23.物語は収束する
『願わくば、別の世界の私よ、この先の未来を見届けて欲しい―――』
「またこの夢、か……」
カーテンの隙間から漏れる日の光に照らされながら溜息を一つ吐く。
ここ数日、同じ夢を何度か見るようになった。
内容は短く曖昧で、フィルムの途切れた映画のように途切れ途切れの映像しか見えない。
荒れ果てた大地、何かの残骸、血に濡れた体、そして空に浮かぶ大きな白い月。
それに最後に聞こえる言葉。
そこで全ては途絶える。
この夢は一体何なのかは解らない。
もしかしたら私が創り出した如何ということのない夢なのかもしれない。
それでも何か、何かがあるような気がしてならない、そんな夢。
私の中にある何かが警鐘を鳴らすのだ。
忘れてはいけない、と。
「ミナトさーん、ご飯出来ましたよー!」
下からの呼びかけで私は思考の渦から引き戻され、考えるのをやめる。
まぁいくら考えたところで、どうしようもできないからいっか、という考えに至る。
事実解っても今は何も出来ることはない。
ベットから出て、大きく伸びをしてリビングに向かうのだった。
「ミナトさん、俺手伝いますよ!」
「てめっ!お、俺も!」
「何バカやってんのよ。ミナトさん、お昼あとで一緒に食べよ」
「ありがと、皆も勉強頑張って!」
登校してくる生徒に声を掛けられては応答する。
こないだの侵入事件の罰として私は、エウレア魔法学校の雑務をやらされている。
校長が事情を聞いて話を大きくしないでくれたのだ。
だがまぁ、雑務は良いとして、まさか破壊した物品やグラウンドの修復をやらされるとは……
それに私の素性を少しばかり話さなくてはいけなくなった。
別に構わないんだがな。
そうして今は校門付近の清掃をしているところだ。
それと学校に通ってる間に私が件の侵入者と伝わったのか、最初は奇異の目を向けられていたが、今ではすっかり打ち解けている。
「さて、実戦演習場の倉庫整理でもするか」
―――カナside―――
「おいカルマ!ほんとに誰なんだよ、あの黒髪美人は!」
「だ、誰って言われても……街の外の森に野草を摘みに行ったら倒れてたんだよ」
「それは分かってる。どうしてお前が知り合いなんだ!?」
ここ数日、カルマの机の周りには男子の輪ができていた。
この前の出来事の後始末という名目でミナトさんが校内の雑務をこなしてるところを、ミナトさんと交戦した生徒が顔を憶えていたのだ。
そこから噂が広がり、わたし達の知り合いと解れば一気に皆して質問攻めにしてくる。
最初の方こそ、それは少数でどんな人なのかと聞いてきたりするだけだったのだが、カルマやわたしが話してる姿を見てどんな人間なのか解り、気になりだしたのだろう。
その人数はあっという間に膨れ上がった。
それにあの容姿だから目立つ上に、男子の間ではあらゆる根も葉もない憶測が飛び交っていたりもした。
「カナちゃん、実際ミナトさんってどうなの?」
同じクラスの女子がわたしに向けて質問を飛ばしてくる。
その内容への回答を既に何回も言ったもので答える。
「わたしもあまり詳しくは知らないけど、とても良い人。魔法の腕も良いし、料理も絶品。それに可愛いし、綺麗で、どこかこう保護したくなるようなそんな感じの人」
「最後の方はよく分かんないんだけど……」
「あの寝起きの後の気だるさや包帯を換えてあげたりするときとか、とにかく色々……!」
あぁ、あの服を着る時のじれったさやちょっとやる気のなさそうな感じがこうなんというか、良いのよ……
うっとりした気分を感じていると、教室に大きな怒声が響く。
「あなた達、次は実戦演習場での授業ですよ!」
―――アイク・フォールドside―――
「行方はやっぱり分からないのか?」
バルコニーからサンドネールの街並みを眺めながら、部屋のソファに寛ぐ若い男―――カイ・シュノーに投げかける。
「無茶言うな。俺たちゃ現場を見てないからなんとも言えねぇが、船上から忽然と姿を消した人間を捜すのは相当なことなんだ。まぁ一つ言えることは、この国の外にいることは間違いないだろ」
カイ・シュノー。
この男はファルシオンの遊撃部隊の新人エースだ。
僕の古い友人でここ最近その腕を見込まれて遊撃隊に配属された。
性格は評判は悪く、良い女を見れば即ナンパという女好きなのだが、武器の扱いに関してはかなりのものだ。
「国の外……やっぱりそうか」
「なんだ、薄々は気付いてたのかよ」
あの時起こった現象は流石に僕にも解らなかった。
だが、あれは多分転移系統のものだということは感じている。
何故失われた転移魔法が発生したのか、あそこにはそれだけの条件があった、ということだろうか?
