22.小さな騒動と消える一つの未来
アルビスに飛ばされ、カルマの家で過ごして数日が経過していた。
その頃には大分この治療生活にも慣れ、傷もある程度回復していた。
今はリビングで外で手に入れた情報誌を読んでいる。
サンドネールでの出来事が書かれていた。
どうもサンドーラ号は多大な被害を被ったが無事に辿り着けたらしい。
私達については特に書かれてはいなかった。
まぁ船からたかが一人二人消えたところであの場所じゃ誰も疑問に思わないだろうな。
アイクもどうやら無事らしく、記事のインタビューでも特にこれと言った事は語っていなかった。
しかし何で私達だけ転移したんだろう?
カルマ達は今は学校に行っている為に家には私一人。
することもなく早めの昼食を摂って街にでも散歩をしに行こうかと考え、そこでキッチンに青い箱が置いてあるのに気づいた。
気になって箱の中を覗くと、びっしりと様々な色彩の料理が入った弁当だった。
うわぁ、手が込んでるなぁー。
どうやらカルマは弁当を自分で作って勝手に忘れていったらしい。
暇だから届けに行こうかな。
ここ数日街を散歩していてそこそここの街のことは分かってきている。
カルマの通う魔法学校の方にはまだ行ったことはないから好都合だ。
とりあえず、外出用にカナに用意して貰った白のワンピースに着替え、弁当を持って家を出た。
カナも気が利く。
怪我で上手く着替えられない私の為に、着脱が簡単なワンピースをチョイスしてくれたのだ。
それに私の要望通りにシンプルなデザインだ。
唯一黒色はなかったみたいだが。
昼少し前にも関わらず街は相変わらず元気だった。
カルマの家は西区の端に位置し、目的の魔法学校は中央区にある一つらしい。
確かエウレア魔法学校だったかな?
このアリオンの街は大きく、北区、東区、西区、南区、そして中央区とある。
「よおミナトちゃん!怪我は大丈夫かい?」
「ミナトちゃん、今日はどこに行くんだい?」
街を歩いているといろんな人から声を掛けられる。
最初のうちは黒髪の上に包帯やら何やらを巻いてる所為か、やたらと注目を浴びた。
そうしてる中に顔を覚えられ、今ではすっかり馴染んでしまっていた。
「う~ん……どっちに行けばいいんだ?」
中央区にはさすがに行ってないから、何時の間にか私は道に迷っていた。
困ったぞ、全っ然分からん……!
どっちに行けばどこに出るのかさえ分からない。
「もぉーーー!どこなんだよここはーーー!」
つい空に向かって叫ぶ私。
後になって恥かしくなり俯き、周りを見渡す。
ふぅ、誰もいな―――
「きれいなお姉ちゃん、なにしてるの?」
「へ?」
振り返るとそこには、結えていない髪を引っ張りながら見上げてくるちぃちゃい男の子がいた。
最悪だ。人がいたよ。
ちっちゃい子供だけど、何か無性に恥かしい!
「え、えとね、お姉ちゃん今少し困ってるんだ……その、道にね、迷っちゃってね……」
情けない……!情けなさすぎる!
子供に道を聞かなければならないなんて!
エウレア魔法学校へと辿り着いた代価に私は何か大事な物の一部を失った気がする。
いや、失ったんだろう、うん、失った。失っちゃったよ……
暗澹たる気分でエウレア魔法学校を見上げる。
そこには広大な敷地が広がり、遠くには巨大な校舎?なのかは知らないが大きくて立派な建物が幾つか見えていた。
そして眼前には重々しくもどこか上品さを感じさせるこれまた大きな鉄扉があった。
金賭けてるねぇ~。
そう思いながら鉄扉に向かって叫ぶ。
「すいませーん!開けて下さーい!ここの生徒のー、カルマという少年に忘れ物のお弁当を届けに来ましたー!」
すると巨大鉄扉の横にある小さな扉が開いて複数の兵士―――警備兵かな―――が出て来た。
「貴様、この街の者ではないようだが、どういうことだ?」
「御覧の通り、怪我をしていたところを助けられて、今も暫らくお世話になってる。その恩人が弁当を忘れていったから届けに来ただけだ」
「その弁当はどこだ?」
辟易とするような事務的問答を繰り返していると、そんな質問が投げられた。
確かに私の手には弁当はない。
「あぁ、それなら……」
私はDを形成し、そこから弁当箱を……
シャキンッ!と金属音を響かせながら私の周りを警備兵が囲み、槍が眼前に並べられていた。
槍衾を作り、さらに私を囲み綺麗に並べられた槍の矛先には、敵意が感じられた。
「貴様何者だ!何だその魔術、見たこともない」
「怪しい奴、拘束しろ!」
「え、マジですか?」
ただ弁当を届けに来ただけなのに拘束される覚えはない。
仕方あるまい、ここは強行突破あるのみ。
一度取り出した弁当を再び戻し、左目だけで周りを見渡す。
上手い具合に密集してるな。
「眠り子よ、深き夢の世界へと誘え、安息の子守唄」
言葉を唱えると、周囲に静かで綺麗な音色が流れる。
安息の子守唄。
これはその名の通り、小さな子供、特に泣き止まない子供などを寝かしつける際に使われる簡単な魔法だ。
この魔法は殆どの人間が使える魔法でもある。
使いようによっては相手を眠らせて行動不能にすることもできる。
囲っていた兵士達は皆微睡み、膝から崩れ落ちて寝息を立て始める。
自然に起きるとしらあと1時間は平気だ。
まぁそれだけあれば大丈夫かな。
兵士達を壁に寄り掛からせて私は開いていた扉から中に入った。
敷地内はやはりと言うべきか、綺麗に舗装された道が続き、その脇には木が均一に立っている。
それにベンチもいくつか設けられ、寛げるようになっていた。
さて、ここで問題だ。
私はどこに向かえばいい?
