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14.悪役令嬢はアイドルのような人気者

【悪役令嬢の情報開示】


「どうかしたの?」


今日は珍しくレイドスからお茶会を誘われた。

場所は王宮の裏庭。魔法部隊が鍵を管理している場所。

と言う事は人に聞かれたくない事の相談に間違いない。

そして、アリシアが関わるとすると・・・


「君の能力についてだ」


(やはり)


「君の事をそろそろ王家の方々に話をしようかと思う」


「どうして?」


「君の能力の可能性を知る上である程度表沙汰にした方が良い。君の最終目標は死ぬ運命を避ける事だろ」


「そうね。確かに隠す必要は今の状況ならないわね」


「それで、君の情報をどこまで話していいか相談したい」


「全て良いわよ」


「!!」


「驚いた?別にいいわよ。私ね、前の世界で第一王子と婚約を結んでいたけど、裏切られて王家の人達の事信用出来なかった。だけど、こちらの王家の方は信用しても良いかと思ったの。もし、宜しければ前世のお話をしても良いわよ」


「感謝する」


こうして、アリシアの能力、前世の記憶があることなど差し支えのない事を王家の人達が知ることとなった。



【悪役令嬢の覚醒】


「あのう?」


「どうしましたか?」


「何故、私達はここに?」


アリシアとシンシアは魔法部隊の詰所に呼び出され詰所の奥にある大きな施設に通された。この場所は魔法の練習や研究時に使用する場所らしいのだが、何故シンシアとアリシアがここに連れてこられたのかが解らなかった。


「シンシア様は聖女として目覚めたが、まだその力は弱い。それに、まだ扱い方も解らないかもしれない部分もあるだろうから、ここで聖女の力を伸ばして欲しいと国王から命じられた。そしてアリシアだが、君の能力は未知数過ぎる。ここで状況を整理してあらゆる可能性を考えていきたい」


確かに国王様の言うことは一理ある。

特にシンシアはこれから起きるスタンビードに打ち勝てるよう能力の力を磨かなければならない。

小説の中では私からの嫌がらせにより日々鍛えられる。

いや、シンシアに嫌がらせするのはなし。


「まず、シンシア嬢だが、あれから自身の能力に対し色々調べて見たりしたのかな?」


「はい。あれから様々な物を拒絶して見ましたが、試した事が全て上手くいきました事に驚いております」


「例えば?」


「はい。まず本から文字を拒絶してみましたら何も書かれていない本になりました。次に濁った水の不純物を拒絶してみたら透明な水になりましたそれに・・・」


「どうした?」


「時計の針が進むのを拒絶してみましたら・・・」


「もしかして時が止まったのか?」


「はい。一瞬だけですが・・・」


なんて事!?

シナリオから逸脱し始めたらシンシアの能力がとてつもないものになってしまったわ。

時を止める能力なんて、まるで昔病室で読んだ漫画、何とかの大冒険のラスボスみたい。


「能力の範囲をどのくらいまで可能ですか?」


「範囲ですか?拒絶するものによって異なります。先程の『時』ですと数メートルが限界です。結界となりますとこの王宮全体を囲う事が出来ました。ただ、本当に魔物を通さないのかが解らないのです。それに結界の強度もどのくらいなのかも解りません」


「それでは今は着実に範囲を広げる事に努めて行くとしよう」


「はい」


「さて・・・」


「な、何よ?」


レイドスが困ったように私の事を見ている。

私の能力については小説に書いてあったけど、扱い方が難しく、下手をすれば人を殺めてしまう。だからレイドスに困った顔をされても困る。

私自身が困っているのだから。


「アリシアには能力の話を色々聴いているがまだ説明していない事があるのか?」


「そうね。私の能力は正式には『等価交換』ね。例えばお金を払えば物が買えるように生命力を別の者に付与したり、それに等しいと思うものを付与する事が出来るわ。生命力を金貨に変えたりとか、逆に宝石や魔石を生命力に変えることも出来るかと思う。大事なのは私が『出来る』と思うことね。

だけど、程度と言うものが解らないわ。私も小説で読んで知っているだけだから吸収し過ぎて殺めてしまったり、付与し過ぎて爆ぜてしまわないように付与する時は少量にしているわ」


