けられ驚いてしまった。

今度は平手打ちをしなかったけど叩けば良かったと後悔する。

ただアリシアが驚いたのは話し掛けられたからではない。レイドスの言葉が確信を着いた一言であったからであった。


「いや、何でもない。ロードス殿下、そろそろ出発致しましょうか」


「そうだな、皆の準備も良さそうなので出発する事しよう」


レイドス・ハルバード。

小説でアリシアの能力を見破った男。

もしかしたら以前訪れた詰所でのやり取りで何か失敗したかもしれない。

やはり油断出来ない男であった。



【魔物討伐負傷事件(現実)】


森を進みつつ順調に魔物退治をしていく第三騎士達。ロードス殿下が言われた通り強い魔物が現れた様子はない。フラグでなければとアリシアは思う。そんな中、討伐が進むに連れ徐々に違和感を感じ初める者が出てきた。


「なぁ、なんかいつもより魔物が弱くないか?」


「そうか?ロードス殿下やレイドス魔法部隊長がいるから魔物退治が簡単になっているだけじゃないか?」


確かにロードス殿下は強い。小説では騎士団長と武芸大会で互角の闘いを行ったと書かれていた程だ。レイドス団長も攻撃・補助・回復と多種多彩な魔法で第三騎士団達をサポートしている。


(あれ?私の身体能力向上の付与はいらなかった?)


「いや、何て言うか普段より体の動きがスムーズで魔物の動きもよく見えて、まるで自分が強くなったように思えてしまうんだよな~」


「あー解る解る。実も俺もなんだ。なんだ真面目だと思っていたがお前も気になっていたんだな」


「何がだ?」


「そりゃお前、討伐前にあんな綺麗な令嬢に手を握られ発破掛けられればやる気が出るのも当たり前だって事よ」


この騎士達の会話を聞いていたのだろうか、近くにいた他の騎士達も頷いている。私も綺麗なんて褒められて満更でもない。あの騎士に金一封与えたい気分になった。


「嬉しそうですねアリシア嬢。色々とバレずに良かったと言う事か?」


まだレイドスだ。

この男は私の後ろからしか話すことが出来ないのだろうか?これが趣味なら気色悪いったらこの上ない。


「あのレイドス魔法部隊長、実は私、レイドス魔法部隊長にお伝えしたいことがあるのですが恥ずかしくて言っていいものかどうか解らなくて悩んでおりまして」


「何でしょう?私は何を言われても大丈夫ですので仰って下さい」


「そうですか。それでは言わせて頂きます。レイドス魔法部隊長っていつも後ろから話し掛けて来られるものですから、正直に申しますと気持ち悪いです。レイドス魔法部隊長ってもしかして変質者気質なのかしら?

突然現れて驚かされますからまるでGブリと同じだなと思っております」


「なっ!」


(あースッキリした。あのレイドス団長の真っ赤になった顔の面白いったらありゃしない。もしかして図星だったかしら?周りの騎士達は肩を震わせながら笑いを我慢しているようだけど私は無視して進ませて頂くわ)


魔物討伐も順調に進み第三騎士団長とロードス殿下が何やら話し合っている。

そろそろ事件が起こる頃かしら?

そう思っていた時に第三者騎士団長が団員達に話し掛けた。


「ここで一旦休憩とする。フレイ、ジスタ、お前達はアリシア嬢を護衛しながら休憩してくれ」


「「はい!」」


周りの騎士が『いいなー』と呟くなか、二人の騎士が私の側に来て護衛をしてくれている。

この二人・・・私達と一緒にパンケーキを食べた騎士であった。あの騎士がフレイとジスタだったとはアリシアはあの時の事を思い出すと頼りなく思ってしまった。

そして小説に書かれていた名前『ジスタ』・・・

亡くなる方の騎士の名前であった。

そこへ、レイドスがアリシアへ今度は面前から話し掛けてきた。


「アリシア嬢、私は貴女の能力が気になっている。是非、ここから先は本性を現して欲しいものだ。なので私はここで貴女の護衛を辞めるとしよう。貴女にも嫌われているようだし私は少し向こうに行くする」


レイドスがそう私に告げると私達の側から離れてゆく。

レイドスは後ろから出なくても喋れる事が解った。

アリシアは理解した。どうやってシナリオ通りに話が進むのか不思議に思っていたがレイドスがこうやって離脱することで魔物の襲撃を受けるみたい。

シナリオの強制力は凄い。ジスタの事を本当に助けられるかしら不安になってしまった。


アリシアは小説では部隊の端で休憩していた。そのため、襲撃に会ってもなかなか助けに来るものがいなかった。

そのため、アリシアは後方にも騎士がいる場所で休憩する事にした。

こうすれば、襲撃を受けてもいの一番に狙われることはない。


だが、アリシアの考えはあまかった。

アリシアの後方にいた騎士達は用足しに出て後方には誰もいなくなった。

そして、話に夢中になっていたアリシアはその事に気付いていない。


すると、後方の草むらから魔物が飛び出して来た。


(どうして後方の騎士がいなくなっているの?シナリオの修正?)


