観覧車で告白がしたい
夏休みに入って数日経った頃。
おれは仲の良い友人3人と遊園地に来ていた。
来年は受験やなんやと忙しくなるだろうからこれが高校生活で満喫できる最後の夏になるだろう。だからこそ今日おれは彼女に告白するつもりでいる。
凛とは幼なじみで小学生の頃からの付き合いだ。他の2人の友人と一緒にずっとつるんできた。そんな関係だから好きになっても中々言い出せなかった。
だがもう一度言おう、今回が最後の夏なのだ。
海へ行って水着姿の凛と浜辺で追いかけっこしたりや浴衣姿の凛と夏祭りの打ち上げ花火を見るチャンスは今回しかないのだ。
ようやく尻に火のついたおれは一歩前に踏み出す覚悟でみんなに遊園地へ遊びに行こうと誘ったのだ。
「暗くなってきたしそろそろ帰る?」
そんなおれの覚悟をしるよしもない本日の脇役友人Aことタクヤが言う。
その言葉を待っていたおれは内心を悟られないよう平静を装いながら、
「だったら最後にあれ乗らね? 観覧車。なんかイベントやってるみたいだし」
と提案する。
「イルミネーションによるライトアップか。いいんじゃね」
「へー、いいね」
みんなの反応におれはホッと心をなでおろす。
遊園地に来たのはこの観覧車が目的だったからだ。
ここで反対されたら計画が水の泡になるところだった。
イベントがやっているということもあって観覧車の乗り場には行列ができていた。おれたちはその最後尾に並ぶ。
重要なのはここからだ。みんなと他愛のない雑談をしながさりげなく凛の前に並ぶようにポジショニングをする。
そしておれたちの順番となった。
「本日は週末イベントのカップルデーとなりますのでお二人でお乗りください」
係員の誘導に従いおれは観覧車にのりこんだ。並び順で自然と凛とペアになるという手筈である。
このさきを思い緊張しながら椅子に座る。
そして凛を迎え入れようと入り口に目を向けると、彼女は乗り場に立ったままでいた。
「どうかした?」
俺の疑問にタクヤが代わりに答える。
「なんか立ち眩みするからしばらくベンチで休んでるってさ」
「じゃあ俺も降りるわ」
「いいやいいよ代わりに俺が付き添うから。お前乗りたかったんだろこれ」
ちげーよあほ。凜がいなきゃ意味が無いんだよ。
「そんじゃ俺たちのかわりにふたりで楽しんできてくれ」
そう言ってタクヤは友人Bをゴンドラに押し込むと凛と一緒に戻っていく。
さすがにここで、おれが代わりに看病するとは言えるはずもなく黙って2人を見送るしかない。
「扉を閉めるのでお気をつけください」
ゴンドラがゆっくりと上がっていく。
なにが楽しいのか隣では友人Bがはしゃぎながら外を見ている。
おれにはそんな気力はもはやない。あーあ。このゴンドラが頂上にきたところで告白するつもりだったのに。
おれは項垂れるように外を眺める。
たしかベンチで休むって言ってたよな。
「あっ」
思わず声が出た。
運がいいのか悪いのか。小さくだが凜の姿を見つけた。いや見つけてしまった。
おれの視線の先にはベンチに座る凛とタクヤ。楽しそうに談笑する二人は顔が重なり……。
「……」
全然気づかなかった。
二人がそういう関係ということに。
これじゃ意気込んでいたおれがバカみたいじゃないか。
「ねえ」
「おまえは知っていたか?日」
友人Bこと日向の顔が目の前にあった。
唇に伝わる柔らかい感触。
頭のなかは真っ白だ。
認識が現実に追いつかない。
「ばーか」