私の言葉を聴いてシンシアが驚く。

そう言えば王家の者の中にはシンシアはまだ含まれていない。シンシアには私の秘密を話していなかったわね。取りあえず聞かれるまで黙っている事にしよう。


「アリシア、例えばなのだが魔物から生命力を奪う事は出来ないのか?」


「出来るわよ。でも私が直接触れないと一気に奪えないわ。離れた者に対しては一気に奪える量に限界があるみたい。人間相手ならかなり効果があるけど生命力の強い魔物では少し弱らせる程度が限界かも。これは私がそう思い込んでしまっているからなかなか変えるのは難しいわ」


「なるほど、他に条件とかもあるのか?」


「直接触れれば二度掛け可能みたいだけど離れた相手に付与する場合は1度付与した効果がなくなるまで再度付与する事は難しいみたい。

この間の魔物の討伐も皆に付与したけど程度が弱くてもう一度付与しようとしたの。だけど駄目だったわ。

それと、腐ったリンゴを新鮮なものにすることも可能よ」


「・・・」


「どうしたの?」


「いや、二人の能力をじっくり聞かされると恐ろしいものだな。因みに俺の能力は『転移』だ。対象物を転移させる事が出来る。条件は幾つかあり1度行った事がある事と生命あるものに対してはそのものの『承諾』が必要となる。

だから喋る事が出来ない植物や意志疎通が出来ない魔物は転移する事が出来ない。そして己が現在地と移動地点が認識出来ないと移動出来ない。簡単に言うと離れた場所では地図で互いが記された場所でないと移動出来ない。あまり有能な能力とは言えんだろ」


(いやいや、レイドスも人の事が言えないほど化物です)


「私の能力は『地獄耳』です」


突然話に割り込んできたのはフルーレさんであった。フルーレさんの地獄耳は今更感があるが話の続きを聞かされると恐ろしく感じた。フルーレさんの地獄耳は本気を出せば王都中の会話を聞く事が出来て、聞きたい会話を任意で絞り込めると言う。

諜報員としてはこの上なく欲しい人材であるが、この王都では下手に悪口や秘密の話をしないとアリシアは心に誓った。


「フルーレ、準備は出来ているか?」


「はい」


出てきたのは檻に閉じ込められた1匹の魔物であった。魔物は檻の中で暴れながら奇声をあげている。あまりにも大きな叫び声のため耳の鼓膜が破けそうになる。耳がキーンしているが決して高低差のせいではない。


「アリシアはこの魔物を倒す事は出来るか?」


私はレイドスの言葉に反応し魔物を見つめ黙り込む。正直な話、魔物を倒すだけなら出来る。簡単な事だ、生命力ではなく血液や心臓を等価交換すれば良いだけなのだから。

だけど、私の能力には条件がある。その条件を考えると答えは倒すことは難しいであった。


「どうした?」


「私の能力には事象と対価が必要なの。ここには対価しかないわ。事象として皆に身体能力向上の付与をつける事になるけど、魔物の生命力がどれ程のモノか解らないわ。対象物を血液や心臓にしても、そのものがどれだけ事象効果が必要か解らない。だから想像以上の生命力を持っていたり、心臓や血液の対価が大きい場合は付与する力が強すぎて皆がパンクして弾け飛ぶかもしれない。それと魔物の生命力を一気に奪うには直接触れる必要があるわ。だけど・・・」


魔物は未だに暴れ続けている。こんな姿を見て直接触れる事が出来る令嬢などいない。いや、騎士でも難しい、触ろうとした途端に手を噛み千切られてしまう。


「対価は金貨に変えればいいだろ?それに直接ではなく間接的にはどうだ?」


「私が魔物と繋がっていると認識出来るならある程度効果はあるかもしれない。だから大地で繋がっていても無理ね。イメージ出来ないから。それと、金貨に変えることが出来るのは私がその物の価値を知っていないと駄目なの」


「ならば魔石はどうだ?」


※魔石

稀に体内に魔力を結晶化する魔物がいる。その結晶化したものが魔石である。この魔石はこの世界の電気の代わりを務めていたり、魔道具として使われていたりしている。だが、魔力の多い魔物や長く生きる魔物にしか魔石が発見出来ないため、希少価値が非常に高い。だけど・・・


