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12.悪役令嬢は苛めを許さない!

【聖女と苛め】


アリシアは書庫に向かうことが日課になっていた。理由は2つある。1つは小説の中の世界を知る事。2つ目はシンシアと出会えることである。

そんなアリシアが書庫に向かう途中でずぶ濡れになっているシンシアを目撃する事になった。


「ど、どうしたのシンシアさん?」


「ち、ちょっと躓いたら噴水に落ちちゃって・・・このままじゃ書庫も濡らしてしまいますし今日は帰ろうかなと・・・」


「メイ、ちょっとお願い」


「畏まりました」


侍女のメイは私が何を言いたいのか完全に察してくれてシンシアを私の部屋に連れて行く。風呂で体を温めシンシアに私のドレスをあげた。終始シンシアは遠慮していたがこのままシンシアを返すわけには行かない。

最後までシンシアには私の我が儘に付き合って貰い最後は二人で書庫に向かい読書三昧を楽しむ。

シンシアが帰る時間になったのでシンシアとお別れをしたあと私は魔法部隊の詰所に向かった。


「苛めよ」


「はぁ?」


「シンシアが苛められているって言っているのよ」


「ちょっと待て!本人は自分で転んだと言っているんだよな?」


「馬鹿ね。シンシアの性格を考えれば苛められたって言うわけないじゃない。それに確か小説にも書かれていたわ」


私がそう言うとレイドスも「確かに」と頷く。

そう、小説にシンシアが苛められる話は書いてあった。決して忘れていた訳じゃない。起こるとは思わなかったからだ。


「なら犯人も書かれているのだろ?小説では誰が犯人なんだ?」


「私よ」


「はぁ?」


「だからー、小説では私がシンシアを苛めていたの。そんな事するつもりはないから何故発生したのか私も驚いているわ。シナリオの修正がここまで凄いなんて思わなかったわ」


シナリオの修正。

シンシアを苛めるつもりがないから解らなかったがここまで凄いとは・・・

ならば私の死も・・・


「シナリオの修正ではないな」


レイドスが私への慰めのためか今回の苛めの発生がシナリオの修正ではないと持論を述べる。


「その者は小説の中でも苛めをしていたかもしれん。ただ君のせいにして隠れていただけだ。それに君が率先してシンシア嬢を苛めていたからその者も恨み・妬みを張らすことが出来て苛めていなかっただけかもしれん」


「確かに・・・」


「でっ?」


「何?」


「ここに来た理由だ」


「そんなの決まった事じゃない。シンシアを苛めている犯人を見付けて止めさせるのよ」


「ちょっと待て!シンシアは何も告げていないって事はまだ余計な事をしない方がいいんじゃないか?」


「そんな事あるわけないじゃない。苛められて助けて欲しくない人なんていないわ。前の世界の私だって誰にも言えなかったもの。気が付いたのなら助けるべきよ。見てみぬ振りをするならそれは苛めている者と同罪よ!」


「そ、そうか君もか・・・」


「それじゃ明日迎いに来るわね」


「はぁ?」


「だってレイドスは私の事助けてくれるのでしょ?シンシアが苛められている事が私のせいになったらどうするの?」


「俺にも仕事と言うものが・・・」


「奥様とデートですか?明日は忙しくもないですし大丈夫ですよ」


私達の会話に突如フルーレ副団長が割り込んで来た。本当にこのフルーレと言う男は地獄耳だと思うが今回だけは良い返事を貰った。


「良かったわ。それじゃ明日迎いに来るわね」


アリシアはレイドスの返事を聞く前に席を立ち手を振りながら立ち去る。フルーレさんも手を振り返してくれたがレイドスは頭に手をあてて何か考え事をしているようだ。私は気にせずそのまま詰所を後にした。


「フルーレ、取りあえずこれから貴様には特別訓練をやってもらおうか?」


「またまたご冗談を・・・」


この後、魔法部隊の訓練場ではフルーレさんの悲鳴がなり響いたそうだが部屋に戻っていたアリシアには聞こえず知ることはなかった。



【嫉妬にかられた男】


翌日、今日もシンシアが勉強をしに王宮に訪れた。私はレイドスの魔法でシンシアを観察している。すると、1人の男性がシンシアに話し掛けて来た。私達はシンシアの姿が見える位置に移動するとシンシアは困った顔をしている。

男が何かシンシアに突っ掛かっているようであるが声が聞こえないため私はもう少し近付こうとした。その時、レイドスが私の腕を掴み止めに入った。


(何故!?)


