11.連続行方不明事件によって
【聖女を救うのは悪役令嬢の仕事】
アリシアは王宮の謁見の間に呼ばれている。呼ばれているのはアリシアだけではなく、シンシアも呼ばれていた。おそらく、先日の連続行方不明事件の件とシンシアの覚醒の件についてだと思われる。
謁見の間には国王陛下と王妃、そしてロードス殿下がいた。
「突然の呼び出しをして済まぬな」
「いえ、私のような身元不明な者を王宮に済まさせて頂いている温情で感謝しきれない気持ちです」
「そう言って頂けると助かる。こたびはレイドス魔法部隊長より報告があった。我が王都ではここ最近子供が行方不明になる事件が起きていたのだが、その事件を我が息子と共に解決してくれた事を感謝する」
レイドスがどの様に報告したのかが気になる。まさかアリシアの秘密を話していないだろうか・・・
だけどレイドスがアリシアの味方であると告げた事を思いだしアリシアは最終的にレイドスを信じることにした。
「私は何も出来ませんでした。罪人を捕まえたのはロードス殿下とレイドス様であり子供達を助けたのはシンシア様です」
「だが、危険なウイルスや菌を消したのはアリシア殿であると聴いているが?」
「はい。私はウイルスと菌を消しただけです」
「いやそれがなければ大変な事になっていた。レイドスも私どもが求める聖女はシンシア嬢であるとあったが恥じることはない。そなたの能力や行いも十分に聖女であると言えよう」
「いえ、私は・・・」
(良かったわ。レイドスはやっぱり味方だったのね)
レイドスが国王陛下に『求める聖女はシンシア嬢である』と話していた事に嬉しさが混み上がってきた。
レイドスが見方であることがこの上なく嬉しかった。
そして国王陛下はシンシアにも称賛の言葉を伝えると、「しかし困ったものだな」と呟かれた。
何を困られているのだろうか?
「どうしたものか・・・まさか聖女が二人いるとは・・・」
「はい?」
アリシアの嬉しいと言う感情は国王陛下の『聖女が二人』と言う一言により吹き飛ばされてしまった。そして国王陛下に対し『はい?』と言うあってはならない問い掛けをしてしまった。
「たしかにシンシア嬢の能力『拒絶』がここまで凄いものだと把握していなかった。それを私はそなたを普通の令嬢としか思っていなかった。申し訳ない、許してく欲しい」
「そんな許せなど、私も今回の件がなければこのような力があることは解りませんでした。許すも何もありません」
「そうか。だが、困ったことになったぞ。まさか聖女が二人とは・・・」
再び『聖女が二人』と言うワードを呟かれた。
だが、その言葉も気になるのがビスマルク国王はさっきから何を悩んでいるのだろう?
「どちらをロードスの婚約者にすべきか・・・」
「「はい!?」」
(あっ!シンシアとハモってしまったわ♪)
って、それどころではない。
ロードス殿下との婚約!?
いやいや、シンシアが覚醒したのだからロードス殿下と婚約を結ぶのはシンシアとなるはず。
小説でのアリシアは二人の会話でシンシアが覚醒したことを知り、そして婚約されたことを知ってシンシアへの憎悪が増すと書かれていた。
なのに、なんでアリシアまで婚約者の選択に含まれてしまうのか。
「陛下、確かに聖女と思われる者が二人いることは今まで文献にも知らされていなかったわ。だけど、アリシアさんは私達が召喚したご令嬢でアリシアさんにはこの世界には誰も知っている人がいません。ここはロードスの婚約者にはアリシアさんにして上げるべきではなくて」
王妃の言葉にシンシアの表情は今まで見たこともないほど悲しい表情をしていた。王妃には悪気はない。あくまでも善意である。善意であるがために余計に傷ついてしまう。
それに私にとっても有難迷惑な提案であったため断りたい。
「ふむ。そうだな。ロードス、お前はどう思う?」
国王、その問いは悪手でございます。いや、態とやっているのかもしれない。
この場でロードス殿下の性格を知っていればこその問い掛けだ。だが、ロードス殿下の返答によりシンシアの心が壊れてしまうかもしれない。
それだけは・・・
それだけは絶対に避けなければいけない!
