17.悪役令嬢の冒険譚(下)
【悪役令嬢は翻訳家に転職する】
レイドスは自身のスキル〔転移〕によりロードス殿下とシンシアを王宮まで届ける。
シンシアと仲直りする機会を失ったアリシアは何処か寂しく感じるが、ここから先に王子とその婚約者を連れていくのは危険である事は解っている。
解っているが今シンシアと別れたくないと言う気持ちが強く残ってしまっていた。
レイドスが戻ると、「大丈夫か?」と優しく背中に手を当ててくれる。アリシアはそれだけで先ほどの淋しさが少し和らいだかのように感じた。
冒険の継続をする前に隊列の組み直しする事になる。
と、言っても隊列はフェイリル・メイ・アリシア・レイドス・バルフレアと今までと差程変わらない。
ただ、ここから先は能力調査ではなく、洞窟の調査へと変わっていた。
その為、戦闘は4人が行いアリシアは言語学者として看板を読むだけとなった。
そんな一行が洞窟の奥へと進むと次の看板が見えてきた。漸くアリシアの出番が来た。
『左は危険。我が屋敷に来たければ真っ直ぐ進め』
「屋敷?この奥に屋敷があると言うのか?」
「私に聞かれても解らないわ。そう書かれているだけだもの」
こんな、洞窟の深くに屋敷があるなど不思議に思う。レイドスが疑心暗鬼になるのも仕方がない。
しかし、フェイリルとレイドスはこの先まで来たことがある。その経験からアリシアが指し示している方向が間違い出ないことが解る。
それからも看板が現れれば指し示している方向に進むを繰り返した。
『右は危険。サセツせよ!』
『ウセツが正解』
『みぎに行くと良い』
『ひだりがセイカイ』
看板の文字を見るに連れあることが解った。
看板には『漢字』『カタカナ』『ひらがな』が使われ、形だけで解らないようにしてある。しかも語尾も言い回しを変えてある徹底ぶりであった。
アリシアは看板の書かれている内容と、なぜ文字の形が違うのか皆に説明をした。
「君達の世界は3つの文字を同時に扱うのか?」
確かに言われると可笑しい。普通は国の文字は1つであるが、前世の世界は『漢字』『カタカナ』『ひらがな』と3つの文字を使っていた。
それだけではない、『コウセイ』のように同じ読み方をする言葉が数十個もあるため、日本人でさえどの感じが正しいか解らない時がある。
普通に使っている分には違和感などなかったため気付かなかった。
看板の通り進むと次の看板が見えてきた。既に『漢字』『カタカナ』『ひらがな』は使われている。この看板には何が書かれているのだろう。
アリシアは看板に近付き看板に書かれた文字を見る。
『ライトOK』
(・・・)
一先ずアリシアに解った事がある。この国の始祖と言われる人物は、恐らくであるが英語が苦手なはず。
取り敢えず、『英語?』で書かれていた看板の通りに進むと再び看板が現れた。
「次の看板は私でも解った」
看板に近付く前にレイドスがこの看板に書かれた事だけは読めた事を告げられる。
「ああ、この看板は俺でも解った」
フェイリルでも解った?
もしかしたらネタが尽きて前の看板と同じ文字を使ったのだろうか?
