16.パレードの始まり
ユウスケ視点で今回進みます。
エルタニアの街は賑わいを見せていた。
あちこちに屋台が並び、あまり見なかった住民達も今は多くごった返している状態だ。
今日は年に一度行われる行事の一つのパレード。
大通りを子供達が無邪気に走り抜け、客寄せのために大道芸を行う者達、声を出して客を呼ぶ商人達。
本当に多くの者達がいる。
そして、王の暗殺を目論む者に、その者達を根絶やしにしようとする者達が潜んでもいる。
……本当に多くの人達がいる。
私は昨日の時計塔から街を眺める。
街はパレードだというのに相変わらず兵士の姿があちらこちらに見える。
いや、寧ろパレードだから当然か?
そう思いながら私は隣に立て掛けておいたバレットM82A1を取り、そのスコープで兵士の配置を確かめる。
城門に兵士が四人、城壁にも数名ずつ配置されている。
街中にも兵士が巡回して回り、今日だけ一般にも解放される城の中庭や門などにはさらに厳重な警備体勢が敷か
れていた。
それらを確認し、私は装備の再点検をする。
左右のショルダーホルスターから改良したHSKを抜き弾を確認。
確認後にホルスターに戻して今度は腰の剣を確認。
鞘から抜かれた剣は相変わらず光を飲み込むような黒さがそこにあった。
最後に腕に仕込んであるワイヤーのチェック。
因みにこのワイヤーはエルタニアに来る道中暇だったので作ってみたものだ。
これが中々便利なのだ。
どっかに引っ掛けてよじ登ったり、相手を拘束して電流を流して気絶させたりそのまま絞め殺したり……
おっと何か物騒な話になりつつあるな。
とりあえずもう一度街を眺めて目を瞑った。
この賑やかな平穏が終わるその時まで。
✝
「作戦通り合図があるまでわたし達ここで待機。その後は仲間の陽動で敵の注意を逸らして城の抜け道を使って
内部に侵入、そしてグラム・テュリニッヒを暗殺する。」
彼女―――ミオラは静かにそう言った。
「だが城の中にも衛兵や近衛騎士だっているだろ?そいつらはどうするんだ?」
俺は疑問に思った事を直接彼女に聞く。
作戦会議で大まかな事は聞いたが分からないところの方が多い。
すると彼女は俺の方に向いて言った。
「それについては別働隊が別ルートで内部に侵入後、敵を迎撃してくれる手筈になってます。わたし達はその間
に警備の目が逸れてるグラムの居る部屋に突入します。」
だが相手はこちらの作戦を知っている。
多少は乗ってくると思うが完璧にいくかはわからない。
そう思っているとミオラはシャンパンのような琥珀色の瞳を細めて微笑んだ。
「大丈夫ですよ。作戦も一部変更してますし、それにユウスケさん達がいます。彼等もそこまでは知り得てない」
まるで心の中を見透かされた様な心地になり目を逸らす。
それと同時に花火が空に上がる。
合図だ。
「合図です。行きます!」
彼女はそう言うや身を潜めていた路地から勢い良く駆け出す。
その後ろをセリーナ、俺、エミリーと続く。
「私が先陣を切る!ユウスケ殿は殿を!」
セリーナがミオラを追い越し前を走りながら言う。
俺は言われた通りに最後尾に付き後ろを守りながら追走した。
実戦か……
模擬戦ぐらいしか経験がない所為かやたらに緊張する。
すると街の何処からか怒号や叫び声が聞こえてくる。
始まった。
一般人とかは一応ミーシャ達が上手く誘導してから戦闘を起こしてるか気になるが、大丈夫であることを祈ろう。
「心配ないですよユウスケ様。私達は今出来る事をやりましょう!」
エミリーが突然言ってきた。
何だろう、結構俺って顔に出るタイプなのだろうか?