「私は・・・私は・・・王家の・・・」
「ちょっと待って下さい!」
(やってしまった)
王族の発言を途中で止めてしまった。
私がいたカントール国では不敬罪にあたる。この世界でも同じでしょうね。
だけど・・・
だけど、その先は絶対に言わせない。
その先の言葉はシンシアの心が壊れてしまうから。
「どうしたアリシア嬢?」
(ここが正念場ね)
私は不敬罪を侵した。でも、王家には私を召喚したと言う弱みがある。それに連続行方不明事件の件もある。差し引きして不問に問われるはず。
だが、この次に発する言葉には注意を払わなくてはならない。言葉一つ一つでいつ首が飛んでもおかしくないのだから。
「ろ、ロードス殿下との婚約者の話ですがなしには出来ないでしょうか?」
「どういう事だ?そなたはロードスが嫌いか?」
「いえ、ロードス殿下は優しく全ての者に平等に接して文武両道で素晴らしい御方です」
「では、何故なしにしたい」
「それは・・・」
駄目だ。
なんて答えたら良いのか思い付かない。
ロードス殿下やシンシアを見てもポカンとして助け船も望めない。
(私は二人を助けて上げたのに理不尽よ!私はこの世界では一人なんだわ!誰も私の味方なんか・・・)
味方・・・
「どうしたアリシア嬢?」
「すみません。実は私には既にお慕いしている方がおりまして」
「真か?その者の名を教えてくれぬか?私達はそなたをこちらの世界に勝手に呼んでしまった詫びをしなければならない。その者の名を教えて頂ければ私達も力になろうではないか」
「その方は・・・」
「うむ、その者は・・・」
「レイドス様です」
「「えっ!」」
ビスマルク国王と王妃が共に驚いている。
ロードス殿下とシンシアも共に驚いている。
(いや二人は解るでしょ!嘘だって事が)
「そうか、あのレイドスをか・・・」
「はい」
「あやつは悪い者ではないのだが何処か変わっていてな。令嬢嫌いとして有名で未だに浮いた話がなかったとこのなのだ。ならば丁度良い、レイドスとアリシア嬢の婚約を認めよう」
「はい!?」
私の咄嗟の嘘でレイドスと婚約を結ぶ事になった。
しかもこの婚約は王命であった。
【王子とはなんでこうも】
アリシアは腕組みをして仁王立ちしている。
そのアリシアの前でロードス殿下がいる。
「ロードス殿下、謁見の間の時ですが、殿下は国王陛下の問いに王家の方針に従う的な事を仰有ろうとしておりましたわね?」
「そ、それは・・・」
「その返答がどんなにシンシアを傷付けることになるかと解っておりますか?」
「そ、それは・・・」
「ロードス殿下はシンシアの事が好きなんですよね?」
「えっ!?」
「違うのですか?」
「いや、違くはない」
「はぁ~、でしたらロードス殿下がシンシアを守りませんと、あの時に私が不敬覚悟でロードス殿下のお言葉を止めなければ、シンシアとの間にヒビが生じてしまう所でしたのですよ」
「本当に申し訳ない。確かに私は自分の気持ちより王族として考えてしまった。自分が情けない」
「解って下されば良いのです」
ロードス殿下はアリシアに頭を下げる。
どうにか、シンシアとロードス殿下が婚約することが出来そうだが、ロードス殿下にはもう少ししっかりして貰わないと困る。
取り敢えずは、目出度し目出度しと、ホッとしている所に一人の文官が近付いて来た。
「アリシア様、レイドス魔法部隊長が至急に魔法部隊詰所に来られるようにとのことです」