アリシアは下手に策を練っていた事で対応に遅れる。

アリシア目掛けて駆け寄って来た魔物にジスタが身を挺して守る。

しかし、吹き飛ばされたジスタは小説で語られた通り、腹部が大きく裂けていた。


周辺にも魔物が襲撃してきていたが、アリシアの付与により、苦戦することなく倒せている。

フレイも優勢に魔物と戦っているが、長引けばジスタが危ない。


私は離れていったレイドスの方を見るとレイドスは私がどう動くかと目を煌めかせながらただ見ているだけであった。


(この変態男が!ならば、貴女も責任を感じるような結末にしてやる!)


アリシアは走り出す。

走り出した方向はジスタの所であった。

魔物は突然に動き出したアリシアに攻撃対象を変えフレイの元からアリシアの方へ走り寄ってくる。


フレイは叫ぶ。だが、私はフレイの言葉を無視してジスタの治療をする。そして私は脇腹に激痛が走ると共に10mほど吹き飛ばされて倒れ混む。

私の方が軽かったせいかジスタの倍飛ばされてしまった。


微かにある意識の中で魔物に巨大な氷の刃が無数にわたり突き刺さり魔物が倒れた。


皆が私の元に駆け寄る。

ロードス殿下が何か話し掛けているがよく聞こえない。

レイドスが何か私に魔法を慌てて掛けているが何を掛けられているのか解らないが脇腹の激痛が少しずつ和らいできている。


ジスタは大丈夫だろうか?

応急処置は出来た。命に別状はないはず。

皆も慌てて馬鹿みたい。私が死ぬわけないじゃない。

私が死ぬのはこの場面じゃないのだから。

私はここで意識を失ってしまった。



【喜べないシナリオの変化】


魔物討伐は予期せぬ襲撃により負傷者が発生したことにより、討伐は中止となり王宮に戻ることとなった。


アリシアははロードス殿下に抱えられながらと王宮に戻る。

王宮に戻るや否やアリシアの状態をみて皆が騒ぎ始めた。


それもそうだろう、治癒魔法によりアリシアの傷口は塞がったかもしれないがアリシアが着ていた服は血で染まっていた。

そのような状態でロードス殿下に抱えられながら現れたのだから誰が見てもアリシアに何かあったのだと思う。


アリシアは意識がなく気付かなかったがシンシアともすれ違ったようだ。

シンシアもロードスの後を追いながらアリシアの名を呼び続けていた。


アリシアはロードス殿下の手で王宮の医療室まで運ばれベッドに寝かされる。

目が覚めたのが3日後であった。目が覚めると目の前にはレイドス隊長が私の手を握りながら心配そうな顔で私の事を見つめていた。

ちょっとやり過ぎてしまったかしら?


「貴様は馬鹿なのか?」


「はぁ?」


前言撤回。

やり過ぎではなく物足りない。

目を覚ました私に掛けた言葉が『馬鹿なのか』はあまりにも失礼であった。確かに普通はあの場面であんな動きは危険過ぎる。でも私は死なない自信があった。


「『はぁ』ではないだろう。お前は腹部が裂け直ぐに治癒魔法を施したが血を失い過ぎた。このまま目覚めなくてもおかしくはなかったのだぞ」


「ジスタは?」


「ジスタの傷は塞がれていた。早い処置であったため命には別状はない」


「そう、良かった」


本当に良かった。

小説の運命を変えることが出来た。

死ぬはずだった人間が生きている。これ程喜ばしいことはない。私の運命も変えられるかもと言う期待が出きるようになったのだから。


「良かったではないだろう。お前も死ぬところだったのだぞ」


「遠くでにやけながらただ眺めていた人には言われたくないわ」


「!!」


(図星で何も言い返せないようね。百歩譲って離れた事を許しても、あの見ているだけの貴方のあの姿は許せない。貴方なら直ぐに魔物の退治が出来たでしょうに。それをしなかった貴方の行動の結果よ。私が怪我をしたのは私だけの責任ではないわ)


「すまなかった」


「はい!?」


「すまなかったと言っているのだ」


(あの、ひねくれ者のレイドスが謝っている?嘘でしょ。

何て応えればいいの?)