十分程走って城の直ぐ近くの公園のような場所に俺達はいた。
「ここです」
ミオラが指さして示した場所は噴水だった。
彼女は噴水まで歩み寄ると、しゃがみ込んで何かを弄くりだした。
すると噴水が止まり、左右に大きく動き出すとそこから階段が下まで続いていた。
「どこの秘密基地だよ……」
俺は半ば呆れ顔で呟いた。
「わぁあ!かっこいいですよ!」
……………
喜んでる、喜んでるよこの子。
エミリーって何、こういうの好きなの?
「早く行きましょう」
俺がエミリーの意外な一面を見てしまい驚き、そのエミリーが喜んでる間にセリーナとミオラは先に進んでいた。
急いで階段を下りて二人を追う。
「なぁ、一つ聞いていいか?」
「はい何ですか?」
「この場所だけほかと材質が全然違うの何故だ?」
ここに下りてから何か違和感があった。
明らかに今までのものとは別のようなものに感じられた。
なのにどこか懐かしい感じもする。
「よくわかりましたね。ここは古代遺跡の一部を抜け道として使っているんです」
「へ?ということは城の下には古代遺跡が眠ってるっていうことですか!?」
エミリーが驚きを口にする。
「見つかったのは二十年ほど前、偶々地下の倉庫の整理をしていた女中が入口を発見したんです。程無くして
調査隊が調べたところ、古代遺跡と判明したの。でもわたしの父はこれをなかったことにした。」
静かにそう言う。
「古代兵器の、今で言う銃の研究は一部やってはいたみたいなんだけど、今ほど研究が進んでなかったから直ぐに
やめてしまったみたい。」
そうこう話してる内に出口に近づいてきたみたいだ。
ミオラが振り返り、さっきとは違う顔で言う。
「ここからは敵地の中です。いくら陽動があると言っても相手も予測済みのはず。気を付けて。それと戦闘はで
きるだけ避けてね」
俺は緊張しながらも頷く。
ほかの面々もそれぞれ頷き、抜け道から出る。
そこは薄暗い倉庫のような場所だった。
「わたしに付いて来て下さい!」
倉庫の扉を開けると、そこには兵士の壁があった。
「くっ!読まれてたか……」
セリーナが恨めしそうに言いながら敵に斬りにかかる。
「くそっ!」
俺も斬りかかってくる敵に応戦しなければならない。
いきなり難関が立ち塞がっちまった。
俺は相手が剣を振り下ろす隙を突いて剣の柄で鳩尾を突く。
倒れこんでくる相手を交わしながら背を向けている相手を奇襲してまた気絶させていく。
僅かな時間で周りを見てみる。
「せぁあっ!」
横一文字に薙ぎ払う。
「すっげー……」
感嘆の言葉が出る。
相手が男以前に横薙ぎした剣圧で数人を吹き飛ばしやがった。
やばすぎだろ!
「危ないっ!」
急に後ろから剣が振り下ろされる。
まずいっ!
「こんちくしょうっ!」
体を思いっきり捻って敵を見つつ剣を突き刺そうとする。
だが俺の時間は酷く停滞しているように感じられた。
もしこのまま剣を突き出したらどうなる?
