産屋
深夜の空に厚い雲が立ち込め、稲光で所々光っている。
ここは伊神神宮のある森の奥深く。
産屋として現在使用している質素な屋敷で、二人の妊婦が産気づいていた。
1人は伊神神宮の祭主と呼ばれる神官最高位の女だ。名は、天満日奈子。
もう1人は伊神神宮が護衛をしている現代の呪禁師,一条家の当主の妻だ。
名を一条菖蒲という。
一条菖蒲はこれまで3度死産を経験している。
この事は偶然ではないと一条家当主は考えていた。
何かに攻撃を受けている。そう考え彼は伊神神宮に出産時の護衛を依頼したのだ。
それは周到な護衛計画だった。
一条菖蒲は妊娠が分かると身分を隠し、天満日奈子の従者として伊神神宮に入った。
実際従者としての生活をした。臨月になるまで一緒に働いた。
伊神神宮は日本最高峰の結界が施されており、怨霊や辻神はほぼ入ってこない。
その中で沢山いる従者に紛れて隠れた。
計画は功を奏した。一条菖蒲は産気づいている。
産屋の外では天満日奈子の夫で、大宮司の天満正道が結界の強度を上げようとしていた。天満正道は現代最高位の結界師である。
そろそろ産まれそうと報告を受け、警戒を強めたのだ。
最高難度の結界術をかける。すると伊神神宮がある森ごと亜空間に入る。
車で伊神神宮に入る道を真っ直ぐ進んでも決してたどり着くことはできない。
いつの間にか元の道に戻るだけだ。
何物も亜空間に入った伊神神宮に入り込むことはできない。
この結界を解かない限り。
先に赤子が産まれそうになったのは天満日奈子の方だった。
昔ながらの産婆に加え、産婦人科医と助産師と看護師も常駐していた。
医療器材も運び込んであり、体制は万全に整えてある。