「あっ!」
「そ、それでは、私は公務に戻るとしよう」
「ち、ちょっと!」
ロードス殿下の身体能力は凄まじい。
あっという間に姿が見えなくなってしまった。
アリシアは思う。
(やっぱり王子には碌なのがいない)
アリシアは重たい足取りで詰所へと向かった。
【ジャパニーズ土下座】
「それは何の真似だ」
「これは土下座でございます」
「土下座?」
「はい。罪人が己の罪を反省し心から謝罪をしている姿です」
私はレイドスの前で土下座をした。私が呼び出された件など考えられる事は1つしかなかった。私は詰所の扉を開けると皆から『婚約おめでとう』と歓迎されてしまった。レイドスは自身の椅子に座り腕を組みながら貧乏揺すりをしている。私が姿を表すと物凄い眼力で睨み付けられた。
そこからはスムーズであった。まるでその流れが1つの歯車のようにレイドスの前に赴き土下座をしていた。
周りの人達は令嬢が突然床に平伏している姿を見て慌てて起こそうとしたがレイドスがそれを止めてる。レイドスは席を立ち私の目の前に来て仁王立ちしながら私を睨んでいる。
(私、ここで死ぬかも・・・)
「ほー随分と良い心掛けだな?」
「そ、それは勿論」
「それで、どうして俺と貴様が婚約する事になったのだ?」
「それは・・・」
レイドスの睨みから視線を反らすが許してくれそうにもないため諦めて正直に話すことにした。
謁見の間での出来事、シンシアを助けた事などを。
「成る程、ロードス殿下との婚約を避けるために他に好きな人がいると告げ其れが私だと?」
「さすが理解力がいいわレイドス♪」
「あっ?」
「いえ、ご免なさい」
レイドスに睨まれアリシアは再び土下座をする。
ギリシャ神話でメデューサと言う怪物と目が合うと石化してしまう話があったが、今のアリシアはまさに石化してしまいそうであった。
しかし、レイドスはアリシアの姿をみて怒るのも馬鹿馬鹿しくなったのか仁王立ちの姿からため息を溢すと自身の椅子に再び座りだす。
「解った、もういい。協力すると言ったのは私だ。仕方がない」
「そう言って貰って良かったわ♪」
「反省はしろ!」
「はい・・・」
どうやら、レイドスは許してくれそうなので、アリシアはついでにお願いをしてみることにした。
【借りた物はお返しします】
「誘拐事件の犯人に会いたいだと!」
子供を誘拐していた犯人の男。
アリシアが証拠となるウイルスや菌を消した事をいいことに全面的に否認していた。
本人曰く、彼も拐われてあそこに捕らえられていたと主張しているらしい。
悪者は最後の最後まで往生際が悪い。
様々な帳簿が証拠として押さえられているのだから言い逃れ出来ないのだが面白くない。
アリシアは犯人に言い逃れ出来ないほどギャフンと言わせたい。
それが、既に瓶詰めされて助ける事が出来なかった子供達への餞だと考えていた。
そのため、アリシアは犯人の男に会えないかロードス殿下に掛け合う。
「そうよ。もしかしてレイドスが会わせてくれるの?」
「駄目だ危険だ!」
「大丈夫よ。シンシアにも声かけてみるわ。シンシアの拒絶があれば安全でしょ?」
「・・・」
これでもレイドスが頷かない。仕方がないとアリシアは水上加奈子の時に習得した必殺技を披露する事にした。
「駄目?」
必殺『オネダリ攻撃』
水上加奈子の時に呼んだ雑誌に『これで異性もイチコロ』って書いてあった。試しに父親に行ったら効果抜群。
コツっ!