レイドスが指差す方向を見ると三人の令嬢が影から覗いているのが解った。三人の令嬢はシンシアの困った顔を面白がっているようであった。

解ったわ。彼女も犯人ね。


私とレイドスが気付かれないように男性とシンシアに近付く。二人の会話が聞こえて来た。私とレイドスは怪しまれないように立ち止まり耳を澄まして会話を聞く。


「だからお前だけ狡しているのは赦せねぇんだよ!」


「私は狡はしておりません!」


「お前だけ王家の書庫を利用しているのは狡以外何でもないだろうが?」


「ですから私は貴族院や文官の書庫にもお願いしましたが女性と言うだけで断られてしまったので使わせて貰っていると言っているではないですか?」


「知るかよ!そもそも女が文官なんて生意気なんだよ!大人しく侍女でもしてりゃいいじゃねぇか?」


どうやら文官の勉強で王宮の書庫を使用しているのが気に食わないらしい。文官に男性しかいてはいけない理由がある訳ではない。ただ、昔からそうだったからだ。この世界では男尊女卑といった女性を軽視しているわけではないが女性の仕事と男性の仕事が区別されている。魔法部隊みたいに男女混合の仕事場は珍しいようだ。


(そういえば前にレイドスに聞いたら「能力ある者に男も女も関係ないだろ」って言っていたわね。)


アリシアは何となく隣にいるレイドスの顔を覗き見る。


「赦しませんね。始末しますか?」


すると突然に私とレイドスの間にメイが割り込み恐ろしい言葉を吐き出す。私は突然に現れたメイに驚き思わず叫びそうになったが、瞬時にレイドスが口を抑えてくれて声を出さずにすんだ。


「あの者は侍女の事を馬鹿にしました。赦しませんね。始末しても宜しいでしょうか?勿論バレるような失敗は致しません」


(メイって元暗○者か何かかしら?)


「まだいい」


(まだ!?そのうち始末するって事!?)


二人の会話が何だか恐ろしいように感じてしまう。だが、そんな話をしている間に男はシンシアの肩を小突いた。軽くではあるがシンシアが一瞬よろめく。

レイドスが魔法で攻撃しようとするが私が止める


「駄目に決まっているでしょ」


「では、どうするのだ?」


「助けるわ」


私達はシンシアに近付く。男は私達に気付きシンシアの側から離れようとしていた。


(絶対に逃がさないわよ)


「ちょっとそこの貴方?」


アリシアは男に話し掛けて男の足を止める。


「俺に何かようでしょうか?」


「貴方の声が大きすぎて聞こえてしまったの。貴方は書庫を使いたいみたいね。私も使わせて貰っているから解るわ。私からもお願いをしてあげる」


「えっ!誰にですか?」


「勿論、王家の方よ」



【嫉妬にかられた男の末路】


「アリシアさんが私に頼みたい事があるなんて始めてで嬉しいわ。それで頼みとは何ですか?」


私達はビスマルク国王が現在席を外せない所用があるためセフィーラ王妃に謁見をお願いしたところ快く了承を得られて現在王妃専用の応接室にいる。

シンシアに突っ掛かっていた男は完全に萎縮してしまっていた。


「はい、実はここにいる彼が文官の試験のため1人だけ書庫を使うのは不公平だから自分も使わせて欲しいとシンシアさんに問い詰めておられましたので私が王家の方に聞いてみると申し出ましてお願いに来ました」


「そ、それは・・・」


「あら、私ちゃんと聞こえたわよ。文官にならずに侍女では駄目なのかとかと仰っておりましたでしょ、その言葉にうちの侍女が怒ってしまって宥めるのに大変でしたわ」


「いや、それは・・・」


「そう。でも確かシンシアさんは何処の書庫も使わせて貰えないと言う事で私が許可を出したのですが貴方も何処の書庫も使えないのですか?」


「いや私は・・・」


「関係ないそうですよ。確かそのように申しておりましたわ」


「なっ!」


「そうですか、私が許可したことが関係ないのですか」


セフィーラ王妃は一切表情を表に現さない。かといって無表情と言うわけでもない。終始穏やかな顔をしている。だが、その穏やかな顔で男を見つめている瞳は凍えているように冷たく感じた。


「解りました。貴方にも王宮の書庫への利用許可を出しましょう」


「えっ!」


「その代わりに貴方が他の書庫を利用することは赦しません。これより貴方が王宮の書庫以外を利用する事を禁じます」


「そんな・・・」


「貴方が王宮以外の書庫を使っては貴方が言う不公平になりませんか?両方使いたいと言うのは少々欲張りではありませんか?」


「わ、私は・・・」


男は消して寒い訳ではない。だがセフィーラ王妃の凍えるような瞳や問い掛けに震えが止まらず上手く喋れずにいる。


「貴方、この程度の王家の問い掛けに答える事が出来ないようでは文官なんて話になりませんよ。貴方のお望みはどちらなのです?」


「わ、私は今まで通りが・・・」


「そうですか。折角許可を出そうと思っておりましたが残念です」


「す、すみません」


男は王妃に頭を下げて謝る。本来ならシンシアに謝って欲しいくらいなのだが、そこまでするとシンシアに逆恨みしてきそうなので止めておく事にした。


「ですが、こうなりますと貴方の事が心配になりますね」


「どう言う事ですか?」


「だって、貴方はそこにいる息子の幼馴染みであるシンシアさんを問い詰めたのでしょ。普通、文官を目指そうとする者はそんな事考えないでしょうね。王家の者に嫌われては仕事になりませんから」


