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16.悪役令嬢の冒険譚(中)

【王墓の洞窟】


二度目の夜営を終え、森を進むと目的の洞窟に辿り着いた。

正直に言えば、私達が馬車から降りてからこの場所までは真っ直ぐ進めば1日も掛からない距離であった。


これだけ時間が掛かったのは私達のためである。

フェイリルが盗賊や毒沼などの危険地帯を避けながら最も安全なルートで進んでくれていた。

尤も、そのようにするよう、レイドスが依頼していた。


いくら盗賊や毒沼の危険性があるからといっても新米冒険者でさえ辿り着けるレベルのものだ。

王宮の英雄が二人揃って消極的に感じる。

しかし、同行者には聖女兼王子の婚約者であるシンシアがいるのだから慎重にならざる得ない。

その慎重な行動はこれから洞窟に入る時にも継続され、隊列の話し合いを行っていた。


「俺が一番先頭で安全を確認しながら進む。次にロードス殿下に来て頂き真ん中にご令嬢達、侍女は令嬢達の護衛を、その後ろをレイドス、そして最後尾にバルフレア殿としよう」


「ロードス殿下が二番目なのは危険じゃないの?」


私は冒険について何も知らない。だからゲームのRPGのイメージが強い。ゲームでは先頭にいるもの程危険となっているため弱い者や守るべき者は後方に配置していた。そう考えるとバルフレアさんを最後尾にする事の意味が解らなかった。


「後方から魔物が襲ってくる場合もあるため魔道師を最後方にするのは危険だ。よって後方からの襲撃を考えると最後尾はバルフレアが最適とされた。魔道師は補助や回復も兼ねるから出来るだけ全体を見渡せる方がいい」


なるほど、ゲームとは違うのね。

他に意見を述べるものがいないため、フェイリルが提案した隊列で進むことにした。


洞窟の中は奥に行くほど光が届かなく、暗闇に包まれ先が見えなくなっていた。

するとレイドスが魔法で明かりを灯す。

レイドス魔法は私達周辺と進む方向数メートル先を照らしている。


少し進むとフェイリルの進む歩みが止まる。

まだ魔物にも遭遇していない序盤の序盤にどうしたのだろうかと思っていると、すぐそこにトラップがあるらしい。


「えっ、どこに?」


「あそこの壁が少し出っぱっているのが解るか?あれは罠だ。ここから先、幾つかあのような罠があるから無闇に壁を触れないでくれ」


フェイリルが指差す方向の壁を見ると確かに少し出っぱっている部分があるがアリシアから見ると只の普通の壁にしか見えない。アリシアはもしや騙されているのかなと思い、触りたいと言う衝動に駆られる。


「触るなよ」


「さ、触るわけないでしょ」


どうやら私の高鳴る気持ちはレイドスにバレていたらしい。ウズウズした気持ちを押さえながら洞窟を進むと今度はレイドスが皆を静止した。


レイドスは光で照らす魔法だけではなくて周辺に魔物がいないか探知魔法も使っていた。


「左の道を暫く行くと五体の魔物がいる。他の魔物と距離があるため、今回の目的には丁度良いだろう。シンシア嬢、拒絶の壁を半径10mで維持を頼む」


「解りました」


「我々は結界がどこまで機能しているか調べたいから魔物が我々に近付くまで攻撃は避けて欲しい。だがアリシアは君の能力がどこまで有効か調べたいから君は積極的に攻撃をしてくれ。但し、隊列は崩さないようにだぞ」


「解ったわ」


「他に何か聞きたいことはないか?」


レイドスの問いにアリシアが手を挙げる。


「何だ?」


「この探知魔法だけど、あの森での魔物の襲撃ってレイドスは探知出来ていたって事?」


「・・・」


場違いの質問で皆に申し訳ないけど、あれにより一人の騎士が引退することになった。

アリシアとしてみれば、そのままスルー出来る事ではない。


「あの時は魔法を使っていないよ」


答えたのはロードス殿下であった。

確かにロードス殿下もあの現場にいたが、何故そう言い切れるのだろうか?