アリシアは謎が深まる中で看板の文字を読む。
『 ⇒ 』
(・・・)
始祖と言われる人物は恐らく馬鹿だと思う。
確かに『漢字』『カタカナ』『ひらがな』『英語?』と、全てを使いきってネタ切れかも知れないが、絵文字など誰が見ても解ってしまう。
そもそも、非常口のように文字が読めなくても解るようにしたのがピクトグラムなのだから。
(ネタ切れなら諦めて同じの文字を使えばいいのに)
アリシアは呆れつつも看板の言う通りに進むとアリシアはレイドスに静止された。
「どうしたの?」
「ここを真っ直ぐ進むと広間に出る。私が探索出来たのはそこまでだ。そこから先にも看板があるが今までと全く違うことが書かれていてやはり解読できない。しかも、全ての道が強制転移させられる事から、どの道に進んでも戻って来たものはいない。だから、むやみに進まず気を付けてくれ」
「解ったわ」
【選択の間】
アリシアは進むとレイドスの言う通り大きく広がった場所に出た。奥は5つの道に別れている。
広がった洞窟の中央に看板が立っていた。
アリシアは看板に書かれている文字を読む。しかし、書かれている文字は今までと違っていた。
『子は裏切る。親を信じると良い』
看板にはこのように書かれていた。
何の事か解らない。
道は5つに別れており、一番左の道は広く、一番右の道は人一人通るのがやっとの狭い道となっていた。他の3つは普通の道のようであった。
アリシアが読むもレイドスでも解らない。
レイドスが、腕組しながら目を瞑って考え込んでいる。長考すると思ったのか、メイが何処から取り出したのか解らないが、テーブルをセッティングをして紅茶の準備をしていた。
「あなた、何しているの?」
「こちらの看板も、ここに来るまでにございました看板と同様に私達には解らないように書かれております。ならば私が考えても無駄ですので皆様の為に紅茶のセッティングをしております」
「そ、そう。助かるわ」
皆がメイがセッティングした紅茶を飲みながら考える事にした。テーブルもそうだが、椅子も何処から出したのだろうか?メイが持っている魔法のバックの容量が気になる。
紅茶を飲みながら皆考え込むが、メイは考え込む素振りもしない。
「メイよ、それでも少しは考えたらどうだ?」
「無駄でございます。こちらについてはアリシア様しか解らない事でございます。ですので、アリシア様、『親』『子供』『5つ』と、このワードで何か思いつきませんか?」
『親』
『子供』
『5つ』
・・・
・・・
・・・
「!!」
メイのワードを繰返して解ったような気がする。但し、この考えが正しいか解らない。
「もしかしてだけど、此は『手』を現しているのではないかしら?」
皆が己の手を見つめ出す。
「確かに『手』と言われればそうかもしれんな。だが、『親』と『子供』はどう言う意味だ?」
「前世の世界では細い指を『小指』、太い指を『親指』と読んでいたの。だから、正解は・・・」
「左の幅の広い道か・・・」
【悪役令嬢の懺悔】
アリシアは言っては見たものの、自身の考えが正しいか解らない。この道が100%正しいとは言いきれない。
皆を太い道の方まで導くが、そこから先に行く勇気がない。
「では、確めて参ります」
躊躇している私の横をいつの間にかテーブルと椅子を片付けたメイがスタスタと通り抜けていく。
暫くするとメイの姿が消えた。
調べて来るとは言ったが、戻ってきた者がいないのにどうするのだろうと思った。
すると、後ろからガタガタと音がする。
魔物!?
慌てて振り返ると、メイが取り出した椅子が1脚だけ残されていた。
しまうのを忘れたのかしら?
と、思っていると椅子が徐々にアリシアのいる方に向かって来た。
ぶつかる!?
と、思ったが椅子はアリシアの横を通り抜け、メイが消えた道へと向かっている。
「どうやら正解らしいな」
これの何を見て何を確証したのか解らないがレイドスがアリシアの肩をポンッと叩き先へと進む。アリシアもレイドスの後に続き進むと転移の先にはメイが待っていた。
「メイ!勝手に行くなんて何を考えてるの?間違っていたらどうするのよ!」
アリシアはメイに叱責する。だが、メイは何故起こられているのか解らず首を傾げている。
「アリシア様、何を怒られているのですか?私はアリシア様と同じ事をさせて頂いただけですが」
「えっ!?」
「アリシア様は死なない自信がありましたからシンシア様の為に動かれたのですよね?私もアリシア様の言われた事が正しいと思い、自信がありましたから進んだだけでございます」
「・・・」
「アリシア様なら解って下さると思ったのですが違いましたか?」
「それは・・・」
何も言えない。
自分がやられて始めて気付いた。自身の過ちを。
私は知らなかった。残される側の気持ちを・・・
いつも『残す側』だったから・・・
シンシアもこんな気持ちだったのだろうか。
アリシアは誰かの為に自分が犠牲になることは厭わなかった。だが、同じ事を侍女のメイにやられてアリシアは気付く。自身が犠牲になれば等と言うものは自己満足でしかなく、残された者からしてみれば、望んでいない犠牲なのだ。
その時、アリシアは前世の事を思い出す。
私がいなくなれば家族の皆を楽に出来ると考えていた。果たしてそうなのだろうか?