それに彼女がどこに飛ばされたのか、分からない。
「そういや一つ、悪い知らせがある」
飄々とした態度が一変、急に真面目な顔になってそんな一言をいった。
こいつが真面目な顔になる時は本当に重要な時だけだ。
「コルト王国がとうとう動き出した」
「………っ!」
「知らせが届いたのは今日の朝方。話はそのものは一週間ほど前のことだ。奴ら、小国家ぶっ潰して宣戦布告してき やがった。んで同盟結んだアイルーン王国、エルミス帝国、商業国家クラムにその他同盟に参加した国のトップが 集まって首脳会議を開くそうだ。今後の魔王軍とコルト王国の対策についての話し合いらしい。既に小競り合いみ たいなもんが発生してる。各勇者達も護衛に当たれとさ」
「日時と場所は?」
「場所はアルビス領土にある都市、アリオン。日時は一週間後だ」
一週間後か。
何かが動き出してる?
「それにしてもよくアルビスは見逃したな。あそこは中立国で僕達の同盟の参加を蹴ったぐらいなのに」
「場所のチョイス理由は中立国だから。あくまで第三者の立場で中立。つまり下手な事はお互いできないってこと だ。中にはこの際に借りを作ってどうこうしようと考えてる奴もいるし、未だに快く思ってない奴もいる。向こう が黙認してくれてる理由までは分からんがな」
「なるほど」
「俺達は姫様がこっちに着き次第向かう。まぁ、あの二人が一緒だから無事着くだろうさ」
僕は彼の言葉に無言で頷く。
今は目の前の事象を考えるべきだと言い聞かせながら。
―――ユウスケside―――
「コルト王国が?」
「はいユウスケ様。既に周辺の小国家が消えました。私達が結んだ同盟国と今後の対策会議を開きます。
私達は大臣とこの私が出席することになりました。各国の者達がアリオンの都市に集まりつつある状況です。です ので三日後にはここを立とうと思います。護衛は任せますね」
俺達は今、アイルーン王国に戻ってきている。
同盟を結び、それを知らせる為に戻って来たのだ。
だがそれと同時にコルト王国が動き出した。
ここ最近、魔王軍の動きも活性化しつつあるこの時にだ。
「あぁ、任せといてくれ。エミリーは俺が守ってやる」
「………っ!」
~エミリービジョン~
『あぁ、任せといてくれ。お前のことは俺が一生守ってやるよ』
整った容姿をより一層美化し、台詞までも都合の良い様に美化された末期患者のビジョン。
~END~
俺が言うと、エミリーは火が点いたかのように赤くなった。
何だ、風邪かな?
額を合わせて熱を測ると、体温がどんどん上がってきてるのが分かる。
「やっぱり熱なんじゃ……」
~エミリービジョンその2~
『大丈夫、全て俺に任せるんだ。さぁ、誓いの口づけを……』
完全に台詞が別のものになり、妄想へと変貌したビジョンの中で彼女は気を失うのだった。
~終わり~
「お、お顔が……ち…かい………///」
「ちょっ、エミリー!?エミリー!」
腕の中に崩れ落ちるエミリーを支えながら必死に名前を呼び続ける俺だった。
―――アインside―――
「……マスター、待ってて下さい。このアイン、何が何でも見つけ出します」
「あ、あのお嬢さん、よく分からないけどとりあえず店の前で騒がれると困るんだけど……」
「……む、迷惑を掛けました。それでは」
「いやお嬢さん、その、まだお代を頂いてないのですが……」
「……マスターの使用なされた銀のフォークで」
「あの、できれば歴としたGを頂ければ有り難いんですけど」
「……はぁ、わかりました、払います。私のお宝なのに。ほかにもマスターの使われたスプーンにタオル、すでに穿かれた下着に歯ブラシその他諸々……!」
「あ、あの、それより、お金を……」
店の主はこのあと難儀な時間を過ごす羽目になったのだった。
―――???side―――
「そうか、ならばアリオンの街の住民達には一度退避してもらうしかないな」
「はっ!すぐに手配します。ですがどうして彼等に協力的な?」
豪奢な装飾がされた部屋に一人の少女と中年の男が居た。
