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24.地獄からの使者 前編

「ふははははーっ!勇者とはこんな貧弱な奴らなのかー?あぁん、どうなんだ勇者ぁ!」

 

「……コイツ、でたらめに強い……!」

 

 燃え揺らめく劫火(ごうか)の中、男は悠然と立ち、笑っていた。

 街は焼け、家は破壊され、瓦礫の山を作り、周囲は死臭と何かが焼ける嫌な臭いと悲鳴で彩られていた。

 

「ほら早くかかってこないか。それで本気のつもりかぁ?もっと闘争心を燃やせ!そしてそれを我に見せろ!」

 

 男は地を蹴り、高速で間合いを詰めてくる。

 薙刀を振り回しながら頭上で回し、石畳に叩き付ける。

 その一撃は大地を割り、激しい衝撃波を生み出す。

 

「さあ、誰がまず我の相手をする?それとも全員まとめてきてもいいぞ?」

 

「ふっ……ふざけるなぁあーーー!」

 

「ま、待つんだ!」

 

「我、神の誓約の下に彼の者に鉄槌を下さん!聖なる十字架(ホーリークロス)!」

 

 奇怪な魔法陣が男の足元に出現し、白く光った途端、眩い光の柱が伸び、男を呑み込む。

 それは正に十字架の如く形作られた光の柱だった。

 

「……やったか?」

 

 破壊の衝撃で砂塵と灰燼が舞うなか、現場に残っている数人の勇者の誰かが呟く。

 その中にはユウスケやアイクの姿もあった。

 だが、その呟きの答えはすぐにわかった。

 

「…甘い、ぬるい、弱いぞ…………ほんとに勇者なのか?どうなんだ、おぉい!?」

 

「なっ……!殆んど無傷……ありえない」

 

「貴様は邪魔だ、ハルグの勇者。弱者はさっさと我の宴の席から退場して貰おうか」

 

「がはっ……!?」

 

 男は言い終えると同時に瞬速のスピードで接近し、勇者の一人を蹴り飛ばしていた。

 ハルグの勇者は吹っ飛び、そのまま瓦礫に突っ込み、動くことはなかった。

 

「気を付けろ、こいつ、化け物並みに強いぞ……!」

 

 瞬間、背後に誰かの気配を感じた。

 男から眼を逸らすのに一瞬戸惑いつつも、振り返る。

 人がまだ残っていたのか?

 

「おい!こっちは危険だ!すぐにここから―――」

 

 言葉を紡ごうとしたが声は出ず、ただ目の前の衝撃に驚き動けなかった。

 そこには一人の少女が立っていた。

 砂塵で視界は霞んで見えたが、最後に手紙を残して姿を消した幼馴染に酷似した少女。

 

「み……な、と………?」

 

 だが、すぐにその姿は瞬きを一つした頃には掻き消えていた。

 彼女だと確信を持って言えるわけじゃない。

 ただの他人の空似という可能性もある。

 だがユウスケには綾瀬湊(あやせみなと)に見えてならなかった。

 

「異界の勇者よ、余所見をしていて大丈夫なほど余裕なのかぁ?」

 

「ユウスケっ、避けろっ!」

 

「ふん!」

 

 咄嗟に回避行動を取ろうとするが、身体が瞬時に間に合わないと悟り、避けるのではなく攻撃をできるだけ相殺しつつ、思いっきり横に跳んだ。

 刹那、全身に激痛以上の痛み、いや既に痛みすら判らなくなるほどの力が襲い掛かってくる。

 次に待っていたのはまだ形を残す家への激突だった。

 肺に溜めこまれていた酸素を吐き出し、呼吸が一時的に出来なくなり咳込む。

 

「ふはははは!……はぁ、貴様等、弱いぞ。まだ勇者として覚醒出来ていないのか、それともしないのか?」

 

 その強さは尋常ではなかった。

 まるで破壊と殺戮の化身と思わせるような奴だ。

 

「さあ、もっとその力を見せよ!このラグル・バルドラードに!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ✝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 宴の開幕(タイムリミット)まで残り58時間23分11秒.

 

 

 出会いとは本当に些細で小さく、また呆気ないものだ。

 ギャルゲー、エロゲー、乙ゲー、その他様々だが、パン(くわ)えて街角で頭ぶつけて運命の出会い!的なことは普通はありえない。

 例えあったとしてもそんなの私が認めん!