あの時も自分が犠牲になればと思ったが、残された家族の気持ちを考えていなかった。
ここで、始めてアリシアは前世で親不孝をしたと後悔する。
「アリシア様?」
目からツーッと頬を通って涙が滴るも、メイは『許しません!』と言わんばかりにアリシアに問い続けてくる。
「もういい。帰ったらシンシア令嬢に謝れるな?」
レイドスは涙が止まらないアリシアの顔を体で隠すと、メイの攻撃を収めてくれた。
シンシア・・・
そう、私はシンシアに謝らないといけない。
「・・・うん」
やっとの思いで返事をした私は大人の淑女のような返事ではなく、大人に諭された子供のような返事をしていた。それは、前世での父親の事を思い出してしまったのが影響していたかもしれない。
アリシアが涙を隠すようにレイドスの胸を借りている。アリシアが泣き止むまで、洞窟の調査は中止となった。
そして・・・
男達は壁を見ながら立たされている。
「もういいか?」
「まだよ!」
現在、アリシアは涙によって化粧直し中であった。かれこれ30分くらい経とうとしている。
「そんなに厚化粧だった・・・」
ゴンッ!
「痛っ!お前・・・なんなんだ?」
「レイドスが失礼な事を言うのが悪いんでしょ。石があたったくらい何なのよ」
「いや・・・これは石じゃなく岩だぞ!」
「だから、見るな!」
ドゴッ!
レイドスは己に回復魔法を施しながらアリシアの化粧直しが終わるのを待つ。
それから、20分後に漸くアリシアの化粧直しが終わる。さー、冒険の再開である。
「メイ、お前の事だから、この先がどうなっているのか見てきたのだろう?」
「はい。この先を暫く進みますと、大きな扉で道が塞がれておりました。また、その近くに看板がございました」
「恐らく、そこが最後の関門だろう。行くとしよう」
【未踏の地への呪文の言葉】
漸く終わりが見えてきた。アリシアは心の中は既に、シンシアにどのように謝罪するかを考えていた。なので、己の名がレイドスに連呼されていたことに気付かなかった。
「アリシア!」
何度目の連呼だか解らないがアリシアは自身の名が呼ばれていたことに気付く。
「な、何?」
「以前も話をしたが、油断をするなよ」
「ごめんなさい。気を付けるわね」
アリシア達が進むと、メイが言っていた通り大きな扉が行く手を塞いでいる。その扉の前に看板が置かれていた。恐らくこれが最後の看板であろうと思われる。
更にここから先は未踏の地である。誰も足を踏み入れる事が出来なかった場所に私達は足を踏み入れようとしている。
アリシアは緊張しながら看板に書かれている文字を読む。
『扉を開ける呪文といえば、開け○○(大声で!)』
「・・・」
「どうした?何て書いてあるんだ?」
「えっ!?そ、そうね。扉を開けるには呪文の言葉を言わないといけないらしいのだけど・・・」
嘘でしょ・・・
滅茶苦茶恥ずかしくて嫌なんですけど。
でも、これって言わないと、ここから出れないってこと?
