15.悪役令嬢の冒険(上)
【旅は先ず知ることから】
まさか毒を盛られるとは思わず出発前に一騒動があったけど無事に解決。さー出発と思ったらロードス殿下の隣に一人の男性がいる。
アリシアはこの男性の事を知っている。
「ロードス殿下、どうしてバルフレア様が一緒にいるのですか?」
「この間、大勢で行くのは危険だとレイドスに言われてね。私と同等以上の実力者ならば良いと言われてバルフレアに声を掛けたら二つ返事で了承して貰えた」
「久しいなレイドス隊長。こんな面白いこと俺抜きでやるなんて水臭いじゃないか。今回も喜んで壁役を務めさせて貰うぞ」
「壁?」
「ああ。騎士団は魔法部隊を護る事も任務の1つとしている。魔法部隊がいないと付与・回復・遠方攻撃などが出来ず戦闘が不利になるからな」
バルフレア団長の言葉通りならこの国の騎士と魔法使いの仲は良いみたい。
よく転生ものの話で騎士と魔道師は仲違いしているように描かれていたが、この国は心配なさそう。
私達が向かうのは王都から北東の森の奥にある『王墓の洞窟』と言われている所である。名前からするとハイレベルなダンジョンのように思えるが住み着いている魔物は低レベルでそこに行くまでの道中も危険が少ないため、新米冒険者の試験会場としても使用されている。
だが、この『王墓の洞窟』は未だに未踏破のダンジョンらしい。ダンジョンの奥に進むと現れる看板があり、その看板には謎の暗号が書かれていると言う。
そして、看板が書かれている所は分かれ道となっており、間違った道を進むと罠に嵌まってしまう。
最初こそ優しい罠であるが進むと強制転移の箇所が現れここから先が未踏の地となっていた。
そのため試験内容として看板の記号を書き写してくるとなっているが規則として看板の先には行っては行けないとされている。
それでも冒険者になろうとするものは好奇心旺盛な者が多いようで度々規則を破り看板の奥に進み罠に掛かるものがいるらしい。
そのような者を篩に落とす事が出来るため『王墓の洞窟』は新人冒険者の試験には持って来いであった。
尚、看板には書かれている暗号はこのラッドフィールド国の創設者である初代国王が残した暗号と類似していることから『王墓の洞窟』と言われていて実際に王家の墓があるわけではない。
その王墓の洞窟に向かうため森の入口まで馬車で移動する必要があり王宮前に用意された馬車に乗り皆で移動を始めた。
「・・・」
(何故、誰も何も言わないのかしら?
もしかして皆には見えない?幽霊?でも、さっきちゃんと話をしていたはず・・・)
馬車の中の違和感に対して誰も指摘しないことにアリシアは困惑していた。
今回の冒険のパーティーメンバーは私とシンシア、レイドスとロードス、バルフレアとフェイリルの6人だったはず。でも何故か馬車の中には侍女のメイも乗っていた。
「あの、なんでメイまでいるのかしら?メイは見送りではないの?」
「問題ない」
(えっ!問題ないの?ロードス殿下以上の実力者ではないと認めなかったレイドスが『問題ない』ってメイって何者?)
「アリシア様?」
メイが小さい声で話し掛けて来た。私は貴女がここにいることが疑問なのだがメイは違うことに疑問を感じている。メイの視線先にはシンシアがいる。
シンシアが無言でフェイリルの事を見つめていたのだ。その後ろからフェイリルの事をロードス殿下が睨みつけているのをシンシアは気付いていない。何やら怪しい雰囲気となっているのをメイが知らせてくれたようだ。
(シンシア!後ろ!後ろ!)