 私は見たもの体験したことしか信じんからな。

 私の出会いへの価値観はさておき、何故こんな話をしているかだ。

 そもそも出会ってそれを運命の出会いと感じるのはその人次第だ。

 だが、そう感じてもその人とはそれが最初で最後の出会いの確率の方が高い。

 つまりはそれっきりということ。

 私はそう考えている。

 いや、そう考えていた。

 まさか、本当に運命的な出会いを果たしてしまうとは夢にも思わなかったさ。

 あぁ、そうさ。悪い意味でも良い意味でも運命的な出会いだったさ。

 体験しちゃったから認めるさ!

 それでも認めたくないこともあるのさ!

 ちなみに運命というものを信じるか?

 私は何とも答えられない。

 運命の赤い糸という話があるのは知っているだろうか?

 

 

 

 そもそも『赤い糸』とは中国から来た物語で糸ではなく縄だったらしい。(とう)の時代の韋固(いこ)という人が旅の途中、宋城の南の宿場町で不思議な老人と会う。この老人は月光の下、寺の門の前で大きな袋を置いて冥界の書物を読んでいた。聞くと老人は現世の人々の婚姻を司っており、冥界で婚姻が決まると赤い縄の入った袋を持って現世に向かい、男女の足首に決して切れない縄を結ぶという。この縄が結ばれると、距離や境遇に関わらず必ず二人は結ばれる運命にあるという話。

 以前から縁談に失敗し続けている韋固は、目下の縁談がうまくいくかどうか尋ねるが、老人はすでに韋固には別人と結ばれた赤い縄があるため破談すると断言した。それでは赤い縄の先にいるのは誰かと聞くと、相手はこの宿場町で野菜を売る老婆が育てる3歳の醜い幼女であった。怒った韋固は召使に幼女を殺すように命令し、召使は幼女の眉間に刀を一突きして逃げたが殺害には失敗した。

 縁談がまとまらないまま14年が過ぎ、相州で役人をしていた韋固は、上司の17歳になる美しい娘を紹介され、ついに結婚をした。この娘の眉間には傷があり、幼い頃、野菜を売る乳母に市場で背負われていると乱暴者に襲い掛かられて傷つけられたという。韋固は14年前のことを全て打ち明けて二人は互いに結ばれた。

 

 

 

 とまぁ、こんな物語があったりする。

 つまりは、一度結ばれた者は切っても切れない縁、運命ということだ。

 良い様に言えばそれはロマンティック。

 悪く言えば決められた人生。

 私達は運命に抗っているようで実はそれすらも運命ということ。

 自分で言うのもあれだが、人とは身勝手な生物だと思う。

 自分達に都合の良い時は『これは運命だ』とか、『神の導き』だの、普通に言う。

 だが都合が悪い時は『お前が俺の、私の人生を狂わせた』とか、『運命は抗える』と言う。

 身勝手で矛盾している。

 運命だ、と言っておきながら悪くなるとなにかの所為にしたり、否定したりして運命だと受け入れようとはしない。

 まぁ、そんな考えを持っている私も含まれているがな。

 それに運命に抗えるという考えは好きだし、だからひ○らしとかのストーリーも大好きだ。

 なので否定もしないし、肯定もしない。

 話が大きく逸れに逸れた。

 時は遡ること三日前。

 その日は街を散歩していた。

 天気も良く、包帯も腕と眼以外は大分取れたからだ。

 といってもそれ以前から出歩いていたりもしたが。

 いつものように商人達が集う市場に行っては色々と物色し、弾の材料となりそうなものや薬品を買う。

 治癒魔法というものがあるんだが、何せこれは結構大変らしく、独学で学ぶには辛いものがある。

 応急処置程度のものはできるんだけどね。

 そこで武具を売っている露店に置いてある、ある一品を見つけた。

 右眼の包帯をずらし、その下の眼を表に晒す。

 左眼はいつもの黒い瞳に戻りはするが、右眼だけは戻る事はなかった。

 この眼について解っていることはこの眼、魔力の流れや隠された力を読み取ることができるらしい。

 そのほかにもありはするんだが、今は別にいいだろう。

 武具屋にあるとある品を右眼で捉え、魔力を集中させる。

 

「やっぱり魔道具(アーティファクト)だ」

 

 魔道具(アーティファクト)