「も、もういいわ。終わった事よ」


(これであってる?間違ってない?ああ、これじゃレイドスじゃなくて私がひねくれ者じゃない)


「アリシア!」


誰かが私が目を覚ました事を伝えたのであろう。ロードス殿下が慌てた様子で駆け付けてきた。その側にはシンシア嬢もいる。この場の空気を変えてくれる助け船が現れたことで私はホッと安心した。


「シンシア様にまで心配を掛けてしまったみたいですみません。王宮文官の勉強中でしたのに邪魔をしてしまいまして」


「そんな事気にしないで下さい。話は聞きましたわ。何て危ない真似をされたのですか」


「ジスタが心配でつい体が動いてしまいました」


「貴女と言う人はもっと御自身の体を心配するべきだわ。貴女がここに来た時には魔法で出血は止まっていたましたが、貴女が着ていた服に着いた血の量から貴女が生きているのが不思議なくらいなのよ」


シンシアがこんなに心配してくれるとは思わなかった。いや、アリシア・ローデンブルクの人生では心配するものなどいなかったはず。そう思うとアリシアの頬に涙がツーっと流れるのが解った。


(あれ?)


(何故だろう?)


(涙が出てくる?)


(どうして・・・?)


(ああ、そうか。私は嬉しいのね)


親にも・・・

弟にも・・・

婚約者にも・・・


アリシアの事を心配してくれる者は誰もいなかった。

こんなに心配されたのは水上加奈子の時以来であった。


涙を流すアリシアにシンシアはそっと抱き締めくれていた。

私はシンシアの優しさに落ち着くとまた眠りにつき、次に目を覚ましたのは翌日の朝であった。


「アリシア嬢、気分はどうだい?」


「ええ。大分落ち着きました。昨日は取り乱してしまいすみません。過去の家族の事を思い出してしまいまして」


「・・・」


「どうしました?」


「私達が自分勝手な理由で召喚してしまいすまないと思っている。貴女も家族と会えなくなって淋しいであろう」


「あっ!そっちの家族は別にいいです」


「!?」


いや、本当にローデンブルク家の事はどうでも良い。私の手紙を読んだところであの男が変わる事はないはず。あの男にとってはアリシアの手紙は道具の取り扱い説明書を読んでいるだけなのだと思う。


「ところで今日はシンシアはどうしてますか?」


「昨日、アリシア嬢が無事に目を覚ました事に安心して今日は所用で出掛けている」


「そうですか。昨日の事で謝りたかったのですがそれではまたお会い出きる時にしますね」


「ああ。シンシアもアリシア嬢ともっと話したいと言っていたからね」


私もシンシアともっと話したかった。シンシアは本当に主人公気質が高い。リーファとは大違いである。


(!?)


(気のせいかしら遠くでくしゃみをする声が聞こえたような・・・)


「ところでアリシア嬢、君に会いたいと言う人がいるのだが良いだろうか?」


誰だろうか?シンシアはいないと聞いたし、レイドスだったら気まずいわね。


「ええ。いいですよ。どなたかしら?」


「ジスタ!入っておいで」


ロードス殿下の呼び掛けと共にジスタが姿を現した。

助かって良かったと思うアリシアであったがよく見るとジスタは松葉杖をつきながらアリシアの方へ歩き出して来ていた。


「ジスタ、足はどうしたの?」


「魔物に踏み潰されたようで、治癒魔法でも元に戻りそうもなく、切り落とす事になりました」


ジスタの言葉を理解するのに時間がかかった。

魔物に踏み潰された?

私が吹き飛ばされた時?

私が動かなければ助かった?


「アリシア様!アリシア様のせいではありません。寧ろアリシア様がいなかったら私は死んでおりました。私はお礼を言いたいのです。命を助けて頂きありがとうございます」


私は再び泣いてしまった。

足を失ったジスタは騎士を続けることは出来ず、遠く離れた実家に帰るという。

もうこの物語には語られる事はないだろう。

ジスタは死ぬ事なく、フレイは部隊に居続ける事が出来た。シナリオに変化が生じた喜ばしき事だが、松葉杖をついて去っていくジスタを見ると、何故か喜ぶことが出来なかった。

~おまけ~


「レイドス隊長、おもいっきり叩かれていたな?」


「ああ、それにその後の変質者呼ばわれされて見ていられなかった」


「だな、レイドス隊長でもフラれるんだな」


魔物討伐負傷事件後、レイドス魔法部隊長が告白すらもしていないのにアリシアにフラれた話が王宮内に広がっていった。



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