「いったーーーい!」
私のオネダリポーズは全く効かなかった。呆れたようにレイドスが私の額を指で軽く弾く。
「貴様にはそのような仕草は似合わん」
「だって・・・」
「はぁー、少しだけだぞ。それとシンシア嬢は連れて行けない。その代わりに俺が一緒に行こう」
「解ったわ。ありがとう、流石は私の婚約者様ね」
「反省の色が見られない」
「すみません」
「しかし、犯人に合ってどうするつもりだ?」
「借りた物を返すだけよ♪」
─ 王宮詰問室 ─
ここに例の男がいる。
私は扉を開けると例の男が鎖に繋がれ私に向けて罵詈雑言を破棄散らかしている。だが私は無視をしてながら1づつ小瓶を鞄から取り出した。
「これは貴方の部屋においてあった薬よ。見覚えがあるんじゃなくて?」
「ふん。馬鹿じゃないの?あの場所には何もなかった。貴様らが私を罠には嵌めようとしている事はお見通しだ」
「そう、それじゃ~この瓶は持ち帰るわね。最後に聞くけど、罪を認める気になったかしら?」
「駄目だこりゃ。誰かこの人、話が通じません・・・よ・・・」
男は自身の体に異変が生じているのに気付く。
「お前何をした?」
「あら?私、貴女が大事にしていたものをお返ししただけよ?」
「何を言っているのだか、おいこの令嬢のオツムがヤバイぞ!誰か病院に連れてってやれ!」
「私は貴方のウイルスや菌を一度見ているの。私の能力はこの神樹の葉の生命力を使って貴方に付与を与える。付与した内容は貴方の細胞の一部をウイルスや菌にした」
「う、嘘だそんな事・・・」
男はアリシアの言葉が嘘だと思う。しかし、自身の体に異変が起きた事は確かであった。
「そ、そんな事をして許されると思うのか?お前まで同罪だぞ?」
「あら、レイドス大変だわ。彼、何だか体調が悪そうよ。もしかしたらご自身が菌やウイルスに感染されたのではないかしら?」
「何を白々しい・・・」
「犯罪者の言葉と王家から聖女と思われる私の言葉、どちらを世間は信じるかしら?」
「・・・」
アリシアは先程しまった瓶を再度取り出す。
犯人の男は瓶を見つめる。
この男はウイルスや菌が蔓延していた部屋に平然としていた。だからあるはずだ。ウイルスや菌を治癒する薬が
「ねえ教えて下さる?あの子供達は何日で動けなくなったの?貴方なら解るのでしょ」
アリシアが小瓶を振りながら犯人に問い掛ける。犯人は苦しみながら小瓶に手を伸ばすがレイドスによって防がれる。
「寄越せ・・・」
「なーーに?」
「その薬を寄越せ!!」
男がアリシアが取り出した薬の瓶のうち1つの瓶に手を伸ばし一気に飲み干した。
瓶の液体を飲み干した犯人は安堵している。
「ねえ、教えて下さる?何故この瓶の中の液体を飲んだの?」
「そ、それは・・・」
「確かにこの瓶の中にはウイルスや菌を殺す治療効果のある薬だわ。だけど、どうして貴方が解ったの?」
「いや、だから・・・」
「おかしいわね。この瓶は犯人だけが知っている治癒薬わ。貴方が何に対して薬を飲まなくてはならないと思ったのか、そしてその効果がある薬がこれだと解るのは犯人だけだと思うの?ねえ犯人さん諦めたらどうかしら?」
「わ、わたしは・・・」
「あっ!言い訳はいいわ。どうせ馬鹿馬鹿しい理由でしょ。私はそんなの興味がないの。私が興味があったのは証拠がないと思い込んでこの場を乗り切ろうと思っている救いようのない馬鹿の希望をへし折るだけだわ。だからもう興味がないの。それでは後は宜しく」
レイドスとアリシアは詰問室を出る。部屋を出るとレイドスがアリシアをみて溜め息をする。
「何よ?」
「本当に感染させたのか?」
「私の嘘を彼が信じただけよ」
調べようにも彼が薬を飲んだので証拠はない。それに彼が感染していたとしても、あの部屋にいたのだから誰も不思議には思わない。
「容赦ないな」
「助けることが出来なかった子供達のためよ」




