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第51章 VR聴聞会

武漢ウーハン自経団は、漢陽ハンヤン漢口ハンコウ武昌ウーチャンの3つの地区からなり、それぞれに自経団の支団が組織されている。武漢自経団の責任者たる書記と副書記2名は、原則として支団の責任者である支団書記を兼務している。


人口40万の上海には10の自経団があり、それらを統括する自経総団が置かれている。自経総団は総書記と原則として9人の副総書記で構成され、それぞれ1つの自経団の書記を兼務している。


国際連邦本部は月にあり、立法府たる評議会、行政府たる統治委員会、司法府たる最高裁判所から構成される。統治委員会は、内閣にあたる委員会の傘下に、専門分野ごとの局が設置されている。


主な登場人物


ミヤマ・ヒカリ:本作のメイン・ヒロイン、ネオ・トウキョウでターミナルケアを生き延びた。大陸の武昌に辿り着き、コンピュータ修理の仕事をしつつ、武昌支団の非常勤の幹部を務めている

ミヤマ・ダイチ:ヒカリの従兄、中国名は楊大地 (ヤン・ダーディ)、武漢副書記兼武昌支団書記

周光立:(チョウ・グゥアンリー)ダイチの同級生で盟友、上海自経総団副総書記兼第4自経団書記、上海の最高実力者周光来の孫

高儷:(ガオ・リー)本作のサブ・ヒロインの一人、ネオ・シャンハイのターミナルケア生き残り、今は武昌支団に勤務する

潘雪梅:(パン・シュエメイ)双子の警務隊員(姉)、第18支団所属、周光立の部下にあたる

潘雪蘭:(パン・シュエラン)双子の警務隊員(妹)、第18支団所属、周光立の部下にあたる

サラーマ・ラムズィ:国際連邦統治委員会の総理大臣にあたる委員長

ヨシノ・イブキ:国際連邦統治委員会の副総理にあたる副委員長兼人事担当委員

マルフリート・ファン・レイン:国際連邦統治委員会総務局長

ヌワンコ・オビンナ:国際連邦統治委員会科学技術局長

ジャミーラ・ハーン:国際連邦統治委員会情報通信局長

エイサ・ユスプ・アルプテキン:国際連邦統治委員会法務局長

アルバート・アーネスト・アーウィン:国際連邦統治委員会情報通信局情報支援部長、ヒカリの連邦職員時代の上司

ミシェル・イー:本作のサブ・ヒロインの一人、香港系中国人で本名は于杏 (イー・シン)、国際連邦総務局レフュージ統括部のリーダー職

フアン・マリーア・マルティネス:国際連邦統治委員会科学技術局観測予報部員

トンチャイ・シリラック:国際連邦統治委員会情報通信局情報支援部員

ハーニャ・ゼレンスカヤ:国際連邦統治委員会科学技術局観測予報部長

マリア・ティマコワ:国際連邦統治委員会の大臣にあたる総務担当委員

キャシー・リウ:国際連邦統治委員会の大臣にあたる科学技術担当委員

監察ユニット:国際連邦マザーAIを構成し、人間の行動に勧告・監視する役割をもつユニット

アカネ:ヒカリのネオ・トウキョウ時代の職場で使っていた端末のボイスインターフェース

ミカエル・パウリ・マキネン:国際連邦統治委員会の大臣にあたる法務担当委員

 24日木曜日の上海は、未明からの篠突く雨が昼前まで続いた。昼過ぎには雨は弱まったが風が強くなり、ちょっとした嵐の様相を呈するとともに、気温が急激に低下した。

 昨日より一枚多く着込んだ6人が、前日と同じ時間に埠頭に集まった。傘を差していても、風に吹かれた雨粒が服の端にひんやりと滲んだ。アルトに乗り込み、昨日と同じルートを辿り、15時頃に高儷のオフィスに入った。聴聞会は16時(UTC8時)からの予定。コーヒーを一杯飲み一息つくと、15時半にオフィスを出て、VRミーティングルームへ向かう。