どこかのお笑いコントのように願うがシンシアに伝わるわけはない。だけど、どうにかしないとロードス殿下が今にも爆発しそうだ。
「どう致しましたかシンシア様?」
メイがシンシアに訪ねる。
シンシアの視線は私達の方に向くがフェイリルが気になるのかチラチラと彼を見る姿に更にロードス殿下の形相が変わる。
(私達、王墓の洞窟に無事に着けるかしら)
「いえ、そちらの方についてまだ紹介されてませんでしたので・・・」
「お、俺は・・・」
「彼はフェイリル様よ。一流の冒険者なのだけど、とある国で信念にそぐわない依頼を蹴ったら、その国に居づらくなってこの国に来たそうなの。そこでレイドスと知り合ったらしいわ」
(驚いてる。驚いてる。『何で知っているんだ』って顔で見ているわね。だから言ったでしょ未来視で知っていると)
「そうなのですね。私、何処かで昔会ったことがあるような気がしまして」
「あら、シンシアも隅におけないわね。まさかシンシアの口からナンパの上等文句が出てくるなんて」
「シンシア!まさか、あの男が!?」
「ち、違います。アリシアさん、からかうのは止めて下さい」
「ご免なさい。フェイリルは依頼の度に色々と変装して色んな所に忍び込んでいるらしいからシンシアもそこで会ったのかもね」
「そうなのですか?」
「王宮にもか?」
「悪いな。依頼内容は言わない主義でな」
シンシアも完全に納得してないわね。薄々勘づいているのかも。それと、ロードス殿下はフェイリルをかなり要注意扱いしてしまっている。
【始めての夜営】
やっと馬車移動も終わりここから先は徒歩となる。馬車は私達を置いて引き返して行った。連絡がなければ一週間後にここに迎えがくる手筈となっている。だが、何事もなければレイドスの能力で簡単に転移して戻る予定である。
既に馬車移動で日が暮れて来ていたので少し街道から外れた場所で夜営をすることになった。私は夜営のための枯木集めをする事になった。
「レイドスの話は本当だったのだな」
私に話し掛けてきたのはフェイリルだった。まだ、魔物がそんなに出ない森での枯木集めとは言え一人での行動は危険と言う事で私にはフェイリルが一緒に行動することとなった。そんなフェイリルが枯木を一緒に集めながら話し掛けて来た。
「そう言ったでしょ。でも信じられないのも無理もないわ。私だって同じ立場なら信じられないもの。でも人って不思議よね。召喚や魔法だって普通は信じられない部類なのにそちらは信じられるけど未来視は信じられないんですもの」
「そうだな」
「百聞は一見に如かずってやつね」
「なんだそれは」
「私のいた国の言葉よ。百回、同じことを聞いても一回見た方が解りやすいって事よ。今回は解ると言うより信じるだけど」
「成る程、確かにその通りだな」
「それだけ?」
「いや、シンシアに黙っててくれて助かった」
「これも小説の中で知り得た情報だったから態々言わなかっただけよ。でもどうして内緒なんかにしているの?」
「こんな血に汚れた俺がシンシアの兄と知られたらシンシアの足を引っ張ってしまう。シンシアは貴族令嬢だ。しかもロードス殿下の婚約者に選ばれた。これからシンシアの周辺は敵意を持った者達で溢れるだろう。そんな中での俺はシンシアの弱点でしかないからな」
確かにロードス殿下の婚約者として選ばれたシンシアは様々な政に巻き込まれるかもしれない。だけどフェイリルは一流の冒険者として有名である。仕事の内容によっては人も殺めたりするけど意に沿わない依頼はしない。だから某国から出ていくことにもなった。
ただ、フェイリルがそう判断したことを無理に否定するつもりはない。
「そう。でも陰ながらその敵意を持った者達からシンシアを守るのでしょ」
「当たり前だ」
「なら、今の貴方はシンシアにとって弱点ではなくて利点になるわね。だったら貴方の選択も強ち間違いじゃないかもね。それでは、表立っては私が守って行くわ。そうすれば、裏表で守られてるシンシアって最強でしょ」
「・・・」
フェイリルは度々返事をしてくれないため、再び沈黙が訪れる。しょうがないとアリシアが何か話し出そうとしたところ沈黙を破ったのはフェイリルであった。
「この前、シンシアを苛めから守ってくれて感謝している。俺があのまま始末していたら大事になっていたかもしれんからな」
「やっぱり見ていたのね。レイドスにも気付かれないなんて凄いわ」
「ああ。一応、変装のプロだからな」
「ところで冒険のプロさんであるフェイリルに聞くけど、枯木ってこれくらいでいいのかしら?」
「十分だ」
枯木集めが終わり夜営場所に戻るとシンシアとメイが料理をしている。二人ともナイフの扱いが上手い。
「へえー、シンシアは料理得意なの?」
「私は貴族と言っても身分が低いですから将来的に平民に嫁ぐ可能性がありましたので教わっていたのです」
「ロードス殿下、妻の手造り料理が食べられるなんて歴代国王の誰もなし得なかった事ですから幸せ者ですな」
バルフレアの物言いにロードス殿下とシンシアが頬を赤らめる。照れるのはいいけど料理は失敗しないで欲しい。
「アリシア、お前は作れないのか?」
「貴族は普通は作れないものよ。何よ食べたいの?」
「いや、だが君には前世の記憶があるのだろう?」
「前世の私は20年間ほぼ寝たきりだったから何も出来なかったわ。両親も過保護で何もさせてくれなかったし」
私の話しに少し皆がしんみりしたがシンシアの料理が完成したようで料理の匂いによって場の空気が元に戻った。シンシアには感謝である。
「干し肉入りスープとパンしかなく質素ですみません」
「そんなことないよ。夜営でこれ程美味しそうな料理は食べられないよ」
ロードス殿下の言葉でシンシアは再び頬を赤くする。食事前なのにこの御馳走様感はなんなのでしょう。
そうだわ!