 その名の通り、魔法の道具だ。

 前にも説明したかもしれないが、武具などに魔法を付与させることができる。

 付与させたい魔法の言葉(スペル)をその能力を強くイメージし、魔力を込めて刻み込む。

 これらのものを魔道具と呼ぶ。

 ちなみに魔力がなくとも造ることはできるが、それらはどうしても通常の物と劣ってしまう。

 魔道具の種類は様々で、炎を纏わせたり光弾を撃てたりできるようにすることができる。

 攻撃的なもののほかにも、そのものの耐久力を高めたり、装備者の身体能力を高めるものもある。

 ほかには通信機的なものもあったりするんだ。

 でもこれ、結構造るのが大変で、造れても職人によってその性能差は千差万別(せんさばんべつ)なのだ。

 一度製作しようと試みたが、道具もなければ知識もない状態じゃどうすることもできず、断念したもの。

 いずれは造ってみたい。

 魔道具(アーティファクト)はその性能、能力などによって値段も大きく左右される。

 

『主よ、あの魔道具がそんなに気になるのかえ?』

 

 頭に直接響く声はレイシスのものだ。

 なんだか久しぶりの登場の様な気がするな。

 

『ちょっとね。なかなか興味深い言葉(スペル)の構築をしてるから』

 

『まあ確かにのぉ』

 

 エウレア魔法学校にある巨大な図書館や街にある方の図書館で勇者にまつわる物をチェックしている合間に興味のあるものはとにかく読み漁った。

 その知識と右眼に視えるあの魔道具の魔法構築とはどれとも違う。

 私は一度包帯を付け直し、武具屋に向かう。

 

「珍しいお客がいたもんだ……。こんな店にあんたみたいな嬢ちゃんが来るとはな。それで何だい?冷やかしに来たわけじゃあるまいな?」

 

 店の主は中肉中背な年配の男だった。

 店の前に並べられている物の中でも、隅に追いやられているそれを指して尋ねる。

 

「それは?」

 

「はぁ……嬢ちゃんも変わったものに目を付けるねえ。そいつはうちの商品でも売れ残りさ。どこの誰が造ったのか解らないし、その籠手(ガントレット)は右手だけしかない。能力も解らない所為で全然売れないのさ」

 

 ふむ、未完の品なのか。

 でもまぁ、面白そうだし暇だし退屈だし、良い暇潰しになるかな。

 ―――タッタラターン♪ミナトは『謎の籠手』を手に入れた。

 しかしこの籠手、見た目はとてもシンプルで黒い金属でできている。

 一度右手にはめてみるが、特にこれといったことはなにもない。

 能力については後でもっと解析して見ればわかるか。

 そのまま市場の界隈(かいわい)をどことなく彷徨い続ける。

 そしてそこで私は出会ったのだ。

 彼女と―――

 

「いつっ!?」

 

「きゃっ!」

 

 ドス、という鈍い音と頭をぶつけた痛みが遅れてやってくる。

 角を曲がったところで誰かとぶつかったみたいだ……。

 

「あたたた……すみません、不注意でした」

 

「いや、こちらこそすまない」

 

 とりあえず謝罪しながら立ち上がり、相手を見るとそこには綺麗な少女がいた。

 炎のように紅く長い髪をサイドで結え、きめ細かそうな肌をしている。

 それに容姿も異様に整っていてバランスが良い体型だ。

 まだ座り込んでいる彼女に手を差し伸べる。

 彼女は私の手を素直に掴み、立ち上がろうと引いた瞬間―――

 

「あ、れ?」

 

 予想を上回(うわまわ)る力―――というか重さ?―――に私はたちまちバランスを崩し、そのまま彼女を押し倒してしまう。

 

「ご、ごめん。予想以上に力があるから……」

 

「いや、私がこれを付けている所為だろう」

 

 彼女は言うや、ローブを(めく)り、その下を露わにする。

 そこには簡易的なプレートアーマーが装着されていた。

 な、なんでこんな格好してるの、この人?