「可能かも・・・」


私は『魔物=魔石』と思い込んでいる。この思い込みが私には大事。

私の返答を聞くとレイドスが指示を出す。指示によりフルーレさんが台車に武器を載せて持ってきた。騎士団から様々な武器を借りてきたようであった。


「これらを使って直接触れるのではなく間接に触れてみてくれ」


「解ったわ」


アリシアはレイドスの言われる通り用意された武器をとる。魔物に触ると言う事でアリシアは自然と柄の長い槍を選んだが槍が重くて思うように扱えない。細剣等は持つことが出来るが細剣が魔物に触れるまで今のアリシアが近付くと言う行為は自殺志願みたいなものであった。


何か良い武器はないかと試行錯誤していたところムチのような武器を見つける。

軽し長いため魔物から距離を保ちながら触れる事が出来る。アリシアがムチを魔物に向けて打ち付けるとペチッとあたるだけでダメージを与えることなど出来ずムチの先端を魔物に踏みつけられてしまった。

だが、これで魔物と間接的に触れる事が出来たためアリシアは能力を発動すると魔物は座り込む。アリシアの手には1つの魔石が出来ていた。


「間接でも上限があるみたいで倒す事は出来なかったわ。でも離れた時よりも吸収は出来たわね。ただ、血液や心臓等をのピンポイントの吸収は難しかったわ。傷口から直接血に触れれば違うかも」


「・・・」


「どうしたの?」


「アリシア、君の能力はここだけの秘密にしよう。『魔石が作り出せる能力』と知られれば皆が君を狙ってくるぞ」


「・・・解ったわ。なら金貨や宝石も同じでしょ。どうしたらいい?」


レイドスにも直ぐに答えを出すことは難しかったようだけど「良い方法がないか探しておこう」と言ってくれただけでも安心する事が出来た。


「最後に1つ聞きたい」


「何?」


「君は確かウイルスの生命力を枯れた神樹の葉に移動させ神樹の葉が若々しくなっていたな」


「ええ。普通の葉なら枯れたら死んでて元に戻すことが出来ないけど神樹の葉は枯れた状態でも生きているのだから流石よね」


「君は細胞を活性化させる事も出来ると言っていたな?」


「そうよ。私が傷を治すのは細胞を活性化させて傷口を塞ぐの。私が行っているのは皆が持っている自己回復能力を高めているだけなんだけどね」


「ならば、君は人間の老化も若返らせる事が出来るのではないか?」


(あっ!)


「出来るかも・・・」


「そしてシンシア嬢は病気を拒絶出来る。この事から二人が力を合わせれば不老不死になれると言う事だ」


「「・・・」」


私達は、とんでもない能力を覚醒させてしまったわね。



【未来に向けて】


今日は王宮の中庭でお茶会をしている。

参加者は私とシンシア、そしてロードス殿下と何故かレイドスがいる。このお茶会には何かあるのかもしれない。


「シンシア、練習の具合はどうだい?」


「はい。今は範囲を広げる訓練をしておりますがまだ王都全体を包む程度で、しかもその拒絶がどこまで魔物に有効かまだ解りません」


「大丈夫だよ。順調に成長している。今は焦らずゆっくりでいいと思うよ」


ロードス殿下は性別関係なく皆に優しいが特にシンシアに対しては激甘である。プリンにガムシロップを掛けるほど激甘であった。

確かにシンシアは物凄い早さで成長している。普通の者の数倍の早さであった。だがまだ足りない。そしてその事もシンシア自身も感じているようであった。


「ですが、アリシアさんが言うには今から二年後に魔物によるスタンピードが発生すると言われております。このままでは間に合うかどうか・・・」


この間、レイドスから王家にアリシアの秘密を明かした。

アリシアが未来を知っている事も説明している。

そう、将来アリシアが魔物に食べられロードス殿下はシンシアと幸せな結婚を送ると説明した。


その時、ロードス殿下は嬉しそうな顔をしていたらしい。人が魔物に喰われると言うのに、ロードス殿下は何を喜んでいるのだろうか。私はこの話を聞いて一瞬だけロードス殿下に殺意を覚えた。


「二年後か・・・確かに魔物のスタンピードなどこの国では今までなかった事だから私もどこまで対応できるか正直解らない。だが、アリシア嬢の話では拒絶は完成し平和な暮らしが来るとされている。それを信じて頑張っていこう」


