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15.嵐の前の静けさ

 雨戸は閉め切られ、部屋の中は薄暗く、質素なテーブルとイス、ダブルベットがある以外何もない部屋だった。

 私はイスに腰掛け、聞いた話の内容と状況を整理する。

 

「つまり、城への抜け道のチェックをしている所、さっきの奴らに見つかって私がそれを助けたと?」

 

「そうです」

 

「それで三人は『明日の日の出』という組織で、パレードに合わせて王の暗殺……」

 

 私は少し声を小さく呟いた。

 これが大まかな内容と状況だ。

 つまりは私は革命の手助けをしたことになる。

 それってまずくね?

 でもまぁ、まさか五年前に既に革命が起こっていようとは。

 レイシスの記憶が合わないわけだ。

 

「わたしの名はミオラ。そこの二人は右からエイとビィ」

 

 そう言って彼女―――ミオラはローブを脱ぎ、微笑む。

 窓際にいた二人が、

 

「エイ・シーです」

 

「ビィ・シーです」

 

 本当にそういう名前なんだ……

 

「私はファントム。ファントム・ノワール」

 

 私も名乗り、ローブを脱いでバイザーもとる。

 するとミオラが何故か嬉しそうに話しかけてくる。

 

「ふふっ♪やっぱりわたしと同じくらいだ」

 

 何が同じ?

 そんな疑問を感じ、聞き返そうとすると、その前に疑問が晴れた。

 

「歳いくつ?」

 

「は?」

 

「だからね、何歳って聞いてるの」

 

「あぁそういうこと。一応十六歳」

 

「わたしも十六歳!同じ!久しぶりに同年代の子に会えました!」

 

 なるほど。それでこんなにキラキラ輝いてるのね。

 

「それにその黒い髪に瞳。整った顔立ちに綺麗なルックス!倭の国出身者ですね!」

 

 早口に言う。

 何だろう、ちょっと恐い。

 

「それとその名前、偽名?」

 

「えぇと、まぁそうね」

 

「だったら変えた方がいいかな」

 

「どうして?」

 

「だってほら、倭の国の人でこっち風の名前だと変だもの」

 

 む、確かに。

 この容姿で名乗っても偽名だと簡単にバレそうだ。

 

「むぅ、それじゃあ……アサギ。うん、アサギにしよう」

 

 えーと、では!ファントム・ノワール改めまして、アサギです。

 偽名が一つ増えました。

 再度のギルドカードの更新が必要です、面倒です。はい。

 

「それじゃ私も一つ。口調は一つに絞れないの?」

 

 さっきから会話をしている内に気づいたのだが、どうもコロコロ変わるのだ。

 

「いや、これはね……昔から言われるんですが、なかなか直らなくて」

 

 今度はミックス。

 面倒な会話だ。

 

「それはまぁ措いといて。どうして私に暗殺計画を話した?」

 

 普通はこんなこと、会って間もない人間に話すようなものじゃない。

 寧ろ隠し通すものだ。

 それを私に話した。

 

「もしかしたら私が誰かに話すかもしれないぞ?」

 

 実際そんな気はないが、このミオラという少女の心を知りたかった。

 少しばかりの意地悪だ。

 すると彼女は目を静かに閉じて言った。

 

「何故かは分からない。でもあなたはそんなことしない。それに誰かに知っておいてほしかった」

 

 はぁ、何だろうねぇ、この子は……

 ちょっと気になるその発言は。

 

「あと、知っていれば騒ぎになる前に国から無事出られますし」

 

 彼女は席を立ち入口の扉の前に立つ。

 こちらを見ずにミオラは言った。

 

「この部屋は好きに使って下さい。わたし達は一度本部に戻ります。今日は助かりました。さようなら」

 

 それだけ言うと彼女は去って行った。

 

「さて、出かけるかな」

 

 私は(おもむろ)に言った。

 するとレイシスが姿を現す。

 

「どこに行くのじゃ?」

 

「情報収集」

 

 一言そう言った。

 

 

 

 

 ✝

 

 

 

 

 ファントムさん……もといアサギさんにに会ってから一日が経つ。

 わたしはエルタニアから少し離れた深い森の中にあるアジトにいる。

 そう、わたし達|『明日の日の出』の今の本部だ。

 滝壺の裏にある洞穴の中の所為か、それとも夜の所為か肌寒い。

 いやそれともこの先に起こる事への恐怖からの寒さか……

 明日の夕刻、わたし達の運命が決まる。

 でも不思議と気持ちは落ち着いていた。

 理由は三つある。

 一つはほんの少しではあったけど、アサギさんと話し……といっても明るい話ではなかったがよかった。

 

「……そういえば本当の名前教えてもらってなかった」

 