「先程の白いジャムがあると楽しめるかもしれないわね」
「「駄目だ!」」
目の前のパンを見たら先程のジャムの事を思い出したから冗談で話したのだけど男性陣が声を揃えて否定した。ジャムの件は冗談でも駄目らしい。
「クリフトの件については私が処罰する」
バルフレア騎士団長が申し訳なさそうに男達を宥めた。
【悪役令嬢は過去を語る】
二日目の朝、この日もひたすら目的地に向かって進む。
魔物が済む洞穴なのだから王都から遠いとは思っていたが想像以上に遠い。
私やシンシアも魔物討伐に向けて訓練をしているが、こんな森の中を移動する体力なんてまだない。
では、どうして殆ど休まず進めるのか。答えは簡単であった。アリシアが常に回復を行っていたからだ。
それでも、昨日も含めれば既に1日以上をただ森の中を移動するだけであったため、徐々に精神的な疲れがシンシアに現れてきているように見える。もしかしたら私が精神的に疲れ、シンシアも仲間であって欲しいと勝手に思い込んでしまったのかもしれない。
私は気分転換になればと初代国王について聞いて見ることにした。
「ラッドフィールド王国の初代国王様ってどんな人なの?」
「このラッドフィールド大陸は多くの凶悪な魔物の住処となっていた。決して人が住める所ではなかったのだ。
そこへ海向こうにある大陸を治めるアルルカン帝国から来られたシソ様はご自身の能力により大陸に結界を張り狂暴な魔物を異次元に閉じ込める事が出来た。そして人が住める大地へと変えられたそうだ。
帝国はこの大陸を帝国の領地としなかった。シソ様への褒美としてこの大陸に建国を許可された。そのため我が国は今でも帝国とは友好関係が続いている」
確かセフィーラ王妃は帝国の王家出身。また、ビスマルク国王より2歳年下の王弟殿下は帝国の公爵家へ婿に入っていると以前ロードス殿下から聞いた事がある。このように100年に1度に友好関係を築くため高貴な者同士の婚姻が行われているらしい。
「ラッドフィールドって名前はその始祖様が名付けたの?」
「シソ様の結界は完璧ではなかった。地下深くにいた魔物や一定のレベルより低い魔物は結界で封印する事は出来なかったようだ。それにより帝国から移住者を募って第一移住者が上陸した際にシソ様の結界から逃れられた最弱モンスターである角ウサギだけが野原に大量にいたのでそう名付けられたそうだ」
角ウサギは長さ3~5㎝程の角で突進してくる魔物で安い鎧や盾があればダメージを喰らう事がない事から最弱候補の魔物。
但し、その角は煎じれば回復薬の材料として使われたり肉は美味として重宝され、皮は衣服やバッグなどに使われたりしていたため冒険者によって乱獲され一時は激減したが冒険者ギルドが討伐調整を行うようになってからは安定した供給が可能となった。
最近では角ウサギ牧場が作られたことにより角ウサギは魔物から除外され家畜動物とされている。
「その始祖様の能力もシンシアと同じ『拒絶』だったのかしら?」
「それが不思議なのだが、確かにこのラッドフィールドの大陸を結界されたのは似た能力だったかもしれない。が、他にも作物を採れやすいように土壌改良されたり、怪我の治癒は欠損部分の蘇生まで行えたレベルだったらしい。だからシソ様の能力は複数あったのではないのかと言われている?」
(複数・・・本当にそんな人いるのかしら?でも『複製』とかだと同じ能力が使えた人がいないとおかしいわね。帝国にいた時に『複製』もしくは『強奪』とかの能力によって他人の能力を使う事ができたのかもしれないわね)
「こちらからも聞いていいか?」
アリシアが始祖様の能力について考えていると今度はレイドスがアリシアに質問をしてきた。
「何を?」
「以前、この世界は前世で読んだ小説の中と同じとあったと言っていたが、その中で出てきた『病院』と言う所で読んでいたのか?」
以前にレイドスには『病院』について話した事があった。この世界で言う治療所と療養所が合わさった施設だと説明した。