無理ね。

シンシアが更なる覚醒するのはスタンピードによって被害を目にしロードス殿下が窮地に落とされる必要がある。でもそれでは遅い。だってそれでは私が魔物に喰われてしまう。

私がシンシアとロードス殿下のやり取りを見ながら優雅にお茶を飲んでいるとレイドスがアリシアを見ているのが解った。


「何よ?」


「いや、お前の苛めは凄まじかったのだな」


「失礼な。小説の中ではこの時点でのシンシアの能力は今のシンシアより程遠く弱かったわ。なんならスタンピードが発生した時にやっと王都全体に拒絶の壁が張れるくらいだったはずよ」


「ほら、シンシアの成長は凄く早いのは間違ってないよ」


「ですが、その話の通りでも私は皆さんが窮地に陥らなくては結界が完成しないのでは成長していないのと変わりません。それではアリシアが・・・」


「私や騎士達が魔物に喰われるところを間近に見て更なる覚醒をするようになるわね」


あら、静になってしまったわ。

ロードスもなんてしんみりした顔をしているのかしら。

私が魔物に喰われてお二人は幸せな結婚式を上げると申した時は私の死など気にも止めていなかったのに。

勝手なものね。


「そもそも、その小説と言うやつには君はどうやって魔物に食べられるのだ?」


「そうね。多分だけどシチュエーションは関係ないと思うわ。シナリオとしては結果だけが大事だもの。それを踏まえて小説に書かれていたのは『偽聖女であるアリシアは魔物討伐の最前線へシンシアと共に駆り出されたが、突如現れた魔物に吸い込まれるように食べられ残されたのはアリシアの右腕だけであった』も書かれていたわ」


「吸い込まれるように・・・」


「私、やはりもう少し頑張ります。頑張ってアリシアさんに結婚式を祝って貰わないと」


「なら、今度皆で魔物が棲む洞窟にいかないか?」


「魔物の洞窟ですか?」


魔物が済む洞窟・・・

小説ではそんなとこに行く話はなかった。もう既に小説の世界からかなり逸脱しているように思える。

だからアリシアも期待してしまう。魔物に食べられる運命が変わるかもと。


「そもそも、シンシア嬢は魔物と言うものがあまり知ら過ぎる。それでは拒絶しようとも想像すら出来ないのではないだろうか。小説の中で覚醒したのも惨劇と同時に魔物をその目で捉えた事も大きかったのではないかと思っている」


一理ある。

魔物の討伐にシンシアは参加していない。

スタンピードのあの場面までシンシアは魔物にあったことはなかったはず。

会ったとしたらこの間の魔法部隊での訓練場にいた檻に入った魔物だけだと思う。

それなら・・・


「いく意味がありそうね」


「しかし、この4人でいいのか?」


「いや、私の知り合いを一人連れていこうと思う」


「知り合い?」


「ああ、魔物の棲む洞窟はその洞窟自体がヤバイからな」


書庫で読んだ事がある。

確か魔物が棲む洞窟はは魔物の瘴気によりその洞窟自体が魔物化して様々な侵入者に対する罠が生成されるって書いてあったわ。


「アイツがいれば魔物の洞窟の罠など何の問題ではない」


「だが、それでも5人だ。私の方で騎士達を用意するが?」


「いや、止めた方がいい。大勢で行くと魔物が興奮して集まってきてしまう。制圧が目的ならそれでも良いが今回は調査に等しい。遭遇した魔物を退治していくだけだから大人数はかえって危険になってしまう。皆がロードス殿下くらいの実力者なら話が違うが」


「私と同じか・・・」


「ようは弱いヤツはいらないって訳ね。でも私の力は人が大勢いた方が良いかと思うのだけど」


「そうだな、だから神樹の葉で今から王宮内にいるもの皆に付与を掛け枯れた物を幾つか持っていくとしよう」


「えっ!皆!?」


「ああ。ところでアリシアの付与は何日持つのだ?」


「その植物が持つ生命力によって違うわ。普通の葉なら切り落とすと数日で枯れてしまうでしょ。だけど神樹の葉は完全に枯れるのに一月は掛かるわ。だけど、葉が徐々に枯れるのと同様に付与効果も徐々に弱くなるから9割ほど弱まるとした3日ほどかしら」


