4.悪役令嬢と王国最強の魔道師
【悪役令嬢の力(小説の中の世界)】
悪役令嬢のアリシアは魔力測定の準備が整ったとロードス殿下が伝えに来られロードス殿下と共に魔法部隊詰所に向かう。
準備された水晶に手を翳すと水晶の反応はない。
困惑するアリシアの元にレイドスが近付き無属性の可能性を指摘し『神樹の葉』による検査を行う。
アリシアの頭の中では聖女=光と印象付けていた。
そして、ロードス殿下に好意を抱くアリシアは心の片隅に光属性となるよう望んでいた。
そして、アリシアの能力は望みを叶えるよう神樹の葉を光らせた。
だが、アリシアの能力は光属性ではない。
いや、アリシアが望めば光属性の力を発する事は可能であった。
その為の対価を払えば。
アリシアが神樹の葉を光らせた後、魔法部隊の新人が体調不良によって倒れる。
彼は対価を徴収された被害者であった。
その一連の流れを見ていたレイドスはアリシアの能力を怪しみ喜ぶアリシアの方を見ていた。
【悪役令嬢の力(現実の世界)】
取りあえず、ロードス殿下と距離を取りたく、昨日は拒んだのだけど、翌日もロードス殿下がアリシアの元に訪れた。
(そう言えば翌日も来ると言っていたわね)
ロードス殿下は律儀な王子である。(いい迷惑だけど)
人に好かれるタイプである。(私は御免被りたい)
アリシアは思う。
アリシアが知っている何処かの軽薄な王子よりロードス殿下は十分に尊敬出来る人物である。
「おはようございますロードス殿下。本日はどのようなご用でしょうか?」
「昨日、約束したからね。君の専属侍女が決まったから紹介しよう」
ロードス王子がそのように伝えると一人の侍女を紹介した。侍女はメイと言う名で家名がないことから平民出身らしい。
彼女は小説の中でも登場していたが、あまり印象に残るシーンはなかったかと思う。
それにしても昨日の今日とこんなに早く手配して下さるとは思いもしなかったため、ロードス殿下の誠意が伝わってくる。(本当に何処かの王子とはエライ違いね)
「態々、こんなにも早く手配して頂きありがとうございます。本日は侍女のメイに色々と案内して頂きますのでロードス殿下は公務に戻られては如何でしょうか?(貴方にいてもらっては迷惑ですので)」
「今、丁度公務が片付いていてね。私も城内の案内にお供しよう」
(・・・・)
これ以上断るのは不自然になる。
アリシアは仕方がなくロードス王子と共に城内を移動する事にした。先ずは小説の通り魔法部隊の所に向かった。
「これはこれは聖女様、此度は私共の所に来て頂きありがとうございます。お覚えておりますでしょうか?召喚の儀の部屋でお会いしているのですが」
忘れるわけない。一人だけ違うローブを着ていた人物でアリシアを謁見の間まで案内したのだから。
「召喚された時にお会い致しましたが挨拶出来ずすみませんでしたアリシア・ローデンブルグと申します」
「すみません。私はこの部隊の副隊長をしておりますフルーレと申します。あの時は突然の召喚です。驚天動地の中で挨拶どころではなかったでしょう。寧ろこちらが挨拶せずに申し訳ございませんでした」
「いいえ。それと私の事を聖女様と呼ばれるのは止めて頂けないでしょうか?私は召喚されただけで聖女など荷が重すぎます。あまりに重荷を背負わされますと流石に逃げ出したくなってしまいますので」
「其れは申し訳御座いません聖・・・アリシア様。以後気をつけます。ちょっとお待ち下さいね。レイドス隊長!アリシア様が来られましたよ」
「俺はいい、お前に任せる」
レイドス・ハルバード。
ハルバード伯爵家三男であるけど、魔力がスバ抜けて優れていたため魔法の道に進むとその優秀さにより王宮魔法部隊の隊長を任される事となった。
また、その際に名誉男爵の爵位も授かっている。
この国の二大英雄の一人。小説ではアリシアの能力をいち早く見破りシンシアを害する行為を悉く潰した人物である。
アリシアとってレイドスは要注意人物であると認識した。
「しょうがないなー。あの人人付き合いが苦手でして。それで本日はどう致しましたか?」
「ええ。今日は城内の案内して貰っていたのですが、ビスマルク陛下が魔力測定の準備が整ったら呼びに来られると言われたのを思い出しまして、行き違いになっては申し訳ないので訪れました。
まだ、ご準備の方が出来ていないのでしょうか」
「なんと、丁度準備が整ったところです」
アリシアは進められるまま水晶に手を翳すと反応がない。小説の中と同じであった。
「反応なし。能力がないと言う事かな?」
ロードス殿下が水晶の反応に心配となり、フルーレに問う。返答に困っている元にあの男が近付いて来た。
「しっかりしろ、魔力反応は出ているだろう。その反応は能力がないのではない。『無属性』の反応だ。フルーレ、神樹の葉を持って来い」
アリシアの元に神樹の葉が手渡された。