「あれは第三騎士団の訓練も兼ねていた。魔法の探知なしに自分達で危機感を持って魔物退治を必要としていた訓練だった。そもそも、あの訓練に魔道師を連れていく予定ではなかったのだが、レイドスがどうしてもと言うので、魔法は最低限にするよう頼んでいたのは我々の方だ」


「そうなのね。その危機感を持つ場所に私は連れていかれたのね」


「・・・」


「ごめんなさい。沈黙するとは思わなかったわ。納得出来たから先に進みましょ」


「ああ、他に質問がなければ行きたいのだが」



【初めての魔物の討伐】


特に質問する者はない。私達は魔物に近付く事にした。

魔物もアリシア達の事に気付いたらしく、私達に向かって唸り始める。

だが、アリシアはまだ魔物の姿が見えない。

姿が見えない状態で唸り声だけが聞こえている状態は恐怖を感じる。レイドスの魔法で照らされていたり、事前に魔物がいることを知らされていなければ、腰が抜けて進むことが出来なかったかと思う。


もう少し進むとアリシアにも魔物の姿を捉えることが出来た。魔物は大型犬のような容姿をしているが目が1つしかなく、口が大きく避けて牙と長い舌が剥き出しとなっていた。魔物は私達が近付くと一斉に私達に襲い掛かって来た。


が、シンシアの透明な壁のような結界に勢いよくぶつかる。

猛スピードの車がブレーキを踏まずに壁に衝突すれば、その衝撃は計り知れない。魔物も同様で二匹の魔物は首の骨が折れたようで、そのまま倒れ混んだ。


次は私の番と、訓練し続けたムチを取り出す。

初めて扱った時とは違いムチは綺麗な弧を描きビュッ!ビュッ!と風を切る音がアリシアの繰り出す攻撃の威力が以前と別物であることが解る。


アリシアのムチには無数のトゲが付いている。魔物に強烈な一撃を入れると、ムチのトゲにより魔物の皮膚を抉り、魔物が傷だらけとなっていた。更にアリシアは等価交換の能力を魔物に一撃加える度に発動させ、魔物の生命力を限界まで奪い続けた。


シンシアの結界を生き残ったと言ってもダメージが残っていた魔物はアリシアの攻撃と能力により、よろよろと立って動くのがやっとの状態となっていた。

成果を確認出来たとフェイリルがトドメを差す。


「アリシア、神樹の葉は何枚だ?」


レイドスはアリシアが持つ枯れた神樹の葉が何枚戻ったか聞いてきた。

レイドスの問いにポーチの中の枯れた神樹の葉を見てみると、2枚ほど青々と戻っていた。


「2枚程ね」


「そうか、あの低級魔物でさえ2枚も回復してしまうとなると今後の事を考えた方が良さそうだな」


あの狂暴そうな魔物で低級・・・

低級ってスライムとかぬいぐるみにしたくなるような魔物かと思っていたアリシアは現実は違う事に驚いた。

尚、スライムは皮膚や防具を溶かす酸攻撃をしてきたりするため、初心者では討伐は難しいらしい。


「あっ、それなんだけど、ムチの攻撃の時は一瞬だから複雑な等価交換は難しくて吸収しか出来なかったけど、この神樹の葉が魔物の生命力から成り立っていると考えると・・・ほら、魔石にすることが出来たわ。此なら何枚も神樹の葉を持たなくても大丈夫じゃないかしら?」


「「「・・・」」」


皆が沈黙する。暫くするとレイドスが皆を集め話し合いを行っていた。皆が頷き出したので話し合いは万事解決したようであったが、話し合いが終わるとレイドスは私に近付き、私の頭をもぐら叩きのように拳骨を落とす。