「なら3日に一度付与するとして2ヶ月後に行くとしよう」


「ちょっと待ってよ。王宮内の皆を一度ではなく何回も行うの?この王宮内に騎士も含め何人いると思っているのよ」


「大丈夫だ。神樹の葉を千枚ほど用意した」


「千枚!?」


この日から王宮内で謎の握手会が開かれた。

この握手会によりアリシア愛好会と言う謎の組織が出来ていた事をアリシアは知らなかった。



【悪役令嬢は毒を盛られる】


「おい聞いたか?中庭で週一回行っている聖女様の握手会、握手会に参加したら力が漲るのなんの。第3騎士団に聞いていた通り聖女様の力は凄いな」


「お前、それだけじゃないだろ?あんな美女に手を握られる機会なんてないからな」


「それな!」


アリシアの握手会は王宮で有名となっていた。最初は騎士だけであったが徐々に噂が広まり、文官や厨房で働く者達だけでなく女性達からも疲れがとれると握手会に参加するものが毎回増えていく。

最後の握手会では大行列となり、噂を聞いた市民が忍び込んだりと怪しい者も握手会に参加するようになってしまった。

何はともあれ、お陰で無事に神樹の葉を千枚枯らす事が出来た。(実際には足らなくなり百枚ほど追加していた)


「無事に千枚枯らす事が出来たか?」


「ええ。アイドルが大変だとつくづく思ったわ」


「アイドル?」


「こっちの事よ」


「ところでその荷物はなんだ?」


アリシアはポーチの他に大きなバックを持っていた。これらの全ては握手会の時に貰ったものであり、無碍に捨てるわけには申し訳ないと思い、今回の冒険に持って来たのであった。


「握手会の時に今度の魔物討伐に役に立てて欲しいと色々貰ったから持ってきたの。物が多くてこれだけの量になってしまったわ」


「邪魔だな」


「何よ。皆の善意を無碍にも出来ないでしょ。それにあんな風に見張られたりしているもの」


アリシアが王宮に向けて手を振ると王宮内から歓声が聞こえる。完全にアリシアファンが出来てしまっていた。


「これも討伐に役立つのか?」


レイドスが取り出したのは人形に釘が刺さっており何らかの呪符と思われるお札が貼られていた物を取り出した。


「あっ!それね。『呪いの人形』ですって。貰った時に『これで貴女も自由です』って言われたわ。そこにはレイドスの名前が刻まれているでしょ?」


「おい!」


「貴方と私で婚約が結ばれた事は王宮内で有名だから貴方がいなくなれば私が自分のものになると思ったんじゃないかしら?」


「だから、おい!」


「大丈夫よ。シンシアにお願いして呪いは拒絶してあるから。今頃、本人が呪われているかもね」


「お前も酷いな」


「あら、私は悪役令嬢よ。忘れないでね」


私達がそんな話をしていると待ち合わせ場所にレイドスが便りにしていると言う男が現れた。

あのレイドスがそこまで信頼する者とは誰なのか気になる。


「レイドス、仕事だと言うから来たが、貴族の遊びに付き合うのは御免だぞ」


「遊びではない!」


「女といちゃついていたじゃないか?」


「これがいちゃついているやつが持っているものか?」


レイドスは自分の名が刻まれた呪いの人形を男の方に放り投げた。衝撃で人形の首が取れてしまい『あっ!』とその場にいた者皆が声を揃えて呟いた。レイドスは咄嗟に自身の首を抑えるが何ともないことにホッと一安心をする。

