誕生
天満日奈子は子を産み落とす為にいきんでいた。
現代と思えない布団での出産だ。
天井から吊るされた2本の縄を握り、体を支えていた。
4時間程の陣痛に耐え、日付が変わってすぐ生まれた。初産にして安産だった。
赤子の元気な泣き声が聞こえて、彼女はほっとした。
わが子を見ようと少し顔を上げた。
「えっ‼」
彼女は声を上げてしまった。
まだ産湯につかる前で体指と血の付いた赤子に、まとわるように光る3筋の光の筋が付い回っていた。
それは龍と呼ばれるもので、神のエネルギー体が視覚化したものだ。
天満日奈子はなぜ自分が今産み落とした子にそのようなエネルギー体が3体も付いているのか理解できなかった。わが子は龍を従えているのか?
そのうちにそのエネルギー体は見えなくなった。
産湯につかり、布にくるまれた赤子を抱いた。
なんとも賢そうな元気な女の子であった。
3時間ほど経っただろうか。日奈子は少し眠っていた。
出産という大仕事を終えて疲れていたが、安産ということもあって体は動けた。
伊神神宮で護衛をしている一条菖蒲の事が気にかかって彼女の元に向かった。
菖蒲は産屋として使っている小屋のすぐ近くの部屋にいる。
日奈子が部屋に着いた時、泣き声が聞こえた。
良かった無事に産まれた。そう思って声をかけようとしたその時、「ええっ?」と複数人の声が聞こえた。
何事かと日奈子は部屋に入っていった。
中では菖蒲をはじめ、産婆、産婦人科医、看護師と皆で集まって赤子を見ている。
「産まれましたね。おめでとう。」
日奈子はそう言って赤子を覗き込んだ。
その子はとても美しい子だった。大きな眼、高い鼻、形の良い唇。
そして何より美しい銀色の髪と瞳をしていた。
日奈子は言葉を失った。
自分の子は龍を引き連れて産まれた。
呪禁師の一条家の子は銀の髪と瞳で産まれた。
何かが始まろうとしている様に思えた。
この時、各地の境目が曖昧になってきていた。
辻からあふれ出ようとしていた。
辻神との戦いがそこまで迫っていた。