外から見ても分かっていたが、ここはとても大きい。
そこからカルマを見つけ出すのは苦労がいる。
闇の探査魔法を使えば早いが、今はできるだけ使わないでおきたい。
つまり結局は自分の足と目で探さなければならない。
大変だ。
とりあえず目の前に延びる舗装された道を突き進む。
といっても、ある意味不法侵入したような私だ。
堂々と進めるわけもなく、ちまちまと隠れながら前進した。
警備兵は眠らせたが、何時何が起こるか分からないのが常だ。
授業中の為かエウレアの生徒とは出会わずに校舎近くまでこれた。
既に気分は某潜入アクションゲームのス○ークだ。
これでダンボールでもあればさらに気分が乗るんだが、そう都合よくあるわけない。
校舎に侵入し、目標の居ると思われる教室を目指す。
しかし広いにも程がある。
学年のクラスは十以上あるし、グラウンドのほかには実戦演習場、多目的講義室、学食に喫茶店など………案内板がなければ迷っていただろう。
よし、目的地まであとすこ……
ジリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリリッ!
耳を劈くようなけたたましい音が校内中に鳴り響き渡る。
『校内に侵入者あり、校内に侵入者あり。侵入者は一人と推測、黒髪の女、魔術師の可能性大。注意されたし。職員、生徒は速やかにこれを見つけ次第捕獲せよ。生徒は複数での行動を義務付ける。これは訓練ではない。繰り返す、これは訓練ではない』
あちゃー、意外に早かったな。
弁当を届けに来ただけなのにすごいことになっちゃった。
「あっ、見つけた、こっちだ!三班は後方支援を、騎士隊は前を固めろ。魔術師はバックアップ!」
もう見つかった。
ちょっとちょっと早すぎないか?
後ろは……退路は無し、かな。
そうこうしてる中に騎士隊とやらが捕縛しようと迫りくる。
「ちょっ、私はっ!弁、当を、とど、けに!来た、だけなんだ、って!」
振り下ろされる剣を紙一重で回避していき、横薙ぎに迫る斬撃はしゃがんでやり過ごす。
飛来してくる火球は跳躍して避け、とにかく逃げに回る。
もしかしたらカルマやカナもこの中にいるかもしれない。
だけどいくら捜しても見当たらない。
もうちょっと派手に動きまわれば見つけてくれるかもしれない。
それには校舎内じゃ狭いな。
エウレアの生徒の皆さん、すみません。
以上!