アリシアは男の頬から首元に掛けて火傷の痕がある事に気付く。確か小説の中でそのように描写された登場人物がいた。


「レイドスの知り合いって、もしかしてフェイリル?」


私の言葉にフェイリルがいち早く反応し突然に私の前から姿が消える。そして呼吸をする間もなく気付いた頃には彼は私の後ろにおり短剣を私の首元に近付けている。


「お前、俺の名をどこで知った?」


「レイドス、どうする?」


「フェイリル、止めとけ。お前の負けだ」


「何が?」


「彼女は人の生命力を吸収出来る能力を持っている。そしてその吸収した力で怪我を治す。俺が彼女の事を教えてやるから先ずは止めとけ」


「レイドス、多分だけど彼は私の能力の事も知っているわよ」


「何?」


「だって彼私の体を掴もうとも短剣で触れようともしてないもの」


私の見解は正しかったようで、フェイリルは私から少し離れると短剣を構えるのを止めた。だけど私への警戒は怠っていない。流石は一流の冒険者。

だけど、私がシンシアと親しい事も知っているくせにそれでも信用が得られないとは。


「説明して貰おう」


「先ずアリシアは召喚された令嬢で、アリシアがいた世界ではこの世界が物語として語られている。それは未来視のようにな。お前の名前を知っていたのもその物語の何処かで語られていたのだろう」


「そんな話を信じろと?」


「アリシア、フェイリルについて簡単な説明出来るか?」


「そうね。私がシンシアを貶めようとした時に何回かフェイリルによって失敗に終わるの。何でフェイリルはシンシアに関わるのか?実はフェイリルはシンシアの兄だからよ。今回だって『貴族の遊びに付き合うのは御免だ』とか言いながらシンシアのために来たのでしょ?」


「お前話したのか?」


「だから未来視みたいなものだって」


「ほらシンシアが来たわ。シンシアには内緒なのでしょ」


完全には理解するのは難しい事は解る。アリシアだって突然にこんな話をされても信じられない。

フェイリルも半信半疑ではあったが、シンシアに変に思われる訳にはいかないため殺気を抑える事にした。


「アリシア様お待たせしました・・・何か荷物多くないですか?」


「握手会で貰ったものらしい」


「握手会・・・この間の人形は凄かったですよね」


その人形はそこで首が捥げた状態で落ちている。


「まだ変な物が入っているかもしれない。少し見せてみろ!」


「ちょっと何を・・・」


「ちょっと待て、お前これはなんだ?」


「それも握手会の時に貰ったものよ。冒険では味気ないパンだけでは飽きるだろうからとジャムを下さったの。白いジャムなんて珍しいわよね」


「没収だ」


「ちょっと!折角頂いたのにどうして没収なの?あーもしかして隠れて一人で食べるつもりでしょ?」


「喰うか!これはだな・・・これは毒だ!」


「毒!?」


「まさか、既に食べたのか?」


「貴族令嬢が何でも口にすると思わないでよね」


私の言葉にレイドスとロードス殿下はホッとしている。私が毒に侵されなくて安心したのだろうか?


「アリシア様は食されてませんでしたが、厨房よりパンを頂いて、こちらを塗って魔法部隊の皆さんに差し入れしておりましたよ」


突然に私の後ろから声が聞こえた。侍女のメイだ。確かに私はあのジャムを塗って差し入れをした。


(そう言えば・・・)


「本当か?」


「はい。その後『どんなジャムを使われたのか?』と問われたアリシア様はそのビンを見せたところ皆さん突然に吐かれ倒れられました」


「そうよ・・・そうだわ!大変だわレイドス、魔法部隊の皆さんが毒に侵されてしまったわ。シンシア、今すぐ解毒に向かいましょ」


「待て、命には別状ないから大丈夫だ。1日寝ていれば元気になるだろう」


「そういうものなの?」


「因みにこれは誰から貰ったのか解るのか?」


「それは確か・・・第二騎士部隊の・・・クリフトって言っていたわ」


「あっ!その方でしたら私も同じのを貰った事があります」


「「えっ!」」


ロードス殿下とレイドスがシンシアの発言に今日一番の大声を上げた。


「し、シンシア、まさか食べてないよね?」


「お父様に貰い物の経緯を説明すると勢い良く取り上げられて捨てられてしまいました。私には媚薬が含まれていたと教えて貰ったのですが・・・」


「そうか・・・食べてなくて良かった」


私達が『白いジャム』について話しているとフェイリルがお腹を抑えながら踞り肩を震わせていた。

まさか・・・


「貴方、小説に手癖が悪いと書いてあったけど、もしかして私の荷物にあったこのジャムを勝手に食べて毒にあったのではなくて?」


「クハハハ・・・腹が・・・お前ら良く真顔でこんなやり取りできるな、駄目だ。おかしくて、ククククハハハ」


結果、私の荷物は他にも『毒』があるかもしれないと枯れた神樹の葉が入っているポーチ以外没収された。

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