「いったーい、何なのよ!」


「前に言った事を忘れたのか?その能力を皆の前で使ったらどうなると思う。只でさえアリシアの能力は計り知れないのに、簡単に魔石が作り出せる事が世間に知れ渡ると金に目が眩む者達が良からぬ事をするようになるぞ!」


「ご、ご免なさい。で、でも神樹の葉では魔物の生命力より弱すぎるわ。神樹の葉より生命力があるものがあればいいのだけど」


「そうだな、ハイレベルな魔物だと、一気に百枚回復するか殆ど弱らせる事が出来ないかのどちらかになってしまうだろう、神樹の葉以上な物や違った方法を考えておくか」


「ありがとう、でも私と違ってシンシアの拒絶は完璧だったんじゃないかしら?ちゃんと魔物は拒絶出来たし、私達の攻撃は遮られることもなかったわ」


「そうだな。だが、試したいことがある。引き続き魔物退治を続けるとしよう」


(えっ!まだ続けるの?)



【聖女の弱点】


シンシアの拒絶はアリシアから見たら完璧に思えた。これからは拒絶の壁の範囲拡大と放置出来るように訓練をした方が良いように思えるのだけど、レイドスの考えは違うらしい。

レイドスが気になる事はかなり重要な事なのだと思うため、レイドスの言う通りに洞窟内の探索を続ける事にした。


レイドスが探索魔法を唱えながら洞窟内を進む。度々、魔物に遭遇するがそれらもシンシアの拒絶は問題なく働いた。魔物のレベルも低く、豪勢なメンバーによって魔物退治は難なく行う事が出来た。

それでもレイドスはお目当ての魔物には出会えていないようで、魔物の探索を続けていた。


洞窟の中腹くらいまで進むと壁に看板が貼られていた場所に辿り着く。


「ここまで来てしまったか。いいか、ここより先は間違えた道にはトラップが仕掛けられている。決してフェイリルと違った道に行こうとするな」


どうやらここが例の看板らしい。

アリシアは看板を覗いて見る。


『ここより先は私有地なり。この意味を理解するものは歓迎しよう』


洞窟内に私有地ってただの悪戯にしか思えないけど、もしかしたらこれがトラップなのかもしれない。

最後の『歓迎しよう』と言う言葉が気になるが、これだけ豪勢なパーティーなら安心できる。

アリシアはレイドスの指示の通りに進む事にした。


再びレイドスが探索を始めると魔物の反応があった。


「いた!ここより左に2匹だ。我々は後ろに控えているから二人で倒してみるといい」


私達は前に進むと二足歩行の魔物がそこにいた。子供程の背丈ほどであるが激しく猫背で背骨が浮彫している。まるで子供と老人がかけ合わさったかのような奇妙な生き物はアリシア達に気付くと涎を垂らしながら唸り声をあげている。


突然、呻き声をあげると手に持つ鋭利な武器でアリシア達に襲い掛かってきた。

魔物はシンシアの拒絶の壁に弾かれ・・・

なかった。

なんと、魔物がシンシアの結界を素通りしたのだ。

アリシアは予想外の事が起きて反応が遅れてしまった。

ムチを構えるも到底間に合わない。

魔物が持つ武器がアリシア達に襲い掛かってきた。


(ヤバい!)