尚、ラッドフィールド国では治療所は男性の職場とされており看護婦がいない。だけど療養所は女性の職場とされていたが、最近ではセフィーラ王妃により壁が取り除かれた事により、治療所と療養所が複合した施設が出来た事も教えて貰った。
「そうよ。でも寝た切りって訳じゃなかったのよ。ちゃんとトイレやお風呂は一人で出来たし、たまにであったけど自宅に帰るなどの外出許可も貰えたりしていたわ。簡単な運動も出来たのよ。そうでないと体の筋肉が衰えちゃうから。
でも少し無理をするとここ(心臓)が苦しくなって、下手をすると爆発する危険があるからと殆ど何も出来なかったわ。
でもね、意外と幸せだったのよ。本来なら10歳くらいで亡くなっていても仕方がない病だそうなのだけど両親のお陰で20歳まで生きることが出来たわ。
だから前世では両親の愛に触れることは出来たわね」
「前世ではか・・・」
前世の話をしていたら両親の事を思い出す。私のために20年も人生を費やしてくれた両親。私の両親は決して金持ちではなかった。それなのに私に掛かる医療費を20年も工面してくれたのだから前世の両親には感謝しかなかった。
「でもね兄には嫌われていたと思うわ。定期的に見舞とか来てくれるのだけど兄は面白くなさそうな態度だったし、大きくなったら来てもくれなくなったから。
それも仕方がないわよね。私のせいで生活は相当苦しかったと思うわ。両親は金持ちではなく普通の家庭であったから私の入院費を工面するだけでも大金が掛かったはずだもの。私のために色々と大変だったかと思うわ。
だから・・・」
「どうした?」
「私、知っていたのよ」
「何がだ?」
「医師から投与される薬の量が違う事を。何年も毎日投与されていた薬ですもの明らかに違えば気付くわ。
でも、私はそのままにしたの。もう両親を楽にしてあげよう、解放してあげようと思って」
「アリシア・・・」
「それでね、召喚される前の世界で前世の記憶が甦ると前世で読んだ小説の中と同じだったってわけ。その世界の私は悪役令嬢って設定で父親に道具として育てられ、道具として使えなくなったから捨てられるの。
母親は優しかったけど私が幼い頃に亡くなってしまったわ。その捨てられるって時にこちらに召喚された訳だから、私からしたら逆に感謝しているのよ。
だから皆が罪悪感を感じることはないわ。ただ、こちらの世界も前世で読んだ小説の中と同じで私は同じく悪役令嬢として描かれていた時はがっかりしたけどね」
「前世の記憶で召喚前の世界を変えようとはしなかったのか?」
「それが、前世の記憶を思い出したのが断罪されるパーティーの前夜だったのよ。流石に遅すぎると思わない?だけどね、よくよく考えたら私より婚約者の方が悪いのではと思えてきたの。普通は浮気していた者の方が悪いでしょ?だから私はこのまま泣寝入りするのも癪だからと最後の悪足掻きとして至るところに手紙を出したわ。ただ、こっちの世界に来ちゃったからどうなったかは解らないわ」
(本当にどうなったのかしら?普通なら断罪された者の手紙など新聞社は扱わないでしょうね。王家から睨まれるもの。でも、私が断罪前にこちらに来たとしたらどうかしら?行方不明でしかも公爵令嬢ですもの、その令嬢の告白の手紙となると絶対に記事になったはず。となると、父は引退を迫られ爵位も降格。もしかしたら、私に旧ローデンブルグの領地の一部が与えられたかも。そうなると、私の爵位は・・・男爵?流石に伯爵は上手く行きすぎよね)
「アリシアさん?」
「ああ、ご免なさい。向こうの世界がどうなったのか考えてたの。本来なら私が断罪されて終わりだけど、行方不明になった令嬢の告白文は絶対に掲載されると思うわ。そうなったらどんな変化が生まれたのだろうなって考えてたの」
「アリシアさん、前々から気になっていたのですけど、もしかして召喚前のアリシアさんって上位貴族のご令嬢なのですか?」
「あら、気になっちゃう?なんと私はこう見えても公爵家の令嬢よ。私の曾祖父が王弟だったらしいわ。因みに婚約者はなんと第一王子よ」
「ちょっと待て、第一王子の婚約者で公爵令嬢のお前を誰が断罪出来る?国王か?」