セフィーラ王妃がそのように言うと男は恐る恐る後ろにいるロードス殿下の顔を見る。

ロードス殿下は今まで見たこともない形相で男を睨み着けていた。男はロードス殿下の恐ろしい形相を拝むとギリギリまで抑え堪えていたものがプツンと切れて意識を失いその場に倒れた。


「あら?大丈夫かしら?もしかしたら優秀な文官だとしたら残念です」


「母上このような者が優秀な訳なりません!」


「あら?そうでもないと思いますよ。貴方のそのような顔を引き出せる者など今の文官にはいませんから」


確かに恐ろしい形相。男も気絶してしまうのも頷ける。シンシアだけはロードス殿下が自分のために怒っていることに嬉しく思い少し頬を赤らめているように見える。



【王妃が目指す先】


「それにしてもこの国は何処か男性の職場と女性の職場と言うように分かれ過ぎているのよね。色々試みたのですがなかなか上手くは行かないものですね」


セフィーラ王妃は帝国の出身で帝国は男女平等として有名らしい。このためラッドフィールド国も男女差別がある訳ではないが嫁いだ時には男女の職場が区分けされ過ぎている事に驚きを隠せなかった。


簡単な例を挙げると料理人は男性職とされるが宿泊込の料亭は女性職とされている。他にも学者は男性職だが研究員は女性職、医師は男性職だが薬師は女性職と男女の区別をする必要がないものまで区別されている。

そのため優秀であるが性別が違うだけで職に着けないものは国外へと流出してしまっていた。


そのためセフィーラ王妃は男女の壁を取り除き全て者に資格が得られるようにしたのだが長年続いた壁はなかなかなくなる事は出来なかった。


唯一成果が現れているのが王宮の魔法部隊である。魔法部隊は従来男性職とされていたが現在の魔法部隊の4割は女性である。

それもレイドスが就任してから急激に増えたようでレイドスは『優秀な者に性別など関係ない』と古参の意見を一蹴したと言う。


一方、騎士団は残念ながら未だに男性のみである。騎士団の信念が『女性は守るべき対象』なのである。

素晴らしい信念ではあるがそのため女性を騎士団に入れないのは違うと思う。

そのため優秀な女性は冒険者として活躍しているようで一流の冒険者は意外と女性が多いと教えて貰った。


「私はですね。このような状況下の中でシンシアさんが文官に挑戦してくれる事が嬉しくて仕方がないのです」


「王妃様・・・」


「その理由が息子に会い続けたいと言う理由であってもです」


「王妃様!?」


「母上!?」


ロードス殿下とシンシアがセフィーラ王妃の発言に驚く。まさかシンシアは誰にも気付かれていないと思っていたのだろうか?あのレイドスでさえ『今更か』と言う顔で二人を呆れた顔で見ている。


「ですが貴方が文官になることがなくなるのは残念ですが、私は貴方が挑戦して下さっただけでも嬉しいのですよ」


「あ、あの私はまだ諦めては・・・」


「あら?だってシンシアさんは息子ロードスの婚約者になるのでしょ?でしたら文官になるのは難しいのではないかしら?」


「「婚約者!?」」


今度は二人同時にセフィーラ王妃の言葉に突っ込む。気のせいかセフィーラ王妃も面白がって態と言っているように思える。


「シンシアさんはこの国の聖女となられました。アリシアさんは既に婚約致しましたのでロードスとの婚約はシンシアさんにお願いする事になります。嫌ですか?」


「嫌ではありません!嬉しいです!」


シンシアの発言は最早告白に等しく後ろにいるロードス殿下が感極まった顔をしている。


「貴方はなんて情けないのですか?女性から告白されるより貴方からしないでどうするのですか?」


「私こそシンシアを大事に思っております」


二人は自分達の発言、相手の発言に顔を赤くして見つめあっている。セフィーラ王妃に上手く誘導されたように思えたけど結果オーライ。

そしてアリシアは思う。セフィーラ王妃は敵にすべきではないと。


「ところで・・・」


「どうしましたか?」


「こちらに倒られている方はなんて言うお名前かしら?」


(名前・・・)


「シンシアさん?」


「私も知りません。いきなり話し掛けて来られましたので」


ロードス殿下がやはり殺すべきかとまた形相を変える。今日のロードス殿下の顔は大忙しであった。

それにしても・・・


「この方なんて名前なのかしら?」

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