「呪文?君の前世には魔法がないのではなかったか?」
「呪文はないわ。でも、物語等の空想の世界では幾つもの呪文があるの」
「幾つもの・・・・空想の呪文など無理だろ・・・」
「そうでも・・・」
「し、知っているのか!」
もう、これは勇気を出して言うしかない。
「開け・・・ゴマ・・・」
「えっ!?すまん、声が小さくてよく聞き取れん」
大きな扉も反応がない。括弧書きに書かれている大声でという言葉に始祖の悪意を感じる。
「『開けゴマ』って言ったのよ!」
「「「・・・」」」
(止めてよ!沈黙されたら余計に恥ずかしいじゃない)
アリシアが両手で顔をかくしていると、扉が眩しいほど輝き出し、塞がれていた扉が開き始めた。
【どこか見たことある風景】
開かれた扉の先にあったのは、前世で見慣れた風景であった。
石畳が行く手を案内するかのように玄関まで導かれ、家屋の脇には栗や柿の木がある。その下には池があり、池の近くに鹿威しがカコンッ!と良いリズムで鳴り響く。
そう、目の前に広がるのは田舎にある長閑な景色に日本の民家を絵に描いたような屋敷が建っていた。前世のアリシアはマンション暮らしであったため懐かしくはないが、絵本や雑誌で見た事がある風景であった。
だけど、アリシア以外の者は見たこともない家が現れたことに呆然としている。いや、それよりも、洞窟内にこのような家屋があることが驚きかもしれない。
「アリシア・・・俺は夢を見ているのか?」
「もし、そうだとすれば皆が同じ夢を見ていることになるわね」
アリシアは皆に知る限りの古い日本家屋について話した。ただ、この風景には少し違和感を感じる。どこか新鮮過ぎる。まるで先程まで誰かがいたのではないのかと感じるくらい。
「ねぇレイドス、もしかして誰かいるのかしら?」
「・・・その可能もあるが『保存』もしくは『時間停止』の魔法が施されていたのだろう」
「魔法?」
「ああ。そうでなければ、庭先の草木がここまで整っているわけがない。数百年も放置されている場所なら、それ相当に荒れているはずだからな。但し、誰かいる可能性もあるから油断はするな」
「ええ」
私達は警戒を怠らないようにフェイリルを先頭にしたフ
ォーメーションを守りながら歩き続ける。
すると、どこからか鳥の鳴き声が聞こえて来た。
聞き覚えのある鳴き声。
まさかと思い、声がする方へと向かうと、物干し竿の上に雀が二羽止まっていた。
「えっ!洞窟内に鳥までいるけど、生き物も時間停止していたの?」
「あれからは生命反応が感じられない。恐らくだがゴーレムみたいなものだと思う」
ゴーレム!?
いや、どう見ても生き物にしか見えない。
本当にゴーレムなのかと雀に近付こうとすると、雀はアリシアの気配を感じとり飛び立つ。
その羽ばたく姿も本物のようであった。
アリシアは近くにある池の中の鯉に目が行くと、まさかと思いレイドスに聞いてみる。
「もしかして、この鯉もゴーレム?」
「ああ。あの魚からも生命反応がない。あれも間違いなくゴーレムだろう」
こちらも細部までうまく作られている。メイが木屑のようなものを池に投げると、餌と勘違いをして水面付近で口をパクパクしている姿は本物そのもののようにしか見えない。
「そろそろ戻らないか」
フェイリルの一言により玄関に向かう事にした。玄関前まで来たが玄関には鍵がかけられていた。そして、玄関には1枚のメモが貼られていた。アリシアはまさかと思ったが、その予感は的中した。
『さー、今一度大きな声で、開け○○』
この始祖と思われる人物はかなり悪巫山戯が過ぎるわね。アリシアは仕方がないわねと、後ろを振り返りバルフレアの肩を叩き「任せましたわ」と告げる。
「何故俺が?」
「何故って、勇敢でこう言うの気にしなそうだから」
『勇敢』という言葉で誤魔化しているが、アリシアが述べた言葉を訳すと『無神経』と誰が聞いても悪口なのだが、バルフレアは『勇敢』という言葉に騙され照れていて気付いていない。
騙されている事に気付かないバルフレアは「仕方がない」と大声で「開け!ゴマ!」と叫ぶ。あまりの大声であるため玄関の窓ガラスが振動で揺れている。
「・・・」
しかし、今回は特に扉が開いたり扉が輝いたりしない。その為、沈黙が余計に長く感じられた。
「おい、流石に一言くら・・・」
「あっ!開いたわ」
アリシアはバルフレアの事は触れることさえせず、扉に異変がないか調べ出すと扉が簡単に開くようになっていた。
