境目 伊坂貯水池の辻神 岸涯蛇候(がんぎじゃこう)①
光と渉は三重の伊坂ダムに来ていた。
川が多い地域であり水が豊富な所であったが、近くに工業地帯と農地があり、大量の水が必要な所でもあった。
周辺の川から水をひいてきて作った人工の湖が伊坂貯水池である。
ダム湖の周りは美しい森の遊歩道になっており、中腹には鳥居がある。
鳥居をくぐった先の広場にはには小さな祠が祭ってあった。
その祠こそ境目の封印であり、祠の前には要石が置いてある。
光と渉はまずその祠を見に来ていた。
「特に問題なさそうだけどね」渉が祠を細かくチェックしながら言った。
「てことはこれから何か面倒事がここで起こるって事?」
光はそう言ってみたものの、いつ起こるのか分からない。
今は午前中の10時ぐらいで遊歩道には朝の光の中ウォーキングしている高齢者が多かった。
「10時すぎたし小腹が空きましたな…」そういうとじりじりと帰り道に寄り始めた。
「ええ…さっき朝ごはん食べたところじゃん」
「コンビニ行ってチキンでも食おうぜ!」
「わかったわかった」
コンビニで買い食いすることが決定したようだ。
「その前に…っと」
光が両手を広げて中央でパンっと手を打つと青白い光の円陣が出てくる。
人型の紙の式神がぺラペラペラッと100枚ほど出てきてあたりに散らばって隠れた。
いわばセンサーの役目だ。
なにか不穏な動きがあれば光に知らされる。
「これでよし」
そういって二人はぐだぐだとコンビニを探しにいった。
それから二人は近くのコンビニでチキンやコーヒーやアイスを食べてさんざんぐだぐだした。
3時間ほど経過したが何も起こらなかった。
「この辺なんも遊ぶところ無いし一旦帰ろうぜー」
光は心底暇そうに言った。
「だぁいじょうぶ!式神配備してるから!」
渉はもう少し様子を見てもいいと思ったが、光の呪禁術があればそれでいい気がした。
それにどう考えてものどかで人があまりいない。
「わかったよ。んじゃいったん帰ろうか」
「よし、はい、撤収!」光がそう言うと辺りはいつもの部室になっていた。
これは光の呪禁術、人型の紙の式神の能力だ。
光はこの紙の式神とどれでも瞬時に入れ替わる事ができる。
紙の式神さえ配備しておけば、いつでもその場所に飛ぶ事ができた。
部室には顧問の興水が待ち構えていた。
「…どうだ。なにか分かったか?」
「いや、結界は問題なかったっすよ?」
「ちゃんと配備してきたか?」
「そりゃそう」光は生意気そうに言った。
「やっぱり何かあるとすると夜かな?人為的な介入がありそうだね。」
渉も光の呪禁術で瞬時に帰って来ていた。
「悪いが夜も何かあった時に備えておいてくれ。あと、次の授業からは出席しろよ」
興水に言われると二人は同時に返事をした。
「はい。」
「えーめんどい。」
二人はしぶしぶ授業に出て夜に起こるであろう災厄を待った。
その日二人ははスニーカーをはいて制服のまま部室に泊まった。
晩御飯を学長におごってもらい、町中華を食べて満腹のまま早い時間に爆睡していた。
午前1時をまわった時だろうか。
眠っていた二人は伊坂ダムの祠の前に立っていた。
目の前に広がっていた光景は凄惨なものだった。
辺り一面血が飛び散り、要石は地中から抜けて人の頭をつぶしていた。
頭をつぶした犯人が傍に立っていた。
人とは思えない怪力で要石を持ち上げて頭をつぶしたようだ。
返り血で汚れたその姿は人ならざる者のごとく異様な雰囲気を漂わせていた。
「あんた、何してんだよ…!」
光は犯人をにらみつけた。
あっという間に何百枚もの紙の式神が犯人に張り付き捕縛された。
だがその時、その男は逃げようとジャンプし、捕縛されたまま祠に突っ込んでいった。
「祠が!」渉は即座に封印術を施した。
破けた封印は即座に戻ったのだが…もうそこに来ていた。
封の一瞬の隙間をぬって顕現していた。
禍々しき辻神、岸涯蛇候が。