「緊張してる?」とヒカリがダイチに聞く。

「してないと言えば、嘘になる」

[おれも柄にもなく緊張してきた]と周光立。

[むつかしいところはアーウィン部長にお任せでいいんでしょうけれど、緊張するな、というのが無理よね、やはり]と高儷。

[とにかく、午前中にまとめたプレスリリースが、そのまま明日公表できるようになることを祈るばかりだ]と周光立。

 そうこうするうちにVRミーティングルームに到着。昨日と同じく、ドアのところに双子の一人が警備につく。途中で何度か交替するらしい。

 15時50分頃、ヒカリがパネルを操作すると、月のミーティングルームの立体VR画像が浮かび上がる。楕円形のテーブルの奥側の端のところに座っているのが、連邦統治委員会のラムズィ委員長。向かって右横に副委員長を兼ねるヨシノ人事担当委員。他の12人の委員がさらに左右に6人ずつ座り、テーブルの3分の2くらいのところまでを占めている。

 各委員のうしろには、担当する各局の局長が陪席している。ファン・レイン総務局長、オビンナ科学技術局長、ハーン情報通信局長、アルプテキン法務局長の顔も見える。

 そして左側に5人並んだ委員の横、一番手前に古風なアンドロイドのようなキャラクターが投影された。

「あれがたぶんマザーAIのインターフェースね」とヒカリが小声で言う。

「人間と一目で区別できるように、わざとロボット風のキャラクターにしている」

 マザーAIインターフェースの陪席者の位置には、情報通信局のエンジニアが待機。

 入口近くに用意した椅子に4人が着席すると、調査団関係者が入場してきた。アーウィン、ミシェル・イー、マルティネス、シリラック、そして科学技術局観測予報部長のゼレンスカヤ。4人の右側にあたるスペースに並べられた椅子に、連邦の5人も着席。

 アーウィンが視線を送ってくる。4人が軽く会釈。

議長たるラムズィ委員長が口を開く。

【定例メンバー以外の参加者の確認をします。名前を呼ばれた方は立ち上がって下さい】

 まず、周光立はじめ4人の名前が呼ばれ、それぞれに立ち上がり一礼して着座する。

【以上がAOR代表者側のメンバーですね。後ろに立っておられる女性は?】

【警務隊員、連邦でいう警察官です。わたしたちの警護のためにいるのです】とヒカリ。

【わかりました。陪席を認めます】

 続いて、アーウィンをはじめ5人の名前が呼ばれ、それぞれに立ち上がっては着座する。

【以上が調査団関係者のメンバーですね】

【緊急動議、よろしいでしょうか】と総務担当のティマコワ委員。

【どうぞ】

【ただいま皆様のPITに書面を送りました。AORの代表者、周光立とミヤマ・ダイチ名で、アルバート・アーネスト・アーウィンに宛てた交渉委任状です】

 委員長と12人の委員たちがPITに見入る。

【本書面をもって。アーウィンが交渉代理人となることについて、承認をお願いします】

 一呼吸おいて委員長。

【本件、異議のある方は】

【異議なし】【異議なし】…

【本件、異議なく承認されたものと認めます。以後、アルバート・アーネスト・アーウィンはAOR代表者の代理人として、本会議に参加するものとします。では、聴聞を始めます】

ラムズィ委員長は宣すると、引き続き自ら、連邦出身でレフュージの幹部職員だったヒカリと高儷に、自経団についての印象を尋ねた。

 それに対しヒカリが、地域によってばらつきはあるものの、総じて自治組織として健全に機能しているとの印象を持っている、と答え、さらに高儷が、申入書に記載した事項に言及しつつ、意思決定に民意が反映される制度が用意され、実際に機能していることを述べた。

 続いて各委員から周光立とダイチに対して、提出された申入書に記載された事項についての質問がなされた。ほとんどは書かれている内容に対する確認だったが、総務担当のティマコワ委員から周光立に、協定締結後の手続きについて質問がされ、助理会(区長助理総会)の開催を予定していると答えた。科学技術担当のキャシー・リウ委員からはダイチに対して、内陸の地域からの人の移動手段について質問がされ、長江の水運を主体とするが、水運による移動が困難な地域、困難な者について、連邦の支援を仰ぎたい旨、答えた。