「ほら、バルフレアさんもボーッとしてないで行くわよ」
「・・・」
「気にするな、行くぞ」
「ああ」
【長閑な一時】
玄関を開け、アリシアの目には入り込んだのは・・・
普通の民家であった。
トイレがあり、台所があり、居間があり、仏間があり、寝室があり、縁側がある。どこからどう見ても普通の家でしかない。
そして、アリシア達が探しているものはありそうになかった
「どうする?」
「何がだ?」
「私の思っている事が間違いじゃなければ、ここの場所って何処か解らないはずよね。確かレイドスの『転移』は位置が解らないと使えないって言ってなかった?でも、この家屋には転移出来そうな部屋があるとは思えないのだけど」
「ああ、庭も含め探し回るしかないだろう」
「そう」
なら、仕方がない。そのうち、何らかの答えを見つけてくれるとレイドスを信じることにした。
その後、皆で手分けして外に繋がる道がないか探す事になったが見つからない。ないはずがない、始祖がここを使っていたのなら必ず出入りしていた通路があるはず。
だけど、フェイリル、レイドス、バルフレアが裏庭など隅々まで探索し続けているが、未だ見つけられなかった。
「アリシア?」
「何?」
「何している?」
「炬燵に当たっているのよ。それよりも凄いのよ。メイが台所からお茶と蜜柑を見つけてくれたのだけど、何と緑茶があったのよ。炬燵に入りながら蜜柑を食べてお茶を啜るのが夢だったのよね~」
素人の自分が一生懸命探しても解る筈がないと、アリシアは炬燵にあたって報告を待っていた。
何故かメイも炬燵にあたって蜜柑を食べている。
「・・・」
「何よ?」
「いや、良かったな。夢が叶って」
「ありがと♪それよりも何か見付かった?」
「いや、まだだ。恐らくだが、シソ様は君がここに来るのを歓迎している。ならば、君だけが解る出入口があるはずだ。それで聞きたいのだが、君の前世の記憶で一般家屋の構造で普通では解らない収納場所や扉がないか?もし知っている事があったら教えて欲しい」
家屋の構造・・・
そう言われても、アリシアの前世では住んでいたのはアパートで、しかもアリシア自身は、ほぼ病院だったため難しい話であった。
なら、テレビや雑誌の記憶を辿るしかない。すると、アリシアはサスペンスドラマのとあるシーンを思い出す。
「よく押入から屋根裏に物を隠すってドラマを見たことがあったけど・・・」
「押入ってなんだ?」
「そうね・・・部屋に備え付けられた倉庫みたいな感じかしら」
「そこから屋根裏にか・・・」
この家屋に押入は幾つかある。この居間の隣の部屋にも1つあった。レイドス達が押入の探索を始める。
どれくらい時が経ったであろうか。既にアリシアが2つ目の蜜柑を平らげようとしているところで、漸くレイドスが居間に戻って来た。
レイドスはアリシアの姿を見て溜め息を吐く。
「何よ!」
「アリシア、太る・・・」
バコッ!
レイドスの頭にアリシアが投げた蜜柑のカゴが命中する。
「し、失礼ね!それより、どうだったのよ?」
「ああ、寝室の押入を調べてみたら面白い空間が見付かった。君の言う通り屋根裏に秘密の部屋があるようだ」
【始祖の真実】
本当に押入から屋根裏にいけるなんて・・・
(何でも言ってみるものね)
皆が押入から屋根裏に登って行くが、流石にアリシアでは登る事は難しそうであった。仕方ながないので、私は引き続き居間で蜜柑でも食べながら皆の事を待っていると伝えると、レイドスが「君が来なくてどうする」と言われ、屋根裏に上がって行った。
そして、直ぐにアリシアの元に戻ると転移魔法で屋根裏にある秘密の部屋に転移した。
「レイドスって座標や位置が解らないと転移出来ないんじゃなかったの?」
「場所は解っているだろ、こことさっきの場所など目を閉じてでだって歩いて行けるからな」
(なる程ね。やっぱり、認識出来るかどうかなのね)
「そうね。ところで、この書庫ってもしかして・・・」
「ああ、シソ様の書庫に間違いないだろう」
書庫にある本の半分は日本語で書かれていた。確かにアリシアが来ないと話にならない。
書庫はご丁寧にこの世界の言葉と日本語に分けられており、しかもあいうえお順に並べられていた。
日本語はアリシアの担当と言うことで、アリシアは書庫に置いてある書物類をア行から順に見歩いた。
すると、早速、気になるタイトルを見つける。
『アリシアと言う悪役令嬢について』
(私の事?)