 小さく呟いた声は何者にも届かず消えていく。

 もう会うことはないであろうが。

 そしてもう一つは旧友に会えた事。

 最後に会ったのは何時だったかはもう憶えてないが、五年で大分成長しても何ら変わり様のない友がいた。

 だがその友は今、貸し与えられた部屋で寝ている。

 わたし達の為に一睡もせず来た友―――エミリーは眠っている。

 一緒に来た勇者達もそれぞれ明日に控えて眠っている。

 彼女達も明日共に出撃するために。

 

 

 ―――事は五時間前に遡る。

 

 それは偶然だった。

 土砂によって時間をとられ、最速最短距離をノンストップで暴走気味に突っ走った馬車は夕刻にはエルタニアの直ぐ傍まで来ていた。

 そして近くの森でほんの休憩がてらに立ち寄った所がまさかの『明日の日の出』の本部がある滝壺だった。

 それは正に奇跡に近かった。

 見張りの仲間からの知らせを聞いてわたしは呼び止める声も聞かずに飛び出した。

 いきなり出てきたわたしに最初は彼女達も警戒したが、エミリーの顔を見てわたしは彼女に抱きついた。

 戸惑いを見せた彼女もわたしだということに気づき、お互いに強く抱き合った。

 それからエミリー達を本部に招き入れ、改めて再開に喜んだが、エミリーの顔は複雑そうな感情で一杯だった。

 

「明日の計画を中止してください」

 

 エミリーは一言そう言い放った。

 そこからが大変だった。

 あちこちでざわめきが起こり彼女の言う意味を理解できずにいた。

 いや、そもそも彼女が計画について知っている事が不思議であった。

 |『明日の日の出』の統領とも言うべきわたしの父はすぐさま緊急会議を開き、その言葉の意味を求めた。

 

 それから五時間たった今、わたしは心の整理をするために一度外に出て夜空を見上げる。

 星が夜空を埋め尽くすように散らばり、月は静かにこの地を照らす。

 静かな夜だった。

 わたしはもう一度、会議での話を思い出す。

 

 

 

 

『そうか。既に奴は計画の情報を入手していたか……』

 

 わたしの父は目を伏せ、静かに息を吐いた。

 

『そんな……!一体どうやって情報を……それにこれは一部の者にしか……』

 

 会議に集まった幹部の誰かが動揺した声で言う。

 そう、わたしも含めてここにいる者にしかこの事は伝えていない。今日までは。

 

『そんなものだ。どれだけ秘密に行動しても情報は必ず何処からか洩れる。エミリー姫よ、感謝する』

 

『いえ、わたし達は別に……それより計画の実行を中止してください!』

 

 エミリーは小さく首を横に振り、それから顔を上げて強く言う。

 

『いや、それは出来ない』

 

『なっ!?それは如何してです!相手はこちらの動きを知っているんですよ!それなのに―――』

 

 驚きの表情を浮かべるエミリー。

 

『もうワシでは止められんよ。見よ皆の顔を。ワシが一言言えば計画は中止になる。だが、皆の心に不満が残る。理由を説明したところで納得しない者もいるはずだ。明日の日の為に我々は多くの犠牲を払った。もしここで計画を中止すれば、統領は弱腰だ、臆病者と思われる。そうなれば一気にそこからこの組織は瓦解するだろう』

 

 周りにいる者達は目を瞑り、顔を下げている。

 何か思う事があるのだろう。

 わたしもまたそうなのだから。

 明日の計画を成功させるために、時間と犠牲を払い、生きてきた。

 もう後戻りが出来ない事も父は知っているし、ほかの皆も。

 だからわたしは言った。

 

『エミリー、あなたの気持ちは皆知ってる。わたし達のためを思ってくれてるんでしょう?ありがとう……でもね、父様が言うように、もう後戻りは出来ない。進むしかない。あなたもそれを知ってる』

 

『でも……!それであなたが命を落とすかもしれない』

 

『大丈夫。向こうにこっちの手の内がばれてるけどこっちも相手が既に知ってることを知ってる』

 

 すると彼女は一度顔を伏せ、何かを決意したような顔で言った。

 

『……それなら私も加わります。力になれるかもしれません!』

 

『あぁ、俺もよく分かんないけどできることがあるなら』

 

 今まで黙って聞いていた勇者が口を開く。

 

『ユウスケ様……』

 

 頬を朱に染めるエミリー。

 どうして赤くなってるんだろう?