 その後、調査団の報告書に関する質問に移り、AOR側の交渉代理人となったアーウィンは立場上回答を控え、団長を務めたオビンナと団長補佐だったミシェル・イーが応対した。

 1時間ほどが過ぎ、委員からの質問は、ほぼ一段落した。委員長が議場を見渡し言う。

【それでは、マザーAIへの諮問に移ろうと思いますが、よろしいですか】

 委員全員がうなずく。

【では監察ユニット、発言を】

【諮問内容は、上海等4地域のAORからの申入書に基づき、協定を締結することの是非について、ということでよろしいか】

 ヒカリは、ネオ・トウキョウでの最後の日に、自分のオフィスでボイス・インターフェースのアカネをOFFにしたときのことを思い出した。切り替わったのはデフォルト設定の中性的で平板な声。まさにその声で監察ユニットが話している。

【連邦A級規則228207001、通称「火星移住およびターミナル・ケア連邦A級規則」によれば、地球上のレフュージに居住する連邦市民は、カテゴリCとして火星移住者に選抜された者以外、すべてカテゴリBまたはカテゴリAとしてターミナル・ケアの対象となる】

 デフォルト設定のボイスインターフェースの平板な声で話される、連邦A級規則の解説に、かつてケア対象だったヒカリと高儷の、背筋に寒気が走った。

【連邦A級規則228207001は、現時点でも効力を有する。従って、協定によってAORがシャンハイ・レフュージ所属の連邦市民の地位を得ると同時に、彼らはターミナル・ケアの対象となる、ということで相違ないですね】

 場がシーンとなる。

【委員長、発言許可を求めます】

 静まった場に響いたのは、マキネン委員の後ろに陪席するアルプテキン法務局長の声。

【アルプテキン法務局長の発言を認めます】と委員長。

 アルプテキンが立ち上がって発言する。

【緊急動議を要請します。連邦A級規則228207001の効力を、本年10月末をもって失わせる旨の連邦C級規則の制定を求めるものです】


 2日前、22日のUTC13時のこと。

 ファン・レインはアーウィンとミシェル・イーを伴って、法務局長のオフィスに入った。

【お忙しいところ、お時間いただき感謝します】とファン・レイン。

【手短に願いたい】とアルプテキン。

【では、単刀直入に言います。明後日のAORの聴聞とマザーAIへの諮問の際、協定締結の方向に向かうよう、ご協力を願いたい】

【私に何を協力しろというのだ】

【我々がしようとしていることを、妨げないでいただきたいのです】

【46万のAORに安全な避難場所を提供することが、連邦が掲げる人道の理念に叶うものと考えます】とアーウィン。

【私は、私の信じるところに従って行動する】とアルプテキン。

【人口40万の上海には…】とミシェル・イー。

【久し振りだな、ミシェル・イー】

【お久し振りです。上海のコミュニティーには、少なくとも300人のウイグル人が居住しているとのことです】

【それがどうしたというのだ】

【彼らは住民として公平に扱われ、優秀な者は自治組織の上級幹部にも登用されていると聞きました】

【言わんとしていることはわかった。だが…私は、私の信念に従って行動する。それだけだ】


【法務局長の発言内容の通り、緊急動議を行います】とマキネン法務担当委員。

【反対動議はありませんか】と委員長。発言のないのを確認し、さらに続ける。

【それでは、先ほどのマキネン委員の緊急動議について決を採ります。賛成の方】

 議長たる委員長を除く、委員全員が挙手する。

【全員賛成と認めます。可決された連邦C級規則によって、連邦A級規則228207001は本年10月末をもって失効することが決定しました】

 アルプテキンが、総務局長のファン・レインをチラッと見てから、アーウィンに視線を投げ、ミシェル・イーに向かって一瞬、握った右手の親指を立てて見せるような仕草をした。

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