少女は席を立ち、窓を開け放ち、外の空を見つめる。
一陣の風が吹き抜け、少女の紅く長い髪を炎のように揺らめかせる。
「大臣よ、この国は中立国だ。何に対しても客観的に第三者としていなければならない。それは戦争に対してもだ。どちらかに付けばそれは中立ではない。だが私は黙って観ていられるほど強くもない。私の取った行動は国民を統べる王として失格だ。それでもただ見過ごすようなことはしたくない……。それならば向こうから介入する理由を作って貰う。それにアリオンの街は構造上の問題が多い、何かと都合が良い」
大臣と呼ばれた男は苦い顔で呟く。
「避けられない、ということですか?」
「無理だろうな。世界は大きく動き出してる。それも悪い方向へ……。魔王軍にコルト軍、この戦いは多くの無駄な血を流す醜いものになるだろうな」
「そういうことならば国民にも話さなければなりませぬぞ」
「分かっている。アリオンの住民達にも直接私から話す」
少女の茜色の瞳には、強い意志が籠もっていた。
「出発は三日後、アリオンの街に向かう」
「はっ!すべては戦乙女の命のままに!」
―――ミナトside―――
「うっ……何だろうこの悍ましい感じは……」
全身が粟立つ様なこの嫌な感じ、どこかでも感じたことがあるような気がするんだが、思い出せん。
それとも思い出すのを拒んでるのか?何なんだ?
「ミナトさん、古代兵器も使えるんですね」
「ん、カルマか。まぁ一応ね」
「でもそんなにバラして平気なんですか?」
「大丈夫、今は各パーツの掃除と点検してるんだ。いざっていう時に弾詰まりや暴発なんてされたら堪ったもんじゃないからね」
そう言いつつも動かす手は止めない。
実践演習を見学しながらついでに今もってる銃器の一部をオーバーホールしているのだ。
そこにカルマが休憩がてら来たということだ。
「すごいですね。確か古代兵器でもこの系統は一番の難解武器ですよ。大まかな通称じゃ、銃でしたよね?ここ最近じゃ発掘品のほかにもなんとか製造できるほどまでになりましたけど、それでもちゃんと理解してる人は少ないんです。昔の人達の文明の違いを思い知らされる物の一つです」
や、やたらと凄いな、その考え……。
しかし、アイルーンで学んだ情報は少し古いものばかりだった所為でこの手の話題とかは上手く噛み合わない。
銃器の認知度、発展具合、使用頻度はどうも大分上がっているらしい。
その中でも中立国のアルビス、それにこのルカ大陸の北に位置するエルミス帝国の技術力は高いらしい。
バラして点検を終えたらまた組み立てていく。
マガジンに弾を丁寧に一発一発込めていく作業も終わらせ、Dに戻す。
この作業、今じゃ大分慣れたが、初めの頃は大変だったものだ。
バラすのまでは良いんだが、組み立てるのが特に面倒だったものだ。
組み立て終えて持つと、その瞬間に分解してしまうのだ。
理由から言えばパーツの一部を付け忘れたりしてしまっていたなどなど。
「長閑だなぁ~……」
今までの苦労が忘れられるほどに陽気な日がな一日だ。
当然、魔王やら元の世界への帰還方法、それにアインのことを忘れたわけじゃない。
ただ、今はこの平和な時間を思う存分に味わいたい。
まさかそんな事を考えてる私の知らないところで世界が確実に騒乱の時代に向かってるとは露知らずに…………
どうもunkonownです。
ちょっと遅めの明けましておめでとうございます!
いや~、皆さんは新年早々何か良い事はありましたか?
自分は新年早々に不幸なこと続きで大変です……orz
それに除夜の鐘如きで打ち消されるほどの煩悩を持ち合わせていないのだよ!
自慢できるような事じゃないけど。
ま、まぁそれはさておき、今回はそれぞれの人達が大集合しますよ!
新キャラも登場しますし、面倒事満載です!
えーと、それからこちらも予定が満載です。
時期が時期なだけにそろそろ真面目に取り組まないといけないことがありまして
大変なんですよ。
でも投稿は今まで通り頑張っていきます!
ではまた次回会いましょう!