何故、始祖様がアリシアの事を知っているのか不思議に思い、ファイルを手に取り開いて見た。
『私は、たまたま知ることとなった二つの世界の悪役令嬢がアリシアと言う名で共通している事が気になる。たまたま偶然なのだろうか?だが、これが偶然ではなく、もし同一人物なのだとしたら・・・
流石にそれは可哀想だ。1つの世界で悪役令嬢として断罪され失意の中で聖女として召喚されるも再び悪役令嬢とされ、今度は魔物に食べられて生涯を終えるなど・・・
私は彼女について考える』
その後はアリシアの身に起こる事が事細かく書いてあった。『早くして母親を亡くす』『父親の虐待』『婚約者の不義』『断罪』、そしてこちらの世界での出来事も書かれていた。
そして、最後に気になる言葉が書かれていた。
『今度、神にあった時に相談してみよう。二人のアリシアが同一人物なら悪役令嬢がこちらの世界に来る召喚の時期を早める事が出来ないか。もし出来れば未来が変わるのではないだろうか』
(神?
私がここに来る切っ掛けとなったのは神が関わるって事?
それとも、この二つの世界は神が書かれたシナリオって事?
それならば、私の運命は変わらないのでは?
でも、ここに書かれている事が本当ならば、私の運命は変わった?それも変わったのは始祖様が係わっているって事?)
アリシアの脳内で疑問から疑問が生まれ困惑していると、取り出したファイルがあった棚の隙間に一通の手紙があることに気付いた。手紙には『アリシアへ』と書かれていた。
こんな事を書かれれば読まずにはいられない。
アリシアは手紙の封を切った。
『アリシア嬢へ
ここへは君しか来れないように日本の記憶がないと来れないようにした。この手紙を君が読んでいると言う事は君が前世の記憶を取り戻せた事と思って良いだろうか。
私は初めて君の事を知ったのは神の未来視を私の能力(想像)で真似てみたところ、二つの世界の未来を見ることが出来た。何故、この二つの世界の未来を見ることが出来たのか、悪役令嬢の名が同じなのかは偶然なのかは解らない。
そこで、私は一つの可能性に辿り着く。
私は二つの世界の未来を見たのではなく、一人の人物の未来を見たのではないだろうか。
私の疑問は神に問い質して是であることが解った。
だが、その考えが是とするならば、このアリシアと言う人物は二つの世界で悪役令嬢とされ、命を落とすことになる。私は何て不幸な女性なのだと思った。
そこで、私は神にお願いをした。アリシア嬢を私と同郷の転生者にして断罪前に記憶を戻して欲しいと言う事と、最初の断罪となる卒業パーティー前にこちらの世界に召喚して欲しいと。
私は君を救いたいと思う。そこで私は神から教えて貰った事と私が能力で知り得た君に関する事をファイルとしてここに残して置く。
最後に願わくば無事に運命を変えて欲しい。
追伸、この家屋から出たいなら君の記憶を辿る事だ。普通の家屋にある収納場所だと言えば解るだろうか
春雨 紫蘇より』
このファイルと手紙は皆にも見て貰おうと思う。それに、この手紙によりアリシアは重大な勘違いをしていた事に気付く。
他にも何か探していると『浦○太郎の真実』と言う気になる書物があったが今は必要がない。
すると気になるタイトルのファイルを見つける。
ファイルには『断罪は花のように』と書かれてあった。
(どういう事?何でこれがここにあるの?)