鎧を貫きその下の肉をも貫く。
そのまま内臓を突き刺し血が流れ込んで死が体を蝕んでいく。
痛み、恐怖、死への恐れといった感情が支配する。
このままいけば相手は死ぬ。だが殺らなければこのまま俺が殺られておしまいだ。
そんな俺の考えを無視して剣先は吸い込まれるように相手の腹部を貫いた。
俺はそのまま倒れ込み、相手は慣性に従って剣の根元まで貫かれ絶命した。
「ユウスケ様っ!ご無事ですか!?」
エミリーが血相を変えて駆け寄ってくる。
「あ、あぁ…大丈夫……だ」
そう言いつつも俺は剣を握るのもやっとで足がガクガクと震えていた。
剣を支えに立ち上がった頃には既に方が付いていた。
「ユウスケ殿。その感情は人として当たり前であり、大事なものだ。生き物を殺める事に慣れてしまった私のよ
うな人間は狂っている。だがこの先はその感情は殺せ。でなければ何れ自分が死ぬ羽目になる……」
セリーナは蒼い炎のように静かに告げてきた。
その言葉は俺に重く圧し掛かってきた。
そうだ、こんな調子でどうする。この先何が起こるかも分からないのにこんなんでは足手まといになるだけだ。
俺はその言葉を心に刻み込むように口の中で復唱して頷いた。
大きな扉を思いっきり蹴り破る。
この時にはもう大分落ち着いてきていた。
「グラム・テュリニッヒ……!」
苦々しくミオラは玉座に座るその人物の名を口にする。
「お久しいですな、ミオラ姫。いや、今はもう姫ではないですな」
グラムは皮肉めいた口調で言いつつ、笑っていた。
「ようこそ我が城へ。歓迎しますぞミオラ、それにアイルーンの姫君と勇者殿」
「っ!?」
弾かれた様に俺は前へ踏み出しそうになるも何とか思い止まる。
ミオラは下唇を噛みながらも押し殺した声で言った。
「…どうしてそれを知っている……!」
グラムは質問には答えずに逆に問いかけてくる。
「もしやと思うが、これが偶然の出来事だと思っているのかね?」
彼は続けざまに、
「アイルーンの姫様よ。お前達が潜り込ませた鼠に情報を流したのは誰だと思っている?」
エミリーその一言に愕然とする。
「まさか、最初から仕組まれていた……」
「そうだとも!お前達二人の仲だ。必ず来ると思っていたよ。これでアイルーンに攻め込む口実ができたわけだ」
彼は嘲るように笑って見下してくる。
「一国の姫とはいえ、所詮は子供に過ぎん。考えが浅はかなのだよ!」
くっそー、何かムカつくなアイツ……
だけど奴の周りに護衛は一人もいない。
「あんた、そんなこと言ってるが護衛なんて一人もいないんじゃ殺して下さいと言ってるもんじゃないのか?」
俺は俺なりの精一杯の皮肉を込めて言ってやる。
だがグラムは失笑して返してくる。
くそ、やっぱり俺じゃ駄目か。ミナトがいりゃーな……
「この私がそんなミスをするとでも思っておるのか?寧ろお前達の方がそうだろ」
「なに?」
「最初にも言ったであろう、この物語は私が仕組んで出来た舞台だ。忘れたのか?」
グラムが言い放つと同時に入口から大量の兵士達が雪崩れ込んでくる。
「くっ!別動隊は!?」
ミオラが焦った声で言う。
「彼等なら既に死んでいます」
兵士達の後ろから声が掛けられる。
「エイ!ビィ!無事だっ―――」
現れたのは会議の際にミオラの傍に付いていた二十代後半と思しき兄弟だった。
ミオラは二人に駆け寄る寸前、三つの閃光が閃いた。
「一体如何いうことだ……?」
見ればセリーナが長剣でエイとビィの剣を受け止めていた。
「答える義理はない」
「私達の情報を流したのは貴様たちか……!」
一度距離を取ったセリーナが苦々しく言う。
「我々は元からこちら側の人間だ」
「そんな……」
ミオラがその場座りこみ、その前をセリーナが剣を構えて守る。
俺はグラムとシー兄弟を交互に見やる。
エミリーは彼女に寄り添っている。
周りは敵兵に囲まれ、見方と思っていた者は敵。
状況は最悪だ。
「最高だ!その絶望に打ち拉がれた顔は実に良い!」
何て悪趣味だ。
でも、まずい。ほんとにまずい。
「かかれ」
一言いうや周りを取り囲んでいた兵士達が襲いかかってくる。
「赤き火よ、立ち昇り燃え盛れ、火柱!」
魔法の詠唱が終わると同時に突撃してくる兵士達の前に幾本もの火柱が勢いよく唐突に出現する。
エミリーが詠唱したのだろう。
「ユウスケ殿は姫様達を!私はこの二人の相手をする!」
背中を向けてセリーナは言い放つと、すぐさま斬り込みにいく。
行く手を阻もうと立ち塞がる者を駆け抜けながら斬り伏せていく。
さすがはエミリーの近衛隊の隊長なだけにすごい。
そんな思考をしてる中、敵は待ってくれずに襲い来る。
俺は剣で受け止め腹に足で一撃を入れて蹴飛ばし、すぐに振り返りざまに剣と剣がまた交わる。
そこへ横からさらに攻撃が来ようとする。
「はあっ!」
剣を上に弾き上げてがら空きになった腹部を横から斬りつけ、そのままもう一人も斬る。
「ぐわぁっ!」
苦悶の声を上げ倒れ、俺は止めの一撃を入れる。
すると眼を見開きながら血を噴き出してそのまま動かなくなった。
その途端に手が震えて胃酸が込上げそうになり膝を着く。
「はぁ、はぁ……くそっ…こんな調子でどうする俺」
「ユウスケ様、立てますか?」
心配しながら手を差し伸べてくる。
俺はその手を取りながら大丈夫、と言って震える手足に鞭を打ち、立って戦況を確かめる。
状況は芳しくない。
「ユウスケさん、ちょっとまずいかもしれないです……幾ら何でもこの人数は多い……」
ミオラが弱音を吐くが俺もかなりきついところだ。
言い訳がましいことだと思うがこっちは初めての命のやり取りをしてるんだ。
精神病んだらどうすんだ?