ここに魔力を流すと能力の力によって様々な反応が現れる。無属性でも違いが出るらしい。
アリシアは神樹の葉に魔力を流す。
すると、神樹の葉は徐々に枯れてしまった。
これは『闇』の属性の効果であり闇の属性は魔物が多く所有している属性であった。
小説では対価を徴収して光属性の反応を現した。
しかし、既に能力の事は小説に書かれていたので知っているアリシアは別の反応を表すことにした。
神樹の葉を対価にして。
アリシアの能力は『等価交換』でる。
アリシアが得たものに等しく与える事が出来る能力である。
ただし、得るものと与えるものが同じである必要はない。変換すれば良いだけなのだ。
あくまでもアリシアが等しいと思う事が大事であった。
そこで、アリシアは神樹の葉を対価にして周辺の者に変化を与えた。
この変化を見ればアリシアが闇属性だと勘違いするはず。聖女が闇属性などあり得ない。
これでアリシアを聖女扱いする事はなくなるはず。
「闇属性・・・」
(ふふん♪闇属性と知ってショックを受けているわね。聖女とは真逆の属性だものね)
「どういう事かしら?」
知っているくせに惚ける私。
動揺していたロードス王子や魔道師達はアリシアを心配させまいと優しく説明してきた。
「こ、これは珍しい属性です。大変に希少な属性のため研究データが少なく能力の判明に時間がかかってしまうかもしれません。ですが私共魔導師一同早くアリシア様の能力が解るよう協力していきますのでご安心下さい。」
既に能力を知っているため何だか申し訳なく感じてしまう。
それに彼らは気付いていない。
自分達の体が変化した事に。
アリシアが彼等に与えたのは身体能力である。
魔道師の身体能力が上がっても誰も気付くことはなくアリシアの能力は闇の属性と認識されるであろうと考えた。
案の定、皆がアリシアの能力を闇属性だと勘違いしている。
しかし、油断は出来ない。
レイドス・ハルバードがいるからだ。
レイドス・ハルバードは決してアリシアの敵と言う訳ではない。
そもそも、レイドスは召喚の儀を行う事に反対していた。彼曰く、異世界から召喚するのは勝手だが、その者がいた世界はその者が消えた事で生じる不利益について誰が負えるのだろうかと、国王陛下に意見したらしい。
よって、レイドスはアリシアの事を召喚の儀の被害者と思っているはず。
しかし、小説ではアリシアの計画を悉く邪魔をする。
よって今は距離を取り様子を見る方が良い。
アリシアはここにいる必要性はもうない。ボロが出る前に魔法部隊の詰所を後にした。
しかし、レイドスはアリシアが想像する以上の男であった。
【王国最強の魔道師】
レイドスは反対していた。
召喚の儀など責任も負えない者達が勝手にやるべきではない。
しかし、レイドスがいない間に王家はフルーレに指示し儀式を行った。
だが、レイドスは誰も責めようとは思わない。
王家も民を守るため力にある者にすがりたくなるのも仕方がない。
フルーレも貴族の嫡男だ。王家に逆らうことなど出来ない。
だからレイドスはフルーレ達を一日こき使う事で許してやった。魔力測定の準備が遅くなったのもそのせいであった。
件の令嬢が魔法部隊に顔を出しに来た。
彼女は召喚の儀の被害者だ。
だが、何か違和感を感じる。突然に召喚されたにしてはやけに落ち着いている。
魔力測定で属性反応が出なかった。
ロードス殿下が動揺するのは仕方がないにしてもフルーレや他の魔道師達も魔力の反応に気付いていない事に頭を抱えたくなる。
それと1つ気になったのが彼女の反応だ。
こちらの世界に来たばかりだ。知らないのは仕方がないだろう。
だが、周りが動揺しているにも関わらず彼女だけは落ち着きすぎていた。
まるで、魔力測定の結果を知っているかのように。
神樹の葉によって闇属性と言われた時もそうだ。
彼女は落ち着きすぎている。
何かが怪しい。
そして、神樹が枯れた時に皆の魔力の流れに微妙な変化を感じた。
レイドスは変化を確かめるため、彼女が部屋から出た後、部下に命じる。
「フルーレ!そこの荷物を持ってみろ?」
「えっ!これですか?」
それは、騎士のような鍛えた者ならば簡単に持ち上げられるであろうが魔道師のような細腕では難しく思えた。だが、隊長の指示であったため渋々荷物を持って見るとフルーレは驚く。。
何と簡単に持ち上げる事が出来たのである。
「どういう事ですか?」
魔道師に生じた魔力の流れは身体能力が付与された事が解った。神樹の葉の力を魔道師に付与した。此は明らかに特殊能力である。しかも件の令嬢は既に自身の能力がどう言ったものか知っているらしい。
レイドスの顔が歪む。
「面白い・・・」
~おまけ~
◯小説の世界で倒れるはずだった男
「あれ?何かスッキリした気分だな。昨日オールで遊んでヤバかったのが嘘のようだ」
アリシアの能力により体調不良で倒れるとそれていた男は何もしなくても倒れていたかもしれない。