アリシアは避けることも出来ず、近付いてくる鋭利に思わず目を瞑ってしまった。

が、魔物の武器が一向にアリシアに届く気配がない。

恐る恐る目を開けると、魔物は壁に巨大な岩の杭で串刺しとなっていた。

シンシアに襲い掛かっていた魔物もロードス殿下によって斬り倒されており、私達は間一髪助かることが出来た。

だが、疑問が残る。


「レイドス、どういう事?」


「予想通りだな。シンシア嬢の拒絶は二足歩行の魔物を弾かない弱点がある」


「二足歩行の魔物を拒絶しないってどういう事?」


二足歩行の魔物など『ゴブリン』『グール』など数えれば切りがない。

しかも、上位の魔物なら殆どが二足歩行をする。

そうなると結界が張られても殆どの魔物が素通りとなってしまう恐れがある。


「二足歩行が出来る魔物は知性を持ち合わせている証拠だ。シンシア嬢の脳の片隅に知性があるのならば話し合いでどうにかならないかと考えているかもしれない」


確かに通じる魔物がいるかもしれない。だけど、その可能性は百匹の魔物の内1匹いるかどうかくらい低い可能性にしか思えない。そんな1匹のために百匹の魔物の驚異を受け入れるなんて考えられない。

だけど、シンシアなら考えられる。シンシアなら低い可能性でも助けたいと思ってしまうかもしれない。


「どうするの?」


私の問いにレイドスは答えられない。この冒険の決定権はレイドスではなくロードス殿下にある。

すると、バルフレアさんがロードス殿下に直接問う。


「ロードス殿下どう致しますか?現状の能力でも十分に成果はあると思われます。侵入してきた二足歩行の魔物だけなら我が騎士団でも十分に討伐出来るはずです。更に魔道師やアリシア様が協力して下されば問題ないかと思われます」


バルフレアさんの見解にロードス殿下は首を横に降っている。


「いや駄目だ。結界に封印されし魔物の全てが二足歩行であったらどうする?シンシア、君には申し訳ないけど、このままでは今までの努力が意味をなさなくなってしまうかもしれない。あんなにアリシア嬢のために頑張って来たのに、このままではアリシア嬢の危機が取り除く事は難しいだろう。運命が変えられないかもしれない。大変だと思うが二足歩行の魔物を拒絶出来るようにして欲しい」


「はい。私もこのままでは駄目だと思います」


予想だに出来なかった聖女の弱点が知り、アリシア達は聖女の弱点を克服するため、探索を継続することにした。



【悪役令嬢は聖女に嫌われる】


「では、これより先はシンシア嬢の能力強化のため二足歩行の魔物を重点的に探していこう」


「私は神樹の葉の生命力を使って能力発動で疲れたシンシアを癒すことにするわ」


「ありがとうアリシア嬢」


「あら、全て自分のためよ。私は運命の死から逃れてシンシアとお菓子作りをするのだから」


「そうですね。私もプリンと言うものを食べてみたいです」


「それと、先程の戦いの中で君にも反省すべきところがあったのは気付いているな?」


「魔物への対応が遅れてしまったわ」


「ああ、君はシンシアの拒絶ありきでいたため、行動が遅くなった。魔物との戦いの場では、あらゆる可能性を考えて、常に身構えるようにしておく事だ。運命と言うものは油断を付け狙って来るぞ」


「そうね。ごめんなさい、次から気を付けるわ」


レイドスの言う通り。いくら鍛えても油断してしまえば全てが無となってしまう。

私は油断せず行動する事をシンシアは二足歩行の魔物を拒絶出来るようにする事を目標にして、探索を継続することにした。


だが、それからも二足歩行の魔物を探しながら討伐を行うもなかなか上手く拒絶が出来ない。これはあくまでもイメージの問題なので、シンシアの脳内で二足歩行の魔物が危険だと言う認識がしきれていないのだ。