 すると彼女は私の左眼を覗き込みながら言った。

 私の心情を読んだかのように。

 

「これが私のスタイルだ」

 

 変わったスタイルをお持ちで何よりっす。

 そこで私も彼女の双眸(そうぼう)を見つめる。

 夕焼けのような淡い橙色(だいだいいろ)をした瞳に私は暫らく魅入ってしまった。

 その瞳にどことなく安堵を感じたのだ。

 よく分からんんが……。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 暫らくの沈黙。

 そしてその沈黙を破ったのは彼女の方だった。

 

「……あまり見つめるな、さすがに私とて恥かしい。それに…この体勢をそろそろ、な」

 

 少女の頬に薄く赤色に染まる。

 それは本当に小さなものだったが、つい私まで恥かしくなり、慌てて立ち上がろうとした刹那―――

 ヒュン!という風を切る音とともに眼前を何か小さな物体が飛翔していった。

 

「貴様、それ以上動くな!」

 

 それと同時に響く野太い男の怒声と沢山の足音。

 現れたのは全身を甲冑や兜で固めた騎士のような連中だった。

 いや、騎士なのだろう。

 左胸にはアルビスの紋章、胸の前に剣を垂直に構える女神が描かれている。

 しかしどうして私はその騎士団様に囲まれてるんだ?

 するといきなり目の前の騎士が剣の切先を突き付けて、威圧的な雰囲気を出していた。

 

「貴様、何をしようとしていた?拘束させて貰うぞ」

 

「なんでだ?私はまだ捕まるようなことをなにもしてないぞ?」

 

「まだ?ということはしようと考えてはいたということだな!こいつを拘束しろ!」

 

「おいっ、お前達、彼女は―――」

 

『はっ!』

 

 騎士団長と思しき男の号令で周りの騎士達が包囲網を狭めて接近してくる。

 ふざけんな、なにもしてないのに冤罪(えんざい)で捕まるなんてゴメンだ。

 私は服の下に隠し持っていたある物を取り出す。

 

「………?」

 

「さようなら、みなさん☆」

 

 にんまり笑い、手に持っていたある物を思いっきり地面に叩き付ける。

 ボフゥン!と白い煙が爆発的に広がり、辺り一帯を包み込む。

 

「くっ!煙幕か!?女を捜せ!まだ遠くには行ってないはずだ!」

 

 騎士団長と思しき男の苛立った叫びが路地に立ち込める白煙の中から聞こえてくる。

 そんな声を背に受けながら私は身に覚えのない理由で捕まらないよう、その場から出来るだけ早く、何よりも速く、瞬く間に、瞬時に素早く即行で刹那の一時も無駄にせぬように早々(そうそう)早々(はやばや)と逃げ出した。

 

 

 

 

 

 十分程走って、ようやく一息吐く。

 追手はまだ来ないところを見ると、うまく撒けたみたいだな。

 ここは一旦家に……。

 そう思った瞬間、背後に敵意の籠った視線を感じる。

 そして私の上に落ちる大きな影。

 ぎぎぎぎ、と振り返ってみればそこには例の騎士団長と思しき男が案の定いた。

 

「我々から逃れられると思うなよ」

 

「にゃ、にゃあ~……?」

 

 結局この日は『大規模!冤罪鬼ごっこ』を繰り広げたのだった。

 そういえば、あの子の名前聞いてなかったな。

 

 

 宴の開幕(タイムリミット)まで残り49時間05分36秒.

 

 

 

 

 

 

 

 

 


えー、どうもunkonownです。

とても久しぶりな更新ですよ、皆さん!

どうしてだ?と聞かれればそれは旅に出ていたからさ!

……というのは嘘で、単に時間がありませんでした、はい……orz

因みに三月あたりまでこんな感じになるかもしれません。

誠に申し訳ないです。

三月になればきっと私のタイピング時間が増え、更新も早くなりますから!

多分ですけどね☆

そういえば皆さん、新年になり、古いドラマやアニメはグッパイ!

新ドラ、新アニメウェルカム!ですね!

深夜帯にやるアニメをほとんどチェックしてると大変ですよね。

特に平日は。

録画して観るのでもいいんですが、やっぱりナマで観たいんですよね。

それに原作をしってるとどうしても気になっちゃってねぇ……はぁ。

あ、そういえばひぐらしが遂に文庫化しました!

ひぐらしファンの私にとっては嬉しいことです!

すいません、ぶっちゃけちゃって。

ここぐらいでしかぶっちゃけられないんですよ。

さて、いい加減無駄に長くなってきたので、次回の予告を。

題名を見て分かると思いますが、続きます。

えぇ、あと二つくらいは。

それでは次回も読んで下さいね!

それともう一つ連載してる『Dウォーズ』も!

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