心の中で呟き、私は攻撃が止んだ一瞬の隙に窓を破って外に飛び出す。
『何窓破ってるのーーーー!!』
後ろからはそんな声が聞こえてくるが無視する。
そんなこと言ってるけど、お前達が攻撃した際にできた破壊の方が問題だと私は思う。
実際に壁や廊下は火球によって黒く燃え焦げていたり、斬撃の痕が壁に刻まれていた。
「さて、さが―――」
私の言葉は突如襲ってきた爆炎によって掻き消され、呑み込まれた。
「やったぞ!仕留めたか?」
「おいおい、確か捕縛するんじゃなかったのか」
「いいんだよ、生きてりゃ。つーか侵入して俺に見つかっちまったのがいけねぇんだよ」
「はははははっ!それもそう……だ」
燃え盛るグラウンドを見ながら笑っていた少年の一人が顔を固くして呆然と燃える中心点を凝視した。
彼は見た。
爆心に立つ黒い影を。
炎の中をゆっくりと歩みながらその姿を晒す。
「どうしたんだ?」
爆炎球を放った少年が傍らに立つ少年に呼びかける
「おーい、見つかった、侵入者?」
「待ってくれー!カナ少し待てよ」
「もぉ、遅いよ!」
「う、うるさいな。弁当忘れて腹が減ってるんだよ!」
遠くの方から駆け寄ってきた少女の名はカナ。
その後を追いかけて来たのはどこにでもいそうな少年、カルマだった。
「ん?お前達か。侵入者なら俺が仕留めたぜ!へへっ、案外呆気なかったぜ」
胸を張って言う少年の名はリック・セラム。
カルマとカナ、そして隣で立ち尽くす少年マック・フォルンとは同級生でチームを組む仲間だった。
「それよりどうしたんだ、マック。さっきから固まってるけど」
「そうなんだよ、どうしたマック?腹でも減って思考が停止したか?それとも生命活動が仮死状態になったか?」
「……あれ、見ろよ。普通に動いてるぞ……」
「は?あれは完全な不意打ちだ。直撃で無事なものか」
鼻で笑うリックだったが、爆心地から不意に感じた強力な魔力に慄く。
カナや魔術師ではないカルマもその気配の正体に視線を向ける。
黒煙の中からゆったりと出てくる人影があった。
煙から出て来たのは汚れ一つない白いワンピースを着た若い女だった。
顔は煙に隠れて窺えないが、明らかに少女と言えた。
「ったく、こっちはこんな目に遭う為に来たわけじゃないのに。それより怪我人はもっと労わるべきだ……」
少女が呟く。
だがその声、その格好にはどこか見た記憶があるとカルマとカナは感じていた。
はて、どこで声を聞き、そして見たのか……ここ数日確かに見て聞いていたはずなのだ。
「風よ、我が身に纏いてその力を振るいたまえ」
その言葉を聞いた瞬間、カナはその呪文が肉体の強化魔法だと認識した時には先程の場所に侵入者と思しき少女はなく、その代わりに背後からその少女の声が聞こえた。
「大気を切り裂くは雷閃!」
「リック、危ない!」
「なっ!?」
行動は一瞬、結末は刹那に訪れた。
風の力を宿した侵入者はリックに向かって直進し、彼を抱きしめて庇いながら横から飛んでくる岩槍を雷で防いで、全てを撃ち落とした。
「大地よ、槍の雨となって貫け、!岩槍雨!」
「吹き荒れろ、暴風の鉤爪!」
二つの魔法がぶつかり合う。
貫かんと高速で迫ってくる岩の槍に対して、包帯に巻かれた右腕を横に振るう。
そこから生まれる荒れ狂う暴風の爪が岩槍を粉砕する。
わたし達を守ってくれた?
この攻撃はきっとわたし達には当たらないと思う。
それでも撃ち落とした。
それにあの包帯……
カナはその奇妙な侵入者の顔を見る。
その顔は朝見た顔だった。
その服は自分が贈った物だった。
「何で……ミナトさんが、ここに……?」
「え?ミナトさん?」
カナの呟きを聞き取ったのかカルマも彼女の顔を見る。
「どうしてミナトさんがここに?というか魔術師だったんですか」
「いやほら、弁当を届けに来ただけなんだけどね……色々とあってこうなってる。それと言うのを忘れてたが、一応冒険者だったりしてな。とりあえず何とか言って私が弁当を届けに来ただけと伝えてくれないか?」
✝
「時は満ちた………開戦の時が。ラグル」
闇が満ちる暗い部屋に年老いた男が一人呟いた。
喜びを秘めた声である人物の名を口にする。
「何だぁ、我に用か?」
部屋の柱の影から姿を現したのは一人の男だった。
「遂に時は満ちた。ようやく我等の時代が来るのだ。お前の望む戦いと闘争の世界がな」
「ほう、それは朗報だなぁおい!戦争をおっぱじめるのか、なぁ!」
ラグルと呼ばれた男は歓喜に声を震わせ、豪奢な椅子に座る男に尋ねる。
年老いた男は薄く笑うと、影に潜む男の言葉に肯定を示した。
「そうだ、まず手始めに周辺の小国家を潰す。その指揮をお前に執って貰う為に呼んだのだ」
「我に指揮をか?それは良いな!いい加減体が鈍っていたところだぁ!思う存分に破壊の限りを尽くーす!」
「魔王軍に気を取られている今ならば容易かろう。それが終わり次第ラグル、お前にもう一つ朗報がある」
男はさらに笑みを深くして言った。
「勇者共を殺せ」