アリシアはもしやともう一つのタイトルを探す。この時はあいうえお順に並んでいた事に感謝した。
アリシアが探していたタイトルが書かれたファイルを見つけることが出来た。
『本当の聖女は隣にいる幼馴染みでした』
この世界を題材にした小説のファイル。
これが何を示しているのかはアリシアにも予想がつく。
アリシアは紫蘇が残したファイルに書かれていた内容をレイドス達に話した。
「驚きだな。ここに書かれている事が真実なら、君が前世で読んだ小説の作者はシソ様と言う事になる。
それに君が断罪前に記憶を取り戻した事や召喚される事になったのもシソ様が係わっていたようだな。
我々が一生懸命踠いてきたが、これではまるで我々はシソ様が描いた筋書き通りに動いているようだ」
確かに紫蘇様が語られている通り、前の世界は断罪前に召喚された。記憶を取り戻したのも断罪前であった(出来ればもっと早く思い出せていたら良かったのだけど)。本来は断罪後、島流しになった後だったのかもしれない。そうなれば、話が変わって来る。
先ず、召喚された時に罪人の姿とパーティードレスでは相手に与えた印象が違うのではないか。それに、島流しになった私が正常でいられるとは思えない。裏切り・体罰・孤独によって人が信じられなくなり、また次は幸せになりたいと固執した考えで心に闇が生まれていたかもしれない。
そうなれば、シンシアの事を虐める私が生まれていたかもしれない。
そう考えると、ここまでの展開が紫蘇様の筋書き通りだったとしてもアリシアとしては感謝したい。
「ところで、そっちの方は何か気になるのあったの?」
「こっちにもあったぞ。この『建国記』にはシソ様の能力や凶悪な魔物を封印した場所、その魔物の図鑑が挿し絵付きで記述されている」
「凄いじゃない!そこが解ればシンシアの拒絶で封印場所を囲んでしまえば万事解決じゃない!」
「ああ、そう言う考えもあるな」
歴史的発見をしたのに、何処かレイドスは元気がない。レイドスだけではなく、フェイリルやバルフレア、そしてメイ・・・はアイマスクらしきものをして寛いでいる。メイは相変わらずのようだ。
「何か問題でもあった?」
「ああ、この部屋にもここから出るヒントが得られなかった」
「あっ!それなんだけど、手紙の最後に普通の家屋にある収納場所に出口があるって書かれていたいたわ」
「本当か!」
「ええ、だけどご免なさい。それが何処なのか解らないの」
「そうか・・・」
「アリシア様、慌てることはありません。ここには食料が多くありますので、数日は大丈夫でございます。ゆっくり探すことに致しましょう」
メイが相変わらずアイマスクをして寛ぎながら、アリシアの事を励ます。あまりにも寛ぎ過ぎているメイの姿を見てアリシアも何か肩の力が抜けたように気持ちが楽になった。
「ふふ、ありがとう。でも、流石にメイは寛ぎ過ぎではなくて」
もう大丈夫。メイの言う通り慌てる事はない。ゆっくりと考えよう。前世の記憶。テレビ・雑誌での記憶。ここ以外の収納場所・・・
普通の家屋にある収納場所
屋根裏は見たから次は床下?