それなら・・・


「ねぇ、レイドス。相談があるのだけど」


「なんだ。アリシアからの相談は何か危険な気がしてならん」


「あら良く解るわね。ちょっと耳を貸して」


私はレイドスに内緒の相談をする。レイドスは驚きのあまり声を発しようとするが慌ててレイドスの口を両手で塞ぐ。


「貴方馬鹿?大声上げたら秘密もないでしょ?」


「馬鹿はお前だ危険過ぎる!」


「あら大丈夫よ。前も大丈夫だったでしょ?」


レイドスは私の言葉を聞いて考え込む。そして他の人達にもそれとなく伝えてくれた。皆も最初は反対したらしいけど、この他に良い方法も思い付かない。

そして物語上一番安全なのはこの場で死ぬ筈はないアリシアしかいなかった。


レイドスの魔法により二足歩行の魔物を発見した。今度の魔物は1匹であった。丁度良い。

魔物はこちらに向かって走り出した。

シンシアの拒絶は・・・弾かれる事なくすり抜けてきた。今回も失敗であった。魔物はそのままシンシアに向かってきていた。


アリシアはシンシアの前に立つ。

魔物が攻撃をしてきた。

後方の男達からの補助なく私は魔物の一撃を喰らう。

血吹雪が上がりシンシアの顔にかかる。

倒れるアリシアをメイが支え、ゆっくりと体を横にさせる。


シンシアは何が起きたのか解らず、倒れた私を見つめると次に魔物と目があった。次は私の番だと恐怖が体全体を襲う。

だが、魔物の攻撃がシンシアに届く前に男達によって倒された。


「キッ!?ング・・・」


シンシアが魔物と共に倒れている私を見て現状を漸く理解出来たようで叫び声をあげようとするが、魔物を呼び寄せる行為のため、すぐにロードス殿下がシンシアの口を手で抑えた。


シンシアはそれでも倒れた私を見つめ、涙を流し殿下の手の中で何かを叫びながら取り乱していた。

レイドスは私に回復魔法をかけ続ける。フェイリルは所有している高価なポーションを私に飲ませる。

私は二人の行為により傷口はふさがり意識を取り戻す事が出来た。

意識を取り戻した私を見てシンシアも安心したのかその場にへたり込んでしまった。

皆が私達の様子を見て、ここで少し休憩をする事にした。


「どうして?」


「どうしたシンシア?」


「どうしてロードス殿下は魔物を倒すのを躊躇されたのですか?」


「それは・・・」


ロードス殿下はどう説明したら良いかと悩んでいる。ロードス殿下から説明させるのは酷に感じたアリシアがシンシアに近付く。


「私がお願いしたからよ」


「!?」


「私が魔物から攻撃を受けるまで皆に待って貰ったの」


「どうしてそんな事を!?」


「シンシアは二足歩行の魔物を魔物として認識していない。いえ二足歩行の魔物が危険とは思えなかったのよ。心の何処かで対話が可能なのではと思う所があった。だから拒絶されない。だから二足歩行の魔物が危険だと言う事を私が教えてあげることにしたの」


「そんな・・・命が大事ではないのですか!」


「大事よ。だって私はここでは死なないもの。シナリオからかなり逸脱してきているとは言っても私は悪役令嬢よ。死ぬ場所は決まっているの。最後の晴れ舞台にね。だから私はここでは死なない」


「だけど・・・」


「そうね。いくらシナリオも次からは私の事を諦めて殺して来るかもしれないわね。でもこの作戦は続けるわ。だってシンシアの拒絶の強化は将来の私の安全のためなんでしょ?ならばここで危険な目にあっても同じだもの気にしないわ。もしシナリオに呆れられて死ぬ羽目になったらそれまでとして諦めるから大丈夫よ」


「そんな・・・」


「これの変更はないわ。シンシアが二足歩行の魔物を拒絶出来るまで私は魔物の攻撃を受けるつもりよ」

 