向こうの世界の出来事が優しく感じるよ……
セリーナの方も大分苦戦しているみたいだ。
互いに息が上がっているのが遠目でもよく分かる。
「そろそろ幕を下ろうか。実に楽しかったよ。お前達を始末した後はまずアイルーンを滅ぼし―――」
グラムが言葉を言い終えぬ前に爆発音とともに強い衝撃が城を襲った。
それぞれバランスを崩しそうになるのを耐えようとするが続けざまにまた起こる。
「くっ!何事だ!?」
怒鳴り散らすように叫ぶグラムの元に兵が一人報告にやってくる。
その顔には戸惑いと恐怖、焦りといった感情に彩られていた。
「ほ、報告します!先程城内に侵入者が入りました……!」
「何!?まだ制圧しきれてなかったのか!さっさと殲滅しろ!」
「それが問題が……」
言うのに躊躇している伝令に対し苛立たしげに聞き返す。
「早く言え!何が起こった?」
「はっ!それが現在城の中を破壊しながらあの場所に向かっている模様です!」
あの場所?あの場所って何だ?
それに俺達以外に侵入者だって?ミーシャかな。
「何故あの場所を知ってる?何としても止めろ!お前達、そこの連中を早く片付けるんだ!」
今まで包囲して様子を窺っていた敵達はその言葉で雄叫びを上げて斬りかかってくる。
まずいぞ本気で!
するとエミリーがいきなり叫んだ。
「!!皆さん、伏せて下さい!」
一瞬何を言ってるんだかわからなかったがセリーナやミオラは既に伏せてるし。
俺も慌てて伏せる。
その刹那、部屋の入り口付近で爆発が起こったかと思いきや壁や扉が吹き飛んできた。
敵兵達は回避する事も叶わずに瓦礫の山に押し潰された。
あぶないあぶない。
あともう少し伏せるのが遅かったら俺も瓦礫の墓に入るとこだった。
「……おかしい。確かこの辺の部屋に入口があると思ったんだけどな」
「主よ、さっきから何度同じことを言うとる?城の中が風穴だらけになっておろうが」
破壊された壁から誰かが入ってくる。
煙でよく見えないが、声からして二人。それも女の子だ。
徐々にこっちに近づいてくる。
「む?どうも面倒な場所に出たみたいだ」
「そのようじゃの」
現れたのは全身を黒衣で包んだ少女と場違いにも程がある小さな女の子だった。
どうもunkonownです。
ちょっと、いや相当ぐだぐだな文ですね……
言い訳がましいですがいろいろあったんですよ、いろいろ。
思いっきり愚痴りたいですが、流石に迷惑だと思うので、友人に小一時間くらい愚痴ろうと思います!
とりあえず今回はユウスケの視点で物語を進めてみました!
ま、それはどうでもいいような気がしますが。
次はミナトの活躍ですよ。
でもあまり期待しないでくださいね。
それではまた次に!