床下収納場所・・・
(あっ!1つだけ見落としていたところがあるわ)
絶対にあるとは言えないけど、良く見掛ける収納場所。
「レイドス、まだ1つだけ見ていない部分があるかも」
「見ていない部分?」
「ええ。前世でよく台所の下に収納庫がある事を思い出したわ。何処の家にもあるわけじゃないけど、もしかしたらこの家にあるかもしれない」
【冒険の終わり】
皆で台所に向かうなかバルフレアが珍しくアリシアに話し掛けて来た。バルフレアから話し掛けて来るなんて初めてではないだろうか。
「アリシア嬢が前世で住んでいた家にも屋根裏部屋や床下収納なんてあったのか?」
「正直な話、解らないわ。殆どが病院で過ごしていたし、家にいても何もさせて貰えなかったから」
「ならば、何処で床下収納や屋根裏部屋の知識を得たのだ?前世の家屋では設置の義務とかあったのか?」
「そんな義務なんてないわよ。サスペンスドラマとかで良く出てくるのよ。死体の隠し場所にしたり、犯行に使った凶器を隠したりとかね。もしかしたら、これから向かう床下収納を開けたら紫蘇さんのご遺体があるかもしれないわよ」
「そ、そうか・・・」
どうやら、アリシアのブラックジョークは不発に終わったようだ。バルフレアはアリシアとの距離を取り、レイドスに近付くと小さい声で「たまにアリシア嬢が本当の悪女に見える」と呟く。レイドスも「そうだな」と返していた。
(二人とも聞こえてるわよ(怒))
台所に着くと床下には収納らしき場所が見当たらない。よくよく考えればフェイリルやレイドス達がそんな簡単な場所を見落とす訳がない。
私の推理は外れていたようだ。ならば、他にないか考えなくては。
「ご免なさいね、ここはハズレだったみたい。他に何かないか思い出して見るわね」
「いや、君の推理はあっている」
そう、アリシアに告げるレイドスは探知魔法で床下に認識阻害の魔法がかけられていることが解った。
この部屋には何らかの仕掛けがあるかもと、皆で隅々まで探す事になった。
「アリシア様、アリシア様の前世では台所に本棚があるのは普通なのでしょうか?」
異変に気付いたのはメイであった。男性達は残念ながら調理室に足を踏み入れたことがないため、明白な違和感に気付かなかったようだけど、メイは普段から王宮の調理室に顔を出すことがあるため、違和感に気付いたようだ。私は・・・全く気付かなかった。
「普通はないわね。あら、こんな所に『バイブル』って書かれた書物があるわ。こういった本を取り出そうとすると仕掛けが・・・」
ガコンッ!
アリシアが本棚にあった『バイブル』と書かれた書物を取り出そうと傾けた瞬間、何かが作動する音がする。
すると、床下がパズルのように並べ替えられていき、徐々に地下へと降りる階段が露になってきた。
「す、推理通りね」
下を覗こうにも地下は暗闇が続くだけで姿を露そうとしない。解るのは地下へと繋がる階段が螺旋階段である事だけでだった。
私は陣形を整えると、レイドスが光魔法で照らしながら地下へと進む。地下は意外と深く、既に数十段下ったが未だに底が見えない。
漸く、底が見えて来たが、底には何もなく只の空き部屋でだった。
私は、空振りだったかと諦めかけたが、先頭のフェイリルが下り終え、地下の床に足を踏み入れると、部屋の様子が急変する。
室内は、明るくなり、床下には魔方陣が描かれ淡く光っていた。
この魔法陣を見てレイドスが見解を述べる。
「おそらく、転移魔法だろう。」
室内に沈黙が流れる。
おそらくであるけど、ここが出口に間違いがない。
間違いがないと思われるが違うかもしれない。
「それでは私が・・・」
再び、一人で魔方陣に向かうメイを、そうわいかないわよと、服を掴み止めた。メイの行動が徐々に解るようになってきた。
「行くなら皆一緒よ!」
私の言葉に皆が頷き合図と共に皆で魔方陣に入る。
魔法陣が光出すと四方が壁で覆われた場所に飛ばされた。床下には先ほどと同じような魔方陣がある。おそらくだけど、さっきの部屋に戻れるのかもしれない。
「おい、こっちの壁、崩れ易そうだぞ」
フェイリルが室内を探索していると、明らかに一部分だけ壁の強度が弱い場所を見つける。レイドスの魔法をぶつければ壁は壊せそうであった。
レイドスが探知魔法で壁の先に探索すると壁の向こうにも部屋のような空間がありが生命体の反応はない事が解る。ならばと、レイドスが壁に向けて強烈な魔法の一撃を入れると、壁は木っ端微塵に崩れ飛んだ。
壁の先には見覚えがある。
「ここってもしかして・・・」
「アリシア様のお部屋ですね」
~おまけ~
○紫蘇様の真実
「ねぇレイドス、紫蘇様って名前だったの?」
「そうだが、他に何がある?」
アリシアは今まで皆が語っていたシソ様は創設者と言う意味の始祖様だと勘違いしていた。
だが、書物に書かれた名前を見て自身が勘違いをしていた事に気付いた。
(ややこしい名前ね)




