第一話
「yaotuberになりたいんだ」
同級生が、そんなことを言い出した。
「何言ってんだ」
そう返した私は悪くないと思う。何故なら。
「やりたいなら今日からやれよ。何でもいいから、動画を投稿したらなれるだろ、yaotuberって」
特定の動画投稿サイトに、作成した動画を出すだけでいい。それだけで肩書を名乗ることはできる。yaotuberとはそういうものだ。
「……いや、ほら、誰も見てくれないと寂しいから。お前に先に言っとこうかと」
彼は気まずそうに、小声で言う。なるほどと頷いて、私は告げた。
「分かった分かった。なんか出したら言えよ。見にいってやるから」
その言葉と同時にチャイムが鳴った。同級生は、まだ何か言いたそうだったが、先生が来たことで諦めた。そして滞りなく授業が進み、再び休み時間が来たところで、彼は私の席まで来る。
「ホントに見てくれる?」
「しつこいな。あんまり言うと、前言撤回するぞ」
「ご、ごめん。……じゃあ、よろしく」
短い会話を交わしてから、彼が離れる。その背を見送りながら、私は物思いに耽った。
(まあ、多分やらないんだろうな)
彼が突拍子のないことを言い出すのはいつものことだ。船の免許を取るとか、山登りをするとか、総理大臣になるなんて言っていたこともあった。次の日には、綺麗サッパリ忘れていたが。
(いつものことだ)
そう思いながらも、私は笑みが抑えられなかった。彼が語る夢の話を聞くことが、私は嫌いではなかったから。
(……ったく。馬鹿なことばっかり考えてないで、そろそろちゃんと計画立てろよ。もう高校生なんだから)
遠くに見える、彼の背中を見つめる。小学生からの付き合いで、家も隣同士だから、大人たちからはよく一纏めにされていた。けれどいつかは、別れるのだろう。それがいつかは知らないけれど。
(まあ、それまでは面倒見てやるよ。お前のお母さんからも、お前のことを頼まれてるし)
そう思いながら、私は笑みを深めていた。子供っぽい彼が、私からも親からも離れて独り立ちするまで、果たしてどのくらいかかるのだろう。もしかしたら、その日は一生来ないかもしれない。
(それならそれで、別にいいけど)