「簡単よ。だって私を断罪するのは婚約者の第一王子だもの」
「お前、何やったんだ?」
「婚約者が浮気していると言ったでしょ。その婚約者である第一王子と親しい男爵令嬢を苛めていたの」
「はぁ?浮気していたのは君の婚約者の方だろ?それを棚に挙げて君を断罪しようとするのか?おかしくないか?」
「それは向こうは自分達が悪いとは思っていないのよね。それに彼は親しいと言うだけで浮気をしていた事は世間にバレていないもの。小説の通りなら離島で強制労働させられるわ。それに父親からは身分剥奪の手続きもせれるの。離島に行けば二年と生きて行くのは難しいと言われた場所。そんな所に行けば私なんて1年も生きられなかったでしょうね」
「君の父親も可笑しくないか?明らかに不貞をする婚約者が悪いのに君の身分を剥奪するのは変だろ」
「無理無理、父は完全に王家の犬だもの。『公爵家とは王家の言うことは絶対』で、王家には『はい』の返事しか許されないと思っている人だもの。それに私は親に道具としか思われていないわ。皆さんにも報告が上がっているのでしょ?私の背中の傷の事。あんな事をする親ですもの、父は王家の駒で私はその駒に使われる道具。道具が壊れたからって態々王家に文句なんか言わないでしょ。壊れた道具は捨てるだけよ」
「君には兄弟はいないのか?」
「弟がいるわ」
「弟とはどうだったんだ?」
「幼い頃は仲が良かったわよ。だけど第一王子との婚約が結ばれると王妃教育やらと弟と一緒にいる時間が徐々に減ってしまい、気付いた頃には私を避けるようになっていたわ。最終的には婚約者と仲の良い令嬢と友達関係で断罪するパーティーでは第一王子と一緒に私を追い詰めるらしいの。だから私は弟にも嫌われていたってわけ。前世でもそうだけど私って兄弟運はなかったのね」
「友達はいなかったのか?」
「王妃教育で殆ど学園に通ってないし、父から王妃となるのに友などくだらないものは作る必要はないと言われていたわ」
「なんて言うか・・・クズだな、どいつもこいつも」
「アリシア様はこちらに来てやりたい事などあります?」
「そうね。先ずは長生きね。前世では20歳でなくなったでしょ。前の世界でも離島での強制労働だけど2年以上生きることが難しいって場所だから、こちらの世界に来なければ直ぐに亡くなっていたと思うの。だから、こっちの世界では年老いた私を見てみたいわ」
「・・・」
「あっ!あと、シンシアと一緒に料理を作りたいかも。シンシアには異世界の料理を教えてあげるわよ」
「でも、アリシア様は料理が出来ないのでは?」
「作ったことはないわよ。でも前世で料理の作り方などをテレビで見ていたから知識はあるの。それに雑誌にもたまに料理の特集があって作り方とか書いてあったりもしていたわ」
「テレビとは?」
「えーと、離れた所で記録した者を映像として好きな時間に届けることが出来る物よ」
「魔道具の一種か?」
「前世の世界には魔法なんてないわ。代わりに『電気』とか『化学』と言うものがあって色々なものがあったわ。例えば、馬なしで移動する馬車とか、空飛ぶ乗り物とかね。魔法は前の世界にもなかったけど、前世の小説などの物語で想像してよく描かれていたわ。この世界もその一つだったのよ」
「そのテレビと言うモノで他の人が作る料理を見ていたのですか?」
「ええ。テレビだけは自由に見れたの。だから料理を見てこうやって作るのかなって知識はあるのだけど包丁を持った経験もないから無理なのよね」
「それでは、今度一緒に料理を作りませんか?異世界の料理でこれはと言うものはありますか?」
「そうね。『プリン』なんてどうかしら?」
「プリン!?」
「ええ。プリン自体はプルプルとしてカラメル部分のほろ苦さと甘い部分が何ともいえないほどマッチしているのよ。そこに生クリームや果物を添えるの。食べると最高に美味しいのよ」
「なんか早く戻りたくなりました」
「その料理は僕達も貰えるよね」
「勿論、毒味役は必要ですもの」
「王子を毒味役にするやつはいないぞ」