 

 

 

 まだ真新しい記憶を思い返していると強い風が森を吹き抜けていき、わたしを現実に引き戻す。

 

「どうなるんだろう……ほんとに」

 

 一人ぽつんと星の海に浮かぶ月に呟く。

 月はただ、静かにあるだけ。

 もう寝よう。

 明日は大事な日なのだし。

 

 

 

 

 ✝

 

 

 

 

 

「今日の月は綺麗……」

 

 夜の帳が下りたエルタニアを月明かりが照らし出す。

 私は時計塔の上からその景色を眺めていた。

 時計塔は丁度中央広場に面している。

 そのため街も見渡すには絶好のポイントである。

 

「しかし大きな収穫じゃったのう……」

 

 すうっと久々に黒猫の姿で出てくるレイシス。

 

「まぁそうだね」

 

 素っ気なく返事を返す。

 

「ここまで調べたんじゃ。手を貸すのじゃろう?」

 

「いや、成り行きを見守るだけさ……」

 

 そう、飽くまで個人的に調べただけ。

 それがどんなことでも。

 

「事の顛末までは見届けるよ」

 

 目を閉じ、夜の街を吹き抜ける風を感じる。

 

「む、来たようじゃの」

 

 黒猫(レイシス)の耳がぴくんと反応する。

 私も広げていた闇にも遅れて反応が示す。

 

「ほんとに大きな収穫で」

 

 私の闇はレーダーみたいな役目もでき、ある程度の音声ぐらいは拾える。

 そのかわり神経が大分すり減るんだが……

 

 それにしてもまさか『明日の日の出』に潜り込んでる情報提供者があいつだなんてねぇ。

 誰も思わないだろうな。

 明らかに忠実な部下に見えたし。

 む?何だろう。

 会話の中に変な単語を聞きとったぞ。

 暫らく耳を傾けた私は後悔することになる。

 

「げっ!マジですか……よりにもよってこんなところに来なくても……」

 

「主よ、何か不味い事でも起こったのか?」

 

 私の呟きを聞いていたのだろう、レイシスがこちらを見上げてくる。

 

「……ユウスケと他三名がこの国に来てる。それも『明日の日の出』と一緒に行動してるみたいだ」

 

 眉間を押さえて深く溜息を零す。

 何でこの国にいるかな?

 ってか旅始めたんかい?

 

「ほうほう、なるほどの~。それは主にとって災難じゃのう♪」

 

 何弾んだ声で言ってるんだか。

 それより少し面倒な事になりそうだ。

 

WDウエポンディメンション展開」

 

 左手を左に伸ばすと同時に空間に亀裂が走り、一部分が崩れる。

 そこにこの世界独特のアレンジが加わった私命名のHSKを放り込む。

 

(ディメンション)展開」

 

 右手を右に伸ばす。

 似た空間が生まれるとそこに腕を入れ、求めている物を取り出してWDに放り込む。

 

「錬成開始」

 

 闇を戻し錬成に意識を集中させる。

 魔力を微調整しながら流し込む。

 この魔力の量を下手に流せば鉄屑を生み出すだけだ。

 完成図をイメージ、魔力を練って形作る。

 そして最後の仕上げ……

 

「……錬成終了」

 

 放り込んだHSKを取り出すと、前より少し大きくなっていた。

 それにデザインも多少異なっている。

 無骨なデザインに変わりはないが、銃身に細長い蒼い鉱石が埋め込まれいている。

 よし、後はちゃんと機能を果たすかどうかだけ。

 銃の錬成と一緒に作った特殊な弾を込めて、魔力を軽く流す。

 すると銃身の鉱石が淡く光った。

 完成だ。

 

「何じゃそれは?」

 

「お楽しみ。それより今日はもう何も無さそうだし、帰るよ」

 

 力の使い過ぎか頭痛がする。

 早く帰って寝よう。

 銃をホルスターに戻して時計塔の階段のある方に向かった。

 

「主よ、何故そっちに向かう?このまま飛び下りればよかろう?」

 

 不思議そうに尋ねてくるレイシスに向かって私は立ち止まらずに言った。

 

「魔力の度重なる連続使用及び長時間使った為、疲れました。なので歩いて帰る」

 

 事務的に、投げ遣りに言った。

 

「それは無理じゃ!一体どれだけの高さがあると思っとるんじゃ!?おーい!聞いとるんか!」

 

 後ろから聞こえてくる声を無視して私は長い階段を下りていく。

 それぞれの思惑が絡み合う明日のパレード。

 どうなることやら……

 まぁとりあえずそれは措いといて。

 ごめん、レイシス。君が正しかったよ。

 

「……この階段、長すぎ!」

 

 時計塔の中を私の声と靴の音だけが悲しく木霊するだけだった。











unkonownです。

いつもよりほんの少し早めに投稿できました!

今回はミオラと湊のその後とパレード前日の夜の物語です。

まぁそれはさておき、次回は戦闘が展開されます。

何時になるかは分かりませんがこれくらいのペースで投稿したいです。

丁度自分忙しい時期ですが……

とりあえずまた次回に!

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