レイドスが次の魔物を見つける。二足歩行の魔物だ。

魔物が襲い掛かってくる。シンシアは何処か虚ろ状態であったが魔物はシンシアの拒絶により見事に弾かれた。


シンシアは二足歩行の魔物が危険であると認識する事が出来たのだ。弾かれ倒れ込む魔物をメイが切り刻む。

更なる覚醒に成功したシンシアはふらつきながら私に近付くと私の頬を平手打ちした。


「貴方は馬鹿よ!大馬鹿よ!」


どうやら私は、シンシアに嫌われてしまったらしい。無事に運命を変えられてもシンシアと料理を作る夢は諦めるしかないかも。



【シソの真実】


アリシアはシンシアに嫌われてしまったが、レイドスが懸念としている課題は一通り達成した。

ただ、誰も達成を喜び上げるものはいなく、まるで強い瘴気が淀っているのではと思えるほど、何とも言えない重い空気で静寂と化していた。


「・・・目的は達成した、引き返す事にしよう。なにせ、ここは例の看板の先だからな」


静寂の空気を破ったのはレイドスであった。このままではいけないと思ったのだろうが、そのレイドスの言葉に誰も返事をしない。

仕方がないと、アリシアもその静寂を破ろうと、敢えて元気良く語り始める。


「あー、例の看板ってさっきの悪戯書きの事?、レイドスにしては珍しいわね。あんな悪戯書きに怯えるなんて」


「悪戯!?」


「悪戯でしょ?こんな洞窟に『私有地』なんてあるわけないじゃない」


アリシアが空気を変えようと乗っかって来たことに何を驚いているのか、皆がアリシアの事を見つめている。


(もしかして私が無理して元気にしていることがバレてる?それとも私が看板に書かれていた文字を見間違えた?もしかして洞窟内は誰かの所有地が当たり前だったりする?)


先ほど、喧嘩したシンシアでさえ、驚いた顔で私を見つめている。あまりにも皆が驚いた顔でアリシアを見つめるため、アリシアは何か思い違いをしたのではと思いってしまった。


「私有地なんて何処に書いてあった?」


今度はフェイリルが問い掛けてきた。あんなに堂々と書かれていたのに一流の冒険者が見落とすなんて考えられない。となると、やはり見間違いをしてしまった?

それともシンシアの事を意識し過ぎてうっかり見落とした?


「さっきの看板に書かれてあったでしょ」


皆が見つめ合うと、一度皆で看板の場所まで戻る事になった。看板のところまで戻ると、看板にはやはり私有地と書いてある。アリシアの勘違いではなかった。


(やはり書いてあるじゃない)


アリシアは自身の見間違いじゃないことが解ると、先ほどの疑心暗鬼にさせられた事に少し苛立ちを感じていた。そんな苛立ちを宥めようと、フェイリルが見落とした事に恥ずかしいと顔を赤くしているかなと思ったが、フェイリルは真顔で看板を見ている。


「何処にだ?」


ここまでして更に自身の間違いを認めない事に更にイライラする。

もしかしたらフェイリルも妹のためにこの場の雰囲気を変えようと一生懸命なのかもしれない。

ただ、少ししつこいため、アリシアもシンシアとの件もあり、イラッと来てしまい口調が強くなってしまう。


「ここよ、ここ!」


アリシアは看板の私有地と書いてある場所を指差す。今度こそは惚ける事が出来ないように念入りに指で指し示した。


「お前、読めるのか?」


まだ続けるつも・・・

ちょっと待って・・・

どうして気付かなかったの?

書かれている文字は何て書いてあるか解らないと言っていたはず。しかしアリシアは読めてしまった。

ここの世界に来て言葉や文字が理解出来たから気付かなかったわ。ここに書かれている文字・・・

日本語だわ!


「ここに書かれている文字・・・私の前世の世界の文字よ」


「どういう事だ?」


「し、知らないわよ私が知っているのはそこに書いてあるのは私が前世で暮らしていた『日本』と言う国の言葉で書かれているって事だけよ」


どういう事だかは私が知りたい。

この看板の文字が、この国の始祖が残した言葉だとするならば、この国の始祖は日本人・・・


「レイドス、先に進んでみないか?」


フェイリルが何に興味を持ったのか、レイドスに洞窟の奥に行く事を提案してきた。

既に目的は達成しているのだから、この先に行く必要はない。

だけど、レイドスから出てきた言葉は「先に進もう」であった。

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