その一言はとても短かった。
だがその一言にあらゆる意味が凝縮して詰められていた。
曖昧で不完全な言葉で飾るよりも簡単で解り易い一言。
「ふははははっ!それは本気か?冗談じゃないんだろうなぁ、冗談じゃすまねぇぞ。本気で殺していいのか?」
「あぁ、構わん。計画の妨げにしかならんだろうからな」
「それは実に良い!最高だ、最高過ぎるねぇ……我の闘争本能を掻き立てるなぁ……!」
「まずはファルシオンの勇者、アイク・フォールドだ。奴は今サンドネールにいるはずだ」
「そうかい、ではさっさと潰しに行って勇者を追っ駆けますかねぇ」
男はそう言うと部屋から消えるように姿を消した。
廊下からは男の歓喜の高笑いが響き続けた。
この日、コルト王国は周辺の小国家に戦争を仕掛け、僅か数日で三つの国が消えることとなった。
コルト王国は世界に向けて宣戦布告を示したのだった。
これはあくまで布石である、と。
そしてその戦いの指揮を執ったラグル・バルドラードの影は、勇者達に徐々に迫っていたのだった。
戦塵を纏い、破壊と殺戮を引き連れてその牙を突き立てんと。
―――この時の私達に気付くことは出来なかった。
いや、気付いたとしても如何することも出来なかったのかもしれない。
規定通りに動き、規定通りに廻り、規定通りの時を刻む時計を動かす運命の歯車に、闘争という名の歯車が填め込まれたことを。
それは当たり前のようにあり、不自然にあった。
それは不自然にあり、当たり前のようにあった。
気付くことは出来なかった。
気付いたとしても如何することも出来なかったのかもしれない。
出来るのだとしたら、それは天使か、悪魔か、それとも神か、邪神か、魔王か。
ただ一つ言えることは、私の日常を壊したこの非日常を、更なる非日常へと変えようとしていることだけだ。
運命、と言ってしまえばそれはそうなのかもしれない。
だが、運命に抗うことができるのならそうでないのかもしれない。
それすら運命というシナリオの台本通りならば、私達には如何することも出来ないのかもしれない。
闘争の歯車によって運命の歯車の時計は新たな時を刻み、その時は刻一刻と迫ってきている。
逃れることは許されない、眼を背けることは出来ない、回避することは不可能、受け止めるしかない。
未来は不確定的であり確定的、だが運命の存在など誰にも解りはしない。
未来は確かなものであり曖昧な存在、選択肢の数だけ未来は存在するのかもしれない。
ただ一つ言えることは、世界は大きな意志によって動こうとしている。
それが私達にとって何を齎すのか、それすらも運命なのか、それとも変えることのできる未来か。
それを知る術は今の私達になく、それを選択する瞬間は常に起き、その選択が何を起こすかは誰にも解らない。
その者の歩んできた道そのものがその者の選択した結果、生きることは常に選択をしていることなのだ。
ただ一つ言えることは、選択は常に迫られ、その選択は星の数だけあるということだ。
そして私はその選択をどこかで誤ってしまったのかもしれない。
この時の私達が気付くことが出来ていたのなら、この未来も変わっていたのかもしれない。
それともこれも運命だったのだろうか。
今となってはどうしようもない。
「バイバーイ、悠介………」
朦朧とする意識の中、別れの言葉を虚しくも呟く。
瞬間、私の視界は青白い光に塗り潰され、辺り一帯を包み込む。
それは破壊と滅びを齎す死の光。
闇をも浸食し、夜の夜明けを呼ぶ白き光。
この無限にある世界の一つから、私の存在が消えた瞬間だった。
「月が、綺麗だ…な……」
願わくば、別の世界の私よ、この先の未来を見届けて欲しい―――
久々のunkonownです。
みなさん元気でしたか?
クリスマスは如何でしたか?
自分は寂しく無意味に過ぎ去りました……
とりあえず気を取り直して、今回は如何でしたでしょうか?
久々のタイピングな上に、内容を構成してなったので変かも知れませんが。
あぁ、そうだ。
今回で遂にコルト王国が動き出しましたよ!
今後は少しずつ交えていくつもりです!
それと最後の方、キーを打ってて自分でも何が言いたかったのか分からなくなってしまいました。
意味不明な部分があっても気にしないでください。
因みにこの意味不明な部分も今後の物語に関係していきますよ。多分。
それとお知らせです。
もう一つの作品をそろそろ投稿しようと思います。
この作品と並行で進めていきたいと思ってます。
気が向いたらそちらもチェックしてみて下さい!
自分の中でも未だに定まっておらず、何度も何度も手を加えては修正し直してる
始末ですが……
さて、投稿するものの題名ですが、一応『Dウォーズ』というものに。
今後ともこの作品を宜しくお願いします。
『Dウォーズ』も暇があれば読んでみて下さいね!
どちらとも怠らず投稿していこうと思っております。
それでは次回にまた会いましょう!
早いですが、